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続々・悪意の仮面

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続々・悪意の仮面
続々・悪意の仮面 続々・悪意の仮面

リアクション



第十三幕 とある後日の仁義なき戦い


様々な騒動で賑わい、あちらこちらを騒がせた仮面の事件から一週間後。
喧騒も元に戻りつつある、とあるヴァイシャリーの街の一角

その部屋の中に佇む一組の影があった。

 「はてさて、前回とは違って仮面から何かしらの収穫があればいい……
そう思ったが大した収穫はやはりないみたいだな、というかそもそも……」

机の上の調査対象を指で叩きながらリモン・ミュラー(りもん・みゅらー)は呆れたように自分のマスターに抗議する。

 「噂の仮面を回収してきたはいいが、真っ二つとはどういうことだ?
  それも接着剤でくっつければ機能するとでも思ったのか君は?」
 「まぁ…なんとかなるかなぁって…」

リモンの抗議を佐野 和輝(さの・かずき)は言い返せずに憮然として眼をそらす。
机の上にあるのは桜井 静香(さくらい・しずか)のつけていた仮面。
しかしそれは完全な姿ではなく、眉間から顎にかけて綺麗に割れているのを、接着剤でくっつけてある。

あの最後の大講堂の時、小鳥遊 美羽(たかなし・みわ)の放った【真空波】から仮面を守るため
アニス・パラス(あにす・ぱらす)の魔術援護で先に奪おうとしたものの、彼女のスキル速度の方が上だったらしく…

 「かすめただけで、これだもんなぁ…」

溜息とともに仮面を摘みあげながら和輝は溜息をつく。

 「頑張ったさ、しかしどいつもこいつも躊躇なく破壊する事しか意識がない連中だし。
  器用にそれだけ壊す腕だけはあるんだよ…」
 「まぁいい。どの道、目新しいだけでそれ程これには価値がないらしい。
  どこの誰かはあえて考える気はないが、これを用意したものはそこまで考えていたというわけか」
 「う〜、チンプンカンプンだよ〜」

リモンと和輝の会話を聞きながら、そばでアニスはわけがわからない風情で足をバタバタさせている。
抗議を聞くのも飽きたのか、リモンも目の前の仮面に対する興味は尽きたようだ。

 「まぁいいさ。ところで知ってるか?件の仮面…聞けばもう一つあるそうじゃないか?
  面目躍如で回収してきてくれると、こちらとしては約束を反故にされなくて嬉しいんだが?」
 「う……あれは……いいです」

もう一つの仮面の話になり、急にそれには関わりたくないといった風情で顔をしかめる和輝。
話が初耳といった風情のアニスとスノー・クライム(すのー・くらいむ)が抗議をはじめる。

 「え〜そんなのはじめて聞いたよ〜やろうよ〜!」
 「折角あるんだから勿体ないじゃない?珍しく消極的ね?」
 「いいの!仮面の件はこれで終わりだ!だから関わるな!特にお前たちはな!!」
 『……?』

やたら必死な和輝の抗議にアニスとスノーは顔を見合わせるのだった。


 
一方その頃。
街の片隅に件の仮面の件にカタをつけるべく一組の人影があった。
そのうちの一人鬼龍 貴仁(きりゅう・たかひと)が服の裾を弄りながら呟いている。

 「前回といい、今回といい、仮面を探す時は俺なんか女装することになってませんかね?
  今回のは、しょうがない事なんでしょうけど……」
 「わかっておるなら文句を言うな!獲物を釣るには最適なんじゃからな!」
 「はいはい……で、なんで俺がメイド服であなた様がそんな下着にマントなんですかね?エロ神様」
 「当然であろう!そなたが『萌え』わらわが『せくしぃ』担当にきまっとるからじゃ」

貴仁の問いに医心方 房内(いしんぼう・ぼうない)は外見など気に止めない勢いで堂々と腰に手を当て宣言した。
そしてそのままニヤリと貴仁の呼称にふさわしい笑みを浮かべる。

 「それにしても、セフィーの相棒。パンツ狩りとは相変わらずいい趣味しとるのじゃよ。
  わらわもパンツ狩り、したかったの……」
 「その時は一人でお願いします」


一週間前、静香の仮面の一件が終わった直後の、高峰 結和(たかみね・ゆうわ)の予感。
『何か忘れている気がする』と言うのは間違っていなかった。

覚えているだろうか?

泉 美緒(いずみ・みお)を大勢で追い詰めた時に颯爽と現れ、下着をごっそりかっさらった人物を。
彼女…エリザベータ・ブリュメール(えりざべーた・ぶりゅめーる)はその後も健在だったのである。
あの時の彼女に見られるとおり、彼女は以後『パンツ1000枚集める』…という欲望のまま活動し
マスターのセフィー・グローリィア(せふぃー・ぐろーりぃあ)を無視して暴れまわっていた。

仮面は時に欲望の度合いを強さの因果に結びつける。

戦うでもなく、倒すでもない。
望むものを奪い、モノがモノゆえに奪われたものは行動不能になる。

一番形容しがたい愉快犯になってしまった彼女は、近遠達でさえも手をだせず。
彼女やセフィーに因縁のある者達だけで、激しい戦いが続けられていた。

そんなわけで、縁のあるこの二人もエリザベータを止めるべく参上し、待ち伏せしているわけだ。

……で、件の恰好のまま数時間が過ぎ、貴仁は懐疑的に口を開く。

 「しかし……こんなので、本当に現れるんでしょうかね?
  ぼちぼち人目は少ないとはいえ、目線が痛いのですけど……」
 「来る!エロを心の底に燻らせる者同士として断言できるぞ!
  少なくとも、あそこでより扇情的な姿で待ち伏せしている連中よりはな」

そう言って房内は数百メートル先の別の人影を差すのだった。



 「ハデス様…相手の意表を突くための作戦…とはいえこれはやっぱり……きゃああああ!」
 「きゃぁ!か、風が!
  兄さん!この作戦はやっぱり無しにできないんですかっ!」

エロ神様が差したその先には高台の上で涙目で悶える二人の姿があった。
その一人ミニスカサンタの風貌をしたアルテミス・カリスト(あるてみす・かりすと)を庇いながら
高天原 咲耶(たかまがはら・さくや)が通信機越しにいる相手に作戦の変更を求めていた。

通信機からは意に介さぬといった風情で咲耶の兄でありアルテミスの主君である
ドクター・ハデス(どくたー・はです)の高笑いが聞こえる。

 『フハハハ!兄さんではない!
  我が名は悪の秘密結社オリュンポスの天才科学者、ドクター・ハデス!
  悪意の仮面を手に入れ、それを量産し、我が秘密結社オリュンポスの戦闘員を量産させる!
  この崇高な目的の前に作戦の変更などない!
  ククク、他の契約者に奪われる前に、我らが仮面を手に入れるのだ!』
 「いや、だったら兄さん、普通に探せば……」
 『シャァァァァラップ!再三言ったはずだお前達!
  無線通信を傍受した限りでは、目標は下着を奪うことが目的らしい!
  その目的のみを純粋に突き詰め!故にだれも奴を!
  通り魔【エリザベータ・ブリュメール】を捕獲できないというのだ!ならばっ!』

もはや通信機のボリュームを凌駕した音声で、ドクター・ハデスが宣言する。

 『敵の意表を突き隙を作るため、お前達は初めからノーパンで戦うのだっ!
  奪うべき下着がなければ、精神的ショックも大きかろう!なんというファビュラスな作戦!
  ククククク!ハハハハハハハハハハ!』
 「く……これ程自分が騎士という事を呪った事は……きゃああああ!無しなし!上昇気流とかやめて!」
 『む…? 無駄話はそこまでだ、アルテミス!どうやら目標の通り魔が出たようだ!
  改造人間サクヤ!サンタクロース怪人アルテミス!作戦実行!通り魔を捕らえ、仮面を奪うのだっ!』
 『その名前で叫ぶなぁぁぁぁ!』

通信機の声に負けない位の咲耶達の声がハモって街中に響き渡った。
まぁそんな3人、秘密結社の幹部を名乗ってはいるがその影響力はと言うと……。
一週間前、あれほど現れたヒーローが一人も現れていないという事実で想像してほしい…とだけ言っておこう。



 「フフフ?何やら素敵な叫びが聞こえてくるのだけど?」

そんな咲耶達の叫びが微かに耳に届いたのか、噂の通り魔エリザベータが疾走しながら妖艶に笑う。

 「たった今、素敵な獲物を狩ったばかりだというのに。今日は豊作ね☆」

そんな彼女の後ろを【小型飛空艇ヘリファルテ】に乗って叫びながら追うのはマスターのセフィーである。

 「ちょっと、待ちなさいよ!それでも、姫騎士なのっ…!?
  この変態っ、返しなさいよ、私のパンツ!」
 「マスターとはいえ勝負は勝負。未だ追ってくるとは…その責任感は尊敬します。
  だけど……あえて言わせてもらいます!はいてないものに興味はないと!」
 「………っ!」

エリザベータの言葉に、腰に巻いた外套をしっかり結びなおす。
まぁ会話の通り、この二人は先ほど激しい戦いを済ませた後で、どちらが勝ったのかは言うまでもない。

 「ヴァイシャリーから破格の依頼料で雇われたのは良いけど、まさか行方不明だったあの子だったとはね!
  それも、刀じゃなくてパンツ狩りなんて騎士で乙女だからって、我慢があったんだろうけど。まずは捕まえる!」

そんな主人の追跡を逃れるエリザベータの前に突如二人の人影が飛び込んできた。

 「あら?あなた達はこの前の怪盗さん?」

現れたのは『怪盗ミラクルコクーン&マジカルエミリー』つまり稲場 繭(いなば・まゆ)エミリア・レンコート(えみりあ・れんこーと)である

 「また現れましたわね!今日は名乗りは無しですわ!
  怪盗がモノを盗まれるなんて不名誉、今こそ返上いたします、覚悟!」
 「……だ、だそうです!行きますっ」

再戦とばかりにエリザベータに挟み打ちで襲いかかる二人。
その杖から魔力が放出されるべく、輝きに満ちていく!

 「あなたを退治してパンツはすべてワタシ、マジカルエミリーが……え!?」
 「後ろよ!足元を見て!」

勝ちを宣言したエミリアの眼前からエリザベータの姿が消える。
遠くから見ていたセフィーの言葉に繭達が後ろを見降ろすと、ギリギリまで跳躍の力を溜めた通り魔の姿があった。
バーストダッシュを回転に絞り込み、高速のバク宙の要領で位置を変えたのである。すでに態勢は次の行動が可能!

 「一週間も同じことやってるとね。技量って磨かれるものよ」
 「無念……でもワタシが敗れてもミラクルコクーンはスク水!パンツなんて!」
 「言ったでしょ?技量って磨かれるものなのよ☆」

欲望にだけ調整された【ソニックブレード】【バーストダッシュ】【ツインスラッシュ】の合わせ技が唸り
衝撃とともに怪盗二人が吹っ飛ぶ……目標はすでに遠くに逃走中で追跡はできないようだ。
2度目の経験なので叫ぶことなく、エミリアが起き上がる。

 「やられた…でも繭は大丈夫なはず?ま……?」

呼びかけて繭の様子が違うことにエミリアは驚く、涙目で繭が座りながら口を開いた。

 「み、水着無事です……けど、アンダーサポーターが……」
 「……流石ですわ、外を傷つけず音速で中身だけ奪うだなんて。
  でも大丈夫。こんなこともあろうかと替えの……替えの?」

そう言って隠し持っていたスペアの水着等を出そうとするエミリア、だがその手が止まり、観念したように俯いた。

 「隠し持っていた替えの水着さえ奪うなんて……エリザベータ……恐ろしい人!」