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クリスマスの魔法

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クリスマスの魔法
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 柳川 詩鶴(やながわ・しづる)は、ふらふらとクリスマス市をのぞきに来ていた。
 元々和風な家に育った詩鶴にとって、クリスマスというのは自分には縁が無い行事でしかなかった。
 しかしこうしてパラミタに来た今、いろいろな事を経験してみよう――ということでやってきてはみたのだが、やはり経験がないせいか、何が楽しいのかはよく分からなかった。
 ただ、そこかしこにされている飾り付けはとても美しく、イメージをかき立てられる物がある。
 クリスマスの飾り付けから新作和菓子の構想を考えつつ、詩鶴は帰りに向いていた。
 と、急に目の前に飛び出してきた人影を避けきれず、衝突してしまった。
 相手の荷物がばらばらと地面に落ちる。
「おっと、失礼」
「すみません。大丈夫でしたか?」
 面倒だなぁとは思ったが、ぼんやりしていたのは自分だ。詩鶴は仕方なく、しゃがみ込んで荷物を拾ってやる。
 ぶつかったのは、花京院 秋羽(かきょういん・あきは)だった。
 歌舞伎役者でもある秋羽は、化粧品やら小道具やらを買うために空京を訪れていた。その帰り。
 詩鶴が差し出した扇子で荷物は最後だ。受け取って、一礼して踵を返すと、そのまま歩き始める。
 しかし、少し歩いたところで。
「すみません……落としましたよ」
 急に後ろから声を掛けられ、秋羽は足を止めた。
 振り向いた先には、先ほどぶつかった男性……詩鶴。
 その手には、桜色の小さなピアスが乗っていた。
「……ああ、わざわざありがとう」
 それは紛れもなく、秋羽の左耳で揺れているものの片割れだ。
 秋羽は丁寧にそれを受け取ると、忘れないうちにと右の耳へそれを付ける。
「面倒を掛けて、すまなかったな……お礼といっては何だけど」
 秋羽は鞄の名から、自分が出演する予定の公演のチケットを一枚取り出すと、詩鶴に差し出した。
「俺は、歌舞伎役者の花京院秋羽と言う。よかったら、見に来てくれ」
「あ……なんか、すみません。ありがとうございます。俺は柳川詩鶴、和菓子職人やってます」
「そうか。一度食べてみたいな……ああ、すまない、今日は急ぐんだ。また」
 秋羽は軽く一礼すると、荷物を持って去って行く。
 詩鶴もまた、貰ったチケットを大切にしまい、自分の買い物へと急ぐのだった。


■■■

 ルファン・グルーガ(るふぁん・ぐるーが)は、ひとりでふらふらと市を冷やかしていた。
 クリスマスという行事に興味があるわけではなかったけれど、噂になっているイルミネーションは気になっていた。
 お目当てのイルミネーションは期待通りで十分楽しめたけれど、しかし、覚悟して居たとはいえカップルが多い。
 爆発しろ羨ましい、などと反感を覚える訳では無いが、全く気にしないという事も出来ない。なんとなく、独り身で居ることが寂しいなぁ、と思う程度。
 そんなことを思いながら、歩いている。

 ライオルド・ディオン(らいおるど・でぃおん)は、頼まれものを買い出しに来ていた。
「ったくエイミルの奴、クリスマスだからってはしゃぐのはいいけど、俺をパシリに使ってんじゃねぇよ……」
「そんなに邪険にしなくても良いではありませんか。クリスマス、という行事事態、私には貴重な体験でございます」
 買い出しを頼まれたということが気に入らないようで、パートナーのハングドクロイツ・クレイモア(はんぐどくろいつ・くれいもあ)にぶちぶちと文句を言いながら歩いていた。買い物は一通り終わり、後は帰るだけだ。
「ああ、あちらのココアが美味しそうでございますね。暖まりましょう、買って参ります」
 と、言うが早いかハングドクロイツはすたすたと露店まで歩いて行き、さっさとココアを一杯、購入してきた。
「……まあ、いいか」
 別に飲みたかった訳では無いけれど、寒いのは確かだし、手元にあるなら飲もう。とライオルドはそれを受け取って歩き始めた。

 と。

 どん、とハングドクロイツが突然ライオルドを突き飛ばした。
 え、と思うまもなく、ライオルドはたたらを踏む。
 すると、手にしたココアが宙を舞って――

 びしゃ。

 通りがかったルファンの洋服を、濡らした。

「げげげっ……!」
 ライオルドの顔が蒼白になる。何するんだハングドクロイツ、と怒りの声を上げるが、そこに既に彼の姿は無い。
「あの野郎……じゃねえ、悪い!」
 ぎり、と歯がみしてから、ライオルドは慌ててルファンに向き直る。
 その洋服の胸の辺りには、べっとりと茶色の液体が染みついてしまっている。
「ふむ、困ったのう」
 おっとりとそう言いながら、しかしルファンは特に何かする様子も見せない。
 拭く物を持って居ないようだ。
 慌ててライオルドはポケットを探ると、タオルハンカチを取り出して差し出す。
「コレ、使ってくれ」
「かたじけない……洗ってお返しする故、連絡先など、教えてくれんかのぅ」
「いや、汚しちまったのはこっちだし、返さなくていいって! ……むしろ、クリーニング代払わせてくれ。っていうか絶対あいつに払わせる!」
 慌てて手を振るライオルドに、ルファンはしかし、いやいやと首を振る。
「ぼんやりしていたわしも悪いのだ。そこまでして貰わんでも」
「俺の気が済まないんだ。たのむ、払わせてくれ……あ、でも財布今空っぽで……後で俺のパートナーに必ず払わせるから、その……連絡先、教えて貰ってもいいか?必ず連絡する」
 ライオルドの一生懸命で誠実な態度に、ルファンはそこまで言うのなら、と頷いた。
 さしあたり、ルファンの洋服を何とかするため、二人は水道を捜して公園を歩き回った。
 水で流し、とりあえず今日家に帰るまではなんとかなるだろうという状態にして、帰って行くルファンを見送った。
 そこへ、ふらっとハングドクロイツが戻ってくる。
「フフ……素敵な出会いがあったようですね?」
 はかりごとがうまくいって満足げなハングドクロイツに、ライオルドはつかつかっと近寄ると、顔を近づけて叫んだ。
「金払え!」


■■■


 大久保 泰輔(おおくぼ・たいすけ)にとって、十二月の二十五日とは祖父の命日である。
 元々寺の息子であるため、実家はクリスマスとは縁遠かったのだが、十三年前に祖父が他界してからは一層それに拍車が掛かった。今年も、クリスマスは祖父の十三回忌のごたごたでつぶれる予定だ。
 今日だってそのための買い出しだ。自分の担当は細々し消耗品と、お供えのお菓子。伝統的なものは実家で用意するから、パラミタらしい物を何か持ってこいと言われているので、賑わっている市へ出てきてみたに過ぎない。
――キリストはんは、世界的に誕生日を祝うてもらえて、ええなぁ。お釈迦さんは地味ぃやのに。
 一人で仏事の買い物してるなんて、自分だけではないだろうか。
 クリスマスに浮かれる人々を見るに付けて、そんな思いがわき上がってくる。
 やはり、ちょっと寂しい。
 こう、誰か、暖めてくれる人は居ないだろうか――
 そんなことを思いながら歩いていると。
 突然、目の前の人が倒れた。
 おっとぉ、と、泰輔はバランスを崩して、荷物を取り落とす。
「だ、大丈夫かいな」
 ひとまず荷物は構わず、足下で倒れている人物に手を貸す。
 倒れていたのは、キルラス・ケイ(きるらす・けい)だ。彼もまた一人寂しく、公園を散歩中。
「ああ……悪い、こけた」
「ほんま? 体の調子悪いとかあらへんか?」
「大丈夫だぁ……悪かったな。荷物も散らばっちまってなぁ……」
 そう言いながら、キルラスはしゃがみ込んで泰輔が落とした荷物を拾い集める。
 キャンドル……というか、ろうそく。アロマインセンス……と思ったら、線香。
 そのあまりに抹香臭い内容に、あん? とキルラスは首をかしげる。
「ああ、ウチ仏教やさかい。法事の買い出しやねん」
 キルラスが妙な顔をして居ることに気づいたのだろう、泰輔は苦笑混じりに肩をすくめた。
「お、ってことはお前もクリスマスには縁が無い組か!」
 すると、なぜかキルラスは嬉しそうな声を上げた。
「そう言われると、ちょっと悔しいけどなぁ。ま、そういうことや」
 寂しい独り身ですわ、と肩をすくめてみせる。
「誰か、暖めてくれる人はおらんやろか、って思ってたとこや」
「分かる、わかるぜぇ、その気持ち……なぁ、良かったら、茶でもしていかねぇか?」
「お、乗った!」
 こうして、クリスマスに縁が無い二人は意気投合して、空京の街に繰り出していったのだった。

担当マスターより

▼担当マスター

常葉ゆら

▼マスターコメント

さて問題です、このリアクション内に「ぎゅっと」は何回出てくるでしょうか!
……まずはリアクションの公開が遅れまして申し訳ございません、常葉です。
「常葉マスターの本気が見たい」とのありがたいお言葉に全力を持って応えた結果、ちょっとカレンダーを見失いました。本当に申し訳ない限りです。
次回以降は本気を出しつつカレンダーをちゃんと見据えて執筆したいと思います。

まあ見事に文章量がBL≧GL>NLになっています。
そこはそれ、同性愛推奨シナってことでお目こぼしを。

あと、一部の方についてはNPCを召還出来ずに申し訳ございません。
理由は主に、NPC枠用のLCが追加されていなかった・公式NPCではなかったというごくシステム的な不備によるものです。
(誰が公式NPCなのか不安、という場合はアクション提出前に運営に問い合わせてみるのがベストです)
公式NPCとの恋愛はもどかしい事も多いかと思いますが、アタック中の方々にはがんばって頂きたいと思います。

とりあえず出会いを求める組はぶつかりすぎだと思いました。

それでは、また次回シナリオでお会いいたしましょう。
恋愛シナリオは、次回はまだ未定ですが、またやらかしたいと思っております。

ご参加頂いた皆様、ありがとうございました。