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なし

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うそ!

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うそ!

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    ★    ★    ★
 
「れれれ、なんなのよ。なんであたし女の子になってるのよ!?」
 樹月 刀真(きづき・とうま)が、自分の身体を確かめて唖然とした。身長は縮んでいるし、銀髪は腰まで伸びたロングに変化している。しかも、しかもカボチャパンツだ。いや、これがズロースというものなのか?
 見たところ、世界樹の中の一室のようだが、ほとんどワンルームマンションなみに狭い部屋だ。
 ずずずずず……。
「にゃー、にゃー」
「な、なんだ、この黒猫!?」
 にゃーにゃー鳴きながら足許にスリスリしてきた黒猫に気づいて、樹月刀真がひゃんと生足をあげた。
「この猫は……。月夜ちゃん!?」
 人間だったら、こんな感じだろうか。自分が女体化しているぐらいだ、この猫は漆髪 月夜(うるしがみ・つくよ)かもしれない……多分。
 ずずずずず……。
「にゃあ、にゃあ」
「うーん、猫語は分からないわね。それにしても、こんなことをしそうなのは……」
「ほほほほほほ、よくぞ見破ったのだ」
 豪奢な金色の九尾を真紅の和服の隙間から背後へ出した玉藻 前(たまもの・まえ)が、しゃなりしゃなりと樹月刀真たちの前にやってきた。その頭の上には、鷽が乗っかっている。
「ふふふふ、やはり、刀真の隠された性別は女であったのだな。月夜も、その正体は猫だったのだ」
「いや、あたしは性別隠してなかったし、月夜ちゃんだって獣人じゃないから」
「にゃあ、にゃあ!」
 樹月刀真と漆髪月夜が玉藻前に抗議した。
 ずずずずず……。
「ほほう、では確かめてやろう。それ、さわさわ」
 ばっと、樹月刀真をだきしめると、玉藻前がその全身をなで繰り回した。
「こ、こら、どこを触って……やめ、やめえ〜」
 上を下を所構わずまさぐられて、樹月刀真が悲鳴をあげた。
「はーははは、逆らっても無駄であるぞ。今や、ここは我の意のままの鷽空間。逆らうことなど無駄であろう」
 勝ち誇って、玉藻前が笑った。
 ずずずずず……。
「にゃあ、にゃにゃにゃにゃ!」
 漆髪月夜が、そんな玉藻前の身体をよじ登って、頭の上の鷽を追い払った。そのまま、ぺしぺしと玉藻前の額に猫パンチをかます。
「こ、これ、やめぬか」
 思わず樹月刀真を離した玉藻前が一歩後退った。その背中が、部屋の壁にぶつかる。
「ちょ、ちょっと、これって、さっきからおかしくないですか?」
「ふっ、我のチョメチョメ空間でおかしなことなど……」
「いや、縮んでるわよ。ほら、部屋が狭くなってる」
「そんな馬鹿な……」
 樹月刀真に言われて、玉藻前が周囲を見回した。確かに、今や部屋は二メートル四方ほどしかない。
「あなた、自分設定によって、どんどんマクロな世界に固執したから、世界自体が閉鎖空間になって縮んできちゃったのよ。どうするのよ、このままじゃ、あなたの俺様空間で全員圧死よ!」
 樹月刀真が叫んだ。このままでは、じきに確定ロール空間に押し潰されてしまう。絶体絶命だ。
 コロン。
 足許に何かあった。ちっちゃな小瓶だ。
『私を吸って』
 ラベルにはそう書いてある。
「もの凄く怪しいけれど、背に腹は代えられないわね」
 樹月刀真が、小瓶のコルクを引き抜いた。
 ボン。
 何やら、妖しい粉末が、狭い室内に広がる。
「けほけほけほ……」
 思わず涙と鼻水を出しながら、三人がくしゃみをした。
「ドアよ、みんな外へ!」
 忽然と壁に現れた扉を見て、樹月刀真が叫んだ。
 
    ★    ★    ★
 
「ここは、どこなんだ?」
 扉を開けたアキラ・セイルーン(あきら・せいるーん)が、アリス・ドロワーズ(ありす・どろわーず)に訊ねた。
「ふふふ。ここは、カボチャパンツの国よ」
 アリス・ドロワーズの姿はなく、代わりに目の前にいた美少女が、アキラ・セイルーンに答えた。
「カボチャ……? うおおおお、なんじゃこりゃー!!」
 自分の今の姿を見て、アキラ・セイルーンが叫んだ。いつの間にか、下半身だけがカボチャパンツになっている。これでは、童話にでてくる魔物にあっさりとやられる馬鹿王子ではないか。
「君は、いったい誰なんだ」
 アキラ・セイルーンが、目の前の少女を問い質した。
「あら、私よ、私。アリスよ」
「あんだってえ!」
 アキラ・セイルーンが驚くのも無理はない。アリス・ドロワーズは、女の子の姿をしているとは言え、人形大のゆる族だ。こんな等身大の女の子の姿ではない。
「何を言っているの? これが私の本当の姿」
「中の人、中の人なのかあ!?」
 いや、それはサイズが合わなすぎる。
「何を言ってるの。中の人なんて、い・な・い・の♪」
 自分の唇に当てていた人差し指をアキラ・セイルーンの下唇に当てて、アリス・ドロワーズが笑った。
「さあ、行きましょう。ここが私の国。ステキなカボチャパンツの国」
 いや、カボチャパンツがステキかどうかはおいておくとして、アキラ・セイルーンはアリス・ドロワーズに手を引かれるままに森の中へと入っていった。
「うーん、カボチャパンツ以外は、意外にいい所かな……」
 アキラ・セイルーンがそう思ったときである。
「待て、鷽ー!」
 ボーイズメイド姿の、ユーリ・ユリン(ゆーり・ゆりん)が鷽を追いかけて走ってきた。
 だが、今ひとつユーリ・ユリンの動きが鈍く、鷽は逃げ去ってしまった。
「ああ、何やってるんだもん」
 後から追いかけてきたフユ・スコリア(ふゆ・すこりあ)がぷーっと頬をふくらます。
「だって、鷽を追いかけて扉をくぐったら急にこんな森に出ちゃったし、なんだかお尻のあたりがもこもこするし」
 なぜか、カボチャズロース姿になっていたユーリ・ユリンが、フユ・スコリアに言い訳した。
「ふふ、じゃあ、やっぱりユーリちゃんに調教するしかないわよね」
「ちょ、ちょっと、スコリア、そんな物騒な物取り出して、いったい何を……」
 さざれ石の短刀を取り出してじりじりとにじり寄ってくるフユ・スコリアを見て、ユーリ・ユリンが思わず後退った。
「本当は、鷽か可愛い女の子を石像にして愛でるつもりだったんだけど、この際、ユーリちゃんでもいいよね。というか、ユーリちゃんで我慢するからあ」
「いや、調教の意味が根本的に違うから!」
 あわてて、ユーリ・ユリンが、アキラ・セイルーンの方へ走って逃げだした。
「そこの人、逃げてー!」
「あー、可愛い子みっけ!」
「やばっ、逃げようアリス!」
 巻き込まれてはたまらないと、アキラ・セイルーンがアリス・ドロワーズの手を引いて逃げだした。それを、フユ・スコリアが追いかける。完璧に巻き込まれてしまった。