天御柱学院へ

なし

校長室

蒼空学園へ

うそ!

リアクション公開中!

うそ!

リアクション

 
    ★    ★    ★
 
「そういうわけで、壮大な実験を始めるんだよ」
 ネージュ・フロゥ(ねーじゅ・ふろう)が、雁字搦めにロープでいろいろ縛られた常葉樹 紫蘭(ときわぎ・しらん)を前にして言った。
「ちょっと、これはどういうことですの」
「だから実験なんだもん。ディアーヌの花粉に興奮作用があるって言うから、それが本当かどうか確かめるの」
「なにも、よりによってこんなときに確かめなくてもいいでしょうに!」
 芋虫のようにゴロゴロしながら、常葉樹紫蘭が叫んだ。どうりで人気の少ないイルミンスールの森に連れ出されたと思ったらこれだ。しかも、何やら鷽注意報発令とか、さっきから遠くから放送が聞こえてきている。だいたいにして、人気のない場所を探して、森の中に突然あった扉をなんの疑問もなく開けて中に入るというところからして間違っている。それとも、この時点でなんとか注意報に引っ掛かってしまっていたのだろうか。
「とりあえず、ディアーヌの花粉を集めます」
 しっかりと自分は防毒マスクをつけたネージュ・フロゥが、そう言ってディアーヌ・ラベリアーナ(でぃあーぬ・らべりあーな)に近づいた。
「待ってね、今花粉集めるから」
 カボチャパンツでふくらんだスカートの裾からバフバフと黄色い花粉をこぼしながら、ディアーヌ・ラベリアーナが言った。
 地面の上には、すでに放出された花粉がうずたかく積もっている。それを、こそこそっと、鷽が小瓶に詰めてコルクの蓋をしていった。できあがった花粉入りの小瓶は、鷽のそばにある開きっぱなしの小さな扉のむこうに転がり落ちていって姿を消していく。
「さあ、いよいよなんだもん」
 ネージュ・フロゥが、常葉樹紫蘭をゴロゴロと転がしながら運んできた。そのままの勢いで、常葉樹紫蘭が頭からディアーヌ・ラベリアーナの花粉の山に突っ込んでいく。
「けほんけほんけほん!」
 思いっきり花粉を吸い込んで、常葉樹紫蘭が涙と鼻水を流しながら咳き込んだ。
「げほげほげほ、みなぎりましたわー!!」
 ぶちぶちぶち!
 様子を見ていたネージュ・フロゥの前で、常葉樹紫蘭がいきなりロープを力任せに引き千切った。
「受粉したらどうするのですか! ネージュさんも、少しお吸いになるといいんですわ!」
 そう言うと、常葉樹紫蘭が、ネージュ・フロゥの防毒マスクに手をのばした。
「きゃー、なんで興奮するんだもん!」
 本当に興奮した後、ネージュ・フロゥが逃げだした。ちなみに、ネージュ・フロゥも常葉樹紫蘭も、いつの間にかスカートの下がカボチャパンツになっている。
「ああ、二人とも、ボクのせいで喧嘩はやめて!」
 追いかけっこを始めてしまった二人を、ディアーヌ・ラベリアーナがあわてて追いかけていった。その走った後に、黄色い花粉の煙がたなびく。
「うそだっちゃ」
 その花粉を集めようと、鷽もその後を追いかけていった。
 しばらく走っていくと、前方から別の鷽が飛んでくる。その後から、アキラ・セイルーンたちとユーリ・ユリンがフユ・スコリアに追いかけられて逃げてきていた。
「きゃあ!」
 よく分からないうちに、ネージュ・フロゥたちとアキラ・セイルーンたちが正面衝突する。
 ぶわっと、ディアーヌ・ラベリアーナの花粉が舞いあがった。全員が一斉にくしゃみを始める。
「はははは、追い詰めたんだもん。みんな仲良く石に調教しちゃうんだから!」
 少し遅れてフユ・スコリアがやってきた。くしゃみをして動けないアキラ・セイルーンたちは絶体絶命だった。
「わーん、カボチャパンツなんか嫌いだあ!」
 そこへ、全員カボチャパンツになった樹月刀真たちが鷽と共にやってきた。
「くしゅん、くしゅん。玉ちゃんのばかあ!!」
 漆髪月夜もなんとか元の姿に戻って、くしゃみをしつつ走ってくる。
「こ、この姿だけはなんとかならんのか。コホン、コンコン」
 和服にカボチャパンツというなんとも痛々しい姿で、玉藻前も走る。
「これもみんな、鷽と、この花粉が悪いんだあ!!」
 怒り心頭で、樹月刀真たち三人が叫んだ。
「やば、なんであの人たちがディアーヌの花粉を……」
 団子になって地面に転がっていたネージュ・フロゥがつぶやいた。その顔から、常葉樹紫蘭が防毒マスクを剥ぎ取る。
「とったあ!」
「ああっ、ええいこうなったらこうなんだもん!」
 ポシェットから何かを取り出そうとするネージュ・フロゥと、ユーリ・ユリンを石化しようとしているフユ・スコリアの所に、叫びながら樹月刀真たちが突っ込んできた。
「うきゃあ!」
 吹っ飛ばされたフユ・スコリアの手から、さざれ石の短刀が飛んでいった。同時に、ネージュ・フロゥが取り出そうとしていた物が、一同の頭上高くに舞いあがった。空中で両者がぶつかり、使い手のいないただの短刀と化したさざれ石の短刀によって、真っ赤な瓶が割れた。
「うそなんなんなん?」
 中に入っていた物が、ありえない量にふくらんで飛び散った。そのまま、三匹の鷽と一同の頭の上から降り注いでくる。
「うぎゃあ、辛い辛い辛い!」
 激辛カレールーの雨を浴びて、全員が地面の上で悶え苦しんだ。
「うそなんだな!」
「うそでごんす!」
「うそだっぴゃ!」
 悲鳴を浴びて、鷽たちが消滅した。
 とたんに、みんなのカボチャパンツも消滅する。アリス・ドロワーズも、元のちっちゃなゆる族に戻り、樹月刀真も男に戻った。
「辛いですわ」
「辛い辛い辛い!」
「み、みずをくれ」
「そんなこと言ったらミミズが来るかも……」
 花粉による興奮作用があっさりと消えたのに、超激辛カレーによって悶え苦しみながら一同は叫び続けた。