校長室
【●】光降る町で(後編)
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終章:天蓋の終わり ヒラニプラ、教導団本部の校長室。 その主、金鋭峰(じん・るいふぉん)は、難しい顔をしながらぎしりと深く椅子に腰掛けた。 「……消えた、か」 封印を破り、その姿を顕現させた超獣は、暫くの交戦の後、あれほどの巨体でありながら、黒い無数の腕と共に、忽然とその姿を消したと言う。 町の人々と観光客の退避はスムーズに行われ、幸いにも死者も無く、腕に襲われた人々も、概ね回復していると言う。あわや町が存続の危機に立たされるかと思われていたが、町そのものも、特に破壊などされた形跡はなく、安全を確認すれば、すぐに皆家に帰る事は出来そうだとのことだ。快挙である。 そんな氏無からの報告に、鋭峰はかつ、と、幾つかのファイルが並んだ机を叩いた。 そのいずれも、ここ最近で各地で発生した事件のファイルである。それは、ほんの些細なものから、今回の件のように大きなものまで様々だが、それらはパラミタの大地の力が弱まってきてから発生したものだ。 「やはり、影響は免れないか」 明らかにその数を増やす事件だが、鋭峰の表情が優れないのはそのせいだけではない。 「真の王……か」 先日のヘビモスの事件と、今回の事件に共通するその名前。安定を失いつつあるパラミタに、それは随分と不穏な響きを持っていた。味方ではありえない、だが、その正体は未だはっきりとはしていない存在。 「とは言え、今はこちらが問題だな」 とん、とトゥーゲドアからの報告書を叩き、鋭峰は息を吐き出すと「どうします?」と問う氏無の通信に「無論、危険因子は蒼穹に排除せねばならない」と即答した。 「完全に消えたわけではあるまい。そう遠くなく、再び姿を現すはずだ」 復讐、と言っていた以上、復活できたことだけで満足するはずが無い。今回の被害が少なかったのは、約束を果たした見返りと言うよりは、恐らくそこが復讐者の故郷だったと言う偶然性に過ぎない。今は目覚めたばかりで動きが取れないでいるのかもしれないが、次に現れたときは、確実に被害を伴うはずだ。教導団は、国軍としてそれを最小限に抑えなければならない。 「貴官の枝を最大限に利用し、出現予測地を絞り込め。必要なら部隊を手配させ……」 すぐさま指示を飛ばしていたが、そんな中で、最後の避難誘導を行っていたルカルカが、慌てた様子でその通信に割り込んできた。 「――……何?」 それは、超獣を利用して、大地の力を回復させることが出来るかもしれない、と言う報告だった。 「それは、本当なのか?」 警戒の抜けきらない顔で淵がその顔を見上げるのに、男は頷いた。 「超獣の封印が解けた今なら、その力を大地に還すことも、不可能じゃない」 ただし、今の呪詛に塗れたままでは、無理に還せば逆に大地を穢してしまうのだという。元々は大地のエネルギーの収束体であったというから、可能性としてはあるのかもしれないが、男を見る皆の目は、不信と警戒、そして好奇心に彩られている。 「信じろ、というのは無理なのは判っている」 だが、俺は俺の”そうしなければならない理由”がある、と、刺すような視線を受けながらも、まるで動じる風も無、鋭い目を更に鋭くして、古代の神官服のような黒い衣装を纏う青年は言った。 「俺は、取り戻したいだけだ。嘆きと共に眠る――彼女を」 焦げ茶の髪に、冷たい翡翠の目。ディバイスの消えた後に現れたその青年は、白い神官服を纏い、憎悪を撒き散らした戦士――……アルケリウスと、瓜二つの姿をしていた。 「俺の名は、ディミトリアス・ディオン。守護戦士、アルケリウスの……双子の、弟だ」
▼担当マスター
逆凪 まこと
▼マスターコメント
皆さま大変お疲れ様でした トゥーゲドアに眠る最大の秘密のお目見えとなりましたが、如何だったでしょうか 先述の通り、ルートを幾つか用意していたのですが、思いのほか封印を解かない方向性で纏まってくださっており おかげで、真の王の存在が、表舞台に引きずり出されることなりました また、超獣の復活、そして真の王に、二人の青年……と、また新たに物語は幕を開けることとなりました 次はまた違う場所でのお話になるかと思いますが 今しばらく、この物語の行く末に、お付き合いいただければ幸いです