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亡き城主のための叙事詩 前編

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亡き城主のための叙事詩 前編

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 十章 征服者の従士 後編

 征服者の従士は大剣の重量を利用した破壊力を伴った攻撃を繰り出す。その剣速は研ぎ澄まされていて、おまけに早いせいで手に負えない。
 また、多くの戦いを経験し得た武具や魔法に対する知識を十分に活用し、被害を最小限に抑えていた。

「く……っ!」

 征服者の従士と斬り合いをしているレティシアから呻き声が洩れる。
 と、同時。破光翼剣が勢い良く弾かれ、生まれた隙に、征服者の従士は身体を軸にして渾身の蹴りを放った。
 レティシアの身体がくの字に折り曲がる。そして、宙を舞い吹っ飛ばされた。

「ハハッ、あんたとの剣戟、楽しかったよ。さて、次は――」

 征服者の従士が契約者たちに目を向けた瞬間、彼女の視界は眩いばかりのマズルフラッシュに包まれた。
 その正体はチンギスが地面に描いた大きな魔法陣により呼び出した侵攻スル龍撃槍砲。数にして、五基。
 他の契約者と征服者の従士が戦っている隙に設置したその巨大な砲台を、チンギスは一斉発射したのだ。

「さて、貴様はこれに耐えることが出来るか?」

 侵攻スル龍撃槍砲から発射された強力な槍は、五本同時に征服者の従士に飛来。
 着弾と同時に巻き上がる莫大な砂塵が、その威力の高さを証明していた。

「……まったく、侵略王は性格と同じで豪快な攻撃をしてくれるね」

 征服者の従士は咄嗟に大剣に身を隠し、その砲撃を防御していた。
 弾かれた五本の槍が、征服者の従士の周りの地面に突き刺さり、歪なサークルを造っている。

「ほう、これも耐えるか」
「まだまだ、こんなのじゃあたいを倒すことは出来ないよ、っと」

 征服者の従士はチンギスに向かってそう言うと、体勢を立て直し大剣を構えた。
 すかさず、メイスン・ドットハック(めいすん・どっとはっく)が征服者に駆け寄り、マシーナリーソードを振り下ろす。

「おっと、またあんたか。あんたと斬りあうのは楽しいから大歓迎だよ」
「……どのクチがいっとるんじゃ。さっきは自分を完全に打ち負かしたいうのに」

 メイスンはそう悪態をつきながら、征服者の従士にむけて剣を振るう。
 どうやら、お互いの武器の質は同じ。だが、力と剣速で負けているのでメイスンは防戦に回ること多かった。
 そのため、二人から少し離れた場所でルドウィク・プリン著 『妖蛆の秘密』(るどうぃくぷりんちょ・ようしゅのひみつ)が魔法でメイスンの援護に回るが。

「やっぱり、中々突破口が開けませんわね」

 『妖蛆の秘密』は魔法陣を描く手を止めず、思わずそう一人ごちた。
 さっきから何度も『妖蛆の秘密』は魔法による援護を行うが、その全てを征服者の従士はことごとく回避し、避けられない場合は障壁を展開して防御していたからだ。

「かといって、斬り合いの最中に飛び込むのも自殺行為ですし、」
「カッカッカッ、その通りじゃ。わしが何度も魔法を放っているというのに、その全てをさけるとは。厄介じゃ、まことに厄介じゃのう」

 『妖蛆の秘密』の独り言に答えたのは、パートナーの鵜飼 衛(うかい・まもる)だ。
 衛はそう言うが、どこか楽しそうな表情で腕を組み笑っている。

「さて、そんな厄介な奴の牙城を崩すには……やはりこういった方法しかあるまい」
「衛様!? 危ないです! お止めください!!」

 『妖蛆の秘密』の静止を振り切って、衛はレジェンダリーシールドを構え、征服者の従士へと突撃を行う。
 征服者の従士はメイスンとの剣戟を行いながら、視線の端に映った衛の行動を見て、呆れたように呟いた。
 
「……そんな突発的で直線的な行動。戦場では死に直結するよ」

 征服者の従士はメイスンを蹴り飛ばし、そのまま回転しつつ盾に身を隠す衛へと片手で大剣を振り下ろした。
 衛の耳に轟、と大剣が風を切る音が聞こえる。それは自身の命を刈り取ろうとする一閃。
 やや鈍い音と共に衛の盾が弾かれる。後衛が捌ききれるほど、彼女の剣は軽くない。

「あばよ、賢人さん」

 そのまま一直線に、大剣は衛を真っ二つにせんと襲いかかる。
 が、衛が咄嗟に歴戦の防御術で立ち回り威力を殺したお陰で、彼が身を包む緑竜の鎧を完全に砕くことは出来ず、肩口を深く抉る程度で済んだ。

「へぇ、やるじゃないか。あんた。死ぬことはさけたんだ」
「……カッカッカッ。それも、はなから計算のうちじゃ」

 衛は痛みに耐え、征服者の従士にむかって不敵に笑う。
 それと、同時。衛は肩に当たる大剣に片手で触れ、素早く魔法陣を描く。
 それは赤と青が混じった不思議な色合いの魔法陣。書き終えるとすぐ、衛は自分の魔力を込めて光り輝かせる。

 瞬間、征服者の従士は突然自身の剣を掴む手を襲った焼け付くような痛みに顔を歪めた。
 と、共に大剣の刀身全てが凍りつき、大剣の重量が増大した。

「……あんた、何をやった?」
「凍てつく炎じゃよ。カカッ、片手が火傷で十二分の力で振るえず、剣が氷で重量が増えたじゃろ?」
「くッ、余計なことをしてくれたね」

 征服者の従士は大剣を先ほどより遅い速度で振り上げ、衛にトドメを刺そうとする。
 衛は彼女のその姿を見ても微動だにせず、不敵な笑みのまま問いかけた。

「さて問題じゃ。その状態でわしの相棒とおぬしの剣速、どっちが速い?」
「……ッ!? そういうことかい!」

 征服者の従士は近づく気配を察し、衛にトドメを刺さず、代わりに蹴り飛ばした。
 そして、気配のするほうを振り向く。そこには、マシーナリーソードを両手で握り迫るメイスンの姿。

「衛のボケッ! また無茶しよって!」

 衛を罵りながら、メイスンは刀身に聖なる力を宿らせる。
 それは伝説の英雄が編み出したと言われている奥義、レジェンドストライク。
 聖なる一閃は、征服者の従士が大剣で防御するよりも早く、征服者の従士の鎧を砕け散らせた。