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亡き城主のための叙事詩 前編

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亡き城主のための叙事詩 前編

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「ぐ……がぁぁァァアア!!」

 征服者の従士は咆哮を上げ、驚異的な精神力で激痛に耐える。だが、その一瞬が征服者の従士にとって明暗を分ける隙となった。

「悪いが……一気にいかせてもらう」

 風よりも早く疾走して颯爽と征服者の従士の懐へと入り込んだのは紫月 唯斗(しづき・ゆいと)
 片手には妖刀白檀、もう一方の手には秘湯の飛刀。二刀による素早い剣閃で、征服者の従士を切り裂く。

「……こんなときに、一番戦いたくなかった、あんたが相手かい」
「女を斬るなんざしたくは無いが……仕方ない」

 征服者の従士から放たれた蹴りを、唯斗は先読みして後方に避ける。
 征服者の従士は痛みに耐え、追撃で唯斗に向けて大剣を振り下ろす。

「衛のおかげだな。さっきまでのキレがないぜ、征服者」

 唯斗は大剣の攻撃に合わせ二刀で挟み込むように受け流す。
 その際押し込む様に抵抗を加えながら流す事で、『斬った』感覚を与えた。
 まるで曲芸のような技だが、唯斗はこれを確実に、完璧に実行した。

「殺った……!?」

 唯斗を斬ったと錯覚した征服者の従士に一瞬、隙が生じた。
 その隙を逃さず、唯斗は相手の牽制を行いつつ、仲間の名前を叫んだ。

「昴! 天地!」

 唯斗の呼びかけに応じて、九十九 昴(つくも・すばる)九十九 天地(つくも・あまつち)が征服者の従士に迫る。
 真っ先に突っ込んだ昴が征服者の従士の振り上げる一閃を、行動予測と歴戦の立ち回り首の皮一枚で回避。
 がら空きになった胴に、陰陽六合刀を奔らせる。切り裂かれた傷口から鮮血が飛び散った。

「……まだまだァ!」

 征服者の従士は振り上げた大剣を昴に向けて振り下ろす。
 だが、天地がそれを許さず、放った神威の矢が、征服者の従士が振り上げた腕に突き刺さる。

「今ですわ、白夜」

 そして、天地は光竜『白夜』に指示を出す。
 灼眼の白鱗竜は口を大きく開け、轟々と燃え盛る侵食の炎を吐き出した。

「っく、これだけ囲まれてちゃ……!」

 征服者の従士はたまらずバーストダッシュで素早く後退。
 だが、疾風迅雷と千里走りの術を併用した唯斗がそれを凌駕する速度で征服者の従士に迫る。
 追いつくやいな、唯斗の影が立ち上がる。忍法・呪い影。一人。
 続けざまに唯斗は手で印を作り、分身の術を発動。生み出された残像は四体。

「喰らえ……」

 静かだが強い呟きと共に四方八方から放たれた高速の斬撃に、征服者の従士はなすすべなく全てを浴びる。
 彼女は声にもならない悲鳴をあげ、倒れかけるが、大剣を支えに踏ん張った。
 その前にゆっくりと昴が近づき、征服者の従士に問いかけた。

「……あなた、本当の名前は何て言うの?」

 それは昴が決着が近付いていることを、自ずと感じ取ったからだった。

「……名前、なんてない。あたいを表すものは征服者、っていうあの人からもらった誇り高き称号だけだ……!」

 征服者の従士は口から血を吐き、肩をあらく上下させながらもその問いに答えた。
 昴は彼女の答えを耳にして、うんと頷いた後に声をかけた。

「そう、征服者。ここで、決着をつけましょう」
「……いわれなくても、そのつもりだよ」

 征服者の従士は大剣を両手で構え、昴と対峙する。

「来なさい、あなたの最高の一撃を持って!」

 昴の咆哮と共に征服者の従士が駆けた。
 守ることは考えず、思い切り力を溜めて。大剣を脇に構え、放つ技はフェイタルリーパーの奥義、一刀両断。

「……ァァアアアア!!」

 大気を震わす咆哮と共に征服者の従士は全てを切り裂く一閃を放つ。
 昴はそれを避けることもせず、その代わり龍鱗化で自分の手と腕を鱗で覆い金剛力を合わせて、征服者の従士の凶刃を真正面から受け止めた。

「あなたの、思い、全て……受け止めたわ」

 昴は身体を駆け巡る痛みに耐え、零距離で必殺の一撃を放つ。
 達人の域にまで達した技術と幾度もの戦闘を勝ち残ったことにより得た経験。それらを全て組み合わせて昴は疾風突きを放った。
 音速を超えた突きは征服者の従士の身体を突き刺し、それと同時に彼女は意識を失って大剣を力無く離し膝から崩れ落ちた。

 ――――――――――

 征服者の従士は意識を失って倒れたところ、唯斗がすぐに回収し、しかるべき処置を施して一命を取り留めた。
 それは、自分の身体を張って征服者の従士と戦った衛と昴も同じだった。今は三人とも地面に寝かされ、安静にしている。

「衛様……ご無理はご自重ください。あなた様にお傷は似合いませんわ」

 衛の傍に腰を下ろし、治療にあたる『妖蛆の秘密』はひどく心配そうな表情だ。
 それと対照的にメイスンは、いつもは感じない激昂を顕わにしていた。

「いつもいつも無茶ばっかりしよって。それで死んだら元も子もないじゃろーが!」

 二人がそう言うのも当たり前だ。衛は征服者の従士と同じぐらいの重傷を負って、本当に死にかけたからだった。

「無茶を、するな、じゃと? ……カッカッカッ、この程度で、勝利を、掴めるなら、軽い怪我じゃ!」

 衛は息も絶え絶えに、二人に向かってそう言い放った。
 二人は呆れて、ため息を吐く。が、そんな憂鬱とした雰囲気をぶち壊しにする叫びが、三人の近くであげられた。

「力は示した。あいつを我様のモノにする! 応じなければ即殺害!!」
「おいおい、待て待て! せっかく助けたのに殺してどうするんだよ!!」

 意識を失っている征服者の従士に、チンギスは近寄ろうとするが、周りの契約者たち全員に止められていた。
 果たして、征服者の従士は目が覚めたときに、どういう反応をするのだろうか。