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亡き城主のための叙事詩 前編

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亡き城主のための叙事詩 前編

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「待ってましたよ。そうして空に後退してくれるときを」
 今まで隠形の術で身を隠し、好機をうかがっていた天神山 葛葉(てんじんやま・くずは)が奈落の鉄鎖を使い、剛毅の従士を地へと落とした。
 剛毅の従士を重力が襲う。地面へと張り付けにされ、剛毅の従士が身動きがとれないうちに、葛葉は疾風迅雷の動きで近づく。
 葛葉が剛毅の従士に近づくと同時に、二人の下忍と呪い影で生み出したもう一人の自分が剛毅の従士の四肢を傷つけるため攻撃を仕掛けた。

「がっ……あああぁぁぁ!!」

 四肢を傷つけられ苦しそうな呻き声をあげながら、剛毅の従士は立ち上がり周りの者を振り払おうと両腕を振るった。
 が、すぐに光学迷彩で隠れていた斎藤 ハツネ(さいとう・はつね)が姿を現し、黒銀火憐を振るい行動を妨害する。
 その隙に葛葉が弱った四肢に忍び蚕の糸を巻きつけ、剛毅の従士の身動きを封じた。

「やっと捕まえました。……今ですよ、ハツネちゃん」
「クスクス……待ってましたなの」

 ハツネは不気味な笑みを浮かべながら、黒銀火憐をしまいレーザーマインゴーシュを片手に持つ。

「クスクス……飛ばれると厄介だから翼を狙うの♪」

 英雄の如き無駄の無い動きで剛毅の従士の背後に移動し、ブラインドナイブス。死角から背中の光の翼の根元にレーザーの刀身を奔らせ、根元から刈り取った。

「……!!」

 声にもならない悲鳴を、剛毅の従士があげる。
 その悲鳴を耳にしたハツネはうっとりとした表情で呟いた。

「あー……いい声で鳴いてくれるの……♪」

 その無邪気な声に、剛毅の従士の背筋がぞわりと寒くなる。
 本能的に剛毅の従士は一、番早く忍び蚕の糸を千切ることの出来た右腕を裏拳気味に背後のハツネへ振りぬいた。
 しかしハツネはもうそこにはおらず、代わりに前方から保名が迫ってくる。

「はぁぁあああ!」

 剛毅の従士は叫び声をあげ、渾身の力で忍び蚕の糸の拘束から逃れる。
 が、軽身功の動きで近づいてきた保名は必中の距離まで剛毅の従士に迫っていた。

「これで終わりじゃ――天弧二連撃!!」

 歴戦の必殺術で寸分の違いもなく、サーバルが撃った鳳凰の拳と同じ場所に目掛け。
 身を守ることを捨てて、尋常ならざる速度を乗せた急所への二連突きが、剛毅の従士に放たれる。

「……オレの負けか……」

 風の音にかき消されそうなほど小さく呟くと同時に、剛毅の従士は膝をつきその場に倒れこんだ。

 ――――――――――

 倒れこんだ剛毅の従士に、ハツネは蹴り転がし、踏みつけ痛めつけた。

「が、がはっ、げぇ……!」
「クスクス……さっきみたいにもっといい声で鳴いてよ……」

 ハツネのその行為にルファンが、肩を掴み厳しい口調で言い放った。

「そなた、やりすぎじゃ。これ以上やるというなら、わしも黙ってはおれんが」
「クスクス……なんで? ……せっかく協力したんだから褒めてよ♪」

 ルファンはきっと目を細めハツネを睨む。
 ハツネは玩具を取り上げられた子供のように拗ね、剛毅の従士をいたぶるのを止めた。

「う〜ん、じゃあ完全に壊れる前に脳筋従士さんに質問♪ 死神の従士さんは強いの?」
「……オレとは、比べものに、ならないほど強い」
「クスクス……それが聞ければ十分なの」

 剛毅の従士の答えを聞いたハツネは、また不気味に口元を吊り上げ言い放った。

「ああ……それと……壊れた物が直らないように……死人が生き返る訳ないじゃん、ば〜か♪」

 ハツネのその心許ない言葉を耳にして、ついに堪忍袋の緒が切れたのか、保名がハツネの襟を掴み睨みつける。

「黙れよ、小娘……それ以上、かの者への侮辱はワシが許さん!」
「クスクス……やっぱり脳筋保名はうるさいの」

 険悪な様子の二人の傍で、葛葉が剛毅の従士に問いかけた。

「最後に僕も質問です。剛毅の従士さん、死者蘇生の魔剣……名称、経歴、元の持ち主……知っている事を教えてくれませんか?」
「……オレはなにも知らない、聞いていない。ただ、主を蘇らせることが出来るかもしれない、ということしか分からない」
「そうですか、ありがとうございます。……保名様」
「……ああ」

 葛葉に呼ばれた保名はハツネを振り払い、剛毅の従士に向けて閻魔の掌を構える。

「従士殿。……例え、死者を蘇らせる愚行でもその忠誠心と力は本物だった。敬意を表して、わしが止めを刺そう」
「主を蘇らせる任務に失敗したオレに、もう生きる希望もない。……願わくば、ひとおもいにやってくれ」

 保名は小さく頷き、指を中心に四指を伸ばし揃えた掌型を作った。
 狐刀掌、そう呼ばれるこの技は確実に急所を突き抉る殺しに長けた技。

「……おぬしのことはわしが覚えておく」

 保名はそう呟くと、剛毅の従士の喉を深く突き抉った。

 ――――――――――

 多くの者が城へと向かい、喉を突き抉られた剛毅の従士は、一人取り残されていた。
 常人なら確実に死に陥る狐刀掌だが、剛毅の従士は鍛えられているお陰か、瀕死ですんでいた。
 しかし、誰も助けてくれないいま、ただゆっくりと死に絶えることを待つだけだ。
 そんな剛毅の従士の傍に、夜にまぎれて愚者が突然現れた。

「おやおや、これは手ひどくやられてしまったようですね」

 意識を失った剛毅の従士を見て、彼は自分とは正反対の白の魔法陣を描く。

「壊れた物が直らないように死人が生き返る訳ない、ですか。的を射た意見を言いますね、あの人は。
 ……だが、あるものは治すことが出来る。今の貴方なら、私でも救うことが出来ましょう」

 魔力を込めて輝く魔法陣から生まれたいくつもの光は、剛毅の従士のありとあらゆる傷を包み、癒していく。

「剛毅、貴方の物語はここが終着点ではないはずです。……百年以上前の昔話に拘る必要など、どこにもないのですよ」

 愚者はそう呟き、剛毅の従士の傷が塞がれるのを見届けてから、姿を消した。