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リアクション
「今日来てくれた皆さんはラッキーです! 846プロが満を持して送り出す3組のアイドルお披露目ですよー!」
曲が終わり、そのまま司会業に鞍替えした衿栖の言葉に、会場からおぉ、とどよめきが起きる。
「一押しの子を見つけたら、言ってくれると嬉しいな! あ、でも、ツンデレーションのファンは乗換禁止ですからね!」
「あー、いや、別に乗り換えてもらっても一向に構わないからな?」
未散がそう言うと、しかし会場からは「俺はツンデレと添い遂げた!」「未散ちゃんずっと付いてくよー」という声が飛んでくる。
「……と、とにかく、次行くぞ!
最年少魔法少女ユニット、『ハピネス☆キティ』。キュートな子猫たちを見て、みんな幸せな気分になればいいんじゃないか?
猫をイメージした振り付けにも注目だな……ちょっと待て、これ私がやるのか!?」
進行表に目を落とした未散が、そこに書かれていたト書きに唖然とする。
『うー、にゃー! で暗転』
(くっそー、誰だよこんなの書いたの! ……だけどここで迷ったら、みくるが悲しむかもしれない……!)
ええいもうどうにでもなれ、そんな気分で未散が両腕を縮め、
「うー、にゃー!」(ぎゃー、恥ずかしー!)
上に突き出して声を発すると、照明がフッ、と落ちる。ううっ、と自分の所業を嘆く未散に代わって、日下部 千尋(くさかべ・ちひろ)とみくるがステージに立つ。
「わぁ! 人がいっぱい……びっくりしたぁ」
「ホントだ! すごいたくさん……大丈夫かなぁ」
今日が初ステージの二人が、緊張しないわけがない。でも同時に、そんな二人をここまで応援してくれた人がたくさんいることも、彼女たちは知っていた。
「やー兄や未散ちゃんに、頑張ったね、って褒めてもらえるように頑張ろうねっ」
「うんっ! みくるも未散と衿栖みたいなアイドルになれるように頑張る!」
ぐっ、と拳を固めた所で、照明が二人を照らし始める。
「みんなー! こんにちはー! 『魔法少女ハピネスみくるん』だよ!」
「『魔法少女ハピネスちーちゃん』だよ!」
「二人合わせて、せーの……『ハピネス☆キティ』だよっ!」
途端に、会場からかわいい〜、の声が溢れる。野太い声が多いのはまぁ、そういうことである。
「さぁみんなー! 一緒に盛り上がっていこうねー♪
(」・ω・)」うー! (/・ω・)/にゃー♪」
可愛らしいステージが幕を開ける――。
「うーにゃー……ハッ、いかんいかん。ついつい釣られちまったぜ。こんな格好してるからかな」
ステージから聞こえてくる掛け声に、柳玄 氷藍(りゅうげん・ひょうらん)が釣られて腕を上下させていた。客を呼び込むため、ネコミミメイド姿に扮していたのが影響したか、なんて思う。
「母上……ど、どうして僕がこの格好なんですか……!」
その隣で、けもみみメイド姿に着替えさせられた真田 大助(さなだ・たいすけ)が恥ずかしさでふるふる、と震えていた。
「袴姿で呼び込みなんておかしいだろ? ともかく宣伝勧誘しっかりやる! こんだけギャラリーがいるんだ、宣伝しとけば846プロがもっと有名になんだろ」
「うぅ……そ、それはそうですけど……分かりました、これもきっと乗り越えなきゃならない事……がんばりますよ!」
なんとか気合を入れる大助へ、にひひと笑って氷藍が言う。
「あ、そうそう大助。お前もそのうちアイドル業界に引っ張り込んでやるから。覚悟しろよ?」
「え? えーーー!」
とんでもないことを聞かされ、がっくりとうなだれる大助。するとお腹がぐぅ、と空腹を訴え出す。
「あぁ、お、お腹が……。お祭りがあるというから、ここまで何も口にしていなかったんだった……」
かくなる上は、必死に仕事を終わらせて屋台の食べ物にありつくのみ。そう心に誓った大助は、遮二無二呼び込みを始める。
「よしよし、これでライブは大成功間違い無しだな!
にゃ! そこの可愛い子、846プロのライブはどうだ?」
大助の働きぶりに満足した氷藍も、あわよくば846プロに勧誘する勢いで呼び込みを始める。そしてステージでは『ハピネス☆キティ』のステージが終わり、次のステージが開かれようとしていた。
「えへへ♪ 楽しかったね、みくるちゃん♪ また一緒にアイドルしようね!」
感極まってか、千尋がみくるの頬にチュッ、とキスをし、みくるが真っ赤になりながら退場する。
「お次は846プロの秘蔵っ子、クレナ・ティオラ。こういう正統派歌姫は居そうで居なかったからな。
彼女の透き通る歌声に、虜になるがいい!」
未散の紹介を受け、クレナ・ティオラ(くれな・てぃおら)がステージに立つ。
(氷藍……体調が優れないのに懸命に呼び込みを……!
私の歌が少しでも力になるなら、お手伝いします!)
クレアが『氷藍は風邪と鼻水と頭痛と目眩で歌えない』と信じているのは、実は氷藍の一芝居だったのだが、クレアは知る由もない。ただステージを彩る一輪の花になれればとの思いで、柔らかな照明が照らす中、歌声を響かせる。
私は花、小さな花
愛の言葉も囁けないけど
貴方の為に咲き続けています
貴方の側で、貴方の為だけに
貴方の笑顔はお日様のよう
私を撫でる手は風よりも優しくて
その言葉は雨水よりも甘いわ
私はとても幸せな花
だからこの幸せを貴方に分けてあげたい
どうか私を摘み取って
その胸に飾らせて
「うぅ、き、緊張するのだ〜……」
歌い終わり、緊張が解けたからかへたり込んでしまうクレアに温かな拍手が送られるのを聞いて、自分たちの出番が迫っていることを悟った天禰 薫(あまね・かおる)がふるふる、と身体を震わせる。
「大丈夫! 練習通りやればきっとみんな、喜んでくれるよ! そうだよね、結?」
そんな薫をプレシア・クライン(ぷれしあ・くらいん)が励まして、堂島 結(どうじま・ゆい)に同意を求めると、結はわたげうさぎ状態の天禰 ピカ(あまね・ぴか)をもふもふしていた。
「はぅ〜! もふもふです〜♪ ぴきゅぴきゅです〜♪」
「ぴきゅう〜!」
「……あー、うん。結はもうちょっと緊張した方がいいかな?
ほら結、薫さんに何か言ってあげてっ」
ピカを引き剥がされ、残念そうにしながら結がギターを装着する。弦が弾かれ、ジャーン、と音を奏でる。
「楽しくやれば、楽しくなるしきっと上手くいく! だから楽しくやろう、薫さん?」
「ぴきゅう!」(我も頑張るから、薫も頑張るのだ!)
二人の応援を受けて、薫の表情に力が戻ってくる。辛くもあり、けれど楽しかった練習を共にしたベースを抱いて、力強く頷く。
「……うん。我、頑張るのだ」
その時ステージから、自分たちの出番が告げられる。『ジェミ☆ジェミ』、それが自分たちのユニット名。
「それじゃいっくよー!」
元気よく、一行がステージに上がる。プレシアがシンセサイザーの前に立ち、人の姿になったピカがスティックを手に、ドラムの前に座る。
各人の準備が出来たのを確認して、ピカがスティックを打ち鳴らし、第一打のシンバルを勢い良く叩けば、合わせて照明が点灯する。
会いたくて
せつなくて
苦しくて
どんなに思ってても届かなくて
あなたの背中が遠すぎて
胸がいっぱいで そう 張り裂けそう
結の紡ぐ歌声を、ベースを演奏しながら薫が聞き、共感を抱く。
(……この歌詞の事、我、思い当たる節がちょっとあるのだ)
ピリッ、と、薫の胸に痛みが走る。目の奥が熱くなって、涙が溢れそうになる。
(今は演奏中なのだ。頑張るのだ、頑張るのだ……)
それでも懸命に、薫はベースを鳴らし、音色を響かせる――。
「わ、凄い人……」
「ホント、大人気だねー。……あ、ちょうど歌が終わった所みたいだよ」
千雨と諒と、お誕生日ケーキを運んできたプラとアシェットが、会場の人の多さに驚きの声を上げると、会場から結が駆け足でやって来る。
「皆さん、ありがとうございます! それ、こっちに運んでもらえますか?」
結の先導で、一行は慎重にケーキを運ぶ。一人で動かせる所まで運んでもらった後は、結が台に乗ったケーキをステージへと運び入れる。
「それじゃあ最後に、今日のサプライズ! 結ちゃん、お願いしまーす!」
衿栖の声で結が上蓋を取り去ると、中から現れたのはニンジンを生地に練り込み、デコレーションのクリームにもキャロットクリームをブレンドした、めでたく誕生日を迎えたピカのために用意されたバースデーケーキ。
「ピカちゃん! お誕生日おめでとうございます! これからも今まで以上に仲良くしてくださいね!」
「ぴ? ぴきゅう!?」(え? 我のお誕生日のお祝いなのだ!?)
ここに来てようやく、目の前のケーキが自分のために用意されたものだと気付くピカ。周りからは『ハッピーバースディ』が歌われ、拍手が送られる。
「ぴきゅう〜♪」(みんなありがとうなのだ〜♪)
感動のあまり、ピカはわたげうさぎの姿に戻るや否や、何故かこのタイミングで登場していた自称 わたべえ(じしょう・わたべえ)を掴んだかと思うと、ケーキに飛び込む。
「こんな人がたくさんいるなら、一人くらい魔法少女になってくれる子はいないかな――うわ! な、なに――うわああああぁぁぁ!!」
先にケーキに押し付けられた挙句、ピカのクッションにさせられたわたべえ。出てこなければやられなかっただろうに、不憫である。
「はー、終わった終わった。サプライズも上手く行ったみたいだし、よかったよかった」
楽屋で一息つく未散、その時扉が叩かれる。
「俺だ。今、大丈夫か?」
「わ、ちょ、ちょ、待って待って」
声の主がダリルと分かって、慌てて格好を整える未散。息を吐いて心を落ち着けて、いいよ、と扉の外にいるであろうダリルに呼びかける。
「すまない、間が悪かっただろうか」
「そ、そうじゃない。突然のことで驚いただけだよ。
……で、何かな?」
尋ねる未散へ、ダリルが一抱えもある蒼いバラの花束を渡す。
「とても、機能的で美しかった」
言ったダリルの、掌が未散の頭を撫でる。包まれているような感覚を覚える未散は、ふと前にもこんなことがあったな、と思い返して口にする。
「この花……もしかしてあの時の花束って、お前だったのか……?」
未散の言葉に、ダリルは衝撃を覚える。彼が未散に花束を渡したのは、もうかなり前のことである。
「覚えていてくれたのか」
認めたダリルの顔を見つめる未散。胸が高鳴り、頬に熱を持つのを感じながら、小さく口を開く。
「なんだ、そうだったのか……。その、あ、ありがとう」
聞き取れるかどうかの小さな声だが、ダリルにははっきりと聞こえていた。そして、向けられた笑顔にダリルもまた、顔が熱くなるのを感じる。
(な、なんだ、これは……。お、俺はどうすればいい?)
対応に困ったダリルが後ろを振り返る、しかし先程まで一緒に居たはずのルカルカはいない。
(くっ、あいつめ……!)
「……あなたが私に見せたかったものって、これなの?」
「そうそう♪ ふふ、ダリルったら普段絶対見ない顔してる。でも、ああいう所もあるんだよね」
壁の向こうでルカルカと、連れて来られたロノウェが二人の逢瀬を見守っていた。
「……そうね。何と評していいか……柔らかい感じがするわ。悪くないわね」
「直接言ってあげたら?」
「それは止めておくわ。誰だって見られたくない顔ってあるでしょうし」
言って、ロノウェがその場を後にする。一人残されたルカルカは、どんな言葉をかけてあげようかと思案する――。
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