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リアクション
『疑いのまなざし』
(一見皆が楽しくしているように見えるお祭り……だが、余りに性急であり過ぎる。
何かもっと大きな思惑が動いていて、それが不測の事態を引き起こすような気がしてならないのだ……)
そんな思いを抱きながら警備をするジュレール・リーヴェンディ(じゅれーる・りーべんでぃ)に対して、カレン・クレスティア(かれん・くれすてぃあ)は両手に食べ物を持って、あっちこっちをふらふらしていた。
「あっ、あれも美味しそうだなぁ。うーん、もう持てないや……ジュレ、これ持って!」
「……カレン、分かっているのか? 今のこの情勢で、意思にかかわらず魔族が騒動を起こしたとなれば、今後のイナテミスの行方に重大な影響を及ぼすのだぞ?」
嗜めるジュレールへ、カレンがうーん、と考えてから口を開く。
「確かにそうなったら大変だなって思うけど。でも、未然に防ぐのは今までのことを考えたら、相当難しいよ。
もちろん、何もしないわけじゃない。注意深く観察はしてるつもり、だよ。でも、何か起きないようにしようとするよりは、何か起きるまではお祭りを楽しんで、何か起きたら解決するために全力を尽くす、の方がボクはいいと思うなぁ」
「むぅ……一理あるような気がしないでもないが……カレン、結局の所は祭りを楽しみたいだけじゃないのか?」
「あはは、バレた? いやほら、こんなにみんなが楽しそうにしてたら、楽しまなきゃ損だ、って思うじゃない」
随分な高説も、結局は単純な理由からだったと分かって、ジュレールがはぁ、とため息をつく。
「……まぁ、祭りの参加者に楽しんでもらうことも、我らの仕事。その我らが肩肘張っていては、無用な心配を与える、か」
「そうそう、ジュレはカタイんだよ〜。もっとリラックスリラックス〜」
言ってカレンが、ジュレールの肩を揉む……先程まで食べ物を持っていた手で。
「こらやめろ、服に油がつくだろう」
「大丈夫だよ、舐めちゃったから」
「それはそれで問題だっ! まったく、レディとしてはしたないぞ」
そんなやり取りを交わしながら、二人は警備を続ける――。
「な〜んか、拍子抜けするくらいに平和ね〜。時たまちょっとした喧嘩があるくらいで、お祭りの平和を乱す悪者! なんて出てこなそうね〜」
両脇に屋台が並ぶ中を歩く早乙女 蘭丸(さおとめ・らんまる)が、警備の仕事に飽きた様子で姫宮 みこと(ひめみや・みこと)に話を振る。
「……確かに、今は何も起きていないかもしれません。ですが邪なる者たちは、こんな時こそ牙を研ぎ、悪しき企みを画策しているのです。
ボクたちはそれを、出来る限り未然に防ぐのがお仕事です。何も起きていないからといって油断してはいけませんよ、蘭丸」
みことの言葉に、しかし蘭丸からの返事はない。視線を向けると隣にはおらず、屋台の一つにしゃがみ込んでそこで売られているものに興味津々だった。
「ねえねえみこと、この赤いひよこ、育ったら赤いニワトリになるんだって〜♪」
ピヨピヨ、と鳴く赤いひよこを掌に載せて、つんつん、と突っついて遊ぶ蘭丸。ちなみにこのひよこは、怪しげなおじさんが塗装したひよこではなく、元から赤や蒼、紫、緑色の『パラミタひよこ』である。成長すると全く同じ色のニワトリになるし、なんと卵まで毛の色と同じである。味は普通のたまごだ。
「蘭丸……そういう場合ではないと分かっているのですか?」
「分かってるってば。でもほら、今日はお祭りよ? それに久し振りのみこととのお祭りデートじゃない!
ちょっとくらい楽しんだっていいじゃない」
言うと、蘭丸がみことの腕を取って抱きつくように身を寄せてくる。
「ちょ、ちょっと蘭丸、こんな場所で」
「大丈夫、ほら、あっちでも同じ事してるし」
蘭丸が指し示す方向をみことが見ると、ルーレンに連れ回されるフィリップの姿があった。パートナーに振り回される様は、みことにちょっとした共感のようなものを抱かせる。
「というわけだから、ねっ♪ あたしたちもデートを楽しみましょっ」
「だからそんな場合ではないと――」
抵抗むなしく、蘭丸に連れ回されるみことであった――。
「はふぅ……お嬢様と一緒にお祭りなんて、何年ぶりでしょうか……。
確か以前ご同行した際は、……」
隣で幸せオーラ全開といった様子のリリ・ケーラメリス(りり・けーらめりす)が話すのを、しかしレイナ・ミルトリア(れいな・みるとりあ)は耳を傾ける気になれなかった。リリのことが嫌いとかそんなことではなく、他に考えるべき事柄があったからである。
(なんでしょう……この、何かが起きそう、と思わせる悪寒は……。
もしかして……このお祭りも姫子さんが関わっているのでは?)
その結論に達した所で、レイナは自分に向けられる視線に気付く。
「お嬢様、どうかなされましたか? そういえばなんだかお顔が……ハッ! もしかして風邪ですか!? それとも人混みで酔われましたか!?
うああぁぁ、私が至らぬばかりに、申し訳ございません! 今すぐ栄養のつくものから休憩場所まで調達ないし作製を――」
「……落ち着いて、リリ。ごめんなさい、どうもこの街に来てからというもの、嫌な感じが拭えないの。
私としては、嫌な予感の調査をしてみようと思うのだけど……」
あたふたとするリリを宥めて、レイナは考え事をするに至った経緯を説明する。
「なるほど、それは失礼致しました。……お嬢様、もしその予感の原因に心当たりがおありでしたら、是非ご命令くださいね。
サクッ、と不安の種をひねり潰して参りますので、ええ」
何やら物騒な物言いのリリ、レイナが関わると何かと暴走しがちなのは今に始まったことではない。
「……私は、姫子さんが何かしら関係しているのでは、と思うの。でもおそらく、姫子さんはこの街には居ない。
じゃあどこにいるのか、は分からないけれど……」
そこまで口にした所で、待てよ、とレイナは思う。確か姫子はこの前、ゆる族を味方につけようとしていなかったか。
(もしまた同じ事をしようとしているのなら……精霊? それともヴァルキリー? それとも……魔族?)
単純な戦力だけを考えたら、魔族が最も強い。強靭な生命力、豊富な魔力には幾度も契約者は苦しめられたことは、記憶に新しい。それに彼らの中には未だ、人間への憎悪を抱いている者がいるかもしれない。彼らに働きかけて、味方に引き込んだとしたら、彼女が次に狙うのは――。
「……リリ、イルミンスールに行きましょう。
姫子さんが何度も魔法少女を狙う理由、分かるかも知れません」
「はい! お嬢様が行く所、どこまでも付いて行きますよ!」
元気よく付いてくるリリを後ろに、もしかしたら既に手遅れなのでは、とレイナは危惧する――。
『義父(の交流相手)を訪ねて』
「わー、人がたくさんです。みんな楽しそうにしてます。
……折角なら義父さんと一緒に見たかったなぁ。義父さん今、何してるかなぁ」
お供の『サルカモ』と一緒にお祭りを楽しんでいたマリオン・フリード(まりおん・ふりーど)が、もう一月も帰ってこないルイ・フリード(るい・ふりーど)のことを思い浮かべ、淋しい気持ちになる。
「……ううん、きっと義父さんはどこかで頑張ってるんだ!
やることが終わったら、ちゃんと帰ってくるよね。よーし、今日は義父さんの交友関係をチェックしちゃうよ」
シュリュズベリィ著・セラエノ断章(しゅりゅずべりぃちょ・せらえのだんしょう)に作ってもらった、ルイの交友関係を載せたリストを見ながら、マリオンがサルカモを連れて歩き出す。
「ハァ……ハァ……ハァ……。
一人でおつかいを行うマリオン殿の姿が可愛らしい……! こうして見守るだけでも我輩は、我輩はっ……!」
マリオンを物陰から見守っていたノール・ガジェット(のーる・がじぇっと)が、愛らしいマリオンの挙動にもうすっかりヘブン状態であった。
「マリーがかわゆいのには同意だけど、興奮し過ぎてバレるなよ? セラ達が尾行してること」
「問題無いのである! 我輩にかかれば、気配を消して女性を視姦……ゲフンゲフン、見守り続けることなど造作も無いのである!
……ところでセラ殿、ルイを探しにいかなくても良いのであるか? さすがに一ヶ月以上も放置してるとマリオン殿も寂しいかと思うのであるが……」
ノールの問いに、セラはあはは、と乾いた笑いを浮かべて答える。
「あー……実はね、ルイの下着に仕込んでた発信機の反応……何故か消失しちゃったんだ☆」
「…………」
だいたいを察したノールは、それ以上考えるのを止める。ルイの体力では、『今日はこの辺り』という予想がとんでもない範囲に広がってしまう。うっかり処理しようとすれば、確実にショートだ。
「まあ、それでも何とかなるでしょ。ほら、ルイだし。
今はそれよりマリーだよ。追いかけないと見失っちゃう」
話している間に、マリオンは二人から随分と離れた所へ歩いていた。
「確かに、そうであるな。後でルイが見られるよう、映像記録を残しておくのである」
二人がマリオンの後を追う――。
「いつも義父さんがお世話になってますぅ」
リストの上位に並んでいた、涼介の所へマリオンが辿り着き、ぺこり、と挨拶をする。と、くぅ、と可愛らしくお腹が鳴り、あわててマリオンがお腹を押さえる。あちこちから美味しそうな匂いが漂っていては、マリオンでなくともお腹が減る。
「ふふ、可愛らしいわ。はい、これどうぞ」
「あ、ありがとうございますぅ」
ミリアからケバブサンドを受け取り、マリオンがかぶりつく。何人ものお腹と心を満たしてきたサンドは、マリオンにも効果絶大であった。
「うーん、一番の仲良しさんはレイナさんですか。義父さんと同じくらいの年の人はいないんでしょうか」
お腹いっぱいになったマリオンが、じゃあレイナさんに挨拶をしに行きましょう、と歩いてしばらくすると、レイナがリリを背後に、急いだ様子でイナテミスを離れる方向に歩いて行くのが見えた。
「ん? レイナっち、あんなに慌ててどうしたのかな?」
「わ! セラお姉ちゃん、変なロボさん、来てたんですか?」
「あぁ……マリオン殿に罵倒される……我輩、幸せであるよ」
レイナのただならぬ様子に、セラとノールが尾行……もとい、見守りを止めてマリオンの前に現れる。
「これは何かワケありだね。マリー、街の中から出ちゃダメだよ! ノール、追って!」
「承知したのである!」
街の平和を、そしてマリオンを守るため、二人はレイナの後を追う――。
〜その頃、ルイは〜
「っは!? なんだかマリーが寂しい思いをしている気がします!
くっ……義娘に寂しい思いをさせてしまうなんて、義父失格ですよね。
私も寂しいですよおおおぉぉぉ!!」
今日も絶賛迷子中のルイが、こみ上げてきた寂しさのままに叫ぶと、数羽の鳥がバタバタ、と落ちてきた。これで今日の食料は確保できたとそれらを回収して、さて、とルイは思案する。
(これまで自分の勘で移動方向を決めてましたが、どうやらダメみたいですね。
……こうなったら最後の手段! 神頼みです!)
行動に移ろうとして、あ、とルイは思い至り、痛ませてしまった食材を土に埋め、手を合わせて供養する。
「ダメにしちゃってごめんなさい」
立ち上がり、ちょうど目の前に落ちていた真っ直ぐ伸びた木の枝を拾う。それを地面から垂直に軽く立て、家に辿り着けるように、と願いながら枝を押さえていた手を離す。
「……この方向ですね!」
後は、木の枝が倒れた方向を信じて全力移動するだけ。……さあ、果たしてルイは無事自宅に辿り着けるのか?
次回を待て。
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