天御柱学院へ

なし

校長室

蒼空学園へ

終身名誉魔法少女豊美ちゃん! 3『こんな時こそお祭り、だよ!』

リアクション公開中!

終身名誉魔法少女豊美ちゃん! 3『こんな時こそお祭り、だよ!』
終身名誉魔法少女豊美ちゃん! 3『こんな時こそお祭り、だよ!』 終身名誉魔法少女豊美ちゃん! 3『こんな時こそお祭り、だよ!』

リアクション

「へぇ、賑わってるわね。んー、いい匂い。
 何作ってるんだろ。ちょっと見てきていい?」
 屋台から漂う香りに誘われるように、白波 理沙(しらなみ・りさ)が足を向ける。了承したパートナーたち、チェルシー・ニール(ちぇるしー・にーる)白波 舞(しらなみ・まい)愛海 華恋(あいかい・かれん)が顔を見合わせ、これからの企みを確認する。
「いいですわね? 『846プロ』所属アイドルさんに挨拶、という名目で楽屋入りしてしまえば、後は簡単ですわ。
 舞さん、華恋さん、準備はできてますわね?」
 チェルシーの言葉に、舞と華恋がこくり、と頷く。
「レシピ教えてもらっちゃった、帰ったら作ってみようっと……あれ? 何話してるの?」
「なんでもありませんわ♪ さあ理沙さん、行きましょう」
 疑問符を浮かべる理沙を押すようにして、一行が会場となるステージへと向かう――。

「……いや、ね。楽屋に入った時点で気付くべきだったわ。挨拶は名目で、本当は私も含めてステージに立つのが目的なんだって」
 控え室で、髪を整えられ、メイクを施されながら理沙が自分の鈍感さを嘆く。『846プロ』社長兼プロデューサーである社に「今日のステージ、頑張ってな〜」と声をかけられては、今更逃げるわけにもいかない。
「……おまけにこの服……私がフリフリ衣装着るの苦手だって知ってるでしょ?」
 自身に纏われた、赤をメインカラーとしたアイドル衣装をつまんで、理沙が盛大にため息をつく。
「理沙さんは他の皆さんに比べたら846プロへの貢献が少ないと思いますの。もっと積極的に活動しますわよ☆
 衣装の方もとってもお似合いですわ☆」
 理沙とお揃いの、こちらは淡いピンクをメインカラーとした衣装に身を包んだチェルシーが、ふふ、と微笑む。後ろではやはり同じ衣装で、メインカラーが黄色の華恋、オレンジがメインカラーの舞が既に準備を終えていた。
「別に露出が高い服でも無いんだし、可愛いじゃない。何がそんなに嫌なのかしら?
 理沙も、歌うのは問題ないんでしょ?」
「う、歌はね。だけどこの格好が――」
「魔法少女はアイドル活動も出来て当たり前なんだよっ!」
「私は魔法少女でもないし、アイドルになる気なんてないわよっ」
 理沙の叫びも虚しく、準備を整えられてすぐにパートナーたちに取り囲まれ、そのままステージまで連行されてしまう。
(はぁ……またこのパターンで連れて行かれるのね……)

 アップテンポの曲が流れ、コロコロと色が変わる照明が、ステージに立つ理沙たちを照らす。
「アイドルユニット『マジカラット』、今日が正式デビューですわ!」
 途端に観客席からおぉ、と歓声が沸く。846プロのライブを楽しみにしてきた客から、「かわいい〜」「萌え〜」といった声がかけられる。
「も、萌えって言うなーっ!」
 たまらず理沙がツッコミを入れるが、それは火に油を注ぐ行為に他ならない。たちまち『萌え』コールがそこら中から沸いて出てくる。
「うわぁん、もう知らないっ!」
 半分やけっぱちになったようにマイクを握る理沙を見て、チェルシーと華恋、舞が作戦成功、と頷き合う――。


 ティティナと別れた真言が『こども達の家』の近くまで来ると、食欲をそそる香りが漂ってくる。
(おや、これは……)
 何かをしているのだろう、そう思い至った真言が歩を急ぎ、目的の場所へ到着する。そこではネージュ・フロゥ(ねーじゅ・ふろう)とパートナーたちが家の子供たちと一緒に、カレー作りや小物作りを行なっていた。
「このカレーはね、『こかげ』の子達ににも大好評なんだよ!」
 鍋をかき混ぜながら、周りの子供たちへちょっぴり得意げに話すネージュ。『獣人の森』にあるここと似たような施設『こかげ』で使用していたルゥに、香辛料のお店『うぉーたーみる』のスパイスを加えて再調合、『イナテミスファーム』より融通を受けた新鮮野菜とパラミタ地鶏を用いて作られたチキンカレーは、確かにネージュが胸を張りたくなるほどの出来映えだった。
「おねーちゃん、ボク、おなかすいたよぅ」
「わたしも〜」
「みんなの分もちゃんと用意してあるよ! だからもうちょっと頑張って!」
 ネージュの言葉に、子供たちがわぁい、と歓声をあげ、持ち場につく。用意したチキンカレーは容器に盛られ、街を訪れた観光客に提供されることになっていた。
「今日のために、可愛いポーチを用意してきましたよ。皆さんで袋詰め、手伝ってもらえますか?」
 別の場所で、高天原 水穂(たかまがはら・みずほ)が今回特別に用意した『獣人なりきりしっぽーチ・イナテミス限定版』を子供たちに見せる。『パラミタモモンガ』『パラミタオコジョ』『パラミタスノーパンサー』の3つはそれぞれ特徴をよく捉えつつ可愛らしいデザインであり、収納性にも優れていた。今回はこれに、子供たちが事前に描いた動物の絵を添えて販売しようというものであった。
「はい、皆さん上手に出来ましたね。シンクちゃん、そっち持ってくれますか?」
「はーい」
 袋詰めされたポーチの詰まった箱を、水穂とシンク・カルムキャッセ(しんく・かるむきゃっせ)が売り場へと運び入れる。その頃にはチキンカレーも完成していて、ほかほかのご飯と一緒に提供される準備が整っていた。
「それじゃ、販売開始だね!
 『こども達の家』特製カレーと、チャリテイグッズはいかがですかー?」
 シンクの元気な声が響き、人が少しずつ集まってくる。カレーは概ね好評であり、時間帯もちょうどお昼間近とあって飛ぶように売れていく。
「うーん、いい匂い〜。お腹空いちゃったね〜」
 庭で子供たちと遊んでいた樹乃守 桃音(きのもり・ももん)が、くぅ、と鳴ったお腹を押さえて笑う。桃音の尻尾にくるまって遊んでいた子供たちも、皆一様に頷く。
「じゃあ、ネージュの所に行って、お昼にしよう!」
 わーい、と喜ぶ子供たちを連れて桃音がネージュの所に顔を出すと、カレー作りを手伝っていた子供たちも集まっていた。
「はーい、お待たせー!」
 カレーが子供たちの前に置かれ、心待ちにしていた子供たちは我先にと口にする。
「おいしー!」
「おかわりー!」
 たちまちおかわりを求める声が飛ぶ、それは人間も精霊も魔族でさえも違いはない。
「はいどうぞー」
「あ、ありがとー」
 回ってきたカレーを、人間の子供が魔族の子供に渡す。魔族の子供も精霊の子供にカレーを渡し、精霊の子供は人間の子供にカレーを渡す。仲間外れはなし、みんな仲良し。
(みんな笑顔で、よかった。今日の売上で施設がおっきくなったら、笑顔ももっといっぱい増えるよね!)
 子供たちの笑顔に、ネージュは元気をもらってカレー作りを日中続ける――。


「んー、町長には挨拶したけど、五精霊の皆は街のどっかかぁ。
 ま、てきとーにふらふら〜としてりゃ、その内会えんだろ。んじゃ行くか、ヨン」
「はい、アキラさん」
 挨拶のために訪れた町長室を出、アキラ・セイルーン(あきら・せいるーん)が一つ伸びをして、隣のヨン・ナイフィード(よん・ないふぃーど)を見る。アキラの口調は一見頼りないように聞こえるが、ヨンは全く気にしていない。初めてこの街で会った時も、なんやかんやで目的地まで辿り着いた。それに今日はお祭りだ。
「色んな物を見て回りたいです」
 あっちこっち寄り道したって、誰も文句はつけない。これから何が起きるのかヨンは楽しみに、アキラと路地を歩く。

「おっ、早速二人はっけーん。おーい」
 通りの向こうにサラとセイランの姿を見つけたアキラが、二人を呼んで近くへ歩いて行く。
「今日は二人でデートかな?」
「あー、まー、そんなとこになるんかねぇ」
 否定しないアキラの横で、ヨンは顔を赤くして俯いていた。
「お兄様も今、デート中なんですよ」
「そうなんか? へ〜、ならまぁ、見かけても邪魔しないでおこっか」
「そうですね。……でも、ケイオース様のお相手が誰なのか、ちょっと気になります」
 そんなことを話しながら、二人から『カヤノがステージに立つ』ということを聞いたアキラとヨンは、連れ立ってステージへと向かう。

「なんかすごかったなー。なぁヨン、精霊ってあんなことできんの?」
「多分、カヤノ様くらいではないでしょうか。私も見てビックリしました」
 ステージを見終え、カヤノのパフォーマンスについて意見を交わしていた所に、おそらくデート中のケイオースとティティナの姿を認めるアキラとヨン。傍から見ても分かる幸せぶりに、声をかけるのがためらわれる。
「おつかれさーん。お幸せに〜」
 小声で挨拶をして、二人は出店の方角へと歩き出す。……が、曲がる道を間違えたか、歩いても歩いても出店の立ち並ぶ通りが見えてこない。
「ありゃ、道間違ったかな」
 辺りを見回すアキラ、隣であっ、とヨンが何か気付いたような声をあげる。
「ここ、あの路地ですよ。アキラさん、覚えてますか?」
 言われてようやく、アキラはここがヨンと初めて会った場所であることを思い出す。
「いっぱい建物が建って、すっかり変わっちまったなぁ。そんなに時間経ってないはずなのに、もう遥か昔のような気がするわ」
「ふふ、また迷ってしまうかもですね」
「ま、そん時ゃそん時だ」

 結局、予定より多く歩て出店の並ぶ場所に辿り着き、そこで食べ物や飲み物を買ったアキラとヨンは、広場の中心にそびえる塔『イナテミス精魔塔』へ足を向ける。魔族が街の一員となったことで名称の変更を検討されている塔で食事にしようというのだ。
「勝手に登って大丈夫でしょうか……」
「大丈夫大丈夫、祭りん時は大抵解放されてるもんだって」
 登ってみると、確かに立ち入りが可能なように配慮がされていた。流石に動力部など重要な場所へは封鎖が施されていたが、かなり高い所までは登ることが出来た。
「いや〜、絶景かな絶景かな。これぞまさに特等席、ってね」
 どっかと腰を下ろし、早速買って来た食べ物にありつくアキラ。ヨンが隣に座り、飲み物に口をつける。
「……しっかし、いろいろあったんよなぁ。ちょーどあっちの方からニーズヘッグが攻めてきて、あっこら辺にイルミンが一時不時着して、魔族の連中はあっちのほうから攻めてきて……。
 それが今じゃーこーして一緒に仲良く暮らしてるんだもの。不思議なもんさねぃ」
 言って、アキラが冗談めかして、「たとえパラミタが滅びる事になっても、ここの人たちならきっとどこへ行っても逞しく生きていけるだろーなぁ」なんて口にする。
「精霊は、本来は周りの環境に合わせる種族です。戦乱や大災害に見舞われれば、それが収まるまで眠りにつく。……でもこの街の方々と触れ合うことで、私達は生きることの大切さを学びました。聞けば魔族の方々も、厳しい環境に自らを適応させて生き延びてきた種族。通ずるものはきっとあると思います」
 言って、ヨンがツツツ、と身を寄せる。それはあなたと一緒に生きるのが今の私、という意思表示――。