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終身名誉魔法少女豊美ちゃん! 3『こんな時こそお祭り、だよ!』

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終身名誉魔法少女豊美ちゃん! 3『こんな時こそお祭り、だよ!』
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『関係者にとっては大きな事件』

(ミスティルテイン騎士団の一員として、感謝祭の警備は大事なこと。
 ……ちょっとだけ、フィル君と一緒に見て回りたいかな……)
 『ミスティルテイン騎士団イナテミス支部』を預かる者として、感謝祭の警備役を務めるフレデリカ・レヴィ(ふれでりか・れう゛ぃ)が、フィリップのことを思い浮かべてはぶんぶん、と頭を振って仕事に集中しようとする。
(ふふ。フリッカ、分かり易いですね。
 おそらく夜には時間が取れると思いますから、その時に一緒に回れるといいですね)
 フレデリカの背中を、ルイーザ・レイシュタイン(るいーざ・れいしゅたいん)が微笑みを浮かべながら付いていく。……そんな平和な時間は、通りの向こうから聞こえてきた二つの声で破られる。
「ほらー、やっぱり似合うってー」
「だ、だから僕は男で、それは女性の方が着るもので――」
 洋服店の軒先で、ルーレンがフィリップに女物の服をあてがっているその光景を目の当たりにしたフレデリカは、まるで炎が爆ぜるように感情を昂ぶらせる。
(ルーレンさん……! フィル君を一人の男性として見るって約束、忘れちゃったの!?)
 事前に町長からルーレンの異変について聞かされていたのも忘れ、フィリップのことを考えない行動を取るルーレンへの怒りが込み上げてくる。……一昔前ならここで、女同士の壮絶な果たし合いが繰り広げられたかもしれないが、今は違う。踏み出そうとした足を止め、ぐるぐると回る頭で必死に考えた結論は、『フィル君はどう思っているのか』。
(フィル君……!)
 今度こそ足を踏み出し、ルーレンとフィリップの元へ歩き出すフレデリカ。背後からのルイーザの声は全く聞こえていない。
「フリッカ! ……はぁ。ダメですね、ああなってはもう警備どころではないでしょう。
 一旦踏み留まったのですから、少しは状況の整理が出来ていると思いますが……」
 ルイーザもまた、ルーレンのことや感謝祭の『裏』のことを聞かされていた。もしかしたらそのことが関係しているのでは、と思いかけて首を横に振る。
(いえ、多分、考え過ぎですね。……今はこの状況をどうにかしなくては)
 後で仕事の不手際を追求されないよう、今はステージの方で休憩中のはずのスクリプト・ヴィルフリーゼ(すくりぷと・う゛ぃるふりーぜ)を呼び戻し、警備を続ける。途中でシャンバラ山羊のミルクアイスでも買っておけば、簡単に釣れるだろう。……素早く今後の方針をまとめたルイーザが、早足で目的地へと向かう。

(さて、この状況……どうしたものかしらね。……いえ、花音ならこの状況でどうするか、を考えるべきよね)
 物陰から、ルーレンを見守るように赤城 花音(あかぎ・かのん)から頼まれていたウィンダム・プロミスリング(うぃんだむ・ぷろみすりんぐ)が、どうするべきかを短い時間で思案する。
(まあ、あの子なら……歌うわね、きっと。
 さてと……まずは花音にこのことを伝えて、ステージを融通してもらって……)
 ルーレンに根回ししておきたい事柄はあったが、それはこの状況をどうにかしてからでもいいと考え、ウィンダムが各所に通達しながら足早にその場を後にする。

「フィル君」
 思いの外静かな声に、声を発した自分自身も少し驚きながら、フレデリカがフィリップを真っ直ぐ見つめる。フィリップの腕を取るルーレンは、視界に入っていない。
「フィル君はどう思っているの? フィル君とルーレンさんはパートナー同士なんだから、もっと自分の思っていることを口にしなくちゃ」
「フリッカさん……えっと、僕は……」
 フレデリカとルーレンを交互に見て、フィリップが弱った顔を見せる。こんなこと言ったらフィル君はもっと困ってしまうかもしれない、思いながらもフレデリカはさらに一歩踏み出す。
「もっと自分に自信を持って!
 フィル君は優しくて、格好良くて、男性として魅力的だから!!

 私はそんなフィル君が、大好きだから!!!

 フレデリカの『零距離砲撃』が炸裂した所で、三人の耳に歌が聞こえてくる――。

(いやはや……。一時はどうなることかと思いましたが……。姫も童もなかなか、度胸がおありだ。
 さて……快くステージを空けてくださった皆さんには、感謝しなくてはいけませんね。
 『チーム花音』の一員として、魂に刻む演奏をお見せいたしましょう)
 エレキギターを携えた申 公豹(しん・こうひょう)が、『チーム花音』の開幕を告げるが如く高音を響かせる。その音で目覚めたように、照明がステージを照らし、観客が声援を送る。
(作詞作業が押した関係で、満足な演奏練習が出来ていないのは確かですが……。
 出来るだけのことを、じっくり頑張る。後は感謝祭を盛り上げようとする気持ち、歌を届けようとする気持ち次第、ですね)
 リュート・アコーディア(りゅーと・あこーでぃあ)の奏でるドラムがリズムを刻み、合わせるようにマイクを握った花音がステージの真ん中に立つ。
(人間・精霊・魔族……。見た目もものの考え方も、確かに違う。
 けれど、歌は……歌で届けようとするみんなの思いは、それらを超えて伝わる! それぞれを結び付ける!
 ボクの歌う歌が架け橋になるのを、ボクは信じるよ!)

 何気ない一言で始まる 芽生える小さなぬくもり
 眠れない夜 孤独の時を終わらせよう
 近くて遠い永遠にくらべて 踏み出そう
 届かない距離を歩きだす 世界の輪郭が変わるかな?

 悠久の記憶の迷宮 導く道しるべ
 真心のカケラ 全ては必然に繋がる

 モノクロの理想郷 幻想の夢……黄金の太陽
 閉じ込められた声 想いを感じるままに
 輝きを灯す祈りを紡いで 魂の旋律を奏でるから 
 目覚める命の鼓動 祝福の音色を歌う……

 何時までも忘れないで 真実はあなたに微笑む


(聞こえてる? フィリポ、ボクの想いが!)
 想いを込めた花音の歌が響く――。

「……とてもいい歌、ですわね。歌う人の想いが伝わってきますわ」
 ルーレンの言葉で、思わず聞き入っていたフレデリカが現実に返る。途端に、先程の自分の振る舞いがどうしようもなく恥ずかしいものに思えてきた。
「――――!!」
 それはとても耐え切れるものではなく、フレデリカが背中を向けて駆け出す。
「あっ、フリッカさん!」
 行こうとして、フィリップがルーレンの顔を伺う。
「フィリップ、あなたが行ってあげたいと思うのでしたら、行ってあげなさい」
「ルーレンさん……」
 フィリップは思う、ルーレンさんはこうすることが目的で、自分を連れ回したのではないかと。でもそれをわざわざ確認するのは、野暮というものだ。
「……行ってきます!」
 だから、今は行動で応えよう。そして決着がついたら、真っ先にルーレンさんに報告しよう。

「…………」
 駆け出していったフィリップの背中を、ルーレンが見えなくなるまで見守っていた――。