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漂うカフェ

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漂うカフェ

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 実は、出鼻は意識せずにくじかれていた――

 のどかな午後の往来。三十人近い鏖殺寺院の襲撃メンバーは、静かに『カフェ・マヨヒガ』を取り囲んでいた――といっても、店は空き地にいきなり立ち、その周囲には家屋や建物があまりなく、彼らが身を隠すのに都合の良い立地ではなかった。
その立地のために、彼らは荷運用の大きな馬車を調達し、それで多くの兵士を一気に店の前まで運んだ。
 盗聴器を使って店内の音声を拾い、その物音から店内の間取りと調度の配置、目当ての機晶回路のある地下への階段への距離を弾き出して――玄関から、一気に突入するつもりだった。店の奥に勝手口があるという情報も把握していたが、店の裏は街と丘を隔てる石壁に面していて狭く、大勢で押しかけるには不便だったからだ。
 しかし、突入を仕掛けたその時、カフェ・マヨヒガの玄関は「詰まっていた」。
 すなわち、レジで押し問答するハデス、ミスティ、吹雪、セイレムでわちゃわちゃしていて塞がっていたのだ。先遣隊はぎょっとしたものの、すぐさま持っていた銃器を構え、無慈悲にこの「障害物」を吹っ飛ばそうとした。

「(もぐもぐもぐもぐ)……、あの、トゥーラ」
 甘いホットケーキと、少しだけ酸味のある爽やかなオレンジジュースが喉を下って、お腹に収まって。
 ディンスの中に、何か、“言葉”が生まれた。それが、不思議そうに彼女を見つめるトゥーラに向かって、ほろりと零れ落ちる。
「    」

 契約者たちの方が、反応は早かった。
 すぐさま、吹雪はスカートの中に隠し持った二丁の拳銃を取り出し、
「銃器を持ったお客様のご来店はご遠慮くださいっ!!」
 その言葉よりも早く、『トゥルー・グリッド』を鏖殺寺院の部隊に叩き込んだ。
 その衝撃が、隊列は完全に崩した。混乱は店外と、店内の両方に起こった。
「来たな、悪党ども!! 店には一歩も入れんぞ!!」
 力強い口上とともに、この襲撃を想定して店外で武装して待機していた松平 岩造(まつだいら・がんぞう)が、狭すぎる入り口を攻略しかねて一瞬で隊列を乱した襲撃メンバーたちに臆することなく躍りかかった。
「悪事にうつつを抜かして鍛錬などロクにしていないのだろう、烏合の衆が! 何人束になろうと脅威ではないっ!」
 統制を乱した寺院メンバーたちの仕掛けてくる接近戦を躱して斬撃を次々に叩き込む。玄関に近いメンバーは何とか店内に飛び込もうとするが、吹雪の銃撃に真正面から歓迎されて結局押し戻される。混乱の中、武器を振り回したり引き金を引いたりすれば、同士討ちになりかねない。寺院メンバーは完全に圧されていた。
(火器は使えんだろうな。店が燃えてしまっては、奴らの目当ての、時空転移の技術とやらもおしゃかになる)
 岩造はそう踏んでいた。そしてそれは確かに、寺院メンバーの枷になっていた。あくまで目的が“店の内部”にある以上、店を迂闊に破壊することはできないのだ。
 もちろん岩造も、彼らからこの店を守るという目的で戦う以上、店を害するつもりはない。【龍吹氷牙】を地面に突き刺して『絶零斬』を敵に向けて放ちながら複数の相手をも一気に攻撃する。容赦のない冷徹な斬撃が、次々に敵を倒し、残った者の戦意をも薙ぎ払っていく。
 ――この現場から敵をかいくぐって這う這うの体で逃げていったハデスが、大して矢傷も追わなかったのは、ある意味奇跡だった。