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漂うカフェ

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漂うカフェ

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 明らかに、萱月の様子がおかしかった。
 彼を連れ、恭也とラナは店への帰路を急いでいた。萱月は、目に見えて異常ということはないが……表情がさっきからほとんど変わらない。まるで……「人形」のようだ。
 ――ついさっきまで、街の様子に目を丸くしたり、はにかんだように笑ったりしていたのに。
 なぜだか苛立たしい気持ちで、恭也は早足に走っていた、その時。
 突然、彼らの前に立ち塞がる数人の男の影があった。
「何だ!? お前ら」
「カフェ・マヨヒガの機晶姫だな?」
 恭也の誰何を無視して、男の一人が萱月に問う。
 萱月を見たら恭也は、ぞっとした。彼の表情は「人形」を通り越し――「無機質」に見えた
「抵抗せぬか。ふん、物分かりがよいようだな。大人しく、我々が店に入る間の人質になってくれれば、無暗に壊したりはせんよ」
「恭也さん!! 鏖殺寺院ですっ!!」
 ラナが叫んだ。買い物の袋がやや乱雑に落ちたのは、非常事態に即しては仕方のないことだった。恭也も袋を放り出し、萱月を庇うように立った。
「何だ貴様らは。機晶姫以外には用はない。どかぬなら痛い目を見るが、よいか」
「はーい来た来た来た〜〜!! お待たせしたしお待ちもしたよぉ寺院さ〜〜〜ん!!」
 この場の雰囲気にそぐわぬ、明るいのにどこかどす黒い叫び声と、小柄な体が一緒に、両者の間に飛び込んできた。いつの間にやらミルディアが、不敵に笑いながら立っていた。
「ここはやっぱり、実力行使かなっ♪ ひい、ふう、みい、……嬉しいなぁ五人も生け捕りにできるなんて♪ もっと多くてもウェルカムだけどね。縄とさるぐつわの数には若干の余裕がございますよっ」
「でもやっぱり、やるからには全力で殺りたいよね」
 いつの間にか横に立っていたイシュタンが、付き合いよく呟く。
「……バカが。我々に敵うとでも思うのか」
「ハイ出た! そのセリフ、典型的な悪役惨敗フラグ!!」
 鏖殺寺院の男たちは、それ以上は取り合わず、無言で身構えた。
「いっくよ〜〜〜!!!」
 乱闘が始まった。

「大丈夫、かな……?」
 そうっと、勝手口を開いてみた終夏は、店の裏手の様子を見てみる。人気はない。
「……よしっ、それじゃ」
 突然、扉が外側からすごい勢いで引かれた。
「うわっ(しまった!)」
 潜んでいたのか、と思ったが、次の瞬間その力は消え、呆然とした終夏の目の前で大柄な男がどさり、と倒れた。
「大丈夫、気絶しただけだ」
 紫月 唯斗(しづき・ゆいと)が立っていた。見ると、他にも倒れている男が何人かいる。彼がここで片付けたものらしかった。
 表を襲わせている間に、数人がこちらに回り込んだらしかった。勝手口は中から施錠されている。無理に壊すこともなく待ったのは、客の避難のためどのみちここが開けられるだろうと踏んでいたからだろう。しかし、高速隠密行動によって唯斗に呆気なく、静かに速やかに片付けられたらしい。
「もういないようだ。また来ても大丈夫だ、ここは狭いから襲撃経路は限られている、俺が迎撃する」
 唯斗が先に立って店の裏手から、石壁の向こう側の抜け道を目指すことにし、襲撃に備えて和輝の【親衛隊員】と、一緒に出てきたディンスとトゥーラが客たちのしんがりを務めて安全な場所まで導くことになった。
「! やっぱり屋根からか、想定内だな!!」
 店の屋根を越えて、鏖殺寺院のメンバーが二人ばかり、銃を構えて飛び出してくる。
 だが、唯斗の方がスピードで勝っていた、『奈落の鉄鎖』を使って敵の動きを封じて銃を使わせる暇を与えず、自分は超高速で屋根に駆け上がると、素早く長刀で薙ぎ払って、一人を登ってきた側の屋根の向こうに追い落とした。屋根の向こうは店の玄関口。下には襲撃部隊がいたのだろう。「わあぁっ」という驚きとざわめきが聞こえてきた。
(味方に当たらなかっただろうか……まぁ歴戦の契約者ばかりだったようだし、あれしき上手く避けてくれただろう)
 とはいえ。悠長にも少し考えている間に、残ったもう一人が銃を構えた。ので、引き金を引く前に素早く飛び上がると、『奈落の鉄鎖』を自分で使って上から重厚な一撃を見舞い、目を回したところを背後から蹴り落としてやったが、今度は落とす前に、
「悪党が落ちるぞー!!」
と叫んで下に注意を促してやるという親切心(?)を出しておいた。