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最後の願い エピローグ

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最終章 青い花持ってきました?
 
 レリウス・アイゼンヴォルフは、聖地カルセンティンの森で、グラキエス・エンドロア達と合流した。
「よう、調子はどうだ?」
「悪くはありません。
 あの後は、随分迷惑をかけたようですみません」
「あはは。あれくらい迷惑でも何でもないって」
「笑って許すなよおまえ、もっと怒れって!
 あそこでグラキエスに支えられなきゃ、谷から落ちてたかもしれないんだぞ!」
 レリウスのパートナー、ハイラル・ヘイル(はいらる・へいる)が、愚痴と恨み言が混ざったような口調で言った。
「まあまあ、結局大事には至らなかったのですから、その辺で」
 ロア・キープセイクがとりなす。
「その辺で、じゃねえだろ……。
 はあ、まあ、いいけど、その為にオレがいるわけだしな」
 ハイラルは溜め息を吐きながら、気持ちを切り替える。
「そんなに怒らないでください、ハイラル。
 病院から許可を貰ってくれて、ありがとうございます」
「やはり、ちゃんと退院したわけではなかったのですか」
 エルデネスト・ヴァッサゴーが苦笑する。
「まあな……」
 ハイラルは肩を竦めたが、今回の許可は、実はそれほど渋々でもなかった。
 軍事や戦闘目的ではなく、息抜きの為なら、むしろ彼には必要ではないかと思ったからだ。
 そういうことを頼んでくれたことを、実は密かに嬉しいと思っているのだが、甘やかして付け上がるといけないので秘密である。
「で? グラキエスもドラゴン連れて来たって? どんなの?」
「レリウスが、会いたいって言ってたから、連れて来た。
 あまり村の中を連れ歩くのも悪いかなと思って、今は厩を借りて、休ませてる。
 レリウスも、ドラゴン仲間にしたんだな」
「はい。その……やっと相棒を得られたのが嬉しくて……」
 レリウスは、照れ臭そうな表情で答える。
「聖地の上空を飛んでも問題なかったら、皆で空中散歩でも行こうか」
 グラキエスの言葉に、レリウスは浮き立つような表情で頷いた。
 その横では、ハイラルが、驚愕の眼差しでレリウスを見ている。
「レリウスが……照れただと……!」
 初めて見た。
 これはもう、赤飯でも炊かないとだろうか。
 思考は一気に飛躍する。

 聖地の上空をドラゴンで飛んでも問題ないか、と、かるせんに訊ねると、「さあ」と素っ気無い答えが返ってきて戸惑う。
「いいぜ。好きにしな」
 と、いつの間に背後にいたのか、そう言ったのは、アレキサンドライトである。
「ただ、森には結界魔法を敷いてあってな。
 別に攻撃的なものじゃなくて、ただの感知魔法なんだが、ドラゴンが反応するかもしれないな。
 手綱をしっかり持っておけよ」



 以前の冒険で火村加夜やトオルと知り合った少女、フェイも、祭りの誘いに喜んだ。
 加夜は当日、フェイとお揃いのペンダントを付けて行く。
 フェイも、それを付けて来た。
「皆で写真を撮りませんか。
 フェイちゃんは、携帯持ってます?」
「いや……」
「じゃあ、デジカメで撮りましょう。あとで送りますね」
「今俺が使ってるのでよかったら、あげようか。
 スマホに買い換えようかと思ってるんだよな」
 トオルが言った。
「契約者じゃなくても、ツァンダに住んでるんだったら携帯あると結構便利だぜ」
「月々の使用料がかかるんだから、安易に渡しては駄目だろ、トオル」
「あっ、そうか」
 シキに言われて、トオルは残念そうに諦める。
「連絡しやすくなるかと思ったのになー」
 加夜は、近くの人を呼び止め、カメラを渡して写真を撮って貰った。
「トオルさん、青い花を持ってきました?」
「あっ、忘れた。でも、何に使うんだ、それ?」


 聖地の村から少し分け入った森の奥に、ぽっかりと開けた場所があり、そこに人が集まっている。
 空き地の中心に、地祇達が青い花を置いていて、山のように積まれ、加夜とフェイもそれに倣った。

 やがて、夜が更ける。
 日没と同時に、空き地の中央に集められた花が燃えはじめた。
「えっ?」
 火、ではない。
 青い炎は、火というよりも、揺らめく光にも見えた。
「……綺麗!」
 地祇達が、青い炎の周りに輪になり、踊り始める。
「フェイちゃん、私達も踊りましょう」
「うん!」
 加夜とフェイは、手を繋いでその輪の中に入った。

 どこからか、弦楽器の音が流れてくる。ヴァイオリンだろうか。
 別のところでは、誰かが歌っていた。
「歌! 加夜、何か歌って」
「いいな。
 カヤ、歌、歌!」
 フェイのリクエストに、トオルも乗って、加夜は少し迷ってから、聞こえてくる歌が終わるのを待って、歌う。
 軽やかで、優しくて、楽しい歌。
 ヴァイオリンの音が、その歌の伴奏に変わった。
 フェイは楽しそうに、加夜の歌に合わせて踊る。
 その笑顔を見て、誘って良かった、と加夜は思った。
 これから暖かくなって、もっとお祭りも増える。
 また誘ったら、喜んで貰えるだろうか。


 親不孝通夜鷹は、佐々木弥十郎の屋台でケバブを買い込んだ後、続けて瀬山裕輝の屋台で
「全部くれぎゃ!」
と、叫び、商品を両手に抱えたところで、殺気を感じた。
 がしっ、と、パートナーのアルテッツァ・ゾディアック(あるてっつぁ・ぞでぃあっく)に襟足を掴まれる。
「人の財布で何をやっているんです……」
「ぎ、ぎゃ?」
 片手にサバイバルナイフを構えているアルテッツァに、夜鷹はてへっと笑った。
「スマンだぎゃ。
 そろそろ祭に行くだぎゃ」

 日没が近い。
 二人は祭の広場に行き、中央に堆く積まれた花の中に、自分達が持って来た青い薔薇の花束を加えた。
「アルは演奏するんぎゃね?」
 アルテッツァは、楽器を持っている。
 フィドル、という、ヴァイオリンの一種で、ヴァイオリンよりも気安い楽器だ。
 この祭向きのものだ、と、アルテッツァは思う。
「祭といえば音楽、ですしね」
 肩慣らしに、軽く弾いてみると、地祇達が集まって来て、アルテッツァを囲んで踊り始める。
 歌が聞こえてくれば、それに即興で合わせてみたり、リクエストに答えたりして、祭を盛り上げた。

「アル、アル」
 広場を囲む木の影を見て、目を丸くして夜鷹がアルテッツァを呼んだ。
「どうしたんです……、?」
 木の影から出て来て、歩み寄るその人物を見て、首を傾げる。
 その女性は、ヴァイオリンを持っていた。
 じっ、とアルテッツァを見つめている。
「一人の演奏より、二人の方が、曲の幅が広がる、でしょ? 演奏を手伝うわ」
 無愛想な口調で、その女性は持っているヴァイオリンを持ち上げて見せる。
 アルテッツァは、その女性に不思議な雰囲気を感じた。
 何だろう、この、既視感――。
「……そうですか。
 では、皆さんにヴァイオリン二重奏をご披露致しましょう。
 ヴィヴァルディーの春なんてどうです?」
「いいわ」
 二人は同時にヴァイオリンを奏で始める。
 驚いたことに、タイミングを合わせてもいないのに、演奏を始める呼吸が同じだった。
 二人は初対面で、合わせて弾くのは初めてなのに、まるで共に練習を重ねたかのように、息がぴったり合っている。
(彼女は、一体?)
 演奏が終わる。
「次は何? モーツァルト? バッハ? ベートーベン?
 ……確か、ヴェルディーは、弾くと怒られる、のよ……ね?」
「それは、ボクのパートナーの話です」
 アルテッツァは訊ねた。
「何故それを知っているんです?」
「他にも、知ってるわ。
 貴方の演奏の癖、息継ぎの場所……ワタシは全て、知っている」
 何度も何度も、聴いている。
 初めてだけれど、初めてではない。
 知っている。未来の貴方を。
「ワタシは、貴方の娘だもの」
「娘っ?」
 夜鷹が驚く。
「アル、こんな大きな隠し子ぎゃ……」
「ワタシの、居た未来を、変えるために、この過去に、やって来たの」
「未来人っ!?」
 更なる事実に、夜鷹は目を丸くする。
 アルテッツァはふう、と息を吐いた。
「……キミのその瞳、髪、……どこかあの人に似ています」
 突然現れて、娘と名乗る者。
 けれどアルテッツァは、不思議とそれを疑う気にはなれなかった。
 彼女がそう言うのなら、本当に、自分の娘なのだろう。
「そのウェーブは、ボクの髪にも似ている気がしますね。
 ……そうだ、キミの、名前は何というんです?」
「名前……そうね、名乗るとしたら、こうかしら。
 セシリア。セシリア・ノーバディ(せしりあ・のおばでぃ)
 よろしくね、パパーイ」