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 第一章

 
 天気は曇り。ヒラニプラ鉄道はいつも通り運転していた。のだが。

「これは、どういうことなんだ……」

 七尾 蒼也(ななお・そうや)は目覚めてから自分の置かれている状況を知り愕然とした。
 薄暗い洞窟の中で機晶ランプの淡い光が部屋の中を照らす。

「ここから帰れない? 冗談じゃない。俺にはジーナが待っているんだ」

 ぐっと握り締めた手のひらに痛みが走り、ふと視線を落とす。よく見ると思っていたよりも傷が多く、包帯は巻きなおされたばかりのようだった。

「起きたかい?」

 ノックの後にひょいと顔を出したのはエース・ラグランツ(えーす・らぐらんつ)だ。
 機晶ランプに照らされて赤い髪が目に鮮やかに映る。

「もう大体皆気がついたみたいだよ」

 エースに連れられてやってきたのは村の広場。
 通ってきた居住区であろう通路とは違い、とても広い空間が続いている。
 まるで大きなホールのようで、上を見上げれば岩盤は遥か彼方。大きな吹き抜けのように高く高く続いている縦穴。それでも日の光は入ることはなく、ただ薄暗い空間がぼんやりと続いていくのが見えるだけだ。
 すぐ近くにある地底湖に機晶ランプの光が反射してより一層幻想的な空気をかもし出している。
 広場に面して、わずかだがドワーフたちのお店も並んでいるようだった。
 肉を焼くいい匂いが先ほどまで休んでいた胃をたたき起こす。

「あらおはよう。お寝坊さんね」

 ここが地底だということを感じさせないほどに自分のペースでまったりとお茶を飲んでくつろいでいるのは、エルサーラ サイジャリー(えるさーら・さいじゃりー)
 ロングの髪の毛をふわりとかきあげてにこりと笑う彼女。
 その横で彼女のパートナーペシェ・アルカウス(ぺしぇ・あるかうす)もふふっと笑って挨拶する。

 広場には見た顔がちらほらと集まってきていた。

「もう大体そろったと思いますよ、エース」
「そうか、ありがとう」

 エースのパートナーであるメシエ・ヒューヴェリアル(めしえ・ひゅーう゛ぇりある)が声をかける。
 どうやら同じ列車に乗り合わせ、ともにここまで落ちてきてしまった人たちを集めていたらしい。
 何かあるのかと思っていたら、年をとったドワーフが三人ほどやってきた。

「えー、地上の諸君、これから君たちは我が村で暮らしてもらうことになるのだが、まず村の掟には従って生活してもらう」

「ちっ、何だよ掟って。俺は誰かに縛られるのなんて真っ平だぜ」
「フェイミィ!」

 フェイミィ・オルトリンデ(ふぇいみぃ・おるとりんで)が面倒くさそうにぼそりと呟くのをリネン・エルフト(りねん・えるふと)はすぐに諌めたがドワーフの耳には入っていたようだ。
 ごほんと咳払いを一つして、別のドワーフが口を開いた。

「まず、『働かざるもの食うべからず』! 君たちには何かしらの労働をしてもらう。一日六時間、機晶石や鉱石を掘るのもよし、モグラ牧場で世話をするのもよし、洗濯や料理の支度をするのでもよし。ともかく何かしらは働いてもらうのでそのつもりで」

「そして次に、第33坑道と鍾乳洞には決して近付かないこと!」

「そして最後に!」

 三人のドワーフが次々と声を上げて続けるので、誰も文句を言う隙も与えない。
 坑道に近づいてはいけないというのも、『なぜ?』と疑問の声が上がっても華麗にスルー、聞こえないという徹底っぷりだ。

「地上に戻れると夢をみてはいけない。以上だ」

「これを守ってさえいればこの村での暮らしは不自由ないだろう。地上から来たということでまだまだ村の連中も抵抗はあるだろうが、それも次第になれるだろう。ま、よろしくやっていこうや」

「今日はゆっくり休んで、明日からバリバリ働いてもらうからそのつもりでよろしくな」

 三人のドワーフはそれぞれ言いたい放題言うだけ言ってさっさと立ち去ってしまった。

「……地上を夢見てはいけない、か」

 ニケ・ファインタック(にけ・ふぁいんたっく)はいつもパートナーが立っているはずの空間を見つめながら寂しそうにぼそりと呟いた。