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変態紳士を捕まえろ!

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変態紳士を捕まえろ!

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三章 苛められる

「そこの変態! 今大人しく投降すれば罪も少しは軽くなりますよ!」
 長い廊下を走りながらロザリンド・セリナ(ろざりんど・せりな)は自分よりずっと先を走っている変態紳士に警告する。
「そういうことは追いついてから言いたまえ!」
 無駄に綺麗なフォームで走る変態紳士をロザリンドは必死で追跡するが一向に距離は縮まらない。
「そんな……パワードレッグで速度を上げてる筈なのに……」
「ふはは! そのままつかず離れずの距離で私の尻チラを眺めるがいい!」
「うう……なんて追跡意欲を奪うような発言をするんですか、あの変態は」
「これ以上速度が上げられないなら、向こうに速度を落としてもらうですぅ」
 冬蔦 日奈々(ふゆつた・ひなな)はそう言いながら変態紳士に向かってその身を蝕む妄執をかけた。
「ぐぅ……ああ! や、やめろ……! そんな角度で引っ張ったら……もげる! あぶないあぶないあぶない!」
「日菜々さん、どんな妄想を見せたんですか!?」
「……聞きたいんですかぁ?」
「……いいえ」
「とりあえず、向こうの速度は落ち始めたから後はセレンフィリティちゃんにお任せしますぅ」
「了解! さあ覚悟しなさいよ、この変態野郎!」
 セレンフィリティ・シャーレット(せれんふぃりてぃ・しゃーれっと)は前に出て距離が縮まった変態紳士の足下に向かって発砲した!
「こら! 人に向けて銃を撃つとは何事だ!?」
「うるさい! 変態が正論吐くな!」
「なんだその人権無視の発言は!?」
 そんなやり取りをしながら、変態紳士は銃弾をかわすために曲がり角を曲がると、
「かかった……! 今よセレアナ!」
 セレンフィリティの合図で曲がり角で待機していたセレアナ・ミアキス(せれあな・みあきす)が変態紳士の進行方向を塞いだ。
「もらった!」
 セレアナは正面から突っ込んで来る変態紳士の顔に合わせて右拳を見舞おうとするが、
「むぅ……!」
 変態紳士はその場でブリッジをして、そのままの状態で壁際まで逃げた。
「きもっ!?」
 あまりにも奇怪な動きにセレンフィリティは思わず声を上げてしまう。
「さあ、追い詰めたわよ。観念しなさい」
 セレアナたちは壁を背にした変態紳士にジリジリと近づいていく。
 五十嵐 理沙(いがらし・りさ)は変態紳士の股間に貼り付けられた丸い黒紙を見て、嘲笑するように鼻をならした。
「まったく、なにが変態紳士よ。そんな中途半端な黒い紙を貼り付けて、よっぽど自分のものに自信が無いのね。……肯定するみたいで嫌だけど、変熊さんでも見習ったら?」
「へん……くま……?」
「あんたまさか、その程度で自分を変態だと思っているんじゃないでしょうね? 変熊さんの変態力は8000万近くあるけど、あんたの変体力なんてたったの2しかないじゃない」
「変態力!? 初めて聞いたぞそんな概念!」
「それに、そんなもので股間を隠してるくらいだから大したこと無いんでしょう? 金環日食なんて言ってるけど全然光ってないし」
「……ほう?」
 クスクスとバカにしたように笑う理沙の言葉に変態紳士は眉をひくつかせていると、セレスティア・エンジュ(せれすてぃあ・えんじゅ)が前に出てきた。
「さ、そんなことはいいですから、さっさとこの変態を捕まえてしまいましょう……この子たちを使って」
 そう言って、セレスティアはどこからか毒虫の群れを呼び出した。
 廊下の隅や天井から、赤や黄色のまだら模様を付けた虫や警戒色を剥きだしにしたような節足動物たちがうじゃうじゃと湧いてくる。
「きゃああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!?」
 その光景を見た瞬間、セレスティアを覗く女子全員が顔を真っ青にして悲鳴を上げた。
「せ、セレスティア! あんた何してるのよ!」
「何って……毒虫を使ってあれに這わせようと」
「こっちの被害を考えなさいよ!」
 理沙がツッコミを入れている間にも毒虫たちは女の子たちにも近づいてくる。
「きゃあ! ムカデ、ムカデがあああ!」
「き、気持ち悪いですぅ! こっち来ないでですぅ!」
 所狭しと虫が蠢く地獄と化した廊下で女の子たちは半狂乱になっていく。
 そんな様を見て、毒虫にあちこちたかられている変態紳士はニヤリと口元を歪める。
「はっはっは! どうやら今の行動は完全に裏目に出たようだ! さて、どうも光り輝く金環日食を希望しているお嬢さんがいるらしいからじっくりと見るがいい!」
 変態紳士はマントを大きく広げて腰を大きく突き出すと、光術を使って股間を思いっきり光らせた。
「うわっ! 無意味に不快……!」
 理沙たちは眩しさで目を瞑る。
「満足していただけたかな? それではさらばだ! ふはははは!」
 女の子たちの悲鳴が響き渡る教室の中、変態紳士は素足で毒虫を全力で踏みつぶしながら廊下を後にした。


 そんな廊下の喧騒から少し離れた更衣室の中、ネージュ・フロゥ(ねーじゅ・ふろう)は目の前で山盛りになっている下着を見て、不安そうな顔をする。
「本当にこんな方法で変態って釣れるんですか?」
「大丈夫だって! 孔明の罠を信じなさい!」
 そう言って胸を張るのはネージュのパートナーの諸葛亮 芽依(しょかつりょう・めい)は胸を張る。
「これだけバカみたいに下着が山盛りになってたら変態だってよだれを垂らして近づいてくるよ。そこを攻撃して捕まえる。さすがあたしってば孔明ね!」
「本当かな〜……ん?」
 ネージュが疑わしそうに目を細めていると、遠くからドタドタと何かが走ってくる音が近づいてきて……、
「女の子と下着の匂いがする〜!」
 変態が乱入してきた。
「うわ! 本当に出た!」
「バカめ、まんまと釣られたな!」
「ほほう、まさか女の子までいるとは。まさに一石二鳥! 下着を頂くついでに見ていただこう我が金環日食……」
「えい」
 ネージュはスタスタと近づいて、無視に殺虫スプレーをかける要領で変態紳士の目に催涙スプレーをぶっかけた。
「あああああああああああああああ!!」
 目を襲う激痛に変態紳士は身を反らせていると、
「どっせい!」
 冬山 小夜子(ふゆやま・さよこ)の前蹴りが変態紳士の頭を捉えた。
「ぶふぅ!?」
 あっさりと蹴りを食らった変態紳士は勢いに逆らわず、そのまま下着の山に突っ込んだ。
「いいですか? ここは百合園女学院です。そう……『女学院』です。つまり女の子しか入れません」
「いや……私はここに来て数時間も経ってないが結構な割合で男を見かけたぞ」
「そんな場所に……ほぼ全裸にマント姿で来るんじゃない!」
「無視しないでいただきたい!」
「というか、おまえが通った道はすでに変熊さんが通った道ですー!」
「だから! 誰なんだ変熊って! ……あひん!?」
 スパン! と空気を裂くようにしなった鞭が変態紳士の股間を強襲した。
 鞭の先端を手元に戻した崩城 亜璃珠(くずしろ・ありす)はツカツカと小夜子を制して変態紳士の前にでると、踏みにじるように変態紳士の腹を踏みつけた。
「ふふ……これで逃げられなくはなったでしょうが、駄目押しもしておきましょうか。マリカ、出口を塞いで幻覚を見せてあげなさい……とびっきりの幻覚をね……」
 亜璃珠は嗜虐的な笑みを浮かべながらマリカ・メリュジーヌ(まりか・めりゅじーぬ)に命令した。
「はい……了解しました」
 マリカはその身を蝕む妄執を変態紳士にかけて、出口の前で待機した。
「さて……あなたのお日様、もっとよく見せてもらいましょうか?」
 亜璃珠は股間の紙に手を伸ばして無遠慮に剥ぎ取ってみせる。
「ふふふ、ごめんなさい? まさかここまで残念なモノだと思ってなかったから……。それにしても、こんなものを見せるだけで変態を名乗っていらっしゃるの? もう少し趣向を凝らすことはできなかったのかしら、体に縄をかけるなりボールを咥えるなり生徒に鞭をプレゼントするなり馬に跨って登場するなりあまつさえ紙一枚でも「隠す」だなんて…中途半端に見せて、見られていい気分に浸ってるだけで、ああ詰まらない男違いますわね、ねえ「豚さん」、あなたやる気あるの?そうよ、貴方は変態にも紳士にもなりきれないただのこそ泥、ただの豚……ほら、早く鳴いて見せろよ」
 永遠と続くような亜璃珠の言葉責めに、
「ぶ、ぶひぃぃ……」
 変態紳士は恍惚とした表情で答えた。
「あらあら、心を折ってあげるつもりだったけど喜んでるんじゃ罰にはならないわね……それじゃあ、詩穂さんバトンタッチです」
 飽きたオモチャを見るような目で変態紳士を一瞥すると騎沙良 詩穂(きさら・しほ)が戸惑いながら前に出てくる。
「そ、そんな……バトンタッチと言われても……あ、あの大丈夫ですか? あちこち腫れてるみたいですけど……」
「む……? ん?」
 詩穂の予想外の行動に変態紳士も思わずリアクションを取れずに、下着の海に沈んでいた。
 変態紳士の足は先程、毒虫を踏みつぶしたおかげで多少青紫色に変色していた。
「あの……変態さんはキンカンを連呼してますが……これ、お使いになりますか?」
 そう言って詩穂が取り出したのは虫さされのキンカンだった。
「いや……金環と言うのは……いや、やっぱいいですお願いします」
「そうですか? では失礼して」
 詩穂は何の疑問も持たず、キンカンを塗った。
 足ではなく──股間に。
「おいいいいいい!? なにをやってるんだ君は!?」
「え……ですから腫れた部分にキンカンを……」
「そこは腫れてなかったらむしろ病気だよ! ……ってそこの少女二人! 私の紳士に何をしている!」
 変態紳士は詩穂と同じように股間に近づいていた高天原 水穂(たかまがはら・みずほ)シンク・カルムキャッセ(しんく・かるむきゃっせ)に声をかける。
 水穂は片手にカニを、シンクはビームライフルのようなものを持っていた。
「何って……カニに挟ませようと……」
「ボクはこれでちょっと焼いてあげようかと」
「君たちは自分の言った言葉を頭で考えたことはあるのかね!?」
「大丈夫ですわ。直前まで健康サプリを砕いて混ぜた培養水の中にいましたので全力で挟んでくれますわ」
「ボクのも出力は最大まで絞ってじっくり焼くから」
「なに言ってるのこの子たち怖い……ってぎゃああ!?」
 変態紳士のツッコミも待たずに二人は各々がしたいことを始めた。
「ちょ……これ……いだだだだだだ!? 取れる! 焼ける! 君たち変態相手だからってなにをしても許されると思ったら……いだだだだだだだだ!?」
 ベクトルの違うあらゆる痛みが股間を襲い、変態紳士は下着の海でのたうち回る。
「ええい! いい加減にしたまえ!」
 変態紳士はカニをぶら下げたままバッと立ち上がり、マリカが構えている出口に向かう。
「ここは通しません」
「いいや、通させてもらおう!」
 ニヤリと不敵な笑みを作った変態紳士は近くにあった下着の山をマリカにぶつけた。
「くっ!」
 マリカは視界を確保するために飛んできた下着を振り払い、
「隙有り!」
 視線を低くした変態紳士がその横をすり抜けて、素早く脱出した。
「く……申し訳ございません亜璃珠」
「まあ、仕方ないわね……それよりマリカ、下着盗まれてるわよ?」
「え……? あ!」
 マリカはさりげなく確認すると湯気が出そうなほど顔を真っ赤にして俯いてしまう。
「とりあえず……今日は罰として家に戻るまでそのままね?」
「そ……そんなぁ……」
 顔を真っ赤にしたまま涙を浮かべているマリカを見て、亜璃珠は楽しそうに笑顔を浮かべた。


「おっと、出会ってもうたな変態紳士。その下着、いただこうか?」
 百合園の制服を着ている瀬山 裕輝(せやま・ひろき)は廊下を疾走している変態紳士の前に立った。
 股間には再び黒い紙が貼られ、右手にはどさくさに盗み取ったマリカの下着が握られていた。
「これは私の戦利品だ。そもそもこれを君が奪ってどうする気かね?」
「なぁに、ただモテない奴に与えるだけや、気にせんでええ」
「ほう……義賊か」
「そんな立派なもんとちゃうよ」
 本当に立派なものではないが、二人は薄く笑みを作ると、全身の筋肉を緊張させて臨戦態勢を取る。
一人は獲物を奪うため、もう一人は正面を突破するために。
「ほな、いくで!」
 二人は同時に駈けだし、下着に向かって手を伸ばした裕輝の手が──消えた。
「なに!?」
 突然のことに変態紳士も反応できず、二人はすれ違うように駆け抜ける。右手に握られていた下着は裕輝の左手に収まっていた。
「ま、変態力たったの2じゃそんなもんだろうな」
「だから何なんだ変体力って!? 流行っているのその言葉!?」
「戦闘中のよそ見は厳禁だ」
 裕輝の発言に噛みついていた変態紳士の背後から巫女服姿の柊 恭也(ひいらぎ・きょうや)が声をかける。
「……っ! しまっ!」
「遅い!」
 振り返ろうとした瞬間、恭也は変態紳士の死角をついて仕込み番傘を使って発砲した。
「ぐはっ……!」
 番傘から発射されたゴム弾が変態紳士の身体にめり込み、鈍い音が響き、変態紳士は倒れる。
「おのれ……! 今回のジャンルはコメディのはずなのに……こんな本気で攻撃されるとは……」
「何を訳の分からないことを言っている……後はあんたたちに任せるよ、俺たちも逃げないと捕まるかもしれないからな」
 恭也は雷霆 リナリエッタ(らいてい・りなりえった)ベファーナ・ディ・カルボーネ(べふぁーな・でぃかるぼーね)に声をかけるとリナリエッタは口元を少し上げて見せる。
「ええ、ここは任せてお二人は早く脱出して下さい」
「すまない、世話をかける。いくぞ裕輝」
「ほなリナやん、また」
 二人は短く挨拶をするとその場を逃げるように走り去って行く。
 リナリエッタは鼻歌まじりに、痛みで動けない変態紳士に近づくと、サジタリウスの衣類24点分を取り出した。
「私ね、最初から何もつけてない人の体ってこう、どうも興奮しないのだって、みてすぐ素敵なものがあるって分かるなんて、ダンジョンの中にスケルトンの宝箱をおくようなものじゃない。中が分からないから、手探りで、こじ開けて、中を見たくなっちゃうの」
「いや……そのシースルーかなりスケスケですけど」
「細かいことは気にしないの」
 リナリエッタは無理やり24点分のなかから一着を取り出して変態紳士に無理やり着せた。
 その瞬間、白い煙幕が突然辺りを包んだ。
「な、なに? この煙? ちょっとベファーナ! あなた何をしたの!?」
 リナリエッタはベファーナを呼ぶが、ベファーナは返事を返さず変態紳士を抱えて近くの誰もいない教室に連れて行く。
「ここなら誰にも見つかりません。あのビ…女達、男をなんだと思っているのでしょう」
 ベファーナが静かに憤慨していると、変態紳士は怪訝な顔をする。
「なんで私を助けるような真似を……」
「そもそも女なんてですね、男の体より金権力に靡く豚ですよ豚!」
「それは言いすぎ……というか私の話を聞いてるかね?」
「美しい肉体は、美しい肉体を持つもの同士見せつけ会うものですよ!」
「誰か! バイリンガルを呼んでくれー! ちょ……! 待ちたまえ君! 一体どこを触って……あ、ちょ!」
「ふふ……良い声で鳴いてくれますね……楽しめそうだ」
 そう言ってベファーナは舌なめずりをして、
「あ……! やめなさいそこは! ちょそんなところを拡げ……アッー!」
 変態紳士は絹を裂くような悲鳴を上げた。