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変態紳士を捕まえろ!

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変態紳士を捕まえろ!

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五章 難を逃れる

 「だから太陽が月に隠れることを日食っていうの。それで、金環日食ってのは月が太陽を完全に隠した状態のことを言うのよ」
「へえ〜……」
 長髪のカツラに女性ものの服を身に纏って、女言葉も徹底している神崎 優(かんざき・ゆう)神崎 零(かんざき・れい)に金環日食の説明をしていた。
「っていうか、なんで優はそんなノリノリで女装が出来るんだよ……」
 パートナーの神代 聖夜(かみしろ・せいや)は女装した自分の姿を見て、ため息をつく。
「聖夜、世の中諦めが肝心だ。落ち込んだ所で、現実から逃れる事は出来ない。諦めてやるべき事をするしかない」
「俺は優みたいに割りきれねえよ……」
 聖夜は再び深いため息をつく。
「大丈夫だよ、二人ともすごく似合ってるから。……それにしても、中々現れないね、変態」
「そうね、早く捕まえないとそれだけこの格好と女言葉でいないといけないのは流石に辛いわね」
「もっと手っ取り早くおびき寄せる方法ってないかな?」
「それなら、良い方法があります」
 三人の会話の中に入ってきたのはベネデッタ・カルリーニ(べねでった・かるりーに)だった。
「良い方法、ってなんですか?」
 零の質問にベネデッタはわざとらしく咳払いをする。
「変態と言うのは、可愛い女の子の下着と、恥ずかしい姿が好きなのです」
「そ、そういうものかしら……?」
「絶対にそうです。……リタ、ちょっといいですか?」
 優の質問に一歩も引くことなくベネデッタは自分の意見を通して、リタ・ピサンリ(りた・ぴさんり)を呼ぶと、ベネデッタはその場で正座する。
「ちょっと、私の膝の上にうつ伏せになって下さい」
「? こ、こう……?」
 リタがベネデッタの膝にうつ伏せになると、ベネデッタは突然リタのパンツをずり下ろす。
「な……! ベネデッタ、なにする……痛っ!?」
 ベネデッタはリタのお尻を思いっきり平手で叩いた。
「さっきも言ったでしょう? 変態は女の子の恥ずかしい姿が好きだって。だから! こうして! いるんです!」
 そう言ってベネデッタはお尻を全力で叩き続け、やがてリタのお尻には真っ赤な手の平の跡が残り始める。
「痛ーい!ごめんなさーい! 本気でやってるでしょ!痛いよー! うわああん! もう許してー!」
「少女の恥ずかしい姿に誘われて、変態紳士、見参!」
「ちっ……もう来たか……もう少し楽しみたかったのに」
「ベネデッタ今なんか言ったでしょ!? やっぱりベネデッタの趣味だったんだ! 馬鹿ぁ!」
「……馬鹿? 悪いお口ですね! お仕置きです!」
「やだ、やだやだ許してー!」
「なんて羨まけしからん羨ましいことを……もっと続けたまえ」
「変態退散〜!」
 レキ・フォートアウフ(れき・ふぉーとあうふ)は叫ぶなりペンギンアヴァターラ・ロケットをぶっ放した。
「げふぇ!?」
 横から突っ込んできたロケットが変態紳士のあばらに突き刺さり、変態紳士は数メートル飛ばされた。
「ぐふ……! 校舎内でロケットを飛ばしてはいけません! 常識だろう!」
「うわ……変態に説教された……」
「聞く耳持たない方がいいですよレキ」
 カムイ・マギ(かむい・まぎ)はレキの方を軽く叩くと、剣の形をとった光条兵器の切っ先を変態に向けた。
「さて……変態には二度とこんなことが出来ないようにキッチリと紳士の部分を切り刻もうか」
「なにをサラリと恐ろしいことを言ってるんだ君は!?」
「問答無用だ!」
 カムイは地面に倒れている変態紳士に急接近して、股間に向かって剣を振り下ろすが、
「真剣白刃取り!」
 変態紳士は仰向けの状態から尻だけを上げて割れ目で剣を受け止めた。
「無駄無駄ァ! 私が今日一日に何回股間を狙われていると思っているんだその程度の攻撃見切れないとでも……痛っ!?」
 べらべらと長いセリフを垂れ流していると、カムイは剣を手から話して横腹に蹴りを入れた。
「気持ち悪い」
「ざっくりと酷い感想を吐くね君は……ええい今さら言うのもアレだが、この数では分が悪い。ここは退散させていただく! さらばだ!」
 変態紳士は起き上がると、カムイたちがいる方向とは逆方向に逃げようとする。
「逃がすかよこの変態野郎! 秋日子! しびれ粉だ!」
 それに合わせるように要・ハーヴェンス(かなめ・はーべんす)は変態紳士を追いかけながら東雲 秋日子(しののめ・あきひこ)に命令を飛ばした。
「人をポ──ンみたいに言わないで、よ!」
 秋日子は文句を言いながらもしびれ粉を変態紳士にかける。
「……っ! この程度!」
 変態紳士は動きこそ鈍りはしたが、逃げる姿勢は変わらなかった。
「まだ逃げますか……なら、これならどうですか?」
 遅くなった足でまだ逃げようとする変態紳士に陰陽の書 刹那(いんようのしょ・せつな)は恐れの歌を歌った。
「ぐ……!」
 変態紳士は恐れの歌を耳にした瞬間、身体を一瞬強張らせ、
「もらっったああああ!」
 要が変態紳士の後頭部に蹴りを見舞った。
 変態紳士は受け身も盗らずに廊下に倒れてしまう。
「覚悟しろ変態が!」
 すかさず要は変態紳士の腕を取り、組み伏せる。
「く……この格好では煙幕も光術も使えない……万事休すか」
 変態紳士は諦めたように全身の力を抜くと、
「待ちなさい!」
 突然、廊下に女の人の声が聞こえて一同が声のした方向を見る。
 そこには──全身、顔までタイツを着こんだ変態……もといリカイン・フェルマータ(りかいん・ふぇるまーた)が立っていた。
「変熊くんを離してください!」
 いきなり現れた変質者に指を指されて一同は困惑を顔に隠せずにいた。
「今だ!」
 カムイの手が緩むのを感じると、変態紳士は組み敷かれた状態からぬるりと脱出して立ち上がる。
「なんだか知らないが助かったよお嬢さん! ちなみに私は変熊ではない!」
 そう言われてリカインはハッと息を呑む。
「本当だ……あなたみたいな変態力の弱い人と変熊くんを一緒にするなんて……」
「だから! なんなんだその変態力って!」
 変態紳士が悶えていると刹那はやれやれとため息をつく。
「変態が二人に増えましたね……。どうします? 秋日子さん」
「決まってるわ……変態両成敗よ!」
 秋日子のこの言葉に、その場にいたメンバーは臨戦態勢に入り、
「さらばだ! 助太刀感謝するぞお嬢さん!」
「人違いだったんですけど……どういたしまして!」
 変態紳士とリカインは示し合わせたように反対方向に逃げ出した。
 メンバーは混乱しながらも数を二分して二人を追いかけ始めた。