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変態紳士を捕まえろ!

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変態紳士を捕まえろ!

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六章 張り合う

 変態紳士は隠れ身で追っ手から逃げ切り、一人で次の獲物を探して廊下を歩いていた。
「……もう、本来の目的を遂行するとかしないの騒ぎではないな……逃げるなら今か」
「残念だが、そうはさせん!」
 独りごちた変態紳士の言葉に男の声が返ってくる。
 振り返るとはそこには変熊 仮面(へんくま・かめん)天空寺 鬼羅(てんくうじ・きら)、と視界を確保する穴を開けた紙袋を被り、全裸にブラックコートを羽織った樹月 刀真(きづき・とうま)の三人が立っていた。
 変熊の姿を見た瞬間、変態紳士の顔がピクリと歪む。
「貴様が変熊か……。貴様には身に覚えがないだろうが、私は先々で貴様より変態力が低いだのなんだのとこき下ろされていてね……」
「なんだその変態力って!?」
「私が知るかっ!」
「何だこいつ!?」
 刀真がツッコミを入れていると、鬼羅が変態紳士を指差した。
「おい変態紳士とやら、そんな黒丸の紙を股間に貼り付けて変態を名乗るなんざ言語道断! これが……これこそが変態紳士というものだ!」
 そう言い捨てるなり、鬼羅は着ていたセーラー服を脱いで素っ裸になった。
「どうだ! これこそが漢として! 変態として紳士としての姿! 黒くて丸い紙を股間に貼り付けてるてめぇと違うんだよ! てめぇとは!!」
「ええい! 黒丸を付けることによって相手に想像の余地を膨らませるという変態的な嗜好が貴様には理解できないのか! 全裸になるだけなら猿でも出来るわっ!」
「猿は元々裸だろうが! バーカバーカ!」
「うっさいバーカ! あとそこの紙袋を被ってる貴様! 顔を隠すアイテムにはもっと気を遣え! 他人に見られるという意識が低い! その上紙袋だと息苦しいだろうし視界が悪いから転びやすいぞ!」
「なにをキレながら適切なアドバイスしてんだよ!?」
 刀真がツッコミを入れていると、変熊が刀真の肩を叩いて前に出る。
「ならば、誰が一番紳士であるか、この場で競おうでは無いか……紳士のスポーツ、輪投げでな!」
 そう言って、変熊はほぼ全裸の格好にもかかわらずどこからか金色の輪を取り出した。
「これを互いの股間に投げ合って一番多い人が勝ち。萎えたら失格」
「なるほど面白い勝負だ。……どうやら、黒丸を外さなければならないようだな!」
 変態紳士は自分から股間の黒丸を外し、臨戦態勢に入る。
「さあ、準備は出来た。始めようじゃないか……真の変態が誰なのかを!」
「上等だ、真の変態はこの天空寺鬼羅様だって教えてやろう」
「よっしゃあ! それじゃあとっとと始め……」
 刀真が気合いを入れて叫ぶのとほぼ同時に──廊下に一発の銃声が響き、
「がふっ!?」
 刀真は前のめりに倒れた。
 影に隠れていたは漆髪 月夜(うるしがみ・つくよ)だった。
 月夜はハンドガンをしまいながら倒れている刀真の手を無造作に掴む。
「すいません。これ以上は刀真も捕まりそうなので、ここでお暇させて頂きます」
 簡潔にそう言って、月夜はずるずると刀真を引きずり、やがて見えなくなった。
「……」
「……」
「……」
 変熊は変な沈黙を破ってわざとらしく咳払いをする。
「それでは始めるぞ……それ!」
「後で吠え面かくなよ? ……うら!」
「勝つのは私……だ!」
 叫びながら変態三人は循環するように互いの股間に輪を投げ始める。

 こうして上がらなくてもいい変態頂上決戦の幕が上がった。