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邪竜の眠る遺跡~≪アヴァス≫攻防戦~

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邪竜の眠る遺跡~≪アヴァス≫攻防戦~

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stage6 混乱の中で

 ミッツ達が遺跡からの脱出を試みている一方で、≪徘徊するミイラ≫は遺跡の外にも出没していた。
 数はそれほどではなかったが、突然地面から現れることや、生徒と≪アヴァス≫関係なく攻撃してくることにより、戦場は大混乱していた。

「あ、あゆむさんそそ、そんなきんちょしないで、でも大丈夫でっすからっ」
「だ、だだだ大丈夫ですよ、リースさん。あ、あゆむは怖がっていませんから」
 引っ込み思案な性格のリース・エンデルフィア(りーす・えんでるふぃあ)は、顎をガクガク言わせて脅えている≪猫耳メイドの機晶姫≫あゆむを励まそうとしていた。
 その時、どこかで砲撃の音がして、あゆむのビクッと背筋を伸ばして驚いていた。

 あゆむはこれまで戦場に出たことがなかったし、戦闘経験だってなかった。
 だから、戦いになったらどうしたらいいのだろうと不安で一杯だった。

「そそ、そういう時はて、手のひらに、ひゃとをかくのです!」
「ひゃとですね! ひゃと……ひゃとってどんな字ですか!?」
「え、ええっと……」
 目がグルグル回るぐらいに混乱していいるあゆむに、リースは自分の手のひらに「人」という字を書いてみせる。
 あゆむは何度も間違えながら、ようやく自分の手のひらに「人」の字を書いた。
「書きました!」
「じゃじゃあ、呑みこんでください!」
「呑むんですね!」

 ベチンッ!

 あゆむが呑みこむというよりは、叩くという動作をしていた。
「呑みました!」
「お、オッケーです! あああ、とは深い呼吸です」
「は、はい!」
 あゆむは言われた通り、両手を開いて深呼吸をした。
 呼吸が段々とゆっくりとしたものに変わり、あゆむの気持ちも徐々に落ち着いてきた。
「リースさん、ありがとうございます。なんだか少し――!?」
 またしても聞こえてきた砲撃の音に、あゆむは笑顔を張りつかせたまま驚いていた。
「でも、やっぱり怖いものは怖いのです」
「だだ、だいじょぶです! わ、私があゆみゅさんを、守りますからっ!」
 そう言うとあゆむに向けて手を差し出した。
「お手をどうぞっ!」
 あゆむはリースの突然の行動に戸惑った。
 差し出された手とほんのり頬を染めたリースの顔を交互に見る。時折視線が合うと、リースは恥ずかしく少しだけ視線を逸らせていた。
 リースの眼鏡の奥の瞳が不安そうに揺れた。
「……それじゃあ、お言葉に甘えてよろしくお願いします」
 あゆむは上下から挟み込む形で、差し出された手に触れた。
 リースが思わず涙が零れそうなくらい嬉しそうに笑う。
「はっ、はい! お任せです!」
「あ、そういえばリースさん。今日、クッキーを焼いてきたんです。
 ……ほら、これ。一緒に食べま――!?」
 あゆむがクッキーの入った袋を取り出した瞬間、またしても砲台が鳴り響き、驚いたあゆむはクッキーの入った袋を握りつぶしてしまった。
「あ……あぅぅ。せっかく作ったのにぃ……」
「だだだ、大丈夫。私、粉っぽい方が好きですっ!」
 今にも泣き出しそうになるあゆむを励まそうと、リースは袋から粉々になったクッキーを取り出して口に運んだ。
「うん。おっ、美味しいです」
 リースが優しく微笑むと、あゆむにハンカチを渡した。

 そんなあゆむとリースのやりとりの後、程無くして生徒達は戦闘に入った。
「どきなさい!」
 ジヴァ・アカーシ(じう゛ぁ・あかーし)は身を屈めてナイフを避けると、新式レーザーブレードで≪機晶ドール≫の右足を薙ぎ払った。
 バランスを崩して倒れ込む≪機晶ドール≫。
「ジヴァ、右側から次が来るわ! 気を付けて!」
「わかっているわよ!」
 ジヴァは武器を構え直すと、イーリャ・アカーシ(いーりゃ・あかーし)がに指示された方向へ、敵の増援を迎え撃ちに向かった。
 その間、イーリャは早見 騨(はやみ・だん)とあゆむの護衛にあたっていた。
 すると突然、騨がイーリャに謝ってきた。
「すいません。本当はあゆむのことを、僕が責任持って守らなきゃいけないのに……」
 自分には責任があると言い切った騨は、俯いて銃を握りしめていた。
 騨は守りたいと思うのに、全然に戦えない自分が悔しくてしかたなかった。
 すると、イーリャが思いつめた表情の騨の頭を軽く叩いた。
 何故叩かれたのかわからない騨は、目を瞬かせてイーリャを見つめていた。
「いい、騨。よく聞いてね。
 誰かを守ろうという意志事態は悪い事じゃないわ。
 でもね。一方的に守ろうなんて考えちゃ駄目。自己犠牲なんてもっと駄目よ。
 二人で協力して、必ず二人揃って戻ってくる。それが一番大事なの」
 騨はイーリャの言葉の意味を理解するために、暫しの間沈黙していたが、その意味を理解してゆっくりと頷いた。
 イーリャは騨の反応に嬉しそうに微笑むと、優しく頭を撫でた。
「そう、よかったわ。それじゃあ、早くここを抜けましょうか。
 あゆむの記憶を守る方法を聞きださないといけないしね」
 イーリャはこのいち早く騨を≪隷属のマカフ≫の元へたどり着かせるため、敵の数が一端減った所でジヴァを呼び寄せ、作戦を立てることにした。
「おそらくマカフは敵が向かってくる方角にいると思うの。
 でも、このままじゃ迂闊に抜けられないわ。
 そこで一つ、私から提案なんだけど……」
 イーリャが出した提案は次のようなことだった。
 
 まず、リースや他の生徒が氷の壁などを作り、一時的に目隠しを作る。
 その間にジヴァが“スレイヴ”支援兵装ユニットや【ミラージュ】を展開。
 それを囮に、迷彩した状態で迂回しつつ≪隷属のマカフ≫の元を目指すというものだった。

「うん。僕は別に悪くはないと思うんけど」
「でも、作戦を確実にするには何人か、残ってもらえると助かるんだけど……」
 イーリャが顎に手を当てて、呟く。
 それには囮を確実にしたいという思いと、全員で動いたら見つかる危険があるという不安があった。
 すると、話を聞いていた葛城 吹雪(かつらぎ・ふぶき)が手を挙げる。
「はい! では自分達が囮役を引き受けるであります!
 うちにはただでさえ目立つのがいるので、ちょうどいいと思うのであります!」
 吹雪は白い歯を見せて、楽しそうに答えていた。
「ありがとう。助かるわ」
「いえいえ」
「ならわしらも残ろう」
 吹雪が照れていると、夜刀神 甚五郎(やとがみ・じんごろう)も囮役に名乗り出てきた。
「二人では大変だろ。わしも含めてさらに四人残るとしよう」
「ありがたいであります!」
 こうして囮役が決まった。

 作戦が生徒達に伝えられ、移動の準備が開始される。
「じゃあ、ジヴァ頼むわね」
「任せて! 騨、あゆむ! 遅れずちゃんとついてくるのよ!」
 騨とあゆむが力強く頷く。
「それじゃあ、行くわよ!」
 
 ――作戦が開始された。