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邪竜の眠る遺跡~≪アヴァス≫攻防戦~

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邪竜の眠る遺跡~≪アヴァス≫攻防戦~

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stage7 遭遇

 霧深い森の中。
 その奥深くで、レオタードに黒の上着を羽織った姿のセレアナ・ミアキス(せれあな・みあきす)が、物音を立てぬよう細心の注意をはらいながら、ブルーのビキニに上着を羽織ったセレンフィリティ・シャーレット(せれんふぃりてぃ・しゃーれっと)へ近づいた。
 セレアナはセレンフィリティの隣に身を屈めると、囁くように話しかける。
「どう、セレン? 何か情報は掴めた?」
「そうね。強いて言うなら、やっぱり幹部が二人ともここにいるみたいよ」
 ≪隷属のマカフ≫は自身の記憶をコピーした機晶石をとり付けた≪機晶ドール≫と、時折交信をしていた。
 セレンフィリティはそれを傍受しつつ、【情報攪乱】を行った。結果、敵の居場所を掴み、今は仲間と突撃のタイミングを図っている最中だった。
「そっちは何か面白いことはわかったの♪」
「面白いって……別に大したことはわからなかったわ。
 周辺に罠が仕掛けてあって、一箇所だけ通れるようになってるの。そこを通らないと、罠を回避して≪迷測のマティ≫の元にたどり着くには無理そうね」
 セレンフィリティ達は≪迷測のマティ≫を狙ってここまで来た。しかし、いざたどり着いてみると≪隷属のマカフ≫も共にいる。それ以外にも正確な数は確認できないが、≪機晶ドール≫や≪機晶自走砲台≫が潜んでいることはわかっていた。
「やっぱりどっちかに出てきてもらうしかないわね」
 セレンフィリティが指を動かしながら、鼻歌まじりに口にする。
 すると、セレアナが心配するに呟いた。
「本当に大丈夫なのかしら……」
「大丈夫よ。ここまでうまくやってきたんだもの。今度もうまくいくわよ♪」
 セレンフィリティは偽の情報を流しつつ、幹部を誘き出す作戦にでた。
 程無くして、≪隷属のマカフ≫が出てくるとの情報が入り、上半身が機晶姫、下半身を蜘蛛のような機械に改造した者が出てきた。
 セレンフィリティ達はそれが≪隷属のマカフ≫だと判断し、姿が見えなくなってから≪迷測のマティ≫へ向けて行動を開始することにした。
 その様子を見ていたセレアナは何だかうまく行き過ぎていると感じていた。まるでこちらの意図に気づいて、わざと見過ごされているような……。
「警戒だけはしておいた方がいいわよね」
 セレアナは武器を握りしめ、セレンフィリティの一歩前へと進み出た。


「よぉし、発見!」
「あら、驚いた……」
 森を切り拓くかのように現れた沼。その中心で、水面から数センチの位置を浮遊する女性。それが≪迷測のマティ≫だった。
 ≪迷測のマティ≫は、現れた緋柱 透乃(ひばしら・とうの)達に言葉ほど驚いた様子も見せず、口元に手を当てて笑っていた。
「余裕そうだね。でも、すぐにその顔をボッコボッコにしてあげるよ♪」
 透乃は立ち塞がる≪機晶ドール≫に拳を叩き込みながら、宣言する。
 すると、隣に並んだフレンディス・ティラ(ふれんでぃす・てぃら)が透乃に注意する。
「透乃さん、倒すのはいいですが、その前に≪機晶ドール≫を止めさせませんと。
 ですので、できるだけ捕縛する方向で……」
「はいはい。わかってるよ。真面目だねぇ〜。
 でも真剣勝負の最中にそんなのいちいち気にしてられない、と思うけどなぁ」
「そうかもしれませんが……」
「じゃ、そうことで♪」
 透乃はフレンディスを置いていくように≪機晶ドール≫を切り抜け、≪迷測のマティ≫へ向かっていく。
 すると≪迷測のマティ≫が手を挙げ、透乃に向けて斜めに竹が飛び出してくる。
 透乃は咄嗟に飛びのき、回避した。
「あら、そんなことしていいのかしら?」
 空中に舞い上がった透乃を、サイドから≪機晶自走砲台≫が狙ってくる。
 木々の間に隠れていた≪機晶自走砲台≫は標準を定めた。
「ちぃ!?」
 透乃が腕を交差させ構える。
 反動で後方の木に激突しながら、≪機晶自走砲台≫が砲弾を発射した。火薬の匂いを周囲にばら撒きながら、砲弾は風を斬り、透乃へと一直線に向かってきた。
 そして――
「透乃ちゃんはやらせねぇ!」
 飛び上がった霧雨 泰宏(きりさめ・やすひろ)が全身全霊を持って、飛竜の薙刀【透子】を弾丸に叩きつけた。
「このぉぉぉおおおおお!!」
 弾丸が軌道を変え、沼へと着弾して派手に水しぶきが上がった。
「ありがとっ、やっちゃん!」
「おうっ、透乃ちゃんは私達がしっかり援護するさ。
 全力で行って来い!」
 泰宏は痺れる手を抑えながら、透乃に笑いかけた。
 横に目をやると、≪機晶自走砲台≫を月美 芽美(つきみ・めいみ)が殲滅していた。
 ≪迷測のマティ≫が舌打ちする。
「なら、燃えてしまえ!」
「ですから……」
 炎の渦を放つ透乃に向けて放つ≪迷測のマティ≫。すると、その直線状に緋柱 陽子(ひばしら・ようこ)が割り込んできた。
 陽子は闇の魔法を炎の渦の正面からぶつける。
「透乃ちゃんの邪魔はさせません!」
 二つの魔法が拮抗し、相殺する瞬間。陽子は刃手の鎖を魔法の中へと放った。
 刃手の鎖は僅かに残った魔法を吹き飛ばし、≪迷測のマティ≫へと向かっていく。
「っぅ!?」
 ≪迷測のマティ≫は咄嗟に身体を捻り、水面上を転がるようにして回避する。
「透乃ちゃん、今です!」
「うん!」
 地面に着地した透乃が足の裏に力を入れ、≪迷測のマティ≫を睨みつける。
「――いくよ」
 声音を低くしてそう告げると、透乃が地面を力強く蹴り、≪迷測のマティ≫へと一気に跳躍する。
 高く飛び上がった透乃が拳を振りかざす。闘気が炎になり、気合の叫びと共に拳を包み込む。
 ≪迷測のマティ≫が水面に触れ、巨大な氷の柱が立ちふさがった。
「てぇぇぇぇぇ!」
 それでも透乃は怯むことなく、燃え盛る拳を氷の柱に叩きつけた。
 砕け散る氷の柱。だが、その先に≪迷測のマティ≫の姿はなかった。
 ≪迷測のマティ≫は透乃と入れ違うように、脇を通り過ぎて空中に跳躍していた。
「逃がさないっ!」
「――!?」
 透乃は咄嗟に身体を捻って、腰に下げていた陶器を≪迷測のマティ≫の顔面に向けて投げつける。
 陶器は交差した手にぶつかり砕けると、中から溢れた日本酒が≪迷測のマティ≫に降り注いだ。
「透乃ちゃん!」
 陽子は水面を凍らせ、透乃が沼地に落下するのを防ぐ。
「ありがとうっ!」
 手を付いてスピードが落とした透乃の身体を、曲線を描いた氷の壁が受け止めた。
 透乃は立ち上がると、≪迷測のマティ≫を指さして告げる。
「それ、結構いい酒なんだからねっ!」
 ≪迷測のマティ≫が自分の体についた匂いを嗅いで顔を顰めていた。
 その時、セレンフィリティが擲弾銃バルバロスを≪迷測のマティ≫に向けて発砲するも、氷の壁に阻まれる。
「外した!? ならっ!」
 セレンフィリティは氷の壁に向かって機晶爆弾を投げつけると、爆発させて白煙を撒き散らす。その中をセレアナが小型飛空艇に乗って駆け抜ける。
「もらうわよ!?」
「っ!?」
 セレアナが突き刺そうとした呪鍛サバイバルナイフを、体を反らして避ける≪迷測のマティ≫。すると、セレアナは小型飛空艇に手を付き、回転しながら≪迷測のマティ≫の顔面に蹴りを入れた。
「っぅ!? ――この、よくもっ!」
 ≪迷測のマティ≫は水面上を後方に吹き飛ばされながら、鞭でセレアナの胴体を捕え、吹き飛ばした。
 セレアナが背中から大木への激突コースを進む。すると――
「よっと――うぐっ!?」
「セレン!?」
 セレンフィリティがセレアナと大木の間に入り、クッションの変わりになっていた。
「ちょっと、なんでこんな――大丈夫なの!?」
「大丈夫よ。……大切な人のために身体を張るのって当然でしょ。
 そっちだって逆の立場なら同じことするくせに」
 セレンフィリティは苦しそうに腹部を抑えながら、笑っていた。
 そんな恋人の姿に、セレアナは嬉しく思いながら、胸が締め付けられるような思いがした。
 セレアナがそっとセレンフィリティの額に自分の額をくっつける。
「バカね。私ならもっと別の方法であなたを助けるわよ」
「……そっか」

 その後も生徒達は≪機晶ドール≫を蹴散らしながら≪迷測のマティ≫を追い詰めていく。
 不利を悟った≪迷測のマティ≫が、背後の森の中へと後退を始める。
「マスター、追いかけます。援護をお願いします。」
「任せておけ!」
 ベルク・ウェルナート(べるく・うぇるなーと)が沼地に氷の道を作り、フレンディスと共に≪迷測のマティ≫を追いかける。周りにいた生徒も≪迷測のマティ≫を追いかけ、沼地を抜けて木々の中へと入り込む。
 そんな生徒達の最後尾に忍野 ポチの助(おしの・ぽちのすけ)はいた。
「ま、待ってください!」
「なんことできるわけないだろ! 先行ってるぞ!」
 ベルクは吐き捨てると、ポチの助を置いて飛び去っていく。
 みんなに置いて行かれたポチの助は必死に追いかけようとするが、途中で≪機晶ドール≫に狙われて逃げ回りながら雷を纏った弾丸を撃ちつけていた。