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邪竜の眠る遺跡~≪アヴァス≫攻防戦~

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邪竜の眠る遺跡~≪アヴァス≫攻防戦~

リアクション

 木々の間を走り抜ける≪迷測のマティ≫の動きを目で追いかけるベルク。
「よし……フレイ!」
「はい! なんでしょう!?」
「おまえはこのままマティを追え。
 そして俺が合図をしたら、背後から火を放て! いいな!」
 ベルクはフレンディスに指示を出し終わると、別の方向へと飛んで行った。
 フレンディスはベルクを信じて≪迷測のマティ≫を追いかけた。
 ≪迷測のマティ≫は右へ左へ移動しながらどこかへと向かっていた。
「どこかに誘き出そうとしているのですか……でしたら」
 フレンディスはスピードを上げて一気にスピードを上げる。
 だが、近づこうとしても、木の陰に一瞬視界が遮られた後に飛んでくる魔法のおかげでうまく接近できない。
「くっ、このままでは――」
 その時、突然≪迷測のマティ≫の右側から虚無霊 ボロスゲイプが現れて襲いかかる。
 ≪迷測のマティ≫がステップを踏んで回避する。
 すると――
「フレイ! いまだ!」
「マスター!」
 聞こえてきたのは間違いなくベルクの声だった。だが、その姿はどこにも見当たらない。
 一瞬、逡巡したフレンディスだが、パートナーを信じて【火遁の術】を唱えることにした。
「いきます!」
 フレンディスが放った炎が≪迷測のマティ≫に向かっていく。
 ≪迷測のマティ≫は炎を回避しようと、さらにステップを踏もうとした。
「させねぇよ!」
「なにっ!?」
 だが、突如フレンディスとは反対に現れたベルクが【我は射す光の閃刃】を唱え、退避先を塞いだ。
 【我は射す光の閃刃】とボロスゲイプに挟まれた≪迷測のマティ≫は、まともにフレンディスが放った業火を受けた。
「やりました……」
 制止して≪迷測のマティ≫を包む白煙を見つめるフレンディス。その向こうではベルクが白い歯を見せながら親指を立てていた。
 ベルクは【行動予測】で≪迷測のマティ≫が向かっていた先を予想をして先回りしていた。
 生徒達が勝利を感じ、一瞬気が緩んだ時――
「時を停める鎖―チェイン・ザ・タイム―」
 ≪迷測のマティ≫が言葉を口にすると、周囲の地面や木々から飛び出してきた無数の鎖が飛び出してきた。
 咄嗟に回避を試みた生徒もいたが、あまりの数の多さに皆、四肢を拘束されていった。
「あら、無様な恰好ね」
 腰の辺りに鎖が巻きつき、両腕を拘束されたフレンディス。地面に倒れこんだフレンディスの元に近づいた≪迷測のマティ≫は、ヒールの底で思いっきり腹を踏みつけてきた。
「うぐっ!?」

「てめぇ! フレイから離れやがれ!」

 血走った目で怒りを露わにして叫ぶベルク。しかし、鎖に体を拘束されたベルクは、助けることができない。
 必死に体を動かし、泥が身体中に付着するのも構わず、少しずつ近づく。
「フレイ! 今行く!」
「マ、マスター、ぐっ――」
 必死になっているベルクをあざ笑うかのように、≪迷測のマティ≫は踏みつける足に力を込めていく。
 ベルクは必死に呼びかけ続けた。
 少しずつ近づき。ようやく手を伸ばせれば爪の先が届くような距離までやってきた。
 なのに――
「くそっ! なんだよ!」
 繋がれた鎖が邪魔でそれ以上前へ進めない。
 フレンディスが苦しんでいる顔を見ていることしかできない。

 ≪迷測のマティ≫の手の上に炎の球体が現れる。球体は徐々に大きくなっていく。

 ≪迷測のマティ≫がベルクを見下しながら、口角を吊り上げる。
「おま――やめろ! やめねぇとただじゃおかねぇ!!」
 ベルクは必死に叫んだが、≪迷測のマティ≫がやめる様子はなかった。
「さようなら、忍のお嬢さん……」
 ≪迷測のマティ≫が特大の炎の球体を持った手を振り上げる。
 ベルクが叫びをあげ、フレンディスが死を覚悟して瞳をギュッと瞑った。
 その時――バリンッ
「な、なに!?」
「外れた……」
 ガラスの割れるような音と共にベルクを拘束していた鎖の一部が外れる。
 ≪迷測のマティ≫がベルクを拘束していた鎖の出所を振り返る。
 そこには一人皆から遅れてきたポチの助がいた。
「ええっと、これどうやって外すんでしょう?
 ……ま、いいですよね。壊せば全部一緒でしょう!」
 ポチの助は機晶爆弾を鎖が出ている木の根元へと設置する。
 その様子に≪迷測のマティ≫の表情が歪む。
「この駄犬がっ!」
 ≪迷測のマティ≫が炎の乗った手を振りかざし、ポチの助に投げつけようとする。
 それを見たベルクは――
「これ以上、てめぇの隙にはさせねぇ!」
 外れた鎖を足に巻きつけて振い、≪迷測のマティ≫の炎を持つ手に当てた。
「くっ」
 特大の炎の塊が後方の木に当たって、爆発した。それと同時に機晶爆弾が爆発し、ベルクが鎖から解放される。
 自由になったベルクはすかさず魔法を放つ。その攻撃を飛びのいて避ける≪迷測のマティ≫。
 ≪迷測のマティ≫が離れたことで、ベルクはフレンディスに近づき鎖を解除した。
「大丈夫か、フレイ……」
「はい、マスター」
 離れた所ではポチの助が他の生徒達の鎖も解除し始めている。
 ベルクが≪迷測のマティ≫を睨みつける。
「これで形勢逆転だな。仕返しをさせてもらうぜ……」
 ≪迷測のマティ≫への怒りの感情がベルクの闇の魔力に力を与える。
「派手に行くぜ!」
 ベルクの黒い魔法が≪迷測のマティ≫を包み込むように広範囲に拡がる。
 ≪迷測のマティ≫は術者を打ち取ろうと、炎の渦を唱え始めた。
 その時、≪迷測のマティ≫は黒い魔法の向こうから、向かってくるフレンディスらしきものを捉えた。
「そこか!」
 ≪迷測のマティ≫が炎の渦を、黒い魔法の向こうから向かってくる存在に向けて放った。
 炎はそれを包み込み焼き払う。
 ――だが、手応えがまったくなかった。
 代わりに気配を感じて見上げると、そこにはフレンディスの姿が。
「ちぃ!」
 ≪迷測のマティ≫がフレンディスの胴を鞭で捕らえ、地面に叩きつける。しかし、実際叩きつけられたのはフレンディスの改造制服を巻きつけた丸太だった。
「忍びの技を甘く見ないでください」
 いつの間にか≪迷測のマティ≫の背後に回ったフレンディスは、忍刀・霞月で背中を斬り付けた。
 フレンディスの身体に血しぶきが降りかかる。
 深手を負った≪迷測のマティ≫は、よろめきながらフレンディスから遠ざかる。
 だが、その先には炎の球でできた火の海が広がっていた。
「降参してください。
 もうあなたに勝ち目はありません」
 フレンディスが≪迷測のマティ≫に刀の先を向ける。
 すると≪迷測のマティ≫が笑いだし、フレンディスが眉を潜めた。
 ≪迷測のマティ≫の目にはまだ諦めの色は見えなかった。
「奥の手ってのは最後までとっておくものよ、忍のお嬢さん」
 すると、いきなり≪迷測のマティ≫の足元が盛り上がり始め、泥と苔で構成された鯨――≪沼地の泥土クジラ≫が現れた。
 ≪沼地の溶解クジラ≫が生徒達の前に立ちふさがっている間に、≪迷測のマティ≫は背後の炎の海へと飛び込んで行く。
「おい、フレイ追いかけるぞ!」
「はい!」
 ≪迷測のマティ≫を追いかけようとするフレンディスとベルク。
 その行く先を≪沼地の泥土クジラ≫が巨大な体で塞ごうとする。
 すると――
「それっ!」
 ≪沼地の泥土クジラ≫の巨体が横からの強烈な打撃により倒れた。
 フレンディスが攻撃を与えた張本人を振り返る。
「ありがとうございます、透乃さん」
「気にしないでいいよ。いいから早く行って!」
「でも……」
 透乃の台詞に、仲間を置いていくことに躊躇するフレンディス。
 すると、透乃は腕を回しながら、少しイラついた様子で答えた。
「今、全然暴れ足りなくてつまんないなぁ、とか思ってたんだよね。
 だからこいつで派手に暴れさせてもらうよ」
 透乃は口角を吊り上げて笑っていた。