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邪竜の眠る遺跡~≪アヴァス≫攻防戦~

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邪竜の眠る遺跡~≪アヴァス≫攻防戦~

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 森の中を進んでいた早見 騨(はやみ・だん)達はようやく≪隷属のマカフ≫とグレゴリー(メアリー・ノイジー(めありー・のいじー))を発見した。
 ≪隷属のマカフ≫は成人男性の見た目をした機晶姫に、記憶の入った機晶石を移しかけている所だった。
 騨は銃を握り、大きく深呼吸した。
「機晶石を入れ替えているってことは、あいつがマカフ・ブレイマン……」
 今すぐ走り出して問い詰めたかった。
 だが、行く手に≪機晶ドール≫と≪機晶自走砲台≫が立ちふさがる。そんな所に飛び込めば、騨ごときでは一瞬のうちにやられてしまうことだろう。
 騨は悔しくて、奥歯を噛みしめ≪隷属のマカフ≫をじっと睨みつけていた。
 すると、神凪 深月(かんなぎ・みづき)が騨の肩にポンと手を置いた。
「安心するのじゃ。わらわ達がマカフの所までちゃんと送り届けてやるのじゃ」
 深月が騨に向けて笑いかける。
「深月さん……」
 騨は嬉しそうに笑みを返したが、なぜか徐々にその表情が不安げになっていく。
「どうしたのじゃ、騨!?」
「…………」
「むむ、何が……」
「――マスター」
 思いがけない騨の反応に深月が困惑していると、いつの間にか隣に立っていた久遠・古鉄(くおん・こてつ)がと二の腕を指で突いてきた。
「なんじゃ、久遠。わらわはいま忙し――」
「――ん」
 久遠は自分の右目をクイックイッと指さしていた。
 深月が不思議そうに眼帯のついた自分の右目に触れる。
 しかし、深月の眼帯はいつも通りで、なんの変哲もなかった。
「なんじゃ? わらわの目がどうかしておるのかのぅ?」
 久遠がコクリと無言で頷く。
 そして彼女が気付いた真実を、無表情で告げた。
「マスターの目つきが悪すぎるんだと思います」
「…………」
 深月は言い返す言葉が見当たらない。
「目つきが悪いと、色々と勘違いされるものです。
 ですから、こういう時は先にきちんと伝えておいた方が良いと、私は考えます」
 そう言うと、久遠は騨の前に立って説明をした。
「よく聞いてください。
 確かにマスターは目つきが悪く、何か企んでいるように思えたかもしれません。
 しかし、実際は何か考えているように見えて何も考えていないような人です。実例をあげるならば、明倫館に転入する以前はふらふらと放浪の旅を続けていた。という経歴があります」
「そう、なんですか……?」
 騨は視線を動かして深月と目が合うと、ビクリと驚いていた。
 深月は笑ってはいけないと思ってじっと無表情を装っていたのだが、余計に怖がらせてしまったようだ。どうにかして勘違いを解こうと四苦八苦する深月は、どんな表情をしていいかわからずなんだか微妙な顔になっていた。
 すると――
「――くすっ」
 騨が笑った。
 誤解を解こうと一生懸命になる深月の意志が伝わったのだった。
 久遠が騨に微笑む。
「誤解は解けたようですね」
「はい」
「では、私達は道を切り開きます。
 騨さんは自分の成すべきことを成してください」
 既に戦闘を始めている生徒達の援護に向かう久遠。その背中に向かって、騨は力強く首肯した。
「マスター、攻撃を始めましょう」
「了解じゃ。まずは足を止めることにするかのぅ!」
 久遠の隣に立った深月が【その身を蝕む妄執】を唱える。
 幻覚を見せられた≪機晶ドール≫が、誰もいない空間にナイフを振っていた。
 そんな≪機晶ドール≫に久遠が冷静に狙いを定める。
「――いきます」
 久遠が引き金を引き、六連ミサイルポッドから発射されたミサイルが≪機晶ドール≫の体に直撃した。
「いまじゃ! 大人しくせいっ!」
 まともに動けなくなった深月がワイヤークロー【剛神力】でしっかり拘束した。
「マスター、やりましたね」
「うむ。まずは一人じゃな。
 ……ところで久遠」
「なんですか、マスター」
「先ほどさりげなくわらわのことを馬鹿にしておらんかったかのぅ?」
「気のせいです。それより次にいきますよ」
 じっとりした目で睨んでくる深月を無視して、久遠は他の≪機晶ドール≫を捕えに向かった。


「隷属のマカフ! いいや、マカフ・ブレイマン!
 自分の本名を呼ばれた≪隷属のマカフ≫が、目を見開いて騨の方を振り返る。
 深月達の活躍もあり、騨は数名の生徒ともに≪隷属のマカフ≫に声が届く距離まで近づいた。
 両者の間には≪機晶ドール≫と≪機晶自走砲台≫がいて、これ以上近づくことができない。
 それでも攻撃をしかけてこないのは、≪隷属のマカフ≫が騨に興味を持ち、≪機晶ドール≫と≪機晶自走砲台≫に停止するように指示を出したからだった。
「あなたに話が……頼みがあるんだ」
「ほほう、頼みとな。それに私の名前を知っているということは……ふむ、そうか。おまえの頼みというやつは……ふふふ。
 いいだろう。頼みとやらを言ってみろ」
 成人男性の機晶姫を体にしている≪隷属のマカフ≫は、口元を歪めて笑みを浮かべていた。
 完全に見下している態度。それは≪隷属のマカフ≫の圧倒的な自信からくるもので、騨には自分より何倍も大きな存在を前にしているような圧迫感を感じていた。
 騨はそんな≪隷属のマカフ≫を前に考えた。

 ≪隷属のマカフ≫は副作用を治す方法を教えてくれるだろうか。
 その前にどう説明すればいいのか。あゆむの過去から? 出会いから?
 仮に頼みを聞いて貰えたとして、何か代償を要求されるかもしれない。それはなんだろう。果たして払うことができるのか。
 その場合、交渉できるのだろうか。どうやればいいのだろう。

 頭の中がグルグルと吐きそうになる。
「ぼ、ぼく、わたし、は――」
「落ち着いて、騨」
 ≪隷属のマカフ≫に気圧されて頭が真っ白になりかけた騨に、斜め前に立つルカルカ・ルー(るかるか・るー)が落ち着いているが力強い声で話しかけてくる。
 ルカルカは目を光らせ、周囲を警戒しながら背後の騨を励ます。
「大丈夫。ルカ達が傍にいるから。だから、マカフに乗り込まれないで。しっかり自分を持って話しかけて」
 ルカルカは少しだけ首を傾けて騨に微笑んだ。
「……うん。頑張るよ」
「頑張って。絶対、あゆむを助けよう♪
 ダリル――」
 騨の返事に安心したルカルカは、視線をダリル・ガイザック(だりる・がいざっく)へと向けた。
 ダリルは騨の隣で立ち、その後方ではカルキノス・シュトロエンデ(かるきのす・しゅとろえんで)が≪猫耳メイドの機晶姫≫あゆむの護衛にあたっていた。
「どうかしたか、ルカ?」
「騨をお願いね」
「ああ、任せておけ」
「カルキもしっかりね」
「了解だ」
 二人の返事を聞いたルカルカが再び周囲の警戒にあたる。
 カルキノスの横に立つあゆむは、周囲で起きる戦闘の音に相変わらずビクビクしていた。
 すると、カルキノスはあゆむの頭に撫でた。
「怖かったら俺の鱗の突起を握っててもいいぜ」
 あゆむは手櫛でくしゃくしゃになった髪を治しながら、小首を傾げていた。
「ほら、ここ」
 カルキノスが指さす先に突起見つけたあゆむは、じっと見つめた後に不安そうに手を伸ばし、チョンと触れた。
 そして、問題ないことを悟るとしっかり握りしめた。
「……」
 口には出さなかったが、少し嬉しいカルキノス。
 すると、あゆむが掴んでいた突起から手を離し、別の突起に触れる。あゆむはそれを何度も繰り返していた。
 何か問題があったのだろうかと、若干の不安を覚えたカルキノスはあゆむに尋ねてみた。
「どうしたんだ、あゆむ? 何かあったか?」
「あ、あの……そのですねぇ……」
 あゆむは両手をバタバタしながらなんと説明しようか困っていたが、閃いたらしくポンと手を叩いた。
「迷いました!」
「何を?」
「どれを掴んだらいいか!」
「…………」
 あゆむは至極真面目な表情で訴えている。
 カルキノスは皺を寄せた眉間に指を当て、唸り声をあげていた。
 その様子に不思議そうにするあゆむ。
「あれ? なんか変ですか?」
「変というか……どれでもいいと思うのだが」
「……………」
 あゆむの顔が真っ赤になった。

「あれがおまえの言う機晶石か?」
「うん。まぁ、そう……」
 事情を説明し終わった騨は、≪隷属のマカフ≫にあゆむについて尋ねられ、紹介しようとした。
 そしたらカルキノスとこのやり取りである。
 騨は何故か恥ずかしくて仕方なかった。
「外部接続で私が記憶を移した機晶石を繋げているのか?」
「そうだよ」
 あゆむの機晶石は元々身体がなかったため、動けなくなった機晶姫の体に外部からとり付ける形で繋がっていた。
 それを聞いた≪隷属のマカフ≫が低い笑い声を漏らし始めた。
「くっくっ……そうか。そいつはあの時の女か。
 それを外部接続で機晶姫に……いいぞ!
 ≪隷属のマカフ≫が限界まで見開いた目であゆむを見る。
 その瞳に宿った狂気は、体感温度を急激に下げられるようなおぞましさを感じさせた。

「興味が沸いた! 分解! 研究! 実験! 
 スクラップごときが時を得てどのように変化を遂げたのか、調べつくそうではないか!」


「あゆむ下がって!」
 脅えるあゆむを庇うようにルカルカ達が≪隷属のマカフ≫と対峙する。
 待機していた≪機晶ドール≫もゆっくりと距離を詰めてきた。
「どうした、小娘? お前もその娘を助けたいのだろう?
 だったら大人しく私に預けた方がいいのではないか?」
「ルカはそんなことしない! そんなことを――」

「お前には渡さない!」

 ルカルカが驚いて振り返ると、言葉を遮って叫んだ騨が震える手で銃口を≪隷属のマカフ≫へと向けていた。

「あゆむをお前に渡したりなんてしない!
 僕は約束したんだ。あゆむのお兄さんと……あゆむを守るって約束したんだ!
 だから悲しい思いも、寂しい思いもさせない!
 お前からあゆむを治す方法を聞き出して一緒に帰るんだっ!」


「騨様……」
「ふんっ、お前にそれができるのか?
 銃もまともに握れないお前に、そんなことができるのか!?」

「騨ならできるわよ!」

 ルカルカが【光条兵器】ブライドオブブレイドの剣先を≪隷属のマカフ≫に向ける。
「だって騨は一人じゃないもの! あゆむもルカ達だっているもの!
 仲間がいればなんだってできるわよ!」
「仲間の絆か……不愉快な言葉だな」
 ≪隷属のマカフ≫はブライドオブブレイドを不快そうに見つめる。
 ≪機晶ドール≫が武器を取り出し、≪機晶自走砲台≫が照準を向けてくる。
 ルカが敵から視線を外さず、呼びかける。
「ダリル……」
「わかっている」
 ダリルが騨の襟首を掴んだ。驚く騨。
 そして――
「もういい! やれ!」
 ≪隷属のマカフ≫の合図と共に弾丸が発射され、≪機晶ドール≫が向かってきた。
 ダリルはダークヴァルキリーの羽を使って、戸惑う騨を連れて飛び退きながらダークネスウィップで≪機晶ドール≫を吹き飛ばす。
 カルキノスは【天の炎】で炎の壁をつくってあゆむの護衛についた。
「研究とか! 実験とか! 機晶姫は道具じゃないわ!」
 ルカルカは仲間と共に敵陣に飛び込んだ。
 勇猛果敢に剣を振いながら≪隷属のマカフ≫を目指すルカルカ。
 その侵攻を止めようと、≪機晶自走砲台≫がルカルカに照準を絞り――
「やらせませんから!」
 発射を前にして高峰 結和(たかみね・ゆうわ)によって氷漬けにされる≪機晶自走砲台≫。
「ルカルカさん、援護しますよ!」
「ありがとう結和!」
 結和が【氷術】より形成した氷を、≪機晶ドール≫に向けて放った。
 鋭く尖った氷は向かってきた≪機晶ドール≫の体を次々に貫いた。
 ダメージを受けて倒れる≪機晶ドール≫。すると、エメリヤン・ロッソー(えめりやん・ろっそー)が取り出したワイヤークローで≪機晶ドール≫を捕縛していった。
「ごめんなさい……」
 動けなくなった≪機晶ドール≫に謝る結和。罪もない相手を傷つけていることに、胸が締め付けられる思いだった。
「……」
 隣にたったエメリヤンは何も言わなかったが、≪機晶ドール≫を見つめるその視線からは、結和と同じように悲しんでいることがしっかりと伝わってきた。
「ごめん、エメリヤン。こちらの子にも拘束をお願い!」
「……(コクリ)」
 エメリヤンはアンネ・アンネ 三号(あんねあんね・さんごう)の呼びかけに頷き、≪機晶ドール≫を拘束しにいった。
 三号は気を失った≪機晶ドール≫の頭をそっと撫でる。
「ごめん。絶対、自分の意志で動けるように元に戻してあげるから……あゆむの『今』を守るって決めたから……」
 三号は過去の記憶を失くしていた。
 覚えていることは、ヒラニプラの研究所に兄弟といたことと、『先生』と『カルロット』という人物を待ってたという事だけ。
 三号はもう一度≪機晶ドール≫に謝ると、心配そうに見つめている結和を振り返った。
「結和。いつも危ない目に付き合わせて迷惑かけて、ごめんね」
「ううん、そんなことない」
 結和は首を横に振る。
「私は三号さんのパートナーですし……私もあゆむさんを助けたいですもの」
「結和……ありがとう」
 優しく微笑む結和に、三号も笑顔を返した。
「三号さん、エメリヤンさん、騨さん達をマカフさんの所まで辿りつけるように、頑張りましょう」
「……(コクリ)」
「うん」
 結和達は協力しあいながら、敵を減らしにかかる。
 エメリヤンは結和が注意を引いている間に回り込み、≪機晶自走砲台≫の弱点を攻撃して破壊していく。
 三号も≪機晶ドール≫を相手に【実力行使】で間接を狙って攻撃して、行動不能に追い込んでいく。

 ――結和達の奮闘のかいもあって、一部の生徒が≪機晶ドール≫の間を抜けて≪隷属のマカフ≫との直接対決を始めた。

「結和! 僕達も――」
「そうはさせません!」
 自分達も≪隷属のマカフ≫の元へ向かおうとしていた三号の前に、グレゴリー(メアリー・ノイジー(めありー・のいじー))が≪機晶ドール≫を引き連れて立ち塞がる。
「これ以上先生の所には――なっ、三号……!?」
 グレゴリーは三号の顔を見て驚いていた。
 だが、三号の方はグレゴリーを知らなかった。ただなんとなく見ていると、胸がモヤモヤする。
 その理由を考えた三号は、失われた過去に何か関係あるような気がした。
「あの、もしかしてあなたは僕のことを知っているのですか?
 僕の過去を知っているのですか?」
「過去を? ――そういうことか。なるほどな……」
 眉を潜めていたグレゴリーが、笑顔をつくる。
「申しわけありませんが、僕は君のことを知りません。ですから君の過去については――」
「でも、さっき僕の名前を――」
「それは君達の会話を聞いていたからです」
 グレゴリーは笑顔の奥で、今すぐ教える義理はないと思っていた。それどころか大切な人を失う苦しみを味あわせて、何も守れない絶望を与えてやろうと思った。
 一方で三号は、グレゴリーが何か知っていると確信して、捕らえてでもどうにか聞き出そうと考えていた。
 グレゴリーを捕えようとする三号の周りに≪機晶ドール≫が集まってくる。
「三号さん、無理しては駄目です!」
 三号を助けに向かおうとする結和の横から≪機晶ドール≫がナイフを手に向かってくる。
「邪魔しな――!?」
 結和が魔法を放とうとした時、横からナイフが飛んできた。
 咄嗟に回避した結和。すると、腹に蹴りが入った。
「くっ!?」
「……」
 さらに向かってきた≪機晶ドール≫のナイフをギリギリで避けた結和は、エメリヤンの助けられどうにか距離をとる。
「仲間を助けて……」
「あ、そうでした。伝え忘れましたが、僕が連れてきた機晶ドールには先生の機晶石が使われています。
 だからそう簡単にはいきませんよ?」
 グレゴリーが目を細めて楽しそうに笑っていた。
 結和は孤立した三号を心配して振り返る。
 すると――
「こっちは大丈夫だから。結和は目の前の敵に集中して!」
 三号は向かってきた≪機晶ドール≫の攻撃を回避しながら叫ぶ。
「でも――!?」
 言い返そうとした結和だったが、≪機晶ドール≫の連携攻撃に会話をしている余裕がなくなった。
「さて、君は何分くらい持ちこたえてくれるのかな?」
 グレコリーは笑みを浮かべながら剣を取り出した。