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狼の試練

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狼の試練

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第1章 力の戦士 1

「なによこれえええぇっ!」
 爆発音とともに現れたスケルトンナイトの集団を見て、リーズ・クオルヴェルは悲鳴を上げた。
 実に不満に満ちた悲鳴である。
 自分の運命を呪うというより、この、地面から爆発と一緒に白骨騎士たちが大量出没という、頭の悪そうな仕掛けに向けた不満だった。
 爆発の余波は心なしかダンジョンの外にまで影響が出ているような気がしないではない。
 戦士が試練に赴いた際に聞こえてきていた謎の爆発音と地震の正体はこれだったのかと、リーズは数年来の疑問をようやく解消した。
 ――が、まあそれはともかく。
「だあああああああぁぁっ!」
 大量出没した白骨騎士たちが一斉に飛びかかってきたので、リーズは女の子らしくない悲鳴をあげて飛び退き、それを回避した。
 リーズと共に試練に挑む契約者たちも同様である。
 さすがは契約者というべきか、一行は驚異的な身体能力で攻撃を避け、自らの武器を手にスケルトンナイトに向けて身構えた。
「な、なんか言いたいことはいろいろあるけど……とにかく、いまはこいつらを叩きつぶさないといけないみたいね!」
 真っ先に前線に足を運び、気合いの入った声で剣を抜いたのはリリア・オーランソート(りりあ・おーらんそーと)だった。
 燃えるような赤い長髪に、負けん気の強そうな金色の瞳。
 鋭い目つきをスケルトンナイトに飛ばす契約者に、リーズも同意して剣を抜いた。
「ったく……しょうがないわね。でも……これぐらいのほうが気合いは入るってもんかな」
「前向きだね」
 リーズの言葉を聞いて、エース・ラグランツ(えーす・らぐらんつ)がくすっと笑う。
「そうでもしないと、やってられないでしょ!」
 リーズはなかばやけっぱちになるように答えて、
「いくわよ、リリア!」
「ええっ!」
 リリアとともにスケルトンナイトの集団の中へと飛び込んでいった。
 花妖精のリリアが振るうは、ソード・オブ・リリアと呼ばれる、ティル・ナ・ノーグの伝説の英雄が使っていたというものを、自分専用に打ち直した細身の剣である。
 気合いの一閃で敵を斬り裂いていくリーズに負けじと、リリアの剣は鋭い剣線を描いてスケルトンナイトを次々と倒していく。
 二つの燃えるような真っ赤な影が、まるで踊るように敵を斬り伏せる。
 こうしたとき、普段は自分こそが前へと出ようとして暴走気味になるリリアだったが、今回は自制が効いているようだ。彼女も少しは成長したということだろうか。
 電撃を放つサンダークラップで敵集団の動きを止めるなど、別の契約者の手助けにもなるように動いていたメシエ・ヒューヴェリアル(めしえ・ひゅーう゛ぇりある)は、
「…………」
 リリアに視線を送ると、少し不安げに眉をひそめた。
「そう心配そうに見なくても大丈夫だよ」
「……別にそんなつもりではないですよ。ただ、足を引っ張らなければ良いと思っただけです」
 エースに指摘されて、彼は何事もなかったかのように視線を戻した。
「私がこのダンジョンにやってきたのは、いまだにこんな通過儀礼が残っているということが珍しかっただけですからね。民俗学的にも、興味深いですし。……それに、リリアも少しは自分の身の丈が分かってきたようです。それほど、無茶はしないでしょう」
 言いながらも、リリアの声が聞こえるとメシエの眉はぴくっと動く。
 エースはそれを見逃してはいなかった。
 まったくこの吸血鬼ときたら……と、声には出さないが、心の中で少しだけ呆れる。しかし、困りものなのはなにもメシエに限ったことではなさそうだ。
 この『狼の試練』に対して異様にやる気に満ちているリリアも、『この試練をクリアしたら、名実ともに一人前だって認めてもらえるんでしょ!』と、明らかに画策している目をしていた。
(なにも、試練をクリアすれば誰でも一人前と認められるってのとは違うと思うんだけれど……)
 エースはそう考えて内心で苦笑する。
 しかし、彼女のやる気を削がすわけにもいかないだろう。意地を張るメシエともども、彼は温かく見守るつもりでいた。
 それに、そうでなくとも今は、わざわざそこに口を挟むような暇もなさそうだった。
 スケルトンナイトの集団を分断するように真ん中に割って入っていく契約者たち。一行の先頭を陣取るリーズとリリアら、剣を武器に戦う白兵集団はともかく、後方部隊は少しずつ左右から押されそうになっている。
 どうしたものかと考えるが、迎え撃つ契約者の一人――つリカイン・フェルマータ(りかいん・ふぇるまーた)にとってはそれこそが好都合なことだった。
 なぜなら、彼女は歌姫(ディーヴァ)だ。
 ディーヴァの放つ咆吼はその威力こそ桁違いなものの、敵味方を問わずに攻撃してしまう可能性がある。使いどころが難しい技なのだ。しかし、こうして敵が大勢で囲んでくるのであれば――
「みんなっ! どいて……ッ!!」
 リカインは仲間たちに声をかけた。
 彼女の声に従って、後方部隊は前線の方へと退避する。
「ヴィゼント! 指示を!」
「了解です、お嬢」
 答えて、ヴィゼント・ショートホーン(びぜんと・しょーとほーん)はリカインの咆吼データと敵集団への入射角度を計算した。
 アフロヘアーに黒いサングラスに黒スーツ。いかにも厳つい格好だが、その指先は繊細かつ精巧に動く。
 彼はテクノコンピュータが打ち出したその結果をリカインに伝えた。
「…………ッ!」
 準備は整っていた。
 リカインの艶やかな唇が大きく開かれると、そこから膨大なエネルギーを含んだ咆吼が放射される。すさまじい衝撃波となったそれは、スケルトンナイトを次々と吹き飛ばしていった。