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第三章

――玄関ホール。

「……随分と捕まったんだな……というか、こんなに今回は居たのか」
 捕縛された者達を見て、根暗モーフリーダーが呆れた様に呟いた。
 今ホールに集められた捕縛者は10名。それに加えて、他に捕まえた者も合わせると倍近くになる。
「……で、これは一体どういう状況なんだ?」
 リーダーがちらりと捕縛者と仲間に視線を移す。
 レイナ・ミルトリア(れいな・みるとりあ)ウルフィオナ・ガルム(うるふぃおな・がるむ)ガルム アルハ(がるむ・あるは)、そしてリコリス・リリィ・スカーレット(りこりす・りりぃすかーれっと)を捕まえた者達は何故か泣いていた。
 それに対し佐野 和輝(さの・かずき)アニス・パラス(あにす・ぱらす)禁書 『ダンタリオンの書』(きしょ・だんたりおんのしょ)松永 久秀(まつなが・ひさひで)を捕縛した者達はこれまた様々な様相を呈している。
「まぁ……簡単に説明するわ……」
 武装した根暗モーフがリーダーに状況を説明した。
 レイナ達の場合、最初に追いかけた時に運悪くレイナとウルフィオナ達がはぐれてしまった。
 何とか仲間内で合流しようと試みたものの、何処かに逃げ込む事も出来ず廊下で追いかけっこ状態になってしまう。
 館内の地理は当然根暗モーフ側の方が詳しい。全員逃げ切る事も出来ず、捕縛されてしまったのであった。
「で、その際何かスゲーキャーキャー言われたらしいんだわ。捕まったら何されるかわからないってくらい……」
「あー……で、傷ついて泣いているってのか」
 納得したようにリーダーがちらりと視線を移す。
「……あのー、泣きたいのはこっちなんですけどー……」
 さめざめと泣く根暗モーフ達を見てレイナが困ったように言った。
「姐さーん……アイツら変だよぉ……」
「しっ、目を合わせるな。何されるかわかんねーぞ」
 縋りつくガルムを隠す様にウルフィオナが前に出る。
「そ、そーよ! 女の子追いかけ回す奴なんてろくなのがいないわよ! キモいのよ!」
 ウルフィオナの言葉に続く様にリコリスが言う。
「ひでぇ! こいつらひでぇ!」
「俺達のガラスのハートを平気で傷つけるようなことを言いやがって! 心弱い奴だったら死んでるぞ!」
「大体俺達が手を出す訳ねぇだろ! 畜生妄想の中で好き勝手してくれるわ!」
 そう言って泣きながらウルフィオナ達をじーっと見る根暗モーフ達。ガラスのハートの割には結構逞しかった。
「まぁいつも通りだな」
「まぁそうなんだよな……で、こっちなんだけど」
 続いて佐野達。こちらに関しては探索中の話である。
 襲って来た根暗モーフを佐野は何とか迎撃しようと試みたのだが、佐野の仲間達は全員10代少女&幼女の見た目はハーレム。
『こんなリア充殺らずにはいられん』と全力を出した根暗モーフ達にフルボッコにされ、あえなく捕まってしまったのであった。
 で、今どうしているかと言うと。
「ねぇねぇ、今どんな気持ち? ねぇ今どんな気持ち?」
「『アイツを助けるんだよ!』みたいな口叩いてあっけなくやられてねぇどんな気持ち?」
とまぁこのように佐野の周囲を小馬鹿にするようにニヤニヤとぐるぐる回っているのであった。リア充ざまぁ。
「こ、こいつら超うぜぇ……」
 物凄いいらっと来る状況であるが、捕縛されている事もあり逃げる事も敵わない佐野が苛立ちを募らせる。
 他のメンツに関しては、
「いやー! 触るな触るな触るなー!」
アニスは何とか逃げようと手近の根暗モーフに涙目で【稲妻の札】を連発している。
「って何で効かないのぉー!? なんではぁはぁ息荒いのぉー!? 怖いよぉー!」
が、館内で弱体化している電撃が効くわけも無く、その上幼女の涙目なぞその道の者にとっては御褒美でしかなかった。
「寄るなペド。というか呼吸するな。酸素が減る」
「ええ、腐った豚如きが呼吸するだなんて贅沢にも程があるわね……あら、息が荒いわね? 興奮してるの? こんな少女に罵られて興奮してるの? 本当に救いようがない豚ねぇ〜?」
 一方、『ダンダリオンの書』と久秀の方はと言うと口汚く捕縛する根暗モーフ達を罵っていた。どう見てもその道の者にとっては御褒美でしかないシチュエーションである。
 その言葉にその道の気がある根暗モーフ達は身を悶えさせ、それを軽蔑しきった眼で見る『ダンダリオンの書』と悦に浸る久秀。
「まぁいつも通りか」
「いつも通りか、じゃないわよ! とっととほどきなさいよこの変態どもがーッ!」
 縛られたセレンフィリティ・シャーレット(せれんふぃりてぃ・しゃーれっと)が噛みつかんばかりの勢いで吼える。
「よしなさいよセレン……相手を喜ばすだけよ」
 その隣で同様に縛られているセレアナ・ミアキス(せれあな・みあきす)が何処か諦めたような口調でセレンフィリティを宥める。
 セレンフィリティとセレアナは、館内の地図を見て挟み撃ちを狙う作戦に出た。
 セレンフィリティが根暗モーフを挑発。追いかけられる中で、セレアナが隠れている場所へと誘い出して挟み撃ち。相手の武装を奪い取るという物だ。
 果たして作戦はどうなったかと言うと、追い込むことまではできた。狙い通りセレンフィリティが追いかけられ、セレアナが隠れている場所まで誘い込む。だが、
「……まさか天井があるとはねぇ」
 ため息混じりにセレアナが呟く。
 追い詰めた、と思った直後。天井をぶち破り援軍が現れたのであった。
 地図には載っていない思わぬところからの襲撃に、一転不利になるのはセレンフィリティとセレアナ。あっという間に追い詰められ、捕縛されることとなったのであった。
「で、今の所これで全部か?」
 ぐるりと見回してリーダーが言うと、隣にいた根暗モーフが首を横に振る。
「いや、まだ一人逃げている奴がいる。今何人かで追いかけている所だ」