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――西館2階、美術室。

「「……うわぁ」」
 扉を開き、部屋に足を踏み入れた小鳥遊 美羽(たかなし・みわ)コハク・ソーロッド(こはく・そーろっど)がひきつった表情を浮かべる。
 そこにあったのは絵画やらポスター、ケースに飾られているような大きさから等身大レベルの様々な大きさのフィギュアを始め、マニアなら垂涎物であろう様々な物が陳列してある。様々な物があるのだが、大半は萌え絵な物なのは気にしてはいけない。
「随分集めたわね……まぁ、確かに美術よね。間違ってはいないわ、うん」
 周囲を見回し、アリアンナ・コッソット(ありあんな・こっそっと)が納得したように頷く。
「これも日本文化みたいなものなんでしょうかね」
 矢鱈と肌色の多い萌え絵なポスターやフィギュアを眺め、ロレンツォ・バルトーリ(ろれんつぉ・ばるとーり)が呟いた。まぁ間違えてはいない。
「で、これどうしましょうかね? 燃やします? こう、ぱーっと」
 笑顔でマルティナ・エイスハンマー(まるてぃな・えいすはんまー)がとんでもないことを言い放った。
「いやいやいや、燃やしてどうするの」
 アリアンナに突っ込まれるが、マルティナは笑みを浮かべたまま言う。
「心の拠り所を失えばあの変t敵のやる気も削がれると思いまして。これ、大切な物なのでしょう?」
 マルティナの言う通り、美術室にある物は全て綺麗に飾られており、大切にされているというのがよく解る。
「いや、大切な物なら燃やすより盾に使えるでしょう……少し拝借していきますか」
「うん、そうだね。追われた時とかに役に立つかもしれないよ」
 ロレンツォの言葉に美羽が頷き、ケースを開く。
「うーむ……コレクション類はコンプが命、と聞きますからね……似たような物から少しずつ拝借しますか。後等身大のは武器になりそうですね」
「何処となく嬉しそうね、ロレンツォ」
 フィギュアを物色するロレンツォを見て、アリアンナが何処となく複雑そうな表情を浮かべる。
「ええ、これも日本文化の一つですし、興味深い物があります。もっと違う機会で触れたかったですね」
 まぁ間違ってはいない。
「それじゃ僕達も持っていく物探そうか」
 コハクに促され、美羽も別のケースを開ける。
「うーん……いざとなったらばら撒けるような物の方がいいよねー。向こうが拾ってる隙に逃げられる……しぃッ!?」
 ケースの中を覗き込んだ美羽が上ずった声を上げる。
「どうしたの?」
「コハク! 見ちゃダメッ!」
「え、ってぐあぁッ!? 目が! 目がぁ!」
 美羽の目潰しがコハクに華麗にクリーンヒット。どうやら中は見てはいけない物だったらしい。何があったかはご想像にお任せする。
「ふぅ……コハクを汚さずに済んだよ……」
 目潰しの痛みに床にのた打ち回るコハクを見て、美羽が額の汗をぬぐう仕草を見せる。代わりに怪我させてどうする。
「どうかしましたー?」
「え!? う、ううんなんでもないよ!?」
 何やら抱えているマルティナに話しかけられ、慌てた様子で美羽が適当にコレクションをかき集める。
「もういいですかね。一ヶ所にとどまっても危ないですし、そろそろ行きましょうか」
 ロレンツォの言葉に一同頷き、美術室を後にする。
――矢鱈と肌色の多いフィギュアやらなんやらを抱える一同の姿は、それはそれは怪しい物であったそうな。

――中庭、車庫。

「……あった」
 車庫に忍び込み、目的の物を見つけた高崎 朋美(たかさき・ともみ)が呟く。
 目的の物は車。型は古いが、手入れはしてあるようで全く使われていないというわけではなさそうであった。
 朋美の目的は脱出の為の機動力確保である。車が動けば、十分な機動力になるし、十分武器にもなる。
「予定通り、ボクは車を整備するからそっちは任せたわ」
「はいはい、了解したわぁ」
 高崎 トメ(たかさき・とめ)が【アーミーショットガン】を構えて頷く。整備の最中は無防備になる為、トメが護衛する手筈になっていた。
「なら俺は納屋の方を見てくる。何かあるかもしれないからな」
 ウルスラーディ・シマック(うるすらーでぃ・しまっく)が言うと、朋美が少し不安そうに表情を曇らせる。
「油断しないでよね。何があるかわからないから」
 わかってる、とウルスラーディが手をひらひらと振り、納屋へと向かう。
「……それじゃ始めるよ」
 ウルスラーディの背中を見送った後、朋美は見つけた整備用工具を地面に置き、車のドアに手をかける。鍵はかかっておらず、すんなりと抵抗なく開く。
 身体を滑り込ませるように運転席へ乗り込み、ダッシュボードを調べると中から鍵が出てきた。エンジンキーである。
 それを差し込み、捻る。二度三度、と繰り返すとエンジンが唸りを上げ出した。
「……動くのは問題なさそうね」
 エンジン音を聞いて朋美が呟く。異常はない。
 ふと、バックミラーが目に入った。朋美が目をやると、そこには警戒しているトメの姿が見える。
「……ん?」
 ミラーの隅に、何かが見えたような気がした。が、目を凝らしてもう一度見ても何もない。
「気のせいかしら……ううん、駄目駄目。集中集中!」
 パン、と気合を入れる為に朋美は顔を両手で軽くたたく。そしてもう一度ミラーを見た。
「え――」
 朋美が目を見開く。そこで目にしたのは、紙袋を被った何者かの姿――

「……ん?」
 運転席から物音を聞いて、トメが振り返る。
 整備作業をしているのであれば音などするのは当然。だが、何か嫌な予感めいたものを感じ、そっと車に近寄る。
 運転席には朋美が座っている。だが、様子がおかしい。ピクリとも動かないのだ。
 警戒しながら近寄り、座席を覗き込む。そこに居た朋美の姿を見て、トメは目を見開いた。
「……!? 朋美!? あんたどないしはったん!?」
 朋美は確かに座席にいた――目を閉じてぐったりとした様子で。
「朋美! どないしはったの!? 朋美!」
 トメが呼びかけても返事が無い。
――そして、朋美に呼びかけるのに夢中なトメは、後ろのウィンドウが開いた事に気付いていない。

「……どういうことだよ」
 何か嫌な予感を感じたのか、戻ってきたウルスラーディが目にしたのは異変。
 そこに車はあるが、トメの姿が無い。トメが朋美を置いて勝手に何処かに行く、なんて事はまず無い。何事か起きたと考えるのが正しい。
「……冗談じゃねぇぞ全く……ん?」
 後部座席の扉がわずかに開いているのが見える。
「……よし」
 ウルスラ―ディが気配を殺しつつそっと車に近寄る。そして窓から中を覗き込むが、暗くてよく見えない。
 そっと扉を開けた。瞬間。
「んぐッ!?」
 ウルスラ―ディの上体が、車に引きこまれる。そして何かが首に回され、絞められる。
「ぐおぉぉぉぉ!」
 ウルスラ―ディはもがき、逃れようとするが身動きは取れず、手足をバタバタと動かすだけで精一杯だ。
「あ……ぐ……」
 必死に足掻いていたウルスラ―ディの手足は、やがてぐったりと力を失い垂れる。
 全く動かなくなったウルスラ―ディの身体は、そのまま車に引きこまれる。それと入れ替わる様に、紙袋を被ったパンイチの男が車から出ると、扉をバタンと閉めた。