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【祓魔師のカリキュラム】一人前のエクソシストを目指す授業 6

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【祓魔師のカリキュラム】一人前のエクソシストを目指す授業 6

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第9章 林間合宿・After Story1

「突然だけど、弥十郎さん。食いしん坊が満足しそうな料理作ってほしいんやけど」
「本当に突然だね、陣さん」
 村に到着するなり、陣に呼び止められた。
「食用肉の余りもので何かできないかなぁ。それならケルピーさんもお腹いっぱいになると思うよぉ」
「じゃ、血腸でいいんじゃない?」
 血の味も好きそうだから、それでどう?と斉民が言う。
「ブラッドソーセージだっけ?」
「そうそう、これならいろんな味付けもできるよね?」
「なるほど。生臭いもの好きみたいだし、作れば被害も減るかもしれないね。考えてみるかなぁ」
 人の肉を喰いたい、と言っていたし、いくら新鮮でも生肉は臭みがありそうだ。
「まぁ、普段…ワタシたちが食べているものも肉類があるし。食べ物って無駄にしちゃいけないなー…って、つくずく思うよ」
「でも黒い物体はNGよ?」
「何のこと?」
「ほら、もう忘れたふりしてるし…。私は何でも知ってるのよ」
「あー…。あれって漢方薬にもいいっていうよ」
「ごめん、ほんとごめん。それだけは無理だわ」
 丸ごとでたりしたら、それこそ畏怖の魔法にかかった感じになりそうだ。
「ぁのー、料理はー…?」
「―…あっ、ごめん。レストランの厨房を借りれられたら作るね♪」
 弥十郎は何やら嬉しそうに厨房目掛けて走っていく。
「ていうかあの顔、絶対借りる気だわ」
 昼食に“未知の食材”を吟味していた表情が今でも忘れられない。
「私もパックに詰めるくらいは手伝ってやらなきゃね」
 はぁ…と嘆息しつつも、厨房に向かう足取りはまんざらでもなかった。
 斉民の去り際に“マジ料理一家やね”と言った陣のセリフは、彼女の耳には届いていない。



「そろそろ腹が減ったな」
 カルキノスがぐぅ〜…っと切なげに腹の音を響かせた。
「こんなこともあろうかと」
 コテージの冷蔵庫で冷やしていたプリンをダリルが見せる。
「昨日冷蔵庫に入れておいたんだ」
「用意がいい…って、昨日?やべぇ、てっぺん越えてるじゃねぇか」
 その日のうちに解決させる意気込みだったが、携帯の時間を確認すると…とっくに0時を過ぎていた。
「プリンはふわとろで凄く美味しい!」
 腹ペコ娘のルカルカは、さっそくプリンに手をつけた。
「おいルカ、立ち食いするな」
「やーだっ。美味しいのは早く食べたいもん。0時過ぎるとかもうね…夕飯終わってるレベルじゃないの」
「バナナプリンじゃないのか」
 淵も食べてみるが、…いつものシリーズではないのか?と首を傾げた。
「別にバナナに拘っていたわけでは…」
「えー、バナナじゃないのー?」
 拘っていたのはルカルカのほうで、要求されていたダリルは作っていただけだ。
「嫌なら食うな」
「やん!」
 とりあげられそうになり、ルカルカは自分の口元へ寄せる。
「それにしてもなぁ、淵…」
「ん、なんだ?」
「二言目がデザートか。今日…ていうか、日付的に昨日か。なんか珍しく寡黙だったな」
「―…はっ!いや、それはだな…。裏方として、黙って働いていただけだ」
「いやいやそれにしても、切なげじゃねぇか」
「そうだった?ルカはいっぱい喋ったかも♪」
「うん、お前さんはそうだな。はははっ」
 遊んでいるわけでも、無駄な雑談をしているわけでもなかったが、比較するとどうなんだ?とカルキノスがからかう。
「男は…無駄にべらべらと喋るものではなかろうっ」
「へぇ?まじで“本番は一言”でいいのかよ」
「それは困る…」
「ま、今日はここでたくさん話しとけ、淵」
「ここだけの話し♪ってことかしら」
「テレビの番組枠みたいに言うな」
 顔では怒っているが、プリンを食べるスプーンは止まらない。
「淵特番ってことね」
「いや、お子様特番だろ」
「ほしいですぅう!!」
「オイラも食べたいっ」
 プリンの香りを嗅ぎつけたエリザベートとクマラがやってくる。
「ルカ、もう1個!」
「ダリルって保育士だよな」
「お、…俺は子供ではないぞっ。絶対に子供ではない!」
 お子様トリオ扱いされた淵が抗議する。
「あぁそうだな」
「なんなのだ…この扱いのありさまは…」
 お子様扱いされた淵特番に、淵はプリンを食べながらどんよりと沈んだ。
「セイニィにもやるか」
「確かね、ベンチのところにいたよ」
「分かった」
「ルカも行く!」
「心配なのは分かるが、来るな…」
「やーんっ」
「ロマンが減るからな」
「何よ…酷い、泣いちゃうわ」
 ルカルカはプリンを手に涙目になる。



 ダリルと淵が村のベンチへ行くと、セイニィは牙竜の膝枕で眠っている。
「寝ているのか?」
「あぁ、軽症の傷は林の姉さんに治してもらったが…だいぶ衰弱しているようだ」
 ほとんど丸一日、飲まず食わずの状態にされていたせいで、かなりぐったりしている。
「―…ダリルが作ったプリンがあるのだが…」
「起きたら俺が渡そうか?」
「そうしてくれるか?」
「ん……」
 3人の話し声にセイニィがよやく目を覚ました。
「あ、あなたっ。何すんのよ!?」
「いや、何もしてないが…。エリザベートのところへ行く途中の記憶が…ないのか?」
「えっと…んー。森でなんか声が聞こえて……。そこから先、なんか覚えてないのよね」
「そうなのか…」
「ここまでお姫様抱っこしてきたの牙竜よ?」
 ベンチの後ろからルカルカがニュッと顔を出した。
「ルカは知っている、ルカは知っている♪大事なことなので、2度言ったわ」
「へ…ぇえええ!!?」
「聞いた話だけどね…。フフフッ♪でどころはナイショ」
「ちょっと、あなた……。いつまでくっついてるのよっ!」
 セイニィはプンスカ怒り、彼からパッと離れた。
「牙竜、プリンをセイニィに渡してやれ」
「あ、あぁ…」
「弱った胃にも負担にならない。体力回復にも効果的だ」
「くれるっていうから、もらってあげるわ」
「なんと色気のない…。お主の物言い、もう少しなんとかならぬのか」
 相変わらずツンとした態度に、淵が呆れ顔をする。
「無理。そういう国柄だから」
「はぁー…これでは嫁の……」
「何よ?あなた、あたしにケンカ売ってるの?」
「ずいぶんと元気のようだな…」
 山猫のような目でキッと睨まれ、これ以上からまれてはたまらないと、それで言葉を止めた。
「ねぇ、これがダリルが言ってたロマン?」
「こんなはずじゃなかったんだがな」
「ロマン……、んー…そうだ!ねぇ、弱ってるなら食べさせてあげたらどう?」
 ルカルカは何やら閃いた様子で言い、ニヤニヤと提案する。
「はっ、はぁああ!?ありえないわ」
「じゃあ、ルカたちはフェードアウトするわ♪」
 片手を振りルカルカはダリルと淵も、フェードアウトさせた。
「えっと、セイニィ。一人で食べられるか?」
「当たり前じゃないの。あ…」
「ほら、スプーン落とすところだったじゃないか。…口、開けろよ」
「え、嫌よ」
「プリン食べないのか?」
「食べるわよ!…誰か見てたら牙竜のこと、100回殴るからねっ」
「なんでそうなるんだよ。ほら…」
 牙竜はプリンをスプーンですくい、セイニィに食べさせてやった。
 食べ終わると美羽とベアトリーチェ・アイブリンガー(べあとりーちぇ・あいぶりんがー)が、セイニィを食事に誘いに来た。
「ん、えっと…借りてもいい?」
「あ…あぁ」
「借りるもなにも、牙竜のものじゃないから!」
 ツンッとした顔で行ってしまった。
 ぽつんと独りになった彼のところへ、章がやってきた。
「これ、アルギエバくんに渡してみたら?ここ名産のアロマキャンドルだって♪」
「いいのか…?」
「さっき見かけたけどアルギエバくん、食堂にいくのかな?」
「美羽たちが誘っていったな」
「そうだったんだ…」
「なんていうか、まだ付き合う…までじゃないからな」
「―…切ないね。でもね、恋愛したいなら遠慮しちゃいけないよ!好きなら、ちゃんと答えを聞かないとさ。樹ちゃんたちが待ってるから、じゃあね」
 章はそう告げるとレストランへ向かった。
 答えを聞きたいが皆の前でっていうことなると、どうなんだろうな…と考え込む。
 セイニィはそういうの嫌じゃないだろうか?などとばかり思考を埋め尽くす。
「やっぱり、ちゃんと答えを聞かないとな」
 牙竜はキャンドルを手にレストランへ駆け込んだ。