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夏の終わりのフェスティバル

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夏の終わりのフェスティバル
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第七章 厄介事に好かれる男


「今日は、昨日みたいな客の入りにはならないよな?」
 すがすがしい朝。商店街の路地を歩いているのは、アイリ・ファンブロウ(あいり・ふぁんぶろう)柊 恭也(ひいらぎ・きょうや)だ。
「お前らそんなにメイドが好きか?! ってレベルの繁盛具合だったけどな」
 恭也は、アイリにロシアンカフェでのバイトを教えてもらい応募したのだった。
「それに忙しいのも今日の3日目、遅番で終わり……。いや、本当頑張ったね俺は」
 恭也とアイリは、早番の仕事は入っていない。
「アイリはこの後どうするんだ?」
「私はパトロールに行こうと思います」
「そうか。行ってらっしゃい」
 恭也がどこへ遊びに行こうか、と考えていると、
「何を言っているんですか? 同じ魔法少女として、パトロールに付き合ってくれますよね?」

 恭也の考えが打ち砕かれるまでの時間、約二秒。アイリが当然のことのように言い放った。

「……いやいやいや。アイリお嬢様こそ、何を仰っておられやがりますか?」
 恭也はピクリと眉毛を動かした。
「俺は今日アイリと同じシフトな訳ですよ? つまり朝は自由なんですよ?」
「関係ないです」
「関係ない!? 俺はアイリの下僕かなんかかい?!」
「大体そんなものですね。それでは、行きますよ」
「ちょっ、おまっ、おいっ、マジかぁぁぁぁ!?」
 恭也の悲痛な叫びにも動じず、アイリはすたすたと歩を進める。
「あーもう分かりましたよアイリお嬢様! パトロールに付き合えば良いんだろ!?」
「それでいいんです」
 もはや突っ込む気力も失せ、うなだれたようにアイリの後をついて行く恭也。
「なぁアイリ、風紀の連中は大丈夫なのか? ……もしかして、既に俺もお前と一緒に風紀のブラックリスト入りしてたり?」
 と、恭也が呟いた瞬間。
「……げ、話をすればなんとやら」
 恭也の視線の先に、腕章をつけた二人の学生が現れた。
「いえ、あれは違いますね。腕章が違いますし、何より黒制服ではありませんから」
 ぽん、とアイリが恭也の肩を叩き、引っ張っていった。


「まったく、商店街の人にも困ったものね。風紀委員もいるんだから、そっちに頼んでくれればいいのに」
 仁科 姫月(にしな・ひめき)はぶつぶつと言いながら、商店街の巡回をしていた。
 姫月は商店街の人に頼まれ、渋々巡回警備を引き受けていたのだ。
「この巡回が終わったら、どっか寄って行こう。だから、それまではがんばれ」
 成田 樹彦(なりた・たつひこ)は、そんな姫月に苦笑しながらも、姫月の様子を見守っていた。

 口では文句を言っているものの、しっかりと辺りを警戒している姫月。
 そんな姫月が、すぐ先の十字路を横切っていくキロスを見逃すはずもなかった。
「あれは――昨日騒ぎを起こしたキロス・コンモドゥスね。マークするわよ」
 キロスが昨日の騒動に懲りず、また祭りにやってきたのは外でもない。
 昨日上手くいかなかったリア充に、今日こそなってやろうと目論んでいるのだ。

 姫月が素早くキロスの方へと歩いていこうとした瞬間、樹彦はキロスと逆方向の道から現れた白衣の男に目を止めた。
「フハハハ! 我が名は世界征服を企む悪の秘密結社オリュンポスの大幹部、天才科学者ドクター・ハデス!」
 高笑いと共に現れたのは、ドクター・ハデス(どくたー・はです)だ。
「向こうからも何か来るよっ!」
 樹彦は、ハデスを見て警戒する。
 そんな緊張した空気が漂っている中、ハデスの隣にいるアルテミス・カリスト(あるてみす・かりすと)は、すれ違ったキロスの背をじっと見つめていた。
 なぜかは分からなかったが、アルテミスはキロスを見ていると胸が苦しくなった。
 キロスが一歩足を踏み出すたび、何かを探すように顔を振り向かせるたび、アルテミスの鼓動はドキドキと高鳴った。

 ハデスも、アルテミスがキロスを見つめる視線が普段と違うことに気付いた。
 その様子に、天才科学者の勘がピキーンと閃いた。
「この視線、アルテミスが剣のライバルであるキロスに向ける、熱い敵意の眼差し!」
「……はっ! さては、これは、あのだらしないキロスさんに対する、怒りの心?!」
 アルテミスもピキーンと閃いたが、鈍感で恋を知らないアルテミスのこと、これも大いなる勘違い。

 しかし、ここには二人の勘違いに気付く人も、訂正する人もおらず。

「ククク、アルテミスよ、悩む必要はない! こういうときは、行動あるのみだ! 名付けて、『アルテミスとキロスを二人きりにさせよう作戦』!!
 我らも、お前たちが二人きりになれるようサポートするので、小細工なしで正面からアタックするのだ!」
 ハデスの言葉だけを聞いた奇稲田 神奈(くしなだ・かんな)は、うんうんと何度も頷いて肯定する。
「うむうむ。やはり、恋心は素直に伝えねばな」
 神奈は、ハデスとアルテミスが勘違いしていることを知らないまま、作戦に加担することを決意した。
「アルテミスよ、わらわもお主を応援するぞ!」
「ありがとうございます!」
 気合いを入れ直し、キロスに近付いていくアルテミス。
 アルテミスに背を向けるように立った神奈が両腰の刀を抜く。どこからともなく、オリュンポスの戦闘員たちも現れた。
「人の恋路を邪魔する者は、わらわが相手になってやろう!」

「やっぱり騒ぎを起こす気ね! 止めるわよ!」
 神奈の様子に気付いた姫月が駆け出すと同時に、アイリも動いた。
「助けに行きましょう!」
「もちろん俺もですよねー。というか、まあ、見過ごすわけにはいかないしな」
 アイリと恭也も騒動の中心地点へと駆けていく。その中央で、アルテミスはキロスに向き合っていた。

「キロスさん。私はあなたのことを見ていると、なんだか心臓がドキドキするんです」
 唐突に、告白のようなことを始めるアルテミス。
「突然なんだぁ? つか、それって――」
 しかし、キロスが言葉を紡ぐ前にアルテミスは腰の剣をすらりと抜いた。
「さあ、キロスさん、このオリュンポスの騎士アルテミスと勝負です!
 私が勝ったら、リア充がどうとか言えないように、私が一日中見張らせてもらいます!」
「――んだよ、俺とやりあおうってのか?」
 キロスも腰に差していた剣を抜く。
「……おもしれぇ。上等だ、かかってきな!」

「商店街で暴れるなんて、何のつもり!?」
 どうにか神奈を捕らえようと、姫月は剣を振るいながら問いかける。
 しかし、アルテミスが上手くいったのか気がかりな神奈は、それどころではない。
「アルテミスは無事に告白できているじゃろうか……」
 戦いながら、ちらりと振り向いた神奈の目に、キン、と組み合うアルテミスとキロスの剣が見えた。
「って、物理的にアタックしてどうするのじゃっ!」
 神奈の突っ込みは届かない。
「今だ! 斬りかかるのだ!!」
 ハデスはアルテミスの攻撃にアドバイスをしている。しかし、相手はキロスである。
 アルテミスの剣は防戦の一方で、攻撃を入れる隙がない。