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〜 phase 10 〜
 
 「良かった、無事だったんですね、泪さん、パフュームさん」
 
それぞれが目指した最上階への通路はみごと一本につながり、一つの大きな扉の前に全員を集合させた
パフューム・ディオニウス(ぱふゅーむ・でぃおにうす)や【アダム】そして卜部 泪(うらべ・るい)達も無事合流し、無事を確認する中
扉の前で待っていたアイビス・エメラルド(あいびす・えめらるど)が到達者の姿を確認して安堵の声を出した
 
 「アイビス達も来てたんだ、よく無事で……」
 「ええ、でもここまで戦ってくれたのは彼ですから」

彼女と朝斗の姿を見て喜んだパフュームにアイビスがパートナーを見ながら微笑む
それを些事のごとく受け流しながら朝斗が言葉をつづけた
 
 「それでも戦闘は最小限にさせてもらったけどね、もとより僕達、いやアイビスには戦闘の意志はないよ
  彼女目的は説得だ……どんな経緯で【カオスフリューネ】達が誕生したのかは知らないけど、消えて欲しくないってね」
 「あちらの人も同じみたいです……まぁ向こうは【フリューネ】さんの救出が一番みたいですけど」
 
彼の言葉にアイビスが頷きながら隣を指差す
その先には憮然とした表情のシルフィスティ・ロスヴァイセ(しるふぃすてぃ・ろすう゛ぁいせ)が立ち、今の言葉に抗議をはじめる

 「か、勘違いしないでよ!こっちはアイツを笑いに来たのよ!日ごろの仕返し代わりに!!
  憎き伊達乳がプログラムにおもちゃにされてると聞いてこれはチャンス!ときたものの
  ここでぶちのめしても何か自慢できる気がしないし……かといって現実に戻ってからじゃまさに世界の全てが敵状態?
  だから、終わった後にひとつ趣向を考えたんだけど、アイツ助けないと無理じゃん?だからやむなくって感じ!?」
 
全員激戦で疲労が重なる中、よくまぁマシンガンのように言葉が浮かぶもんだと感心する泪
だが、ここに辿り着いた者達はみなそれぞれの想いをもって来ているのだ……その想いに今更体が足を引っ張る筈もない
見ればたった今、塔の吹き抜けのような一角から部屋のような建築物がせり上がり、眼前のテラスに停止したようだ
どういう仕組みは解らずとも、展開したマップに表示された建造物内のプレイヤー表示から
中にいるのが【モエフリューネ】攻略御一行様だと理解した

見ればラスボスとの残存体力が少ないものの、パートナーの希望で門の前に立つ者もいる
特に、同じ【電脳の存在】としては放っては置けない【我が子】ことナビゲーションAIの心情は大きい
騎沙良 詩穂(きさら・しほ)の手を繋ぎ、門を見上げながら【詩音・シュヴァーラ】は母親の詩穂に語りかける
 
 「お母さん、この世界でもやっぱり感情があるのかな、詩音やアダムくんみたいに」
 「……そうね、バグとはいえどフリューネさんの人格も一部受け継いでいる可能性があるかもしれない」
 「だったら仲良くできないかな、もしかしたら詩音の歌で感情に訴えかけることができるかも」
 「わかった、お母さん頑張って応援するよ
  でも、もし危なかったらお母さんはあなたを守るほうを選ぶから……それまで頑張ってみて」
 「うん、詩音やってみる」
 
テラスの方も門が開き、真っ先にリネン・エルフト(りねん・えるふと)が抜けて向かってくるのが見える
激戦を抜け、それでも果敢に最後のステージを目指す為に集まる仲間
……その一人ひとりを確認するアダムの肩に手を置き、パフュームが決意と共に微笑んだ
 
 「少し前にね、あたしのミスでパフュームさんが捕まったことがあったんだ
  その時も皆が手を取り合って、彼女を助ける為に頑張ってくれた……それは電脳仮想でも変わらないんだ
  ………とうとう来たね、パフュームさんを助けて、今度はちゃんとしたゲーム世界で遊ぼう!」
 「うん、その時も僕はお姉ちゃんのパートナーだからね」
 
二人のやり取りを門の前で見守るレン・オズワルド(れん・おずわるど)
傍らのメティス・ボルト(めてぃす・ぼると)が最後の情報を彼に伝えた
 
 「気をつけてください……先行した正悟達の事もありますが
 【カオスフリューネ】だけでない存在をコントロールルーム側も検知してます
  情報が明確になるまでは先陣を切らぬよう、十分にご注意を」
 「わかってる……いくぞ」
 
彼女の言葉に頷くと、レンは目の前にそびえる門に手を触れる
その行為を【開門】すなわち【ボスステージ参加】と検知したシステムが、ゆっくりと門を開いていく
ゲームに本来用意された厳かなボスバトル開戦のファンファーレと共に、門から溢れた光が戦う物を中に順に誘うのだった
 

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 「ふ……最後の舞台に上がる役者は揃ったようだな」
 
開いた門から次々に【玉座の間】に現れるプレイヤーを迎えたのは
魔鎧化したアルテミス・カリスト(あるてみす・かりすと)を纏った【魔王クロノス】ことドクター・ハデス(どくたー・はです)だった
手に持つ剣モードの聖剣勇者 カリバーン(せいけんゆうしゃ・かりばーん)を地面に打ちたて、柄頭に両手を添えて悠然と見下ろす
その横にちょこんと現れたもう一つの影を見つけ琳 鳳明(りん・ほうめい)が驚いた声を上げた
 
 「ちょっと!?そこに居るのはまさか……」 
 「ご名答、呼ばれてなくてもわし参上!!」
 「やっぱりヒラニィさん!?なんでどうして!……いや、そもそもここに居る事より、そっち側のにいる事の方が驚き?」 
 「そんなもんお前の邪魔に決まっておろうが!声かけて貰えなかったって別に泣いてなんかないんだからねっ!」
 
彼女と南部 ヒラニィ(なんぶ・ひらにぃ)の縁故同士のやり合いに、業を煮やしたレンが前に進み出た
 
 「今更、無駄な舌戦などに興味は無い
  ここに来た以上相手はすでに決まっているはずだ【カオスフリューネ】はどこにいる?」
 「御執心の割りに注意不足だな……私なら先程からここにいるぞ?勇者諸君」
 
誰もが認識し、それでも誰もが生で初めて聞くその声に、部屋に辿り着いた全ての者が視線を向ける
【玉座の間】の奥……名前に相応しき赤い階段の上にある【玉座】
……そこに片足を組みながら、悠然と全ての者を見下ろし【カオスフリューネ】が座っていた
その座の横に、手を鎖で繋がれドレスに身を包んで横たわるフリューネ・ロスヴァイセ(ふりゅーね・ろすう゛ぁいせ)の姿がある
鄭重と隷属を織り交ぜたその姿は、彼女に縁のある者の心を揺さぶるには十分であり、全ての者の心にに緊張を走らせた
 
 「期待通りに辿り着いてくれた事に、ゲームの主催として感謝しよう
  この世界設定に相応しい、一番のクライマックスの趣向のもと、剣を交えようと思っているのだが
  ……どうも、ここに辿り着いた輩はそんな心積もりではないらしいようだな」
 「当たり前よ、どの様な経緯とはいえ彼方も【フリューネ】なんでしょう?無為に戦うなんて事はできないわ」
 
横たわるフリューネの鎖を腕ごと引き上げ挑発的に語られるカオスの言葉
だがそれにも動じる心を抑えながらリネンは自分の目的を彼女に伝える
それに後押しされるように鳳明朝斗アイビスも彼女に語りかけた
 
 「どんなトラブルで君が生まれたのか知らないけど、バグなんて現実世界でも起こりうる
  君がそうやって存在する以上、消えることなんてないだろう?」
 「偶然生まれたあなた達を、システム管理があるとはいえ、こっちの都合で消すというのは優先する事じゃありません」
 「彼らの言う通りだ、仮想世界であろうと偶然に命を生み出した世界なら、無為に消す理由などはない
  【我が子】等もそれを望んでいるのだ……その望みに手を添えてやるのが我等の務めだ、そうだろう?」
 
戦闘継続の余力はないものの、この戦いを見守るために部屋にいる者達の中……ヴァル・ゴライオン(う゛ぁる・ごらいおん)も続く
その後ろには息子の【小帝王】だけでなく【詩音】達ナビAIが頷いている
そんな挑戦者達の言葉を俯き気味に黙って聞いていた【カオスフリューネ】の拳が僅かに強く握られる

呻くように僅かに開かれた口から微かに聞こえた声……だがそれは、全てを雑然と握り潰すような嘲笑の音色だった
 
 「く……くくくくく……はははははは………あっはははははは!
  本当におめでたい奴らだな、まさか同族のプログラムにまでそんな生ぬるい自我が目覚めてるとは予想外だったぞ?
  まぁ……前の件で相当、感動の幕が下ろされていたそうだからな……次もと思うのは仕方あるまい……か
  だが、お前たちは見事に全員勘違いをしているぞ……どうやら前回の元凶は気づいているようだがな?」
 
言葉とともに彼女が指さす先に視線が集まる
そこには、苦しげに眉を寄せ、唇を噛んで立つアダムがいた
皆が驚く中、【愛】と月美 あゆみ(つきみ・あゆみ)霧島 春美(きりしま・はるみ)は事を理解しているようで
心配そうに彼を見つめていた
 
 「ど、どうしたの?アダムくん」
 「……ごめんパフュームお姉ちゃん、僕も大事なことを見落としていたんだ……僕とカオスは違うんだよ……」
 
たずねるパフュームに、苦しげに答えるしかできないアダムに変わり、春美が口を開く
 
 「私も、この前の愛ちゃん達の件を直に見たわけじゃないから気づくのが遅れたんだけど
  アダムくん、確かにこの前の発端だったけど、彼自体は別にバグでもなんでもない
  【我が子シュミレーター】に参加した親プレイヤーから作られた正式なデーターなんでしょう?
  彼にとりついたバグの影響で、仮想世界に異変が起きた……だからバグさえ取り除けば解決できた
  でも今回は違う……プログラムの影響で生まれた存在自体が【カオスフリューネ達】なのよ」
 
微かに頷くアダムを見つめ、愛に手を置きながら春美の言葉は続く
 
 「私達は【子供】達の良心ばかり見つめていたから、この事態と生まれた存在ばかりに気持ちが向かっていた
  でも、愛ちゃん達と話しながらふと気がついたのよ……誰も【バグそのもの】に関心が向かってなかった事に
  もし、前回のバグが誰かが意図的に潜り込ませたもので……今回も誰かの介入があったのだとしたら?
  【カオスフリューネ達】がバグで、れっきとした黒幕の存在があるのだとしたら?」
 「……その最後あたりの言葉に乗る理由はこちらに一切無いがな、まぁそういう事だよ愚か者ども」
 
全員が話の意図を理解したのを見渡し、侮蔑の眼差しで【カオスフリューネ】は言葉を続ける
 
 「我々の素体がそこの女であろうと、こちらは戦う事を前提に存在しているのだ
  今一度問うがな……この世界が正常に稼働してい場合、お前たちは戦わずにラスボスの説得にかかっていたのか?
  敵を倒し、攻略してクリアする……そんな単純な意図をたかが【見知った女の姿】になっただけで劇的に解釈し
  勝手に助けてやろうなどと温い事を考えるほど、リアルの連中も腑抜ているのか?」
 
玉座から立ち上がり、魔剣を携えながらつまらないものを見下す怒りすら孕み彼女は言葉を続ける 

 「悪いが助けろなど誰も言ってはいないし、生きたいとも誰も我等は誰も言ってはいない
  お前達は単純に【囚われの姫】を助け、この改変の元凶を突き止めればよかっただけだろうに
  多くのものの足掻く姿を見たくて誰もが手を差し伸べるこの女を使ってみたが……とんだ茶番だったな
  それともこの身が醜い邪竜にでもなれば、少しは気持ちが変わるのかな?それともそこの姫に剣でも突き立ててれば……」
 「……お前の言いたい事はわかった」
 
黙って全員が彼女の言葉を聞く中、レンが割り込むように口を開く
 
 「お前に少しでもフリューネの断片があれば、出会った時のようにお前自身にも手を差し伸べ、汚すものを撃ち抜いていた
  だが……【お前は違う】んだな……ならば問おう、お前は【首謀者】なのか?」
 「おいおい、それを力ずくで突き止めるのが本来の役目だろう?
  だがな……どんなにつまらなかろうが、無為にお前達を切って捨てるのは本来の意に即さないのだよ
  だからそれ相応のお前達が望む形にお膳立てしてやったぞ、感謝して足掻くんだな」
 
魔剣を振りかざし、開戦の言葉とともに【カオスフリューネ】が跳躍する
 
 「さぁ、ラストステージだ……大いに踊ってもらうぞ、挑戦者の諸君!!」
 

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 「わざわざ魔王を無視して話を進めるとはな!だが余もここを守る最後の敵だ……無視をしないでもらおうか」
 
切り込んだ【カオスフリューネ】の後に続き、【魔王クロノス】ことドクター・ハデス(どくたー・はです)も跳躍する
だが、その前にメティス・ボルト(めてぃす・ぼると)レイナ・ライトフィード(れいな・らいとふぃーど)が立ちはだかった
 
 「ほう……余の相手はお前達が勤めると?」
 「意は変わったとはいえ、彼女の相手はレンが望んだもの……これは戦士の戦いです。周りの方にも空気を読んで頂かないと」
 「正義の煌めき、悪を絶つ一閃を!!……相手が魔王を名乗るなら、今度こそ容赦はしません!」
 
容赦のない戦気に兜の奥で笑みを漏らし、剣を振りかざす魔王に、さらなる銃弾が降り注ぐ
そこには容赦なく銃口を向ける閃崎 静麻(せんざき・しずま)の姿があった
 
一方のヒラニィの前には鳳明藤谷 天樹(ふじたに・あまぎ)が立ちふさがる
 
 「ぬ……何を怒っているのじゃ?我はゲームらしく悪側としてだな」
 「ゲームとしては正しいけどっ!これは空気を読まなさ過ぎだよっ!身内の恥は身内で取り除くっ!」
 「面白い、やってみろこの天然娘!!ついでにアイドルの座も奪ってやらぁぁぁぁぁ!」

かくしてこちらは手数の無い完全な身内の喧嘩が勃発する
なんとなく空気の流れが違っていても、邪魔者の妨害は取り除かないといけない
溜息とともに、天樹も鳳明のフォローにまわる事にする
 
一方のレンリネンそして朝斗達はカオスフリューネの猛攻を凌いでいた
美羽コハクアイビスパフュームが応戦するも
少数精鋭というには戦力が弱い……加えてリネンもアイビスも、正面からその剣に相対する事ができず、防戦一方の状況だ
そんな二人のガードに美羽達や朝斗の意識も持っていかれるので十分な連携が取れず、時間だけが過ぎていった
 
 「どうした二人とも!迷っていては助けるものも助けられんぞ!」

レンの言葉でも迷いを振り払えず、苦悶の言葉をリネンとアイビスは漏らす
 
 「わかってる!でも、だからってこんな展開を簡単に望めるわけないじゃない!」
 「レンさんは平気なんですか!?システムに作られたからって、思考も何もかもアダム君たちと同じなんですよ?
  戦うのを望んでるからって……こんな誰かの思惑に乗るようなマネ」
 「平気なわけもない、諦められるわけもないだろう!」
 
二人の抗議に魔剣の猛攻を回避しながらレンが答える、その額には無数の傷のエフェクトが表示される
ラスボスとしての戦闘力は認めるが、単純な剣戟を回避できない彼ではない……僅かな迷いによる体に残る証拠に気づき
リネンもアイビスも口をつぐむ……そしてそんな彼のサングラス越しの眼差しが諦めていない事も知る
 
 「忘れるな……俺達の目的はフリューネの救出だ!彼女を倒す事じゃない!」
 「………ほう、こんな時でも小細工を楽しむか?」
 
レンの眼差しに含む意を悟り、不敵に笑うカオス……その首が自分の背後に向く
そこにはハデスとヒラニィの戦闘を掻い潜り、玉座のフリューネに向かうリィナ・コールマン(りぃな・こーるまん)の姿があった
その意を察したハデスが、攻撃対象を変更しようとするのをメティス達が阻む

 「言ったであろう!囚われのフリューネ姫を助けたくば、余とカオスフリューネを倒すのだとな!」
 「カオスはともかくあなたの言葉には従えません!」
 
メティスの【ロケットパンチ】とレイナの四肢4刀の乱撃が彼に繰り出されるも
魔鎧として身を守るアルテミス・カリスト(あるてみす・かりすと)による徹底した数々のガードスキル
【インビンシブル】【龍鱗化】【エンデュア】【護国の聖域】により体勢を乱す事無く、手元の剣を振りかざす
 
 「ククク、このKFOが遊びではないことを教えてやろう!喰らうがいい!【カリバーンストラッシュ】の一撃をっ!」

聖剣勇者 カリバーン(せいけんゆうしゃ・かりばーん)が変形した【光条兵器】のそれが【ソードプレイ】によって打ち出され
静麻の弾幕すらものともせずに、リィナに向かって伸びていく……誰もが命中を覚悟した瞬間
目の前に立ち塞がるあゆみ騎沙良 詩穂(きさら・しほ)が体を張って防ぐ
 
 「戦うスキルもないけど……守る位はっ!」
 「愛も詩音ちゃんも見てる……レンズよ!愛する人を守れっ!!」
 
気力という電脳で計れない力で、威力を削り取り二人が吹っ飛ばされる中
それでも止まらない光の攻撃……それを相殺するべく三度目の正直でレキ・フォートアウフ(れき・ふぉーとあうふ)が前に立つ
 
 「本当は奥の手だったけどっ!これで!!」
 
彼女の放った【バニッシュ】がカリバーンの光とぶつかり、大幅に射線を曲げられ天井に炸裂した
 
 「わらわも手伝おう、急ぐぞ!」
 
その隙にリィナの傍らに接近したミア・マハ(みあ・まは)の言葉と共に
ついに二人は倒れているフリューネの元に辿り着き……その横たわる身から鎖の戒めを解き放った
 
 「無理かと思ったが……僥倖だ、これなら回復もできる」
 
安堵と共に確信を持ってミアと頷き、彼女はフリューネの【回復】作業に行動を移行する
その光景に、戦っていた物も力なくただ見守る物も安堵と共に戦意を挙げたが……
春美だけが胸のざわめきを止める事ができなかった
 
(ルール重視といいながら、事が安易に進み過ぎない?肝心のラスボスの態度もあるし……罠?でも一体何が)
 
思考をめぐらす彼女の脳裏でカオスの言葉が一瞬繰り返される
 

 【それ相応のお前達が望む形にお膳立てしてやったぞ、感謝して足掻くんだな】
 
 
 「危ない!離れてっ!」
 
頭の中の仮説に戦慄し、あわててリィナ達二人を呼び戻そうと叫ぶ春美
だがその声は、不意に目を開けた【フリューネ】への驚きと
彼女だけでなく、リィナとミアまで巻き込んで襲った体を強く地に叩きつけられる衝撃でかき消された
 
 「な?これは一体!?」
 
予想外の攻撃に戦っていたレン達全員が驚く
その力はAIの子ども達だけでなく、見守った者やあゆみ、詩穂にまで及び動く事が出来ないようだった
そんな中……禍々しい笑みと共に、立ち上がったドレス姿のフリューネが口を開く

そこから放たれた声は、誰もが聞き慣れたそれではなく、無邪気さを纏う少年のそれだった

 『ね?だから言った通りでしょ?いくらだってこの人達は抜け道を探って思い通りにしようとするって』 
 「おまえ……誰だ?」
 『言うと思う?この状況でさ』
 
動けない力が【奈落の鉄鎖】によるものと気がついた時には遅く
足元で睨みつけながら問いかけるリィナを蹴り飛ばし、彼女の体が転げ落ちるのを見ながら【彼女】は答える
 
 『まぁ言える事は僕が囚われの【フリューネ】ではないって事、まぁ見ればわかるでしょ?』

つまらなさ気に語る彼女の眼の前に弾丸が炸裂する
だが見えないシステムの障壁に阻まれ、彼女の眼前ですべての弾丸が止められ、そのまま霧散した

 「……フリューネをどこにやった?
  確かに裏技の非礼は認めるが、ここに彼女がいないというのもゲームルールに反するんじゃないのか?」

それでも銃口を寸分たがわず、そのまま狙い定め、質問するレン
……だが、そんなあふれる殺気を感じながら楽しそうに【彼女】は少年の声で話すのだった
 
 『それは大丈夫だよ
  君たちが【カオスフリューネ】を倒さないと【フリューネ・ロスヴァイセ】は助けられないルールは変わらない
  だからもっとシンプルにしたのさ、囚われの姫ならいるじゃないか、さっきから君たちの前に』
 
ドッキリがうまく決まった様な愉悦を顔に浮かべながら、ドレスをはためかせて語る【彼女】の言葉
その意味に、多くの物が気付いた瞬間……狙ったかのように【カオスフリューネ】の姿がノイズでぶれる
ほんの一瞬、彼女に重なって見えた影は……誰もが知っていて、誰もが救出を望んでいる顔だった
 
 「な……なんて事を……」
 
あまりの事にリネンやパフューム達が絶句する中【彼女】の声が響き渡る
 
 『彼女のアカウントをベースに別のデーターに書き換えたんだ
  元々は別の個体だったんだけど、君たちにとってはこっちの方が劇的でしょ?
  まぁ洗脳的な事は望んじゃいないから、あくまで存在骨子に【フリューネ】を組み込んでるだけけどね
  自動操縦で動く鎧のなかで眠ってるっていう説明が、一番わかりやすいんじゃない?ただ……』
 
そこでさも面白いものを考えたような笑みに【彼女】の顔が一層歪む
 
 『彼女の思考をこの世界にリンクさせる回線に、その子のAIをつなげてある
  言ってみれば思考と感情はダイレクトに【フリューネ】そのものになっているから、偽物ではないって事
  つまりね……みんなが一丸となって呪いによって【カオスフリューネ】にされた彼女を【殺せば】助けられるって事
  ま、ふつうは遠慮なく楽しむだろうけど……そういうの嫌な人ばかりみたいだし』
 
挑戦的な笑みとともにレン達を指さしながら、【彼女】は最後の言葉を口にする
 
 『こういう【泣ける】展開、望んでたんじゃない?だから相応しいようにしただけだよ
  あ、あとね……何かの折にこの世界のリソースを奪おうって連中もいるみたいだけど、それも封じておこうか
  それも【カオス】に集めておこうかね』
 
言葉とともに、手に浮かべたウィンドウからコマンドを打ち出す【彼女】
その真意に詩穂が簡易マップを展開すると……各フロアでわずかなHPともに存在していた【三騎士】のマーカーが消えた
アダムの隣で同じ現象を確認していた詩音も、口元を押さえてその現象を見つめていた
彼女は、同じ電脳の命である彼女達にデーター以上の物を感じ、ともにある事を望んでいた、だから詩穂も動いたのだ
その努力を見透かした上でのこの行為……そして倒した【三騎士】の保護のためにフロアに残っている仲間
そしてそのデーター救出の為に外側から頑張っている仲間たちを案じ、詩穂やヴァル、多くの物が無念に顔をゆがめた
 
 『ひとの物なのに随分と持ち主に厳しい目を向けるんだね、救出?厚かましいにも程があるよね
  でも、そういうのを求めるのが殆どなら、GMってのは相応しいように変えるのが筋なんだろう?
  だからこうしたんだよ……さて、GMがこんなに喋るのも前代未聞だから、僕はもう消えようかな』
 
レン達の攻撃、そして【サンダーブラスト】などの魔法攻撃をひっきりなしに受けながら【彼女】はコンソールに目を向ける
すべての攻撃はシステム権限ですべて阻まれ、何事もなかったように退出手続きを取っていき……
ついにドレス姿のフリューネのアバターが消失する

 『じゃね、一応クリア報酬を望む意見もあったみたいだから、用意しといたよ、楽しんでね』
 
消失の一瞬手前、そのドレス姿の影に一瞬、無邪気に笑う少年の姿が見えた様な気がした
何もかも巧妙にすり抜けるような虚無がすべてを支配する中、止まっていた【カオスフリューネ】が動き出す
 
 「……さて、ラストステージの再開と行こうか………!覚悟しろ挑戦者ども」