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カオス・フリューネ・オンライン

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〜 phase 05 〜
 
永倉 八重(ながくら・やえ)エヴァルト・マルトリッツ(えう゛ぁると・まるとりっつ)という予想外のカードを筆頭に突破された勢いは
正面から切り込んでいた騎沙良 詩穂(きさら・しほ)パフューム・ディオニウス(ぱふゅーむ・でぃおにうす)達を勢い付けていた

裏ルートからの【モエフリューネ攻略組】の突入に遅れを取ったものの
後方から合流したレティシア・ブルーウォーター(れてぃしあ・ぶるーうぉーたー)達【ブルーウォーター一家】の援護が勢いを押し
ついに二分した敵防衛ラインを突破し、塔の中を先程から全力で疾走している
 
パフューム達だけでなく、清泉 北都(いずみ・ほくと)クナイ・アヤシ(くない・あやし)に守られながら進む【我が子達】
その中心の【アダム】の前にはマップウィンドウが広がり、リアルタイムで塔ことダンジョンのマッピングが行われている
全体を展望できる街のフィールド違い、塔の中は改変前のデーターがあるものの、実質は未確認であり未知数なのだ
ゆえに、今まで以上にナビゲーションAIである【我が子】こと子ども達は専用に構築したネットワークを介し
塔のマップを構成するべく、常に移動位置を含めた事細かな情報交換を行っているのである

しかし、それでも目視できる経路と手探りの経路では、通過に費やす時間に差がある
作戦通り、外側からの【キレフリューネ攻略ルート】からゴールに向って進む面々と、到着のタイミングを合わせないと
未知の中ボスクラスに対しての【奇襲】の意味を持たない
決定的な遅れは無いものの、定期的に現れる【メカフリューネ護衛型】に行く手を妨害されるたびにアダムの不安は募る

 「大丈夫!絶対間に合うから心配しないで!」

心情を察したパフュームの励ましが聞こえ、迷いを振り払うが……AIとはいえ戦闘経験の無い子どもなのだ
アダム自信、元から快活不屈だったわけではない……度重なる迷いへの誘惑が、子供ながらに焦燥を駆り立てる

だが、かつてそんな彼を助けてくれたように、彼の頼もしい仲間の声が彼の心(なか)に力強い声を放った
 
 『大丈夫か!?後もう少しでゴールだ!頑張れアダム!!』
 「その声……轟くん!?』
  
 
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 「父ちゃんが言ってたんだ!塔に近づく程、敵が増えてるのなら、敵の多い方に目標があるはずだって!
  今から俺んとこの【メカフリューネ】出現箇所の履歴も送る!自分のとこと合わせて一番多く出てくる方向に……」
 『【キレフリューネ】がいる、そういうことだね!ありがと!!』
 
通信越しにアダムの喜びと感謝の声が聞こえ、【轟】はほっと安堵する
顔は見えないが、何となく感じていた彼の焦燥のようなものは軽減したらしい、後はお互い目指すだけだ
データーの送信を終えると、彼を守りながら後方援護で【レジェンドレイ】を放つ結崎 綾耶(ゆうざき・あや)に声をかける
 
 「大丈夫か、母ちゃん?」
 「もちろん。某さん達があんなに頑張っているんですもの、私だって負けられません!」
 
ウィンクと共に返答する綾耶の少し前では、言葉通り匿名 某(とくな・なにがし)が殿(しんがり)役として奮闘している
20体以上の【メカフリューネ】に対し【フェニックスアヴァターラ・ブレイド】を鳥形態にして突撃を繰り返すが
最終的なダメージは与えず、撹乱行動をメインにしているようだ
その遥か先では、某とシンメトリカルな動きで同調しながら大谷地 康之(おおやち・やすゆき)が敵を翻弄している
【ゴッドスピード】を使用し高速で動き回りながら【ウルフアヴァターラ・ソード】を叩き込む
しかしそれも剣の横腹を打ち込むのみなので、ダメージ判定も少なくノックバックで後方に押し込んでいるだけに過ぎない
 
 「父ちゃんも兄ちゃんも頑張るよな、兄ちゃんは初めてだけど父ちゃんに負けてねぇし
  っていうか、倒さないってのが一番やっぱりすげぇって言うか何ていうか……」
 「私が甘いのがいけないんです
  倒してしまうのが可愛そうだってうっかり言ったら、二人とも聞いてくれてたみたいで……でも、大丈夫」
 「ああ、頑張れ!父ちゃん、兄ちゃん!」
 
後方から聞こえる【我が子】の応援に後押しされ、某のギアが一速上がる
彼にとっては【我が子】としての愛情だけでなく、過去の事件において彼はそれを解決するべく【別れ】を決断した相手だ
それが綾耶の為とはいえ【電脳の存在】として共に生きられないという事実を、母子二人に突きつけた
その自分の選択がそれしかなかったとはいえ、その後の綾耶の事を思い出すと後悔が無かったといえば嘘になる

それでも様々な出来事を乗り越え、彼女は前向ってに着実に歩んでいる
そんな彼女が轟との再会を望み、この一件に巻き込まれた後『敵とはいえ倒すのがかわいそう』と言っているのだ
何より自分も息子の前で無駄に殺生など見せたくない……そんな自分自身の誓いを守るため、某は全力で戦う
 
 「まぁ、あんな昔の少年漫画みたいな姿で生かすも殺すもないんだけどな……康之」
 「あいよ!ちゃっちゃと片付けるとするか!」
 
牧羊の囲い込みの様に、二人の動きがさらに40を越える機兵達を一点に集める事に成功する
そこに絶妙なタイミングで綾耶の後方からの【氷術&光術】が連続で炸裂し、足場と視界を遮られさらに動きが一瞬止まった
 
 「某さん、今です!」
 「おおおおおおおおおおおおおおっ!!」
 
綾耶の言葉に某はギリギリ非殺傷設定に出力を調整した【真空波】を目の前の一群に叩き込む
【氷術】による足元の安定を奪われた【メカフリューネ】がドミノの様に次々になぎ倒され行動不能になる
 
 「今だ!綾耶!!」
 「はいっ!!」

某の合図に大きく頷き、綾耶が出力最大の【天のいかづち】を倒れた【メカフリューネ】の山に叩き込む
一見、電気も弾きそうな外見の機兵だが、度重なる急所部の装甲へ攻撃で低下した防御値では耐えられるはずも無く
悉く煙を上げてほとんどがショート、そして機能停止したようだ
戦闘のヤマを越え、ほうっと息をつく綾耶に康之と轟が寄ってきた

 「やったな!母ちゃん!」
 「……理屈じゃ相手は単なるデータ上の敵だってわかるんですけど、どうしても殺す事ができない。
  私、やっぱり甘いかなぁ……」
 「どんな状況だろうと、やる事は変わらねぇよ!な?」

大地の言葉に某も頷く
 
 「こういう時は、意志を貫き通した者が勝つんだ『殺さず』が俺達が決めた事ならそれを貫けばいい
  さ、行こう!そろそろ他のみんなも【キレフリューネ】に到達する頃だ」
  
 
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 「げぇむの世界って不思議ですね〜
  異世界やふぁんたじーの世界、現実世界と変わらない感じです」
 「俺はネットワークの世界はインターネットをやる位だからあんま知らねぇけど
  ここがリアルと同じと考えりゃ面倒な話は抜きになるさ」
 「確かに………異質な敵の気配は感じますね?大変興味深いです」
 「…………頼みますから、初心者的会話はもうそろそろ終わりにしてください二人とも!
  ログインしてから何時間経ってると思ってるんですかぁ!」
 
目標地点【キレフリューネのいる広間】の扉を眼前に望んだエントランスと思しき塔内の空間
そこで交わされているフレンディス・ティラ(ふれんでぃす・てぃら)ベルク・ウェルナート(べるく・うぇるなーと)のマイペースな会話に
必死で抗議をする忍野 ポチの助(おしの・ぽちのすけ)
自分の活躍できる場を見せるためにこのゲームに誘ってみた(ベルクの方は勝手についてきた)のだが
電脳世界に馴染みきれない様子に、一人で来れば良かったと後悔が無いでもない

とはいえ、情報戦向けの自分にとっては二人の援護はありがたい
会話こそのんびりしてるものの、フレンディスもベルクも的確に指示に従い、自分が動けるよう戦ってくれているのである
 
 「ご主人様見ていて下さい!優秀なハイテク忍犬の僕が見事に解決へと導きましょう」
 
自分も負けないと一言発し
ポチの助は【イヌプロコンピューター】【シャンバラ電機のノートパソコン】を駆使して情報戦のギアを一段挙げる
【情報攪乱】により敵を誘導するフォーメーションを割り出し、そこからさらに目標到達への最短ラインを見つける
 
 「最短最速コースでました!
  誘導マーカー出すので表示ガイド表示にしたがって戦って下さい!アスカさん達もよろしくです!」
 
ポチの助の言葉と同時に、それぞれの眼前に透過の矢印が立体状に展開し眼前の扉まで続く
妨害する【メカフリューネ】に最小限の戦闘で効率良く通過できるコース
……その的確さにルーツ・アトマイス(るーつ・あとまいす)が感嘆の声を上げた
 
 「ほう、我が計算したルートパターンをしっかり学習したか、これで無駄な消耗も無く目標に到達できるというものだ
  良かったなアスカ、これで無駄なオブジェクト破壊もせずに済む」
 「気持ちを察してくれるのはありがたいんだけど、こうも敵が同じ顔だとね……」
 
ルーツの言葉に師王 アスカ(しおう・あすか)苦笑して答える
 
 「せっかくVRPGの背景デザインとかエネミーキャラを見たかったのに、何で全部フリューネさんなのよ〜
  とりあえずさっき大演説で唖然とさせてくれた【カオスフリューネ】っていうボスさんを倒せばいいのよねぇ?」
 「その前に中ボスだ……間もなく突入、戦闘に入るぞ」
 「オッケーオッケー!私って大ボスより中ボス倒す方が好きだったり〜♪」
 
のんびり口調でありつつ的確な戦闘なのはフレンディスと負けてはいない彼女である
ポチの助同様、援護が目的のルーツの行動は、彼女達を万全のコンディションで【対キレフリューネ】に臨ませる事
ルート上の敵とアスカを狙う的に戦闘対象を限定し、範囲攻撃を繰り出しつつ【風の鎧】で仲間をガードする
的確に狙いを定めて繰り出される【貴族的流血】が眼前の敵を一掃し、目標の扉まで後わずか
 
 「お先に入らせて頂きます!」
 
妨害の為、後を追いかけてくる大量の【メカフリューネ】がベルクの仕掛けた【インビジブルトラップ】にかかるのと
丁寧な突入の通信と共に、フレンディスが扉に突入するのが同時
開錠エフェクトを待つのももどかしく、口調とは裏腹にどっかーんと派手に扉を壊して突入
その体が大部屋の中央で止まり、仲間達もそれに続いていく
  
後を追う【メカフリューネ】が一切部屋に侵入してこないのは、律儀にゲームシステムルールが守られている証拠か
戦闘に十分な大広間の奥に攻略対象……【キレフリューネ】は存在していた