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カオス・フリューネ・オンライン

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リアクション

 
〜 phase 01 〜


 「………こんなの絶対おかしいよ」

そこかしこに戦闘と思しき勇ましい光と音が響き渡る中、朝野 未沙(あさの・みさ)は誰ともなく呟いていた
序盤戦ならではの血気盛んな参加者の空気にも関わらず、ひとりどんよりしている雰囲気にパートナー達が苦笑いを浮かべる

 「ほら、せっかくの遠慮無しのバトルだってのにいつまでメソメソしてんのさ!」
 
レイ・サンダーソン(れい・さんだーそん)に背中をバンバンと叩かれ、恨みがましい眼差しとともに未沙が反論する
 
 「……だってさ、メカとはいえ元はフリューネさんなんだから期待はするじゃん?
  あの人の立派なプロポーションをどの程度再現出来ているか、良く調べないと!……って思ってたのに
  あれじゃ、メカというよりロボぢゃん……」
 「?」
 
嘆く意味がわからず首を傾げるレイにナイル・ナイフィード(ないる・ないふぃーど)が説明をする事にする
 
 「要するに、自分の【メイド機晶姫ロボ】レベルの上位種
  ……つまり【子供が魔法使いで先生な学園モノ】に出てくる女の子のアンドロイド位を想像し、喜び勇んできてみたら
  ロケットパンチ出しそうな【昭和なスーパーロボット】だったのに絶望してるわけだよ、この人は
  妄想ばかり立って情報を集めないからいけないんだよ、MSページにイラスト出てたじゃん」
 「だからって、どこでどうやったら左手にドリルがつくなんて発想が出てくるのよ!?
  さっきなんて見た!?おっぱいからミサイル出したのよ!? おっぱいミサイル!!超ありえないんですけど!!」
 「おっぱいミサイルは昭和の常識だよぅ?むしろ燃える人には燃える要素らしいよ?ほら?」
 
ナイルが指差した先では、夜刀神 甚五郎(やとがみ・じんごろう)を筆頭に
血を滾らせながらメカもといロボと退治している者達の姿が見える……確かに何となく楽しそうだ
しかも純粋な【戦闘的テンション】が上がってる気がするのは何故だろう……女の未沙にはわからない代物である
とにかく、メカ軍団を相手にすると手を上げた以上、こんな筈じゃなかったと手を引く事もできない
無常の悔し涙を拭って、頭上の【メカフリューネ軍団】を見据える【アサノファクトリー店主】

 「あんなレトロなメカ美学、世の中は認めてもあたしが絶対に認めないっ!
  こうなったら当初の目的通り、ひん剥いて採寸調べてやる、それを反面教師にして【メイドロボ】に活かすんだ!
  ダリルにまとめて預けてるついでに、修正してもらうんだい!」
 「はいはい、涙は拭いてさっさと始めようよ
  何か外見が鋼鉄っぽいからボクの炎で燃やせるか心配だけど……雑魚レベルみたいだから大した事ないかもね
  絶縁体ならパーツに陶器を使ってるかもって思ったけど、そうは上手くいかなかったか」
 
陶器なら耐久性がないから衝撃を与えれば壊せるのになぁ……と、ぼやきながら
グレン・ヴォルテール(ぐれん・う゛ぉるてーる)がその身に炎を纏わせる隣で、ナイルが楽しげに上空に手を掲げる
 
 「大丈夫、ナイちゃんがちゃぁんと【アシッドミスト】で装甲の耐久力は下げるから、派手に燃え散らすといいよ☆」

ウィンクと共に上空に発生させた【酸の霧】が、無数に飛び交う【メカフリューネ】達を包み込む
その霧の流れを狙い、拳に雷を纏わせたレイが未沙と共に群れの中に飛び込む

街の一角で激しい電撃と炎と共に、無数の爆発が空に広がった
  
 
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そんな空戦が広げられている傍らでは
たった今ナイルに指摘されていた夜刀神 甚五郎(やとがみ・じんごろう)の一団が
先程以上の戦闘の激しさをもって【メカフリューネ軍団(陸戦型)】と応戦していた
 
 「どうしたどうした!気合が足りないなぁ!気合がぁ!」
 「気合の入りっぷりは褒めたいところだが、まだ序盤であろう?程ほどにしておけよ甚五郎
  しかし……本当にのっけから容赦なく、有象無象がうじゃうじゃ出てくるのう……」
 
積極的に戦闘を繰り広げる甚五郎の体力に注意しつつ、援護する草薙 羽純(くさなぎ・はすみ)が彼をたしなめる
しかし初戦から【ガンガンいこうぜ!】を作戦(?)に掲げる彼は、その言葉を不適な笑顔と共に受け流す
 
 「何を言ってるんだ羽純!
  この戦闘対象を機械人形一択にした時点で、手を緩めるつもりなんてないぜ
  見ろ、これだけ潰しても数が減った気がしない……どんどん沸いてくる気がするのは気のせいじゃないと思うぞ」
 「上空!油断大敵ですっ!」
 
甚五郎の資格から襲ってきた【ミサイル】を打ち落としたのはホリイ・パワーズ(ほりい・ぱわーず)
 
 「空戦型多数です!ドーラさん迎撃を」
 「了解!蜂の巣になるであります!」
 
声と共に、空からの一団を高機動型戦車 ドーラ(こうきどうがたせんしゃ・どーら)の【レーザーガトリング】が迎撃するなか
ホリィは警戒しながら移動し甚五郎の傍に寄り添うために移動する
 
 「助かった、頼もしいなホリィ!」
 「貴殿はワタシが護ってみせます!!……しかし、こんなに同じ顔ばかりがあると怖いですね
  何というか……モグラ叩きみたいです」
 「ああ、フリューネのデッドコピーっつっても、その数は馬鹿に出来ねぇな」
 「恭也か、そっちは?」
 
新たな声の方を向けば、こちらに接近してくる影が二つ
その一人が柊 恭也(ひいらぎ・きょうや)だと確認し、甚五郎は戦況を彼に尋ねた
 
 「個体としての戦力は負けてはいないんだが、何せ数が多すぎる
  大体あいつら、量産型の癖に近接戦闘用ドリルにミサイル……さらに空まで飛びやがる
  ……流石にこれは、結構本気で対応しないとヤバイレベルだぞ?」
 『流石にこれの相手は大変でありますな、恭也殿』
 
遠くで対空戦戦闘を繰り広げるドーラからの通信も、同意するように続く
少し向こうで朝野 未沙(あさの・みさ)率いる面々の空戦も繰り広げられ、確実に撃破数は増えているのだが
一向に【メカフリューネ】が減る様子はない……出現場所は特定できていないが、確実に近場でリポップしてるのだろう
遠慮不要の殲滅戦のはずが、その数ゆえにややもすると立場が変わってしまった錯覚まで覚えてしまう
 
だが、そんな状況でも彼らの戦意が下がるわけではない
ドーラの攻撃にあわせ、援護射撃で敵を打ち落としていたブリジット・コイル(ぶりじっと・こいる)が冷静に感想を述べる
 
 「しかし、本物と違い、攻撃パターンが読みやすいのは確かです、やはりプログラムという事でしょうか?羽純」
 「まぁな、容姿はアレだが中級プレイヤー向けの敵リソースが元データーだろうから扱いは瑣末なのだろうよ
  しかし、それはそれでフリューネもうかばれまいて」

苦笑しながら、ブリジットとドーラの弾幕から逃れた一団を一気に殲滅する羽純
【メカフリューネ】迎撃と言う目的で、お互い共闘を申し出た面々だが役割が決まっているおかげで
即席ながらチームワークは機能しているようである

 「とにかく、こいつ等を放っておくと塔の攻略に支障が出る
  まだ目的は決まりつつも、合流している途中の奴らだっているのだ、ギアは落とさず行くぞ、恭也!」
 「わかってるよ甚五朗……ま、それでも生き残る事を重点において戦わねぇとな
  無理に攻めて死ぬより、生き残って戦闘継続した方が突入組の為……いつもの無茶は返上だ」

甚五郎に続く恭也の言葉に柊 唯依(ひいらぎ・ゆい)が溜息をつく、とはいえその表情が不敵なのは二人と変わらない

 「やれやれ、二人とも物好きだね
  まぁ弟がやる気を出してるんだ、私も手伝ってやるさ。恭也、後ろはお姉ちゃんに任せておけよ
  全方位を警戒しながら戦えばいくらか楽になるだろう?」
 
そういって、彼女が自分の後方に付くのを確認し
恭也は弾幕を新たに抜けた地上の敵影に向けて、身を屈めながら二本の【居合刀】に手を添え【二刀の構え】をとる
 
 『ハイハ〜イ、魂ノドリルヲ喰ライヤガレ!』
 「上等!居合い二刀流……ネタだと思ってなめんなよ?」
 
目の前に迫る【メカフリューネ】が突き出したドリルに向けて、鮮やかに刀を抜き放った刹那
戦場が新たな無数の閃光に包まれた
 
 
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 「お待ちしてました!卜部さん!」
 「優希さん、想定外の事態でしたけど大丈夫でしたか?」
 
フィールドにログインしてすぐ、至る所での戦闘を確認しながら移動をしていた卜部 泪(うらべ・るい)一行だったが
戦火を掻い潜っての状況把握は想像以上に困難を極めていた
だがそこに、先にダイブしていた六本木 優希(ろっぽんぎ・ゆうき)からのメッセージが入り
彼女の案内と誘導の元、戦火が比較的落ち着いている街の中核にて無事に合流することができたのである
 
両腕を広げて待っていた優希の傍らには彼女の仲間
アレクセイ・ヴァングライド(あれくせい・う゛ぁんぐらいど)ミラベル・オブライエン(みらべる・おぶらいえん)の姿がある

 「ご覧の通りです
  【六本木通信社】の戦力底上げの為、アレクとミラさんの戦闘訓練が目的で……
  私も撮影しながらの戦いの技術向上の為に参加したのですが……何というか、変な事態になってしまいましたね」
 「ええ、こちらも想定外なので事態が急務なのはわかっていても、すぐに手を打てないんです
  とにかく規定のゲームルールに沿って動きつつ、他のプレイヤーとの連携が整うのを待ちます!
  姫月さん、ナビゲートAIの方のアクションは?」
 
成田 樹彦(なりた・たつひこ)が周囲を警戒する中
仁科 姫月(にしな・ひめき)が緊急システムコマンドを使い、ログウィンドウを開く
次々に展開していく情報に目を通しながら姫月は現状を全員に報告した
 
 「メインAI【アダム】はパフューム・ディオニウス(ぱふゅーむ・でぃおにうす)と合流した模様です
  ただ、他のプレイヤーはログインしているのですが規定のデーターからコンバートできてないみたいで……
  やはり彼からの承認が必要みたい……どうするの泪さん?」
 「ナビAIプログラムの骨子は彼がキーですからね
  彼らが起動して連携が組めれば戦局の把握も可能なのです、はやく揃ってもらわないと」
 「ゲームのシステム上、ナビAI抜きのプレイヤー同士のメッセージの送受信は距離が限定されるんでしたっけ
  直接の通信も確か有視界範囲内だったはず……」

姫月と泪の会話を聞き、優希もこめかみに指をあてマニュアルを思い出す
それならば今開いているシステムアカウントから彼にメッセージを送信すれば……と思うのだが
システムそのものがトラブルの可能性がある以上、外部からのゲーム規定外の干渉は避けたいのが泪達の本音だろう
一時ほど思考をめぐらせた後、優希は意を決して自分の意見を口に出す

 「だったら泪さんは【アダム】とのコンタクトに専念してください!警戒と護衛は私達で行います!
  フィールド内を移動しつつ、彼の場所を特定してメッセージを送ることなら可能なはずですよね?」

彼女の行動をすでに予測済みなのか、アレクセイとミラベル達二人もウィンドウを開き装備の確認を始めているようだ
それでも周囲に確認できる無数の敵影を思うと、泪も容易には首を縦には振る事ができない
そんな彼女に、優希は大丈夫と胸を張って笑顔で言葉を続ける

 「大丈夫!泪さんには指一本、ミサイルはおろかビーム一発も触れさせません!」
 「なんせ憧れの人だからな、張り切ってガードしてみせ……痛たたたたたた!!」
 
隣でニヤニヤと冷やかし気味な言葉を述べるアレクセイの脇をぎゅ〜とつねって黙らせた後
優希は【トライデント】をくるくると頭上で回転させ、建造物の陰を行き来する【メカフリューネ】を見据え
不敵に元気に行動開始の言葉を、にやりと笑った口から放った
 
 「どうせならAIとコンタクト取れ次第、塔の方も目指しましょう!
  ラスボスはどうだかわかりませんが、せめて中ボスぐらいは私達の手で倒して見せますよっ!」