リアクション
* * * 中継基地を回り始めた一行だったが、土星君は修理のことが気になるらしく、しきりと後ろを振り返っていた。 ふよふよと空を浮いている土星君の頭に突如重みが増す。 「土星くん、人生は楽しんでなんぼよ? カリカリするだけじゃつまんない一生で終わっちゃうよ」 セレンフィリティ・シャーレット(せれんふぃりてぃ・しゃーれっと)が腕を乗せたのだ。 『ちょ、何すんやわれー! って、なんつー格好をしとるんや!』 慌てて振り払ってどなる土星君だが、セレンフィリティの服装――メタリックブルーのトライアングルビキニの上にロングコートのみ――に目を見開いた。 「あら知らないの? 余計な装飾を排して自然のままの美しさを魅せるのが、いい女の条件なのよ」 腰に手を当て、胸を張って言ってのけるセレンさん。の横で額を押さえているセレアナ・ミアキス(せれあな・みあきす)だったが、彼女も似たような格好なのでツッコミはいれられない。 「そ、そうなのか」 『いや、ちゃうからな』 そんな2人の後ろにいたセレスティアーナが己の身体を見下ろしていたことについて、土星くんは不穏を感じてツッコミをいれておいた。 「それにしてもあのアンテナ、あんな形でよく電波とか受信できるわね。ていうか、アレから発する電波を受信したらデムパ系になりそうな気が……」 「デムパ系か。楽しそうだな」 『んなわけあるかい! テキトー言うなや。小娘も楽しそうてなんやねん!』 「まあまあカリカリせず」 『お前はのびのびしすぎや!』 「セレン……はぁ。セレスティアーナ様。セレンの言うことはあまりお気にせず」 無理やり引っ張られて参加したセレアナは、まだ視察が始まったばかりだと言うのに疲れ切っていた。というのもセレンフィリティがおやつを作ると言いだし、それを阻止するのに多大な精神力を消費したからだ。 (あんなの食べさせてセレスティアーナ様に万が一のことが起ったら……想像するだに恐ろしいわ) セレンフィリティの料理は一部で生物兵器とまで言われているのである。お疲れ様です。 「でも一度ここへ来た時は探索に気を取られてたけど、改めてみると結構いい景色ねー」 『……まあ、それはたしかに』 「はーはっは! そうだろうっ?」 『なんで小娘が偉そうにしとんねん!』 なんとか土星君がツッコミをいれてくれているが、セレスティアーナと同じかそれ以上にはしゃいでいるパートナーに、セレアナは他人のふりをしたくなる。とにかく調子に乗りすぎないように見張らなければ。 (少しは大人しくして欲しいわ……大人しいセレンの姿は想像できないけれど) ため息をつきながら、そろそろ息切れの土星君をフォローするためにセレアナは少し歩を速めた。 「初期の調査には参加していたけど、それっきりだったからなぁ。今は開発が進んでるみたいだし、様子見がてら観光してみよう……って思ったら、セレスティアーナさん直々に観光ツアー組んでるとか。参加するしかないよな」 一度、ちゃんとニルヴァーナを見ておきたいと思っていた如月 佑也(きさらぎ・ゆうや)にとって、今回の話は渡りに船だった。興味深げに周囲を見渡す。不思議な形のアンテナ塔を中心に店もでき始め、活気に満ちている。 「……うふふ。ニルヴァーナに来るのは暫くぶりですけど、随分と変わりましたわね。 ああ、セレスティアーナ様。今回はよろしくお願いしま……あら、一緒にいらっしゃる丸いお方は……まあ可愛らしい」 横でキラキラした目をしているラグナ・オーランド(らぐな・おーらんど)は、セレスティアーナに挨拶をしようとして、その陰に隠れていた土星くんの存在に気づく。 「ああ、土星くん壱号だ!」 『誰がや!』 「土星さんっていうのですね。一家に一人欲しいですわー」 「何その『ぽえーん』とか言い出しそうな名前は」 『は? ちがっ、ぐおおおお』 ラグナに抱きしめられ、土星くんがじたばたと小さな足をばたつかせるが、あまり抵抗になっていない。 「いやはや、良いですねぇ新天地ってものは。何もかもが新鮮で目新しい。これだから旅は……っとと、今日は旅なんて大それたものじゃなくて観光でしたね。 それにしてもこんな所で代王様が観光とは、もしかして暇なんですか?」 「観光じゃない! 視察だぞ!」 からかいの口調な鞍馬 楓(くらま・かえで)に、セレスティアーナがむっとした顔で答える。だが周囲の人間たちの表情が『これはただの観光だ』と告げていた。 (いやぁ、こういう子供っぽい人を見ると、ついからかいたくなっちゃうんですよねー) からかいもほどほどに、楓は周囲を見回した。ラグナに解放された土星くんが、1つの店の前で立ち(浮き?)止まっていた。ジャンクショップのようで、商品を前に交渉しているらしい。 「ほほお、このようなものがあるとは……」 佑也はラグナの目が輝いた瞬間をしかと見た。 (俺にはさっぱりだけど、なんか貴重なものなのかな。安めのなら買ってあげられるかも) 「すいませーん、これいくらですか?」 思っていた以上に高いものもあったが、買えそうなものをいくつか探しだしてラグナに買ってあげた。 「へえ、独立する時にこちらへ」 「ええ。少し不安でしたが、おかげさまでなんとかやってます」 楓は楓で、周囲を行きかう人々と交流を図っていた。仕事で立ち寄ることもあるかもしれない。現地の人との交流は無駄にはならないはずだ。 『意外とええもんも売っとるんやな』 「土星さん? どうかされましたか?」 ラグナと店員、土星くんでしばし何か盛り上がっていたが、ふいに土星くんが考え込んだ。 『いや、材料に……なんでもあらへん。それより』 「さあっ! 次に行くぞ! ……次はどこだ?」 『しらんのかいっ!』 不思議に思ったラグナだが、元気良いセレスティアーナの声に苦笑し、次なる場所へと向かって行った。 |
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