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第2章 採ってキノコ

 どこまでも青く澄みきった空が、高い。
 その青を切り取る様に、木々の紅葉した葉がその存在を主張する。
「来て良かったよ……こんなに綺麗な紅葉が楽しめるんだから。危うく今年の紅葉を見逃すところだった」
 ウェザー主催のキノコ狩り。
 その中で、一人紅葉狩りも楽しんでいるのはエース・ラグランツ(えーす・らぐらんつ)
「これもサニーさんのおかげだね。ありがとう」
「あ、ううん。こちらこそお花、ありがとう!」
 エースの花のような微笑みに、こちらは太陽のような笑みを返すのはウェザーの看板娘、サニー・スカイ(さにー・すかい)
 サニーと、傍らのサリーの手にはエースから渡されたプチブーケ。
「……姉さん、それ、キノコ狩りには荷物になるだろ。俺があずかろうか」
 サニーとエースの間に割り込んできたのは、仏頂面をしたサニーの弟レイン。
 ちなみにクラウドは別チームでキノコ狩り中だ。
「ああ、レイン君たちのおかげでもあるんだよね。ありがとう」
「あ、うん……」
 不機嫌そうな様子を気にも留めず、同じ笑顔をレインに向けるエース。
 その屈託のなさに、思わず素直に返事をしてしまうレイン。
「サニーちゃんサニーちゃん、こっちにキノコがいっぱいあるよっ!」
「わあ、本当だ!」
 騎沙良 詩穂(きさら・しほ)の呼ぶ声に、サニーは目を輝かせて走り出す。
「好きなだけ取っておいで。採ったキノコは後でまとめて食用かどうか確認するから」
 サニーを笑顔で送り出すエース。
 彼の言葉に、キノコを採っていた数名が何故かぎくりとする。

「ほんとにもー、隆……桐条さんったらいけずなんだから! 折角リースがクレープ作ってくれるっていうからお手伝いしようとしたら、あたしだけキノコ拾い係だって! あたしだって料理したかったのにー」
 キノコを採りながら愚痴っているのはマーガレット・アップルリング(まーがれっと・あっぷるりんぐ)
「こうなったら、めっちゃ美味しそうなキノコを採って桐条さんを驚かせて、あたしをキノコ採り係にした事を後悔させてやるんだからっ!」
 おー、と天高く拳を突き上げつつ、ふと隣を見ると先程までそこでキノコを拾っていた少女の姿がないことに気付く。
「あれ?」
 見回してみると、少女……アニス・パラス(あにす・ぱらす)は少し離れた所でキノコを採っている佐野 和輝(さの・かずき)の後ろに隠れていた。
「あれれ?」
「ごめんなさい。この来、少し人見知りするのよ」
 マーガレットに声をかけたのは、アニスたちの保護者的存在のひとり、スノー・クライム(すのー・くらいむ)
「ほら、アニス。そんなにビクビクしないの」
「……」
「あ、ううん。あたしもちょっと声が大きすぎたかな、なんて……」
「…………」
 マーガレットが慌てて手を振るが、それも空しくアニスはますます縮こまるばかり。
「おーい」
「ごめんなさい……」
「ううん、気にしてないよ。いっぱいキノコが採れるといいね」
 ふわっと笑うと、再びキノコ採りに集中する。
 アニスはというと、人見知り対象がなくなった途端、けろりとして和輝の腕を掴んでしゃべり出す。
「んねえ、和輝」
「何だ?」
「飽きた!」
「早いな!」
 それもその筈、アニスが持っている籠の中はキノコでいっぱい。
 何故かキノコはそこら中に「拾ってください!」とばかりに転がっていたのだ。
 ちなみにそれは冒頭の怪人きのこ仮面のせいだったりするのだが、そんなのアニスたちは知る由もない。
 あまりにも簡単に取れすぎたキノコのせいで、アニスはすっかりキノコ採りに退屈してしまっていた。
「それじゃあ、彩りに少し違うのも採ってみるか?」
「にひっ、いいね! 山の神様〜、何か教えて〜♪」
 ころりと気を取り直すと新たな目的に向かって邁進するアニス。
「あった! このイガイガは……栗!」
「怪我するなよー」
「にひひ〜っ」
 アニスの新たな籠の中は、各種秋の味覚で埋まっていった。

   ※※※

「採ったよー!」
「おかえりなさい!」
「うわあ、いっぱい採れたね」
 たくさんのキノコを抱えたキノコ狩りの面々は、あらかじめ用意しておいたバーベキュー会場に帰還した。
 出迎えたのは、バーベキューの準備をしていた杜守 柚(ともり・ゆず)杜守 三月(ともり・みつき)
「三月さーん、炭火の準備をお願いしてもいいでしょうか?」
「あ、うん。今行くよ!」
 てきぱきとバーベキューの準備を進めていたエオリア・リュケイオン(えおりあ・りゅけいおん)の声に、三月は元気よく返事をする。
「サニーさん、お疲れ様! すぐ食べられるようにするからね」
 サニーに一声かけると、三月は持ち場に走って行く。
「詩穂たちは、石づきを取っておこっか」
「私も手伝いますね」
 詩穂の声に、柚がキノコの入った籠に手を伸ばそうとする。
 その籠をひょいと持ち上げた手があった。
「ちょっと待って」
 エースだった。
「まずは、危険なキノコがないかチェックしておくね」
「すごーい、エースさん詳しいのねー」
「得意なのは花だけじゃないんだよ」
 エースはサニーに片目を瞑ってみせる。
「……どうしたの? 具合でも悪い?」
「火おこしくらいなら、あとは私達でやっておきますよ」
 エースとサニーたちを心配そうに眺めていた三月に、コンロの準備をしていた風馬 弾(ふうま・だん)ノエル・ニムラヴス(のえる・にむらゔす)が声をかける。
「あ、ううん。大丈夫だよ。ありがとう」
 弾たちに笑顔を向けると、慌てて炭の入った箱を持ち上げる三月。
 だが。
「うわわっ!」
 からんころんからん。
 箱を取り落し、中の炭を散乱させる。
 炭が転がって澄んだ音を立てる。
「あー」
「あら……」
「ご、ごめんね、今片付け……あちちっ!」
「そっちは火のついてる方だよ!」
 よろけた拍子にコンロに当たり、倒してしまう。
「本当に大丈夫?」
「ご、ごめん……」
 俯く三月を、弾とノエルは心配そうに覗き込んだ。

「どーお、桐条さん。こーんなにいっぱい美味しそうなキノコが採れたんだからっ!」
 バーベキューとは別に料理の準備をしていたリース・エンデルフィア(りーす・えんでるふぃあ)桐条 隆元(きりじょう・たかもと)たちの前に、マーガレットが採ってきたキノコが山の様に積み上げられた。
「わあ……マーガレット、すごいです!」
「ふふふ」
 不敵に笑うマーガレットに、隆元が珍しく感心した様子で頷く。
「うむ。大したものだな」
「ふふふふふ」
(さあ、悔しがれ! あたしを収穫係にしたことを……!)
「耳の長い小娘をキノコ狩り係にして正解であったな」
「しまったあー!」
 思惑が外れ、頭を抱えるマーガレットだった。

   ※※※

「これは大丈夫。これも大丈夫。これは少量なら、いいか」
 騒ぎを余所に、エースは黙々とキノコの選別に勤しんでいた。
「これは命に別条はない。これは……いざとなったら治療すればいい」
 大量のキノコを前に、天然か故意か、次第に基準が甘くなってくる。
「これも……うん、大丈夫。万一の事があったら蘇生してあげよう」
 エースの手によって、大量のキノコが食用として選別されていった。