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第3章 準備でキノコ

「バーベキューソースは用意してあるから、こっちは味を変えて大根おろしとわさびポン酢なんてどうかしら」
「歌菜、こっちの炊き込みご飯の火加減は?」
「あっ、そろそろ火からおろした方がいいみたいね」
 遠野 歌菜(とおの・かな)月崎 羽純(つきざき・はすみ)のコンビによって、バーベキューや他のキノコ料理の準備が着々と進められていた。
 焼きキノコにキノコご飯、ごま油と塩で香ばしく炒めたキノコ。
 周囲に香ばしいキノコの香りが漂ってくる。
「んー、いい香り。こっちもそろそろ焼き始めましょうか」
「そうですね」
 深呼吸するサニーの横で、柚が串に刺したキノコを網の上に並べる。
 弾とノエルがうちわであおぎ、エオリアが炭の様子を見る。
「あ、ら……」
 高峰 結和(たかみね・ゆうわ)の声に全員がそちらを向き、そして硬直する。
 結和が持っていた串。
 そこに刺さっていたのは赤や黄色の謎色物体。
 つい先程、柚が串に刺したばかりのキノコだった。
 それは、たしかに先刻まで通常の茶色いキノコだった筈。
 何をどうしたら焼いただけでそんな不思議な色にすることができるのだろう。
「おかしいですね……あ、でも味は普通ですよ。味見してみます?」
 結和の言葉に、その場にいたほとんどすべての人物が後ずさる。
「もぐもぐもグ」
「……(もむもむ)」
 気にせず口にしているのはエメリヤン・ロッソー(えめりやん・ろっそー)とサリーだけ。
「だ、大丈夫かしら……」
「まだ人生経験浅いからな……」
 サリーを心配そうに見つめるサニーとレイン。
「うふふ。まだまだ経験が足りないわね。もっと経験を積めば、いつかあたし位の料理の腕前になれるわよ」
「そ、そうね……(ごめんなさいごめんなさいごめんなさい!)」
 自信たっぷりに呟いたのはセレンフィリティ・シャーレット(せれんふぃりてぃ・しゃーれっと)
 彼女の腕前をよーく知っているセレアナ・ミアキス(せれあな・みあきす)は、心の中で結和に謝罪するのだった。

「けほけほっ」
「大丈夫、リース?」
「ええ、平気です」
 風に飛んだ粉にむせたリースを、マーガレットが心配そうに覗き込む。
 そして。
「……ぷっ」
「な、なんですかもぅ」
「だ、だってリースのその顔……」
「もぉー」
 マーガレットの希望でクレープの準備をしていたリース。
 その小麦粉が彼女を直撃し、リースの顔は真っ白になっていた。
「笑ってないでマーガレットも手伝ってください。ほら、粉をふるったから牛乳と卵を混ぜてください」
「わーい」
「小娘たち、こちらは間もなく完成なのだよ。間に合うかね」
 リースとマーガレットに声をかけたのは隆元。
 口を動かしながらも手は止めない。
 彼の手元では、何やら美味しそうな香りが立ち上っている。
「本当は、少し寝かせておいた方がいいのですが……ナディムさん、後はよろしくお願いします」
「ほいきた。任せな」
 リースから受け取った生地を受け取ったのはナディム・ガーランド(なでぃむ・がーらんど)
 温めて置いたフライパンに、くるりとお玉で生地を流しいれる。
「穴を空けねぇように……っと」
 フライパンと生地の間に箸を入れ、慎重にひっくり返す。
「ほい、いっちょあがりー。たかもっちゃんどーぞ」
「うむ」
 ナディムは出来上がったクレープを隆元に渡す。
 そこに、隆元は先程作っていたもの……鶏肉とタマネギとキノコの炒めものを入れ、包む。
 リースとナディムと隆元の澱みない共同作業により、次々と美味しそうなクレープは完成していく。
「お、おいしそうですね……」
「うわあー」
 その鮮やかな作品に、思わず見入ってしまう結和たち。
「あたしにだってあれくらい出来るわよ! 待ってなさいキノコ達!」
「そ、そうね……(逃げてー! キノコ逃げてー!)」
 発奮するセレンフィリティから思わず目を逸らすセレアナだった。

「レインさん達はお姉さん想いなんですね」
 キノコを焼いているサニーとそれを手伝っているレインに、柚が声をかけた。
「そうねー。いつも助かるわ」
「いや、まあ、うん……」
 素直に頷くサニーに、レインが赤面する。
「私も、弟みたいな子がいますから。いつも感謝しています」
「え、弟? お兄さんじゃなくて」
「弟、ですよっ」
 意外そうな顔をする三月に唇を尖らせる。
「姉って、難しいですね……」
 結和が姉談義に加わった。
「どうしたの?」
「弟のことを思って行動してみても、それがあの子の為になっていないのではないかと思うことがあって……」
「だーいじょうぶ!」
 視線を落とす結和の肩に、サニーが手を置く。
「弟を想う気持ちに、無駄なんかないわよ」
 全く根拠のないサニーの言葉に、それでも結和は微笑んだ。

 リースが焼きたてのクレープを並べた皿を差し出した。
「いっぱいできましたので、よかったら皆さんもどうですか?」
「いいの? わーい!」
「炊き込みご飯も、完成よ」
 歌菜が飯盒のふたを開けると、ほかほかの蒸気と共においしそうな香りが立ち上る。
「こちらのバーベキューも、ちょうど良い頃合いです」
 エオリアが、串に刺さったキノコを掲げる。
「皆、色々趣向を凝らしてるな……クリは茹ったし、あとはデザートに柿を向いておくか」
 和輝がキノコ以外の山の幸の入った籠に手を伸ばす。

 料理は完成。
「いただきまーす!」