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第6章 仲間とキノコ

 ぐつぐつぐつ☆
 鍋の中にはたっぷりの出汁と、山で採れた山菜。
 ほかほかの湯気がたちのぼり、キノコ鍋の準備はばっちり。
 ……キノコさえ入れば。
「ねー、キノコま〜だぁ?」
「まだだ。正しく鑑別が終わるまで食べるなよ」
 ちゃんちきちん♪と鍋を箸で叩きながら問うレナ・メタファンタジア(れな・めたふぁんたじあ)に、ダリル・ガイザック(だりる・がいざっく)は無慈悲に告げる。
「そんなに気にしなくっても、大丈夫ですよ〜」
「そ〜だねぇ。こんなに美味しそうなんだ。何なら生でもいけんじゃないかぁ?」
 神崎 輝(かんざき・ひかる)の言葉にキルラス・ケイ(きるらす・けい)は頷くと、キノコをひとつ手に取って。
「あ、こらキル!」
「生はいけません。ええ生は」
「もー、アルもしのっちゃんも固いねぇ」
 ひょいぱく。
「あー!」
 アルベルト・スタンガ(あるべると・すたんが)の制止も鬼久保 偲(おにくぼ・しのぶ)の忠告も聞かず、生のままのキノコを口に運ぶキルラス。
「んー、やっぱり採れたてはウマいねぇ」
「だ、大丈夫か、キル?」
「んあ? 全然平気」
 心配疎なアルベルトにけろりと答えるキルラス。
 しかし全然大丈夫ではなかった。
 キノコを選別するダリルを見ているうちに、キルラスの体がうずうずと動き出す。
 耳としっぽがあるならさぞピーンと立っていることだろう。
「食えー! 採れたてキノコだぜぇ、さあ食え食えー!!」
 キノコを鷲掴むと、とりあえず目に入ったダリルの口に突っ込んだ。
「な、何を……もっ!」
(ひょわー!? ダリルの口にキルラスがあんな形のモノを……ってダメダメ!)
 目の前で突如として繰り広げられた痴態? に、ルカルカ・ルー(るかるか・るー)は慌てて両手で目を隠し指の隙間から覗き見る。
(ダリルはそっちじゃない! ×の左なんだから!)
「おいキル! そっちにばかり構ってないで俺の方も……じゃなくて、本当に大丈夫か?」
「おー、アルも食え食えーっ!」
「んんんっ!?」
 勢いづいたキルラスは、アルベルトの口にもキノコを押し込んだ。
(キルが、キルが俺の口に……)
 一瞬、じわりとした幸福感を感じるが次第にそれはアルベルトの中でひとつの欲求となっていく。
 銃になりたい……
 機関銃になって、キルに弄ってもらいたい……!
 アルベルトを形作るナノマシンが拡散し、機関銃の形になっていく。
 いつものなんちゃって銃とは違い、本格的な銃。
(さあ、キル、これで俺を……っ!)
「んはぁ…… なんて立派な……!」
 ひょい。
(ん?)
 アルベルトを持ち上げたのは、キルラスではなかった。
「こんなに黒光りして、太くて大きなモノ、久しぶり……」
 さわさわさわ。
(なっ……!?)
 アルベルトの銃身を愛撫するように手を這わせているのは、ルカルカだった。
 いつの間にかキノコを食べていたのだろう。
 銃器ラブのルカルカは、アルベルトの機関銃に自身の抑えが利かなくなっていた。
 かちゃり。
(あっ、そこは……っ!)
 かち、かち、かち。
「んふふー? なかなかいい穴してるじゃない。こっちの穴の感度はどうかしら?」
 ルカルカの手がアルベルトを分解する。
 普段は目に見えない所までも露わにし、キルラス以外触ったこともない敏感な部分さえ太陽の下に晒し蹂躙していく。
 ……どう見ても銃の整備です。
「ふふ……もうこんなに(バラバラに)なって、可愛い…… 安心してお姉さんに任せなさい」
(く……っ、あっ、やめ……っ)
「さあ、もっと奥まで入れるわよ」
 つぷり。
(アッーー!)
「生はいけません。が、きちんと道具を使っていて感心感心」
 忍の冷静な評価が聞こえた。

 アルベルトがルカルカによって念入りに整備されている間に、他の面子も大変な事になっていた。
「素晴らしい……なんていいカラダ。これこそボクの求めてた人です!」
「ああ、俺はなんで今まで君のその魅力に気が付かなかったんだ!」
 こちらもいつの間にかキノコを食べていた輝と、キルラスによって無理矢理キノコを食べさせられたダリル。
 熱い視線を交わした二人は、互いに手を取り合っていた。
「ボクは、あなたが欲しい!(846プロのアイドルとして)」
「俺には君が必要なんだ!(教導団の人材として)」
 あなたが君がと傍から聞けば誤解を生じそうな熱い言葉を交わしつつ、二人はいつまでも平行線の勧誘を続けるのだった。

「ああ、みんな、なんだかとっても楽しそう……よーし、ボクもっ!」
 いつの間にか周囲に流れるピンク色の煙。
 そしてピンク色に見えなくもない周囲の光景。
 煙を吸い込んだレナは、きょろきょろと周りを見回し、そして隣りで鍋の手伝いをしている少女に照準を合わせる。
「あーそーぼーっ!(性的な意味で)」
「な、なんにゃぁあああっ!?」
 ジャンピングダイブした先は、瀬山 慧奈(せやま・けいな)
 突然抱き着いた揚句、自分を撫でまわし始めたレナに混乱を隠せない。が。
(空気を……空気を読まな!)
 慧奈は、アホの子だった。
(よー考えてみい。周り全体がピンク色の中、こうやって襲われるのはむしろ美味しいやん! それに……)
 慧奈が顔を向けた先にいるのは、彼女の兄の瀬山 裕輝(せやま・ひろき)
 偲と二人、ぽつんと鍋の前に正座している。
(アホ兄貴を見い、ぼっち! 誰にも絡まれんと、ぼっち! それに比べればあたしなんて……)
「ん〜、可愛い可愛いっ」
(ぐぐぐぐぐ……)

「ぐぐぐぐぐ……」
 そのアホ兄貴こと裕輝は、焦っていた。
(なんちゅーこっちゃ。大人しく山菜とか鍋に入れとったらいつの間にか周りのビックウェーブに乗り遅れとる! なんとか……なんとか挽回せな!)
 そんな裕輝の目に、ある一行が映った。

「吹雪……何を集めているの?」
「勿論、金になるキノコであります!」
「いえそれ一部では売れるかもしれないけど……駄目な奴よね。危ない方よね」
 大きな籠を背負い林の中を散策しているのは葛城 吹雪(かつらぎ・ふぶき)コルセア・レキシントン(こるせあ・れきしんとん)
 吹雪の籠にはキノコが山と盛られていた。
 ……全て、毒々しい色の。
 吹雪をキノコ狩りに誘ったコルセアは、当初は健全なレジャーのつもりでいた。
 そのうちに吹雪の気合の入れように、これは二人の食生活のかかったものだと考え真面目に食べられるキノコを探し採取していた。
 しかし、その認識はまだまだ甘かったことに、キノコ狩り後半になってようやく思い至ったのだ。
「捨てなさい! すぐに!」
「い……いけません! これは、これはっ、グラムでかなりの金額に……っ」
「駄目だってーっ!」
 慌てて廃棄させようとするコルセアに、必死で抵抗する吹雪。
 何しろ生活がかかっているのだ。
 そこに。
「そのキノコ……ぜーんぶ買うたっ!」
「はっ!」
「ええーっ!」
 財布を掲げ飛び込んだのは裕輝だった。
「ご購入感謝であります!」
「何を言ってるんですか!」
「もう、もう俺に残された道はこれしかないんや!」
 吹雪の背負う怪しいキノコ入り籠を両手で持ち上げる。
「こいつを山盛り食ってリアクションを取る! それが俺に残された最後のネタや!」
「うん何だかよく分かりませんが絶対違うと思います!」
 止めていや止めてくれるなと裕輝たちがやりあっている中、少し離れた所でそれを冷静に見ているのは偲だった。
「……生でなければ、大抵のモノはいけます。きっと」