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トキメキ仮装舞踏会

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トキメキ仮装舞踏会

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6 会場潜入
 セレンフィリティ・シャーレット(せれんふぃりてぃ・しゃーれっと)セレアナ・ミアキス(せれあな・みあきす)はともに、軍服の仮装をして舞踏会にやってきました。
 セレンフィリティは、まるでお姫様が騎兵将校の軍服を着たような可憐なイメージでしたが、セレアナは凛々しさが際立っています。
 二人は一しきり踊って疲れたので夜風に当たろうと、外に出ました。

 その頃、夢美は、木の幹に背中をもたせかけて空を見ていました。
「ああよかったー。親切な人達に会えて」
 そして両手を胸の前で組み星を眺めます。
 空には満天の星が、まるで、福山君の瞳にやどる光のように瞬いています。
「待っててね、福山君。夢美、きっと勇気を出すから」
 夢美は星に向って言いました。
 その時、また誰かの足音が聞こえてきました。
「ああああああああ」
 その途端に、ゴキブリのようになってカサカサと逃げ出す夢美。
「何かいるわよ?」
 背後から、鋭い声が聞こえてきます。
「ひいいいいい。お助けえええ!」
 夢美は必死で逃げようとしましたが、背後から捕まってしまいます。
 振り返ると、軍服姿の麗人が二人立っていました。セレンフィリティとセレアナです。
「ここで、何をしているの?」
 セレアナが厳しい口調で聞きます。
「ああああ。私は、怪しいものじゃごええませんだ。お許し下せえ、お代官様」
 夢美はなぜか時代劇口調です。
 すると、セレンフィリティが言いました。
「ちょっと、そんな怖い顔しないで、優しく聞いてあげなさいよ。ねえ、あなた、どうしたの?」
「う……うううう」
 夢美は目から涙をこぼして全て事情を話しました。
 セレンフィリティはコクコクとうなずきます。
「なるほど……福山君って子好きなのね? なら、あたしに任せなさい!」
「ちょっと、そんなに安請け合いしていいの?」
 セレアナが言います。
「そうね。問題は仮装している福山君をどう見つけるかよね。ねえ、夢美さんだっけ? あなたなら彼の事を良く知っているでしょ? 例えばクセとか……どういった仕草をしたり、無意識に髪をいじる……とか」
「そうね」
 夢見は鼻をぐしぐしさせながら答えました。
「福山君は、うなじに星の痣があるのと……それと、髪をかきあげるクセがあるわ。その仕草がまたカッコ良くて……いやん」
「分かったわ。きっと見つけてあげる……それと……あなたも、ヘタにこんなところに隠れているより、堂々と会場に入った方がいいかも」
「でも、どうやって?」
「安心して、その鬼ババとやらはあたしがなんとかごまかすから。さあいきましょう。セレアナ。あなたももちろん協力してくれるでしょう?」
「まったく……」
 セレアナは呆れたままです。
 内心はこう思っていました。
(下手に介入してこの子の恋が破れるようなことになったらどうするのよ……)
 とはいえ、関わり合った手前、放置するのも忍びないとも思うのと、自分がついていた方がセレンフィリティが変に暴走する前に抑えに入れるだろうと思い、付き合うことにしました。
「分かった、行きましょう」
 そして、再び福山君のクセと特徴を確認して広間に向かいました。
 ドアの前では例の女中頭がムチを持って立っていて、夢美を見ると鬼のような形相で叫びました。
「見つけた。こんなところで、何をしているの?」
「まって」
 セレンフィリティが言います。
「私が頼んだの。ちょっと気分が悪くて、付き添っていてもらったの。お礼がしたいから彼女を広間に入れてもいいでしょう?」
「お客様がおっしゃるなら」
 女中頭は言いました。
「しかし、仕事があるので10分だけです」
「10分? 呆れた」
 セレアナが言いました。
「いいわ、それでも」
 セレンフィリティが答えます。
「セレン?」
 非難するようなセレアナにセレンは耳打ちしました。
「入っちゃえばこっちのもよ」
「まったく……」
 セレアナは肩をすくめます。
 こうして、なんとか三人は広間に入る事ができました。
「じゃあ、福山君を捜すわよ。」
「分かったわ。ターゲットが見つかったらテレパシーで連絡する」
「OK。念のために夢美はあたしと一緒にいて」
「はい」
 夢美はセレンにしがみつくようにして後を付いて回りました。
「なんて、たくさんの人なのかしら」
 夢美は圧倒されます。
 きょろきょろしているので何度も人にぶつかってしまいます。
「きゃあん! ごめんなさい」
「気をつけろ」
 そして、その度にセレンとはぐれそうになります。
 この手を離しちゃダメよ……と、夢美は前にいる人の腕をしっかり握りしめました。
「っておい。なんなんだよ」
 黒崎 竜斗(くろさき・りゅうと)は、いきなり自分の腕をつかんできた挙動不審な娘を見て言いました。
「え? きゃあ!」
 夢美は驚いて弾の手を離します。
「どうしたのですか?」
 ユリナ・エメリー(ゆりな・えめりー)が振り返りました。
「いや。この子がさ」
 竜斗は夢美を指差して言いました。
「誰ですか?」
 ユリナがちょっと膨れて言います。
「いや、全然知らない人だって。知らないうちにしがみつかれてたんだ。あんた、一体、どうしたんだ? そんなにこそこそして」
「あ……あたし、星野夢美っていうの。セレンさんと一緒に福山君を捜していたの」
「福山君? もしかして彼氏さんですか?」
「いやん。彼氏だなんて。でも、そうだったらいいなーー、と思ってる、とてもとても素敵な王子様なの」
「片思いなんですか?」
「そうなの……だから、今日は勇気を出して彼の本音を聞き出そうとしたんだけど……」
「わあ。それって告白ですか?」
「そうみたいなもんね。いや、恥ずかしい!」
 そういうと、夢美は持っていたハートのクッキーで顔を隠します。
「ねえ、竜斗。夢美さんを助けてあげませんか?」
「ええ? いいけど。一体どうしたもんかな」
「夢美さんの恋のお手伝いをします。舞踏会なんだし、一緒に踊ってもらえれば距離も縮まるかな? 他にもたくさんおしゃべりしたり……何かハプニングがあればいいんですけど」
「その前に、その福山って奴をみつけないとな」
「そうですね。探してくれますか? 竜斗」
「いいとも。で、その福山って奴はどんな奴なんだ?」
「黒髪で、背が高くて、とてもイケメンで、うなじに星の痣があるの」
「よし、分かった。まかせておけ」
 そういうと、竜斗は人ごみの中に消えていきました。
「じゃあ、私達はここで待ちましょう」
 ユリナは夢美を窓辺に腰掛けさせ、ジュースを持ってきました。
「はい、どうぞ」
「ありがとう、ちょうど喉がかわいていたの。ところで一つ聞いていい?」
「なんでしょう?」
「竜斗さんとは、その、つき合ってるの?」
 すると、ユリナは顔を真っ赤にして答えました。
「そうです。私たちつき合ってます」
「やっぱり! ああいいなあ、想い想われるなんて。幸せよね」
「は……はい。幸せです」
「ね、どうやって両思いになったの? 秘訣を教えて」
「え? 私たちが結ばれた理由? えと、頑張って告白したら……OKしてもらえました……」
「そっかあ。やっぱり勇気を出して告白しなきゃダメなのよね。でも、正直言って怖いの」

 その時です。

「そこの女中!」
 例のこわい中年女性が、いつの間に来ていたのか夢美の目の前に立っていました。
「もう、10分はとうにすぎたわよ。早く、台所に戻りなさい」
「え? だって、まだ、福山君に会ってない……」
「口ごたえは許しません。さっさと来なさい」
「いや」
 夢美は叫ぶと、人ごみの中に逃げ込んでいきました。
「お待ち!」
 中年女性は鬼のような形相で、夢美を追いかけていきました。
「いやあああああ」
 夢美の悲鳴が広間中に響き渡ります。