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リアクション
Broken balance
予選ブロックの一つ、サバイバル文化資料館の中での闘いが今始まろうとしていた。
サバイバル文化会館の中は、文字通りサバイバルに関する資料や実物のレプリカ展示が置いてある。そして何故かサバイバルをもっと体験してほしいという意味が込められているのかは判らないが、米軍特殊部隊特製のトラップが会場全体に張り巡らされている。
もちろん、殺傷能力は無いものに変更はされてはいる。との事だ。
リカイン・フェルマータ(りかいん・ふぇるまーた)と空京稲荷 狐樹廊(くうきょういなり・こじゅろう)のペアが、資料が詰まっている本棚の間を進んでいた。
「こんな膨大な資料、何処から集めたんでしょうね」
狐樹廊が天井にまで届きそうな巨大な本棚に、みっしり押し込まれている本を見上げながら後ろに居るパートナーのリカインへと声を掛ける。
「……ええ、そうね。ところで、キロスは何処に居るの……ってきゃぁ!」
何故かリカインは御神楽環菜(みかぐら・かんな)の変装をし、キロスを探すようにきょろきょろと周りを探って居たが、足元に注意を払っていなかったため足首に荒縄が引っかかり、天井近くまで逆さ釣りにされるというトラップに引っかかってしまった。
その事にはちっとも気が付いていない狐樹廊は、リカインを置いて行くように奥へと進んで行く。
とそこへ、奥から変熊 仮面(へんくま・かめん)とにゃんくま 仮面(にゃんくま・かめん)がやってきたのだ。
変熊は狐樹廊へと右手の人差し指を突き付けると、
「俺様と会ったのが運の尽き! さぁ! 存分に笑わせてやる!」
そう言って掛けていた赤い仮面を外し、黄色い仮面を懐から出そうとした瞬間、狐樹廊の眼の奥が一瞬光ったのには気が付く様子も感じられなかった。
変熊が黄色い仮面を顔に付けようとするのを見計らって、狐樹廊が変熊の顔目掛けて吹き戻し付きのひげ眼鏡の物質化を解く。
仮面が変わった事に気がつかない変熊は、「ルドルフ!」と、ネタを披露した。
ぴひゅーっと緑の水玉模様の吹き戻しが膨らみ、空気が抜かれ戻って行くのを狐樹廊は無表情で見つめていた。
「それ、昭和の芸人ですかね?」
完全に吹き戻しが戻った頃に狐樹廊は、変熊に向かって一言呟いたのだった。
「……は?」
いきなり昭和と言われた変熊はつい、素の声のトーンで狐樹廊に向けて呆けた声を出す。
「師匠ーそれ仮面じゃないよー」
にゃんくまが慌てたように、変熊に向かって声を掛ける。
変熊はなんでだろう。と思いながら、ひげ眼鏡を外しそれをまじまじと見つめる。
「……ってルドルフの仮面じゃないではないか! せっかくのネタを駄目にしおって!」
誰に向かって言う訳ではないが、変熊は一言吠え手に持っていたひげ眼鏡を床に投げ捨てると、にゃんくまに向かってアイコンタクトを出す。
変熊の様子を見ていたにゃんくまは、変熊に近づくと頭に向かって身体をよじ登り、変熊の顔にしがみつくように掴まった。
予想もしなかったにゃんくまの体重の重さに変熊はふらふらになりながらも、尻尾を口に咥えると、
「エイリアン!」
と、ギャグを飛ばす。
「もう、狐樹廊ってば場所が違うじゃない! それに、トラップに引っかかって下りるの大変だったんだからね」
狐樹廊に置いてきぼりにされたリカインがそう言いながら、三人に向かって近づいてくる。さっきまで決めていた変装はトラップと格闘したせいか、所々ずれていたりするのだが、三人はその事に気が付きもしなかった。
「……それ、エイリアンじゃないわね。何を参考にしたのかは解らないけど、一遍その映画でも見直してきたらどうなのよ」
そして、変熊の姿を見ると変熊に向かって辛口の評価を言うのだけは忘れないでいた。
後ろからのヤジに変熊は耳を傾けようともせずに、突然床へと倒れると腕をぶつけた衝撃に涙目になりながらも、狐樹廊の方に身体を向けマントの隙間から見せてはいけない大事な急所を露出させたのだ。
「エイリアン誕生!」
変熊のネタが終了した直後、リカインは悲鳴を上げ、狐樹廊は変熊に向かってリタイア宣言と共に土下座をしたのだった。
「師匠、ちょっと刺激が強すぎたんじゃないかな……」
にゃんくまは、乳母車の中で意気消沈している狐樹廊とリカインを見ると、ご愁傷様。と言いたげに二人に向かって手を合わせた。
「俺様にかかれば、他愛もない。下ネタをどううまくかわすかも芸人の腕の見せ所だ! この調子で決勝まで勝ち進んでいくぞ」
「ボク達は芸人じゃなくて、学生ですってば……」
師匠、無茶を言い過ぎ。とぼそりと突っ込むと、にゃんくまは今にも笑いだしそうな変熊の身体を押して部屋の奥へと進んで行くのだった。
皇 彼方(はなぶさ・かなた)は、テンションが上がっている変熊と逆にどん底まで下がっているリカインを見てため息をつくと乳母車を押して外へと向かったのである。
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