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第3章 意地でもいちゃつく!

「ね、コハク。これどうかな?」
「うん、美羽によく似合ってるよ」
「そ、そっか。次はコハクの選んであげるね」
「ありがとう」
 ウェザーに現れた命知らずの初々しいカップル。
「サニー、お勧めはあるかな?」
「あ、はい……」
 小鳥遊 美羽(たかなし・みわ)コハク・ソーロッド(こはく・そーろっど)は、何故か息を切らして店の前を通りかかったサニーに声をかけた。
「それにしても、今日はお店が大盛況だね。何かイベントでもあるの?」
 そう、彼らは知らなかった。
 ウェザーのパーティーのことを、そしてカップル撲滅イベントのことを!
 ひゅん!
 ピンク色の何かが、コハクの顔を掠めた。
「?」
 ぺしゃ。
 後方で潰れる雪玉を見て、コハクは首を傾げる。
 ひゅん。
 ひゅん。
「えっ」
「わっ」
 次々と投げつけられる雪玉を美羽とコハクは状況を理解できないまま、紙一重で避けていく。

   ◇◇◇

「ふぉおおおおお!」
 ひゅん。
 ひゅん。
 次々と投げつけられる雪玉を、フレンディス・ティラ(ふれんでぃす・てぃら)をお姫様抱っこしたベルク・ウェルナート(べるく・うぇるなーと)はかいくぐり疾走していた。
「あの……」
「畜生! こんな雪玉ごときで邪魔されるものか!」
「あの、マスター」
(俺は、意地でもフレイといちゃついてやるぜぇえええ!)
 最後の叫びは心の中にのみ留めつつ、ベルクは盾を構える。
 吹き出す炎が、雪を蒸発させる。
「マスター? 雪合戦なのに、何故私達は逃げてばかりいるのでしょう……?」
 ベルクに抱えられたまま、いまひとつ状況を理解しきれていないフレンディス。
 それが幸いしてか、ベルクの過剰すぎる防衛にまで思いが至らない。
 ひとまず自分もと防御を展開しようとするのだが。
「あっ」
「す、すいません……っ」
「い、いや……」
 傘を広げようとしてバランスを崩し、思わずベルクの首に手を回す。
 急接近に焦る二人。
(う、動けません……)
 顔のすぐ横には、ベルクの胸板。
 触れれば心臓の音まで聞こえてきそうなほど、近く。
 ひゅん。
 その空気を切り裂くかのように、雪玉が飛ぶ。
「くっ、いい所だったのに邪魔しやがって!」
 ベルクは再び走り始める。

   ◇◇◇

「うふふふふふふ。あたしたちの愛の炎が、たかが雪玉ごときで冷やせるとでも思って?」
 意地でもいちゃつくカップルが、もう一組。
 おなじみ、セレンフィリティ・シャーレット(せれんふぃりてぃ・しゃーれっと)セレアナ・ミアキス(せれあな・みあきす)だ。
「ほらほらセレアナ、このミートパイも美味しそう。はい、あーん」
「ちょ、セレン……」
「あーん!」
「あ、あーん……」
 ひゅん。
「うりゃあ!」
 ばしゅっ!
 セレンフィリティは即座に雪玉を撃ち落とすと、何事もなかったかのようにいちゃつき始める。
「あら、セレアナってばこんな所にクリームなんかつけちゃって。もぉ、しょうがないなぁ」
「あっ」
 次々と飛んでくる雪玉を撃ち落としながら、セレアナに顔を近づけると赤い舌で頬のクリームを舐め取る。
 ついでにもう少し広範囲を舐めるのも忘れない。
「もう、セレンったら」
「うふ、美味しかった」
 舌なめずりをする恋人を見て、抵抗していたセレアナの顔にも笑みが浮かぶ。
「ね、セレン」
 指でケーキのクリームをすくう。
 それを、自分の唇に……

   ◇◇◇

「ね、ねじゅちゃんホントにいいんですか?」
「もちろんよ! 今日はこころゆくまでイチャイチャしてらっしゃい!」
「い、いちゃいちゃ……」
 赤面するディアーヌ・ラベリアーナ(でぃあーぬ・らべりあーな)の背を、ネージュ・フロゥ(ねーじゅ・ふろう)はぽーんと押した。
 その先にいるのは、歌戀・ラーセレナ(かれん・らーせれな)
 紅月に促され、歌戀は必死で自分の気持ちを告白する。
「でぃ、でぃあきゅん……歌戀は、お友達から……恋人になりたいの!」
「歌戀ちゃん……ぼ、ボクもお姉ちゃんみたいな歌戀ちゃんの事が大好きです」
 そっと、二人の体が重なる。
 そのまま手を取り合ってパーティー会場から抜け出す二人。
「さて、と。あたしは二人を応援してあげなきゃ」
 物陰に隠れつつ、その二人の後を追うネージュ。
「頑張ってね」
「あれ、紅月さんは行かないの?」
「ああ。俺は……やることがあるから」
 紅月はすうと唇の端を上げる。

 パーティー会場の外に出れば雪玉は飛んでこない……と、思っていた。
 しかし外はしんしんと雪が降っている。
 更に、どこかからか飛んでくる雪玉。
 勿論、ネージュが狙って投げているものだ。
 その雪のひとかけらが、ディアーヌの背中に入った。
「ひゃ……っ!」
「きゃあっ!」
 降る雪のひとひらが、歌戀の首筋をつたう。
 途端、もじもじと妙に動き出す二人。
「あっ、歌戀ちゃん、なんだか体がむずむずしてきたよ……」
「でぃ、でぃあきゅん、僕も……く、くすぐったいよぅ」
「は、あっ、ボク、もうだめ……ぽ、ぽぽぽぽーん!」
 ディアーヌの体から、白濁したモノが溢れだす。
 花粉だ。
 ピンク色の雪と混じりながら、花粉は周囲に広がっていく。
「あうっ、でぃ、でぃあきゅん……もう我慢できないよぅ」
 歌戀はディアーヌの首に手を回す。
「ボ、ボクも……止められないです」
 ディアーヌの手が、歌戀の服に伸びる。
 二人はそのまま暖かい場所へ向かう。
 これからの二人の時間のために。