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第1章 クリスマスイベント!

「ふん、ふん、ふ〜ん♪」
 雑貨屋ウェザー。
 いつもの店構えとはでちょっと違うその店内。
 その中でひときわ目立つのはやはり中央に飾られた大きな木。
 そう、今日はウェザーのクリスマスイベント当日。
 鼻歌と共にその枝のひとつひとつに彩りを添えているのは執事。
 いや、執事姿の清泉 北都(いずみ・ほくと)だった。
 ツリーにつけているのは星や人形、木や魚の形をしたクッキー。
 北都が焼いて来たものだ。
「ん〜……ん?」
 高い部分に飾ろうと伸ばした北都の手から、ひょいとクッキーが消えた。
「そこは我が担当しよう」
「ありがと、モーちゃん」
 星を飾り付けるモーベット・ヴァイナス(もーべっと・う゛ぁいなす)に北都は笑顔を向けた。

 そしてこちらも飾り付けをする一組、いや一人。
「せっかくだからここにも飾り付けしたいね。花と……折紙の鎖は基本だよね」
 薔薇に百合にガーベラ、そして柊。
 アレジメントを飾り付けているのはエース・ラグランツ(えーす・らぐらんつ)
 飾り付けに熱が入ってついつい脚立の届かない所まで背伸びをして手を伸ばして震えている。
「ん〜……ん?」
「この程度の高さで苦労するなんて、面白いねえ」
 エースの手から鎖を受け取ったのはついさっきまでエース一人に仕事させ、その様子を傍観していたメシエ・ヒューヴェリアル(めしえ・ひゅーう゛ぇりある)
 そのままひょいひょいと鎖をピンで留めた所で視線を感じる。
 見ると、エースが恨みがましい目をこちらに向けている。
「何?」
「こ、子供扱いするんじゃない」
 言葉とは裏腹に、どこか膨れた様子の上目使いにメシエはくすりと笑う。
「子供扱いはしていないんだけどね」
 そのまま、顔を落とす。
 エースの上に。
 重なる唇。
「な……っ」
「ね?」
「あ……あれほど人前では……っ」
「さあ、特別に続きを手伝ってあげよう」
 それ以上の文句は受け付けないといった様子でメシエはエースの頭をわしゃわしゃと撫でた。

「……ああいうのは、いいから」
「分かった」
 エースとメシエのやりとりの一部始終を見ていた北都がモーベットに告げる。
 そんなモーベット達にに不機嫌そうな視線を向けている人物がいた。
「あ、ムティルさん。ムシミスさんも」
「……ああ」
「お久しぶりです」
 睨んでいたのは以前、北都たちが執事をしたことのあるジャウ家のムティル・ジャウ(むてぃる・じゃう)
 弟のムシミスはムティルの横に立っている。
「もう学舎には行った?」
「……手続きは終わった。編入は来年からだ」
 どう言葉を交わした物か思案するような、話しづらそうな様子で北都に応えるムティル。
 そんなムティルに、北都は笑いかける。
「僕たちも寮暮らしだから、何かあったら言ってね」
「……ああ」
「今までは主人と使用人だったけど、今度からは学友として出来ることがあれば手助けするから」
「今後は対等な立場で、友として付き合わせて貰う」
「……すまない」
 北都とモーベットの率直な言葉につられたように、素直に頭を下げるムティル。
 しかしその様子はどこか元気がない。
 心ここに非ずといった具合で、何かを胸に抱えているようにも見えた。
「僕は兄さんさえいれば大丈夫ですよ」
 そんな複雑そうな兄の様子に頓着することなく、ただにこにこと笑っているのはムシミスだった。

   ◇◇◇

 厨房から流れてくるのは、幸せの香り。
「さすがにシチューは時間がかかりますからねぇ。家で作ってきました。あとは、温めるだけ」
 大きな鍋を運んできたのは神楽坂 翡翠(かぐらざか・ひすい)
 中には、彼特製のビーフシチュー。
「こんな物も作ってきました」
 取り出したのは一口サイズのミートパイ。
 こちらも、後は焼くだけだ。
「さて、あとはケーキを……おや?」
 デザートに取り掛かろうとする翡翠の足が止まった。
「ケーキなら、俺も作って来たよ。ほら」
 気を取り直したエースが持ってきたのはザッハトルテ。
「俺達が用意するのは定番のオペラ。遠野が手伝ってくれるならミルフィーユも作りたいな」
「はぁあ、やっぱりダリルさん、手際がいいですね……」
 奥の方ではダリル・ガイザック(だりる・がいざっく)遠野 歌菜(とおの・かな)がケーキ作りに取り掛かっている。
「あの、おいしいイチゴを持ってきたんです。飾り付けは、皆でやりませんか? その方が楽しいですよ?」
「いい考えだね」
 杜守 柚(ともり・ゆず)の提案に賛同するエース。
「あ……私もケーキを飾りたいです」
 ツリーに飾りをつけていた白峰 澄香(しらみね・すみか)が柚の提案にいち早く乗って厨房に走ってくる。
 反応が早かったのは、それだけケーキが気になっていたからか。
「……ケーキの手は足りているようですね。では私は料理の方に専念しましょう」
 一通り見回すと、翡翠はシチュー鍋に向き直る。
「では、皆で飾り付けしましょう」
「おー!」
 柚の声が店内に響く。
 それに呼応するように、集まった客たちもの声も、賑やかに。

   ◇◇◇

「うっわあ……素敵! こんなに綺麗に飾り付けしてもらって……それにお料理も!」
 買い出しから戻ってきたサニー・スカイ(さにー・すかい)は店を見回してただただ感嘆の声を上げる。
 綺麗に飾り付けられた店内。
 クリスマスツリー。
 並べられた美味しそうな料理。
 更に奥ではケーキの準備もばっちり。
 完璧!
 なんて素敵なクリスマス!
「やあサニー。先日はオークションで世話になったね」
「ああっ、メシエさん! こちらこそ大変お世話になって……ありがとうございました!」
 メシエに声をかけられ、大げさな様子で頭を下げるサニー。
「いやいや、気にしないで。それより、先日のように価値が分からないまま仕入れている物がまだあるかもしれない。今度、在庫を見せてもらえないかな」
「うわあ、それはもう! 何から何までお世話になります……っ!」
「よぉおおおくやってくれたあ!!」
「ぴゃっ!?」
 何度も何度もメシエに頭を下げていたサニーは、突如かけられた大声に飛び上がった。
「今年もやってきました第19003回カップルに妬み大会!」
「いえ今年ももう終わりだけど」
 サニーに両手を差し出してきたのは瀬山 裕輝(せやま・ひろき)
 いつもボケ役のサニーが思わずツッコミに回る。
 慣れない役回りのせいで、明らかにおかしい開催回数の方はスルーだ。
 しかしそんな事には頓着せず、裕輝はつらつらと話し出す。
「カップル撲滅! 素晴らしい! カップルは恨んで妬んで上げて落としてナンボ! とゆーことで主催者はんを妬み隊栄誉会員に任命しよう!」
「え〜別に……」
「いいな! リア充は死んでいいと思うぜ!」
 物騒な裕輝に賛同する更に物騒な声。
 彼女いない歴イコール年齢の、メルキアデス・ベルティ(めるきあです・べるてぃ)だ。
「あれだ。ここなら十二分に憂さ晴らしができるんだって? 思う存分、雪玉をぶつけりゃいいんだな」
「おー、やったれやったれ!」
「あの、えーと私そこまで暗い情念は求めてなかったんだけど……」
「まあまあ。それはそれで素敵な思い出だよ」
 困惑するサニーを前に、更に彼らを炊きつけに入る城 紅月(じょう・こうげつ)
「雪なら大した被害もないし……思い切りやってみなよ」
「おーしっ!」
 メルキアデスの肩に手を置くと、囁くように耳に口を近づける。
 その近さには気付かないメルキアデスは拳を握りしめる。
「うむ、着実に隊員は増えとるな。じゃあ主催者も……」
「お取込み中悪いんだけど……サニー、皆、メリクリーっ!」
 裕輝とサニーの間に割って入ったのは、一枚のカード。
 差出人は、ルカルカ・ルー(るかるか・るー)
 隣りにいるのはダリルではなく、月崎 羽純(つきざき・はすみ)
「はいっ、クリスマスカードのお届けだよっ!」
「わあ、ありがとう!」
 サニーはぱっと顔を輝かせて差し出されたカードを受け取る。
 きらりと輝く星のピンブローチが刺さっている。
「これは、プレゼントね!」
「ほほー、なかなか素敵な品ね。うちも仕入れようかな……」
 思わず雑貨屋の顔になって商品を確認するサニー。
「私も、レインさんたちにプレゼントがあるんです」
 その隣で、柚がレインたちに可愛くラッピングされた袋を渡す。
「そんな、悪いよ、こっちは何も用意してないのに……」
「おぉー、マジ貰っちゃっていいの?」
「ちょ、兄貴」
「ありがとうございまス!」
 真っ先に袋を空けたのは、サリー。
「わア、ふかふかでス!」
 中にあるのは黄色いマフラー。
 レインには青、クラウドにはグレーの、それぞれ色違いの手編みのマフラーだった。
「あれ、私は……?」
「サニーさんには、僕から」
 首を傾げるサニーの前に立ったのは、杜守 三月(ともり・みつき)
 レイン達が貰った袋とは明らかに違う、小さな小箱を差し出した。
「わーい、ありがとう! 今度ちゃんとお返しするね……え?」
 箱を空けるサニーの手が止まる。
 それは、ペンダントだった。
 向日葵のように黄色いトパーズを中心とした、花のようなペンダント。
「明るくて前向きで元気をもらえる、サニーさんをイメージしたんだけど……気に入ってもらえるかな?」
「ありがとう……で、でもこんな高価なの……」
「それで、これはおまけ」
「え?」
 三月が一歩踏み出した。
「あーっ、流れ星!」
 柚が曇り空を指差す。
 え? と、思わずつられてそっちを見るレイン達。
 ちゅ。
 サニーの額に、軽いキス。
「え、え、え……?」
 事態に気付いたサニーの顔がどんどん赤くなっていく。
「え、あれ、ありが……?」
 ぷちん。
 緊張とか平静とか、そんな重要なものをまとめていたサニーの糸が切れた。
「………とぉおお!? お返しはまた今度でええええええっ!」
「あっ、サニーさん!」
 真っ赤になって走り去るサニー。
 突然のことに、三月は追う事ができなかった。
「め……」
「めー?」
「名誉隊員の裏切り者ぉおおおおお!」
 そして裕輝も泣きながら走り去って行った。