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フィギュアスケート『グィネヴィア杯』開催!

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フィギュアスケート『グィネヴィア杯』開催!

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【1】競技前ーリンク開放!(2)

 観客席の最前列。
 ローグ・キャスト(ろーぐ・きゃすと)はリンクを見つめたままに。そこまで真っ直ぐに歩み寄って改めて目を凝らしてみたが……やはりそうだ、間違いない。
 リンクを滑りゆく人影の中に夏來 香菜(なつき・かな)の姿を見つけた。
「おいおいおい」
 リンク内を周回していない事がせめてもの救いか。じっと視線を向けていると、少しも待たずに彼女もローグに気がついた。
「げっ……」
 聞こえてるぞ。実際には声が聞こえたわけではないが香菜の顔も口元も間違いなく「げっ……」と言っていた。
 まぁ今はこの際そのことは袖に置いておくとして―――
「……お前さん、あんだけあーだこーだ言っといて。大会出てたのね」
「ちょっ……ち、違うわよ」
 彼女はばつが悪そうな顔をして寄り来ていたが、今度は慌てて取り繕っていた。
「大会には出てないわよ! ただちょっと……滑るくらいならやってみても良いかなって……思っただけで」
「ふぅん」
「あ、あれよ、その……ほらアレ!」
 彼女が指差したのはリンクの中。私服だというのになぜかキマっているジェイダス・観世院(じぇいだす・かんぜいん)その人が、細かなステップを踏んでいる。
「あんなの見たら誰だってやりたくなっちゃうって」
「確かに。というか何やっても様になるんだな、あの人」
「あれでも初めは立ってるだけって感じだったんだよ。それがほら、あんな」
 すぐ傍で滑っていた清泉 北都(いずみ・ほくと)ジェイダスに手を差し伸べる。彼はそれに応えて手を取ると、そのままクルクルと回転しながらに北都の腕の中へと収まっていった。
 北都ジェイダスの腰に手を添えると、そこを支えに体を反らしてポージングを決めてみせた。滑ることへの恐怖や不安といった物は欠片も見て取れない、むしろ堂々たる演技に見えた。
「あれがスケート初心者? 信じられない」
「でしょう? やってみたくなる気持ち、わかるでしょ?」
 北都ジェイダスを持ち上げて―――何と「リフト」までキメてしまった。どうみても氷の上に初めて立って数分の人間の動きではない。
「それで……ウズウズしてきて、我慢できなかった、と」
「まぁ……そうね」
 2人の演技は、観戦のつもりだけだった香菜をリンクに上げてしまった。そしてそれは彼女だけでなく―――
「ねぇ、パッフェル桐生 円(きりゅう・まどか)パッフェル・シャウラ(ぱっふぇる・しゃうら)の横顔に告げた。
「あの選手がやってた、一緒にクルクル回る奴とか、相方を持ち上げて滑るやつとかやってみない?」
 がゆっくりと滑る速度を落とす。すれば必然的にパッフェルのスピードも落ちてゆく。2人は仲良く手を繋いで氷の上を滑っていた。
「リフトとか言うんだっけ? あれ、できないかな」
 通常であれば一回りも体の大きな男性が女性を抱える技である。力技でもあるし、体格の近い2人にとっては難易度の高い技だと言えるが―――
「いいわ。飛んで」
「うんっ!」
 パッフェルはこれを快諾した。
 2人が再びに徐々に速度を上げてゆく。リンク内の人通りの少ない地点、直線部分の中央で2人は一度目を合わせてから―――
 身軽な点を生かして、パッフェルの腕に寄り乗りそして、肩口に体重を乗せようとした時だった。
「あっ!!」
 土台がグラつき、がバランスを崩した。
 とっさにの肩と股を抱き上げて―――パッフェルは尻餅をつく形で氷の上に座り止まった。
「……平気。問題ない」
 訊かれる前に彼女が言った。幸いなことににも怪我はない。
「……やっぱり初めては難しい」
「ごめんね、ボクがモタツいたから」
 氷の上にペタンと座って。お姫様抱っこと言うよりは、すっぽり包まれて腕の中。がそっと見上げてみると、さすがにパッフェルの頬も紅潮していた。
「もう一度……やってみる?」
「うん。そうだね」
 言ってはみても、どちらも動かずに。
 少しだけ、もう少しだけ。2人はこのドキドキを噛みしめていた。

 『軽身功』を駆使しているのか。軽やかに跳ねたりスピンをしてみたり。
「思った通り……いや、それ以上ですね」
 セイニィ・アルギエバ(せいにぃ・あるぎえば)の滑りを見て、武神 牙竜(たけがみ・がりゅう)は感心してそう口にした。躊躇なく氷を踏み切る様や空中で両足を開く様など、その動きはプロの選手と比較しても遜色ないだろう。贔屓目はあれど彼にはそう見えていた。
 観戦目的でデートに来たため、彼女はロング丈のポンチョを羽織ったまま氷の上を滑っているが、競技用のドレス姿も……きっと似合うに違いない。
「色はそうだな。黄色……いや、赤や薄紫なんかも悪くない……」
 彼女にはどんなドレスが似合うだろう。牙竜の脳内でセイニィ着せかえショーが始まったばかり―――だったのだが、
「休憩、長くない?」
 不意に本人の顔が目の前に現れて、牙竜は驚き、転びそうになった。彼女が手を掴んでくれなかったら間違いなく尻餅をついていたことだろう。
「ほら、行くよ」
「あぁ」
 小さな手をしっかりと握り返して。
 彼女と並んで氷道上を再びにゆっくりと滑り行くのだった。