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フィギュアスケート『グィネヴィア杯』開催!

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フィギュアスケート『グィネヴィア杯』開催!

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【3】アイスダンス(4)

 彼らの登場に会場がさわついた。
 フリフリフリルにぴっちりハイレグ、しかも明らかにサイズの小さい女物の衣装を鷹村 真一郎(たかむら・しんいちろう)が着て登場したからだ。
 筋肉隆々な大男が可愛らしい衣装を着て……こ、これはまさか……協会の方がエントリーしてしまったのか? となればこれから始まるのはフィギュアスケートとは名ばかりのガチムチ男色ショーに違いない―――
 そんな嫌すぎる予感をルゥ・ムーンナル(るぅ・むーんなる)が晴らしてくれた。ペアとして参加する彼女は男装の麗人に扮して登場した。
 男女衣装の逆転。なぜにこのような事態になっているかと言えば―――
「こめんねシンイチロウ、婚約者がいるのにダンスに誘ってさ」
 それは数日前のこと。演技プランなどを電話越しに打ち合わせている時だった。
「いえ……それは構わないのですが……」
 珍しく彼が暗い声をしていた。理由を訊くと―――
「衣装が届いたのですが……」
「あ、届いた?!! どう? キマってるでしょ」
「キマっているというか、これ……ルゥさんの衣装ですよね?」
「はい?」
 真一郎の自宅に送られてきたのは女物の衣装だった。
「あの子……間違えたんだわ」
 衣装の発注と配送手続きは鳳龍 黒蓮(ほうりゅう・こくれん)に任せていた。どうやら配達先を逆にしてしまったようだ。
「ごめんなさい。じゃあ当日交換って事で―――」
「いえ……その、サイズもいささか大きすぎるような……」
「………………え?」
 なんということか。間違えたのは配達先ではなく衣装の種類とサイズそのものだったようで。それでも今から変更している時間はない、かといって出場を辞退するのは性に合わない。
 ……というわけで、な現状。
「うぅ……こうなったら演技で挽回してやるニャ!!」
 ギフトである黒蓮は白鞘の長剣に姿を変えてルゥと共に出場していた。挽回の機会を窺っているが果たしてどうだろう。
 ベートーベンの「月光」の中、真一郎は意外にもしなやかな演技を披露している。女性が上体を反らしたまま男性に体を預ける基本のリフトもルゥと長剣状態の黒蓮の二人掛かりで真一郎の巨体をどうにか支えて成功させた。
 一見変わった演目にはなってしまったが、最後には観客も笑ってくれていたので、まぁ、満足かな?
 ●採点結果。アーサー票:5キャンドゥ票:8合計得点:13


 間もなくの出番を待つ典韋 オ來(てんい・おらい)エシク・ジョーザ・ボルチェ(えしくじょーざ・ぼるちぇ)は、
「………………」
「………………」
 隣に並び立ってはいるものの、先程よりずっと、というより一度も目を合わせてはいなかった。
「ったく、なんであたいがあんたなんかと……」典韋がブツブツと愚痴をこぼせば、
「……往生際の悪い。さすがね」
「あ゛? なんか言ったか?」
「耳も悪い、と。新事実」
「んだとコラァ!」
 競技直前だというのに2人は険悪、一触即発爆発寸前だった。
 リンクに上がってもそれは変わらず。むしろ色々と溜め込んでいた分より一層に―――
 曲が始まると同時に『方天戟』と『スターブレイカ―・レイシャワー【レプリカ・スター・ブレイカー】』を本気で振っていた。
 剣舞……といえば、そう言えなくもない。が、おそらく人はそれを「死合・斬り合い」と称するだろう。
 始めこそ武器同士の打ち合いになっていたが、先にイライラの限界に達したのはエシク・ジョーザのようで、
「ここ」
 七支刀型光条兵器を顕現させると典韋の死角からそれを振り下ろした。
「っつ!! 野郎……いよいよガチってわけか」
「すみません。冬虫夏草が止まっているように見えたので」
「冬虫夏そ……って! むしろ虫ですら無ぇだろが!」
「あ、肌荒れでしたか。夜更かしが過ぎるのですね」
「……テメェのことは端から気に喰わねぇとは思っていたが…………上等だコラァ! 白黒つけてやんよ!!」
 『軽身功』でリンクの壁をひとっ走りした典韋は、追い来て『破滅の刃』を放つエシク・ジョーザに『統括地獄』を放って応戦した。
 水と油……いやむしろ火に油とも言うべき2人の激戦が繰り広げられているというのに、その様子を嬉しそうに見つめているのがローザマリア・クライツァール(ろーざまりあ・くらいつぁーる)。2人を大会にエントリーした上で、どうにか出場するよう丸め込んだ張本人である。
「いいわいいわ〜、その調子〜♪」
 2人が斬り合いを始めたとき、密かにガッツポーズをしたのは彼女だけだろう。
 剣舞やら斬り合いを演じたペアはあれど、ここまで本気で戦っているペアは他にないだろう。リアルバトルの迫力が何よりの加点になると彼女は信じていた。
 涼しい顔でリンクの壁を蹴って飛び出し『女王の剣』を振るエシク・ジョーザ、それを典韋が必殺の拳『則天去私』を正面からぶつけて応戦する。
 跳ぶことは多いが、2人は氷上を滑る速度をも利用している。
 全力で殺りあった2人は曲の終わりと共に両者大の字になって共倒れたが、氷上に描かれた滑り跡は戦いの激しさを何よりも表している……という風に伝わってはくれれば良かったのに。
 ●採点結果。アーサー票:2キャンドゥ票:5合計得点:7


 整氷が行われた後に登場したのはリネン・エルフト(りねん・えるふと)フリューネ・ロスヴァイセ(ふりゅーね・ろすう゛ぁいせ)のペア。「天空の騎士」や「天馬座の女義賊」として名を馳せる2人が演じるのはやはり「空中戦をイメージした演武」である。
「どう? 氷の感触は」リネンが訊いた。たしかフリューネも氷上でのスケートは初めてのはずだ。
「そうね………………うん、行けるわ」
 リンクの中央に向かうまでに彼女はコツを掴んだようだ。「ブレーキのかかり具合と体が倒れる限界の傾きが分かれば……」と言って練習を行っていたようだが、あの僅かな時間で掴んでしまったということか。まったく何たる身体能力だ。
 開始直後の手探りな感じは仕方がない。2人が氷の感触を掴んだ瞬間からが勝負! 2人揃ってのコンビネーションジャンプと空中リフトだ。
 ジャンプの回転数は決して多くない、それでもタイミングはピタリと合わせて飛んだ。アイコンタクトすらする余裕もなかったが、視野の中に彼女がいるだけで飛ぶタイミングは面白いように理解できた。きっとそれはフリューネも同じだと……素直に嬉しい。
「ねぇフリューネ
 二つ目のジャンプを成功させた所で彼女に寄りて、「ちょっと試したい技があるの」
「試したい技?」
「私の冒険、付き合ってくれない?」
 悪戯っぽく笑うリネンフリューネも「聞かせて」とこれに乗った。
 まずは予定通りの空中リフト。2人同時に飛び出して空中でフリューネリネンを抱える。
 飛んでいる最中にバランスを崩したが、お姫様だっこをされた状態のままにリネンが『風術』を発動して体勢を整えた。
 2人のナイスコンビネーション。着氷も見事に決めると、いよいよ新技のお披露目タイムだ。
 リネンは『古代の力・熾』で光の分身を生み出すと、たくさんの分身と共にフリューネの元へ。
 流れ星が過ぎてゆくような、そんな景色の中で本物のリネンだけがフリューネの胸に飛び込んだ。見事成功だ。
「びっくりしたぁ!!」
「ん〜〜〜♪ どうだった? 私の新しい力」
「そうね…………使い方次第だけど、十分実践でも使えるんじゃないかしら」
「えぇ〜面白くないなぁ。そういう事だけじゃなくてさ〜」
「えぇっ?!! どういうこと?!!」
「だからぁ」
 少し甘えてみたのだけれど……うん、氷上の戯れ、演出の一部って事で許してくれない……かな?
 ●採点結果。アーサー票:5キャンドゥ票:6合計得点:11


 フィギュアスケートが得意でなくても観客を楽しませることはできる。
 桜月 舞香(さくらづき・まいか)イングリット・ネルソン(いんぐりっと・ねるそん)のペアはそれを証明するべく、リンクへと上がっていった。
 舞香が『トワリングソード』を振ると、美しい旋律が会場内に静かに鳴り響く。
 まずは「舞踏会で踊る2人のプリンセス」を表現する。
 ドレス姿のイングリットが舞踏をアレンジした舞いをゆっくりとしたテンポで披露すると、舞香も剣を振りながらにこれに続いた。
 場面転換とのタイミングで曲調もガラリと変わる。2人のプリンセスは突如乱入してきた魔物に浚われてしまうのだ。
 牢屋の中で、もがく2人。そこまでを舞踏で表現し、脱出するパートからは忍者や古流武術を活かした振り付けにしてある。
 逃げるのには動きづらいドレスを破り捨てる場面では、イングリットもノって来たのだろう、本当に裾を破いてしまっていた。
 そのまま牢番を誘惑する場面から、ワタワタとトラップを回避する場面へ。素のままの2人ではコミカルな演技は難しい……というか苦手な部類に入るが、そこは「くノ一」の身のこなしと内なる気の強さを発揮して、アクロバティックなジャンプやチアリーディングの振りを交えて表現することで克服した。
 ラストは待ち構えていた魔王とのバトル。ここは遠慮要らずな本域バトル。バトントワリングと古武術バリツを活かした表現で緊迫のバトルシーンを表現していく。
 派手なジャンプは一つもない。難易度の高いステップもない。それなのにまるで一本の舞台を見ていたかのような、そんな余韻を残す演目を2人は最後までやりきったのだった。
 ●採点結果。アーサー票:6キャンドゥ票:7合計得点:13