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リアクション
「ありがとうございました!」
笑顔で商品を渡してルシアと桐生 理知(きりゅう・りち)は最後のお客を見送った。
「二人ともお疲れさま〜。これで今回は追加分も含めて完売だよ! 今日はありがとうね」
寿子が嬉しそうに笑って二人に握手を求めれば、同じようににっこり笑って手を握り返した。
「今日は楽しかったよ寿子ちゃん。誘ってくれてありがとうね」
「こっちこそおかげさまでとっても助かったよ。本当に二人ともありがとうね」
笑顔の寿子の後ろでアイリもありがとうございます、と頭を下げた。
「私、あんまり詳しくないからお手伝いなんてだなんて足引っ張っちゃうんじゃないかと思ったんだけど、寿子ちゃんたちが丁寧に教えてくれたから何とかなったよ」
「私も同じ。ちゃんとできるか心配だったけどいざやってみたら楽しくなってきちゃった」
ルシアと顔を見合わせながら桐生は一日を振り返る。
ルシアとともに寿子の手伝いに空京ビッグサイトを訪れた桐生。寿子から同人即売会というものがどういうものかは教わっていたのだが、いざ会場を訪れると予想以上の人の多さに驚いた。周りのどのブースを見ても綺麗に丁寧に書かれたイラストが並んでおり、中には桐生が知っている漫画を題材にしたものもあった。もちろん、友人である寿子の絵は好きだし、自分にはこんなにも動き出しそうな絵は描けないので純粋にすごいと思った。だからこそ売り子の手伝いをして友人の描いた本が一つまた一つと売れていくのが嬉しかった。
二人とも即売会や同人の知識は多いほうではなかったが、同じように楽しさを感じていたのだ。
「ん〜、しかし二人とも可愛いね! やっぱ着替えさせて良かったよ〜」
「確かによくお似合いです。二人の素敵な衣装のおかげで売り上げも倍増しましたし」
「わ、私たちの格好のせいじゃなくて、絵が素敵だからだよ〜」
途中で桐生とルシアは寿子にコスプレを勧められ、よく分からないまま可愛いし楽しそうという理由だけで更衣室で衣装に着替えてきた。しかしその効果もあってか客足は途絶えることはなく、時たま写真をお願いされたりもしたのだった。
「ルシアちゃん本当に似合うなぁ〜。私もルシアちゃんほど可愛かったらな〜」
「あら、あなたも十分可愛いじゃない。これ以上可愛くなってどうする気?」
「なにそれ〜」
「ふふ。愛しの彼のためかしら?」
「ちょ、ちょっとルシアちゃん!」
「なになに? 桐生ちゃんの恋愛話?」
「私もぜひお聞きしたいです」
「も〜、アイリちゃんまで〜!」
ブースの中の空になったダンボールなどを片付けながら、女子四人できゃいきゃいと話す。長いこと会っていなかったというわけでもないが、話題は尽きることなく次から次へと転がっていく。
誰が好きだとかどういう服が好きだとか、好みはどうだ、いい店見つけたなどと本当に脈絡もなく話が転々としている。一日の疲れを微塵も感じさせないほど楽しそうに四人は会話を楽しんでいた。
「よしっと。じゃあ私はダンボール片付けてくるね!」
「あ、私も一緒に行くよ。一人じゃ重いでしょ?」
今にも落としそうなダンボールを抱えた寿子の後を追って桐生もブースを後にした。
「アイリ、あと何か私に出来ることある?」
一通り荷物もまとめ終えて、ルシアはアイリに声をかけた。
「んー……では、私はちょっと買出しに行ってきますので、ルシアは少しだけお留守番をお願いしてもよろしいですか?」
すぐに戻りますので、と付け加えてアイリが席を立ち、あんなに狭く感じたブースが今はルシア一人で何となく広く感じた。
まもなくイベント自体も終了の時間が迫っている。
会場に所狭しと並んだサークルの一部も、自分たちと同じようにブースを片付け始めているようだ。
目まぐるしくあっという間に過ぎ去ってしまった一日を思ってルシアは笑顔でブースから会場を見回した。
「あ……」
ふと見回した会場内。通路の向こうから見知った顔が歩いてくるのが見えた。
「よ。お疲れさん」
手に持っていた荷物をどさりとテーブルに置いて、神条 和麻(しんじょう・かずま)はニッとルシアに笑顔を見せる。
「どうしたの? こんなところで会うなんて思わなかったわ」
笑顔でブースから出ていくと、神条は頬をぽりぽりとかきながらバイトだよ、と素っ気無く応える。
重そうな荷物を抱えてきた神条を見れば、首から「STAFF」と書かれたパスを下げ、荷物が滑り落ちないようにしていただろう軍手が閉まりきらないウェストバッグからぴょこりとはみ出し兎のように見えていた。
「しかしあれだな。その衣装は……」
「あぁ、これ? なんの衣装だかわかんないんだけど、可愛いからいいかなって。似合う?」
「ん……そう、だな」
くるりと一回転してスカートをふわりと浮かべたかと思うと、ずいっとルシアの顔が近付き、下から覗き込むようにして見上げられれば自然と顔に熱が集まってくるのを感じる。
「……可愛いじゃん」
照れながら神条が告げれば、嬉しそうにルシアは笑う。そんな彼女を見て来てよかったと内心思うのだった。
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