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第1章 お参りしよう

 一瞬の騒動が終わった後、境内は再び静けさを取り戻した。
 一部、明らかに異様なカップルが誕生していちゃついてはいるものの。
 そこに、新たな参拝客が訪れる。
「やっぱり境内には色んな長生きをしている植物があっていいね」
 手水場で手口を清めると、のんびりと神社の雰囲気を楽しみながら神木達と交友を深めているのは、エース・ラグランツ(えーす・らぐらんつ)
「ふむ……今は少し大変な状況なんだね」
 樹木からの情報でなるほどと状況を理解し、しかし僅かに首を傾げる。
「だけど、俺達に矢は飛んで来ないね」
「エースは女の子より花や植物に愛情を注いでいるからね」
「……人を変人みたいに言うなよ」
 メシエ・ヒューヴェリアル(めしえ・ひゅーう゛ぇりある)の明らかにからかいを含んだ言葉に、思わずムキになって反論する。
「花達のあの可憐で愛らしく、美しい姿は至高の宝なんだよ。ちゃんと世話してあげるとそれだけしっかり応じてより綺麗な姿を楽しませてくれるからね」
 それでもついつい語ってしまうエースにメシエは小さく苦笑を漏らす。
「まあ、それに縁結び神社に男二人でお参りに来ていれば、ねえ」
 小さく肩を竦めるが、それはエースの耳には入らなかったようで。
「ところでエース。バレンタインにはちゃんと甘いモノをくれるんだよね?」
「甘いモノ? メシエそんなにチョコ好きだったっけ」
 幾分かの揶揄を込めたメシエの台詞だったが、エースは真に受けて真面目に返答する。
 それが面白かったのか、メシエはつい小さく噴き出した。
「え? え?」
 その様子にしばらく困惑していたエースだが、やっとまたからかわれた事に気付いて思わず赤面する。
「そ、それはまた当日に……って、いや」
 今度こそ彼の思う壺にはさせまいと、慌てて手を振る。
「ちゃんと対価は払ってるだろ!?」
「はいはい」
 そんな二人のじゃれ合う様な会話。
 それを、物陰から覗いていた人物がいた。
 巫女装束のその覗き魔は、「ぐっ!」と小さくガッツポーズをして彼らに背を向けるのだった。

   ◇◇◇

「ああリース、リース、一緒にお参りできて嬉しいわー(棒)」
「そそそ、そうですね、マーガレットー(棒)」
「ははははは、二人とも、焼けるぜー(棒)」
「……えええいもう3人とも! ちっとも演技がなってないですわ!」
「しーっ!」×3
 物凄い不自然さを醸し出しながら一緒に参拝しているのはリース・エンデルフィア(りーす・えんでるふぃあ)マーガレット・アップルリング(まーがれっと・あっぷるりんぐ)、そしてナディム・ガーランド(なでぃむ・がーらんど)
 その目を覆う演技力に思わず駄目だししたのは、本業アイドルKKY108の二階堂 美雪だった。
 ロケの合間、たまたま通りかかった彼女は知人のナディムたちの神社参拝の協力を買って出たのだ。
 この縁結び神社の参拝を望んでいたのはマーガレット。
 巫女のアブノーマル弓矢を誤魔化し掻い潜り、なんとかして参拝することこそ恋に生きる乙女の本懐!
 何故だか妙に燃える彼女のために、皆でアブノーマルカップルのふりをして境内に近づくことになったのだ。
 しかし巫女の目は誤魔化せなかった。
 彼らから漂うノーマル臭が原因なのかもしくは単に演技が下手だっただけなのか。
 彼らに向かって、一斉に矢が襲い掛かった。
「え、ええいっ!」
 リースがマーガレットに向かう矢を焼き捨てる。
「わ、わわ私の大切なマーガレットに酷い事しないでくださいっ!」
 ヤンデレ演技も忘れずに。
「あ、あたしのリース! ありがとう」
 なんとか演技を返すマーガレット。しかし。
「だーかーらっ、そこが駄目なのですわ。いちいち噛まない! それから不自然なポーズも止めてくださいませ」
「え、これ、駄目かしら……」
 マーガレットに向かって手を差し伸べていたリースは、美雪の指摘で恥ずかしそうに手を降ろす。
「そうですわ。この場合、ポーズとしてはこう……」
「こ、こう?」
 美雪が思わず演技指導を始めたその時だった。
 ひいふっ。
「危ねえっ!」
 ナディムが美雪の手を引いた。
 彼女が今いた所。
 そこに、矢が刺さる。
「また……どうしてあたし達の演技が見破られたのかしら」
「そりゃあんだけ演技指導してりゃな」
 青ざめるマーガレットに突っ込むナディム。
「……な、何ですの、私のせいだとでも言うんですの!」
 顔を赤らめ文句を言う美雪だったが、責任を感じたのだろうか、こんな提案をする。
「私が巫女さんの方向に走りますから、ナディムは援護してくださいませ。皆さんはその間にご参拝くださいませ」
「いや、それじゃ美雪のお嬢さんが危な……」
 言うが早いか、美雪は走り出す。
 ひいふっ。
 美雪に向かい、矢が走る。
 慌ててナディムは、飛んでくる矢に向かってエネルギーの矢を放つ。
 矢と矢が当たり、相殺!
「やったぜ……ん?」
「な……なんてことしやがりますの、謝りなさいこの馬鹿ナディム!」
 見ると、美雪は半裸。
 先程の矢と矢の衝撃でひらひら系のアイドルコスチュームが破れてしまったらしい。
「え? その、あの……わ、悪かっ」
「謝ってすむ問題じゃありませんわーっ!」
 がごすっ。
 ナディムが大変理不尽な目に合っているその間に。
 マーガレットとリースは無事境内に到着した。
 マーガレットはゆっくりと手を合わせる。
「よし! 今年こそ、ナディムと――」
 乙女の願いは神様に届くだろうか。