リアクション
エピローグ
「はっ」
「えっ?」
「わ、私は今まで何をしていたんでしょう……」
元凶の弓矢が消えた事で、アブノーマル化していた人達が次々と正気に戻っていった。
後々後を引く後遺症に悩まされた人も少なくなかったようだが……
「ふぉおおおっ!?」
「むむむ?」
神社の真ん中で裸で熱い抱擁を交わしていた変熊と鬼羅は、正気に戻ってしまった。
「うぉえええ!」
「むむ?」
予想外の事態にそのまま地面に転がって心身の衝撃を誤魔化そうとする。
「口付けは、手水の味か……なるほど」
こちらはダメージを受けたのか平気なのか、あまり変わらない様子でつい先程まで交わしていた口付けの分析をしていた。
「うーん、何だか愉快な夢を見てたような気がするんだけど……」
「ゆ、愉快だったですか」
正気に戻ったサニーは、大きく背伸びをすると柚たちを見る。
「また、迷惑かけちゃったのかな? ごめんねー」
「いいえ、そんなことないですよっ」
柚は三月に同意を求めるが、三月はそれよりも気になることがあるらしい。
「うん。それよりサニーさん、さっきのは……本気?」
「本気って?」
「その、異性に興味がないのかとか……」
「そんなわけないじゃない。ほら、前に素敵な殿方とデートしたいって言ってたでしょ?」
けろりとして笑うサニーに、三月はほっと溜息をつく。
そして何か思いついたように、さらりと告げた。
サニーの耳元に口を寄せて、彼女にだけ聞こえるように。
「チョコありがとう。僕はサニーさんが好きだよ」
「えっ……」
突然の告白にサニーは驚いたように三月を見上げる。
「えっと、まだどっかに矢が刺さって……?」
「そうじゃないよ」
苦笑する三月を見ていたサニーだが、やがて、真面目な顔になると言葉を紡ぐ。
「……その、ありがとう、私なんかに。こんな時に言われるのも何だけど……ええと、また今度。私の話を聞いて、それからまた気持を聞かせてくれるかな?」
「え、それは、どういう……」
「ありがとね、じゃあ、またね!」
それだけ言うと、サニーは走り去ってしまった。
「ももももも」
神社の境内に、牛がいた。
わけではなく、小暮 秀幸だった。
「ももももも申し訳ない! 何やら大変な事に大岡殿を巻き込んでしまったようで……」
「気にしないでよ。むしろお礼を言いたいくらいなんだから」
平謝りする秀幸を、永谷はやんわりと制止する。
「でも、次やる時は、恋人としてやってほしいな」
「え?」
永谷の思わせぶりな言葉に、秀幸は首を傾げる。
「それは一体、どういう事で……」
そんな秀幸を見て、永谷ははぁとため息をつく。
(仕方がない、のんびり待つさ)
永谷と別れてから数分後、秀幸の顔が突然真っ赤になって一人「え、まさか、いや、え……?」と混乱をきたすことになることを、彼女は知らない。
◇◇◇
「ね、愛があるって大事だと思うよ」
蘇生はしたものの、重症のまま病院に運ばれる巫女に、ルカルカは優しく告げる。
そして、目の前に真っ白な絵本を広げる。
「ほら、望む物語はここにあるから、趣味の捜索に生かしてみない?」
「ごめんなさいごめんなさいごめんなさい……」
しかし、巫女の口から漏れてくるのは途切れ途切れの謝罪の言葉だけだった。
「巫女さん……」
「ふみこさん」
貴仁と、不幸中の幸いにもかすり傷で済んだレオーナが、病院へと付き添う。
巫女の手には、ルカルカから渡された白い絵本が抱えられていた。
しかし、その本のページが開かれることはなかった。
巫女は二度と、アブノーマルな妄想を口にすることはなかった。
アブノーマルの元凶である彼女の想いは完全に退治され、神社は再び恋愛神社として人を集めることになる。
かくして、アブノーマルな事件は無事一件落着となったのだった。
はじめての方ははじめまして。もしくはこんにちは、お世話になっております。
「あぶのーまる!」を執筆させていただきました、バレンタインは終わってからが勝負(安売り的に)の、こみかと申します。
バレンタインシナリオを目指したつもりが微塵もバレンタインしていないシナリオのまま終わってしまいました。
それでも、たくさんのカップルを描く機会に恵まれ大変楽しく執筆させていただきました。
意外にカップル希望者が少なく、性別のくくりを入れるとくっつく方の選択肢がほとんどありませんでした……
皆さん、なかなかハードな愛情表現をお持ちの方が多くて(ぐっ)。
それから意外に巫女に絡む人が多かったようです。
一人一人なら「少しやりすぎ」で済んだのですが、あれだけの人数が集まるとさすがに……まさかオーバーキル判定が出るとは。
タイトル通り、アブノーマルなシナリオにお付き合いいただきましてどうもありがとうございました。
またどこかでお会いできましたら、とても嬉しいです。