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リアクション
同時刻 イルミンスールの森 某所
剣竜と“ドンナー”bisが戦いを繰り広げているのはまた別の一角。
木々の生い茂る中、二機のイコンが進撃していた。
一機は玖純 飛都(くすみ・ひさと)と矢代 月視(やしろ・つくみ)の乗るディース。
ベースとなっているのはプラヴァータイプのデフォルト仕様だが、今までに幾度となく高性能機との戦いをくぐり抜けてきた名機である。
片やもう一機は柊 恭也(ひいらぎ・きょうや)・柊 唯依(ひいらぎ・ゆい)姉弟の駆る{ICN0005093#アサルトヴィクセン}だ。
こちらはストークタイプをベースにした第三世代機。
葦原島での戦いの折にはたった一機で“ドンナー”部隊を相手取り、何機もの“ドンナー”を撃墜した記録を持つ強力な機体だ。
「試作品を持ってきた、だと?」
すぐ横を進むディースに向けて恭也は通信を送る。
『ああ。この森林という戦場なら効果が期待できる筈だ』
すぐに入る飛都からの返信。
アサルトヴィクセンのコクピットモニターに飛都の顔が映ったウィンドウがポップアップする。
「森林という戦場なら……ねぇ。いったいぜんたいどんな代物なんだ?」
『微細な有機マシンの群れだ。見た目はただの羽虫の群れにしか見えないがな』
互いの死角を補い合うように油断なく周囲を警戒しつつ、二機は交信を続ける。
「で、それを何に使おうってんだ? 聞く限りじゃ、大方散布するか何かして使うんだろうけどよ」
『その通りだ』
まずはそう答える飛都。
次いで飛都はアサルトヴィクセンに画像データを送ってくる。
画像はCGで描かれた設計図データのようで、何かが充填されたタンクのようなものが描かれていた。
更にはその画像と切り替わるようにして、羽虫の群れのようなものが写った画像が表示される。
『一言で言えば、前回のようなハッキング被害を減らす為に微細な有機マシンの群れを放つ。それがこの試作品だ』
画像が二枚とも表示されたのを見計らい、飛都は改めて通信で告げる。
「ってことは電子戦用の装備なのか?」
すかさず問い返す恭也。
『その解釈で間違ってはいない。ジャミングやウィルスだけが電子戦ではないからな』
説明の口火を切りながら、飛都はまた新たなデータを送ってきたようだ。
恭也の眼前でモニターに新たな画像が表示される。
画像のように思えたファイルは実は映像だったようで、ファイル展開と同時に自動的に再生が開始される。
当の映像は、三次元的に描かれた地形の中でドーム状の塗りつぶしや矢印が展開していく、というものだ。
きっと、散布を行った際の作用や効果範囲を表したものなのあろう。
『元々は機晶エネルギーの暴走事故の沈静やクラッキングを想定して開発していた未完成品だ。妨害電波やウィルス、尋常ではないエネルギー波等に反応して引き寄せられると、一定以上のエネルギー発生体に吸着して変化する。更にその後、ウィルスを発生させて回路を作って対象のエネルギーが一定以下になるまで吸収と増殖を繰り返す』
映像が動くのに合わせて飛都の説明も進んでいく。
『現行のイコンや飛空挺、動力炉程度なら暴走事故でも起こらない限り反応しないが、第六世代相当のスペックを持つという敵機なら。あまり大きく動かない電子戦機ならその性能を完全に殺せる。他の機体でも取り付きさえすれば動きを制限できるだろう』
油断なく索敵しつつ、恭也は映像に目を向け、説明に耳を傾ける。
『ただ、微細な虫の群れに見えるので場所によっては警戒され、振り切られてしまうかもしれないが、ここは森の中だ。点のように小さな虫の群れが近寄ろうと取るに足らない事だ。平凡な第二世代と取るに足らない『羽虫』に対する敵の油断と奢りがこちらの武器になるだろう』
説明が一区切りするのと同じくして映像も終了する。
一拍置いた後、恭也も言葉を返した。
「凄いもんだ。試作品とはいえ、こんなトンデモない装置が作られてるんだからな」
『だが、今説明したのはあくまで理論上のことだ。過度に頼り過ぎるのは禁物ということも覚えておいてくれ』
「了解。ま、後は実際に使――」
そこまで言いかけ、恭也は表情を引き締めた。
同時に操縦桿を握り直すと、恭也はマイクに向けて叫ぶ。
「おいでなすったようだ! 反応は五つ……ここで仕留めるぞ!」
コクピットのモニター越しに見える前方の森林風景。
その中で巨大な人型の物体が木々を掻き分けて目の前に現れ出る。
現れたのは重装甲に身を包んだ濃緑色の四機と、その後方に控える大量の重火器を搭載した漆黒の機体だ。
「こっちは飛び回りながらフェルゼンに砲撃していく。ディースもカスタム機とはいえ第二世代機。無理はするな」
『心得ている。その上でオレ達も攻撃に回ろう。まずは“フェルゼン”を殲滅するぞ』
ウィンドウの中で飛都が答える。
すると反対側にもう一つのウィンドウが立ち上がった。
『私としてもそれに賛成ですよ。でも、ディースは本来支援機だということを忘れないように』
新たなウィンドウの中で言うのは飛都の相棒――月視だ。
ディースと交信しながら恭也は素早くペダルを踏み込んだ。
「こっちが四苦八苦して新型開発してんのに、ポンポン新型出しやがって。姉貴、サポート頼んだ」
恭也の声に苛立ちを感じ、サブパイロットの唯依は心配そうに呟く。
「ああ、全く。気持ちは分かるが、幾ら何でもイライラし過ぎだな、恭也の奴。まぁ戦闘時にはしっかり判断出来るからまだ良いが……しっかりサポートしないとな」
呟きつつコンソールを叩く唯依。
その途中で唯依はある事に気付き、顔をしかめた。
「さっきから何かおかしいと思ってたんだが」
「どうしたってんだ? 姉貴?」
コンソールを叩き直して再試行しながら唯依は答える。
「レーダーに反応があることはある。だが連中の識別が味方機になってるんだ。そのせいでターゲットロックできねえ」
言われて恭也は素早くレーダーに目を向ける。
確かにその通りだ。
“フェルゼン”と“ヴルカーン”bisの識別信号はすべて味方機だった。
「ならマニュアルでブッ放すまでだ! 姉貴、モードを切り替えてくれ!」
「了解だ! 撃て、恭也!」
射撃モードの切り替えが終わるが早いか、恭也は荷電粒子砲のチャージを開始する。
『ディースよりアサルトヴィクセンへ。例の試作品を使う』
再びポップアップしたウィンドウの中で飛都が告げる。
直後、敵機の周辺に羽虫の群れのような何かが出現した。
「ホントに羽虫の群れみてえだな」
恭也がそう口にするのと時を同じくして、敵機の動きにどことなくぎこちなさが見え隠れするようになる。
完全に行動不能とまではいかないにしても、ある程度のパフォーマンス低下は起きているのかもしれない。
「助かったぜ!」
その隙に恭也は狙いを荷電粒子砲の狙いをつける。
まずは前衛の“フェルゼン”四機だ。
砲戦仕様の機体である“ヴルカーン”bisは“フェルゼン”部隊を盾にして撃ってくるかもしれない。
そう予測した恭也はまず、強力な武器で“フェルゼン”を薙ぎ払うことにしたのだ。
これならば、“フェルゼン”を薙ぎ払った上で、場合によっては“ヴルカーン”bisにも攻撃を及ぼすことができる。
一方、“ヴルカーン”bisも機体に異常が出ている状態では回避運動よりも安全と判断したのだろう。
即部のキャタピラを土を散らしながら、“フェルゼン”四機の背後へと走り込む。
そして“フェルゼン”四機は一斉に両腕をボクシングのガードのように構える。
更には“フェルゼン”の両腕を覆うガントレットからはエネルギーの粒子が放出され、エネルギーシールドを形成した。
どうやら四機は正面から荷電粒子砲を受け止めるつもりのようだ。
「ほら、お前等の“ドンナー”はあんなブレードで荷電粒子砲斬ったんだ、そいつもご自慢の装甲で耐えれるだろ?」
構わず恭也はトリガーを引いた。
放たれた長大な光条は“フェルゼン”四機を呑み込むようにして真正面から直撃。
エネルギーシールドとぶつかり合った次の瞬間には辺り一面が真っ白にフラッシュアウトする。
数秒後。
閃光がじょじょに収まっていくにつれて、風景はしだいにはっきりとしてくる。
その風景の中にいたのは、エネルギーシールドを構えたまま、危ない所で何とか無事に立ち続ける四機の“フェルゼン”だった。
「どうやら連中の技術は相当馬鹿げてるってことらしいな……」
怒りをあらわにしながらも、恭也は淀みなくコンソールを叩いて新たな武装を選択する。
「だったらこいつはどうだ?」
恭也がコンソールを叩き終えた時、それは起こった。
彼の眼前のモニターには赤く点滅する巨大なフォントで警告文が表示される。
そればかりか、耳をつんざくけたたましい警告音がコクピット内を震わせる。
「恭也!? まさかあれを使うつもりか!」
既に恭也の意図を察しているのか、唯衣は慌てた様子で問いかける。
「決まってるだろう。でなきゃあんなもんは積んでこねえ」
対する恭也は平然とした様子だ。
警告文も警告音も、頭から無視を決め込んでいる。
「いくらなんでも今こんな場所で使ったら……」
「なら、いつどこでならいいんだ? 今ならディース以外に味方機はいねえ。それに、このままじゃ俺等もディースもボッコにされる」
そこまで聞いて唯衣も納得したようだった。
やはり、恭也と似た所がある唯衣だけだって、思い切りの良さも同じようだ。
一度納得した唯衣には、もはや微塵の尻込みも感じられなかった。
「聞こえてたかい? ディースはすぐに全力で後退しろ! でもって恭也はとっとと連中にブチかましてやりな!」
恭也を射撃に専念させるべく、通信を請け負う唯衣。
その甲斐あってか、すぐにディースの後退が完了する。
「ディース、安全件まで後退完了――遠慮なくブチかましてやりなっ!」
「応よッ!」
凄まじい気迫で恭也は拳を握りしめた。
それとタイミングを合わせるようにして、メイン操縦席の一部が可動する。
可動によってカバーが開き、その下から現れたのは黒と黄色の縞模様で縁取られた赤色のボタンだ。
赤色のボタンは、たった今開いたばかりのカバーに加えて、プラスティック製の透明カバーで更に覆われているようだ。
恭也は握った拳を躊躇なく、透明カバーに叩き付けた。
済んだ音とともに透明カバーは叩き壊され、その向こうにあるボタンも叩き押される。
そして、『あれ』は発射された。
――ビッグバンブラスト。
その兵器はそう名付けられた。
正体はとある設計図を基に造られた戦略・戦術ミサイルである。
その設計図は、禁忌・禁断兵器等、通常兵器化研究所にて、封印・研究素材に供される筈だった禁忌兵器のものだ。
禁忌兵器だけあってその威力は高い。
だが使用に際しての危険性も高いため、研究所側からは使用を止める様に再三の打診がされるようになったのは当然の流れかもしれない。
そして恭也はその警告がいかに正しかったかを知ることになった。
発射されたビッグバンブラストが炸裂した瞬間、辺り一面はつい先程とは比べものにならないほどの眩い閃光に包まれた。
更には大地を揺らすほどの爆音が轟き、木々を薙ぎ倒すほどの爆風が巻き起こる。
凄まじい量の閃光と粉塵で覆い隠され、しばしの間は辺りの風景を窺い知ることができない。
やがて閃光も粉塵も晴れた後、恭也は眼前に広がる風景に息を呑んだ。
つい数秒前までは緑の生い茂っていたイルミンスールの森の一角。
だが今はそれが嘘のように緑という緑が吹き飛ばされ、乾いた土が広がるだけだ。
よく見れば前方には傾斜がかかっているのがわかる。
どうやら、小規模ではあるが、この場にはクレーターが穿たれているようだ。
そしてそのクレーターの中心。
即ち爆心地に、“フェルゼン”四機の姿はなかった。
土の中に散らばる細かい破片のいくつかがかろうじて見て取れるのみ。
それが数秒前までこの場所に四機の“フェルゼン”が存在していたことを示している。
今までの例から考えるに、“フェルゼン”にも機密保持の為の爆薬が搭載されていた可能性は高い。
だが、もしかすると今回はそれを使うまでもない事態だったのかもしれない。
しかしながら、もはやそれは定かではない。
なにせ、“フェルゼン”は四機とも木端微塵に爆散したのだから。
「どうやら……やったみてえ、だな」
ゆっくりと息を吐く恭也。
それに唯衣が相槌を打つ。
「玖純達の用意した試作品が役に立ったな。もし動き回られていたり、エネルギーシールドの出力が万全だったら……もしかすると耐えきられていたかもしれない」
「いくらなんでもビッグバンブラストだぜ? そんなこ――」
恭也の言葉を途中で遮るかのように、機体に衝撃が走った。
凄まじい衝撃に揺られるとともに、機体のパフォーマンスがダウンしていく。
そして再び大きな揺れと衝撃が二人を襲った。
機体が転倒したようだ。
二人にわかったのは、アサルトヴィクセンがどこからか強力な攻撃を受けたということ。
ただ、それだけだった。
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