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【第五話】森の中の防衛戦

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【第五話】森の中の防衛戦

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 蒼空を駆け抜けるように飛ぶ禽竜。
 すぐに禽竜は戦域へと到達する。
 眼下に広がる樹海の上。
 ザカコが探していた敵機はすぐに見つかった。
 イルミンスールの森上空を飛ぶ漆黒の“フリューゲル”。
 それこそが今回の標的だ。
 
「いましたね……! ヘル、一気に勝負をかけます――」
 激しいGに加えて、凄まじい緊張感までもがザカコの身体を震わせる。
 強敵へと勝負を挑むその瞬間に備えるザカコ。
 だが、ヘルからの返事は意外なものだった。
「待て……何か様子がおかしい……!」
 制止するヘルに、ザカコは驚きをあらわにする。
「どうしてです!?」
「さっきからあの黒い奴がレーダー上で味方として表示されてやがる……! そのせいでロックできねえ……っ!」
 今回、禽竜の火器管制はヘルの役目だ。
「どうしてそんなことがっ!?」
 またしても驚きの声を上げるザカコ。
 Gに苛まれた身体は、声を上げるだけでも随分と痛む。
 
「わからねえ……ただ、もしかするとこの間の海京で――」
 ヘルの言葉はコクピット内に鳴り響いた警報によってかき消された。
「くっ……!」
 苦しげに息を吐きながらザカコは咄嗟に操縦桿を倒す。
 紙一重の所で回避する禽竜。
 ほんの一瞬前まで禽竜がいた場所を魔力エネルギーの砲撃が通り過ぎていく。
 
「マジかよ……!」
 苦しげな声で呻くように言うヘル。
 どうやら彼の声が苦しげなのはGによる負担のせいだけではないようだ。
「どうしました……?」
「今、撃ってきやがったのは味方機だっ……!」
 ヘルの言葉を聞いた途端、ザカコもはっとなる。
 今の攻撃は見覚えがある。
 それも、以前どこかで見たことがある程度のものではない。
 自分もよく知っている武器なのだ。
「まさか……マジックカノン……!」
 そうとなれば、撃ってきた機体も自分のよく知る機体に違いないだろう。
「鹵獲機……!? いえ、もし海京の時と同じことが起きているのなら――ヘル、レーダー上の光点はどうなっていますか……?」
「光点は七つ……すべて味方機だ!」

 次の瞬間、今度は二条のマジックカノンが放たれる。
 絶妙な時間差で放たれる砲撃の連携は見事としか言いようがない。
 複数のパイロットが息を合わせているというより、ここまでくると一人の人間がすべて動かしているようにすら思えてくる。
 それだけではない。
 マジックカノンの波状攻撃に混じり、“フリューゲル”bisもプラズマライフルを放つ。
 
「く……ぅ……ぅぅ……っ!」
 霞みゆく意識の中。
 ザカコはもはや本能的に操縦桿を倒し、ペダルを踏み続ける。
 もし一発でも被弾すればたちまち残りの攻撃も受けることになるだろう。
 そうなれば最悪その場で戦闘不能。
 もし機体が持っても、“フリューゲル”bis相手に戦えるかは疑問だ。
 
 一発の被弾も許されない状況で、禽竜は紙一重の回避を繰り返し続けながら敵陣へと突撃する。
 マジックカノンの時間差砲撃をまたもかわす禽竜。
 だが、回避中の機動を狙って“フリューゲル”bisのプラズマライフルの光条が襲い来る。
 見事なコンビネーションだ。
 さしもの禽竜とて、これは避けられない。
 禽竜にプラズマライフルの光条が迫る――。
 
「まだだっ!」
 叫ぶなり、ヘルはサブパイロットシートの操縦桿を握り、トリガーを引いた。
 撃発信号を受け、禽竜が手に持ったM61バルカンライフルがフルオートで銃弾を吐き出す。
 ろくに狙いも付けていない状態。
 その上、相手が“フリューゲル”bisとあっては当りはしない。
 
 しかし、ヘルの狙いは当てることではなかった。
 フルオート掃射の凄まじい反動は回避機動中の禽竜を凄まじい勢いで煽る。
 その結果、プラズマライフルの光条は危ない所で禽竜のすぐ近くを通り過ぎていく。
 いわば禽竜は、自ら反動で吹っ飛ばされることによって砲撃を避けたのだ。
「助かりました、ヘル」
「弾が当たらなくても、何かしら使い道があるもんだぜ」
 
 光条を避けつつ禽竜は更に加速し、一気に“フリューゲル”bisの眼前へと飛び込んだ。
 その距離まで接近するなり、ザカコは“フリューゲル”bisに向けて通信を繋いだ。
「初めまして、鳥さん」
 相手もその通信に応じ、回線が開かれたようだ。
 それを示すように、今までの戦いで通信帯域に何度も流れた軽快なダンスチューンが聞こえてくる。
『やっぱり今回も出てきたか。んでもって、やっぱり今回もパイロットは違うみてぇだな』
 油断なく“フリューゲル”bisの動きを観察しながら、ザカコは相手に持ちかける。
「もうデータ収集は済んでいるでしょうし、この辺りで引き上げて頂けませんか?」
『データ収集? 生憎と俺達はイルミンスールをブッ壊しに来てるんでな』
「ならもう十分な破壊活動をしたでしょう? もう一度お聞きします? この辺りで引き上げて頂けませんか?」
『嫌だね――そう言ったら、どうする?』
「これ以上イルミンスールを荒らすなら、こちらも黙って帰すわけにはいきません」
 言い放ちながらザカコは操縦桿で禽竜の腕を操作する。
 接近戦の意を示すようにナイフを抜き放つ禽竜。
 それに呼応し、“フリューゲル”bisも大出力のビームサーベルを抜き放つ。
『面白ぇ。確かにバケモン機体じゃあるが、七対一でどこまでできる?』
 彼の言葉に呼応して“フリューゲル”bisの飛行ユニットがエネルギーを吹き出す。
“フリューゲル”bisが一足飛びに斬りかかろうとするまさにその瞬間、全域への通信が割り込んだ。

『おっと! 七対一じゃねえぜ!』
 全域通信で聞こえてきたのは勇猛そうな印象を受ける女性の声。
 それと同時に禽竜のモニターにウィンドウがポップアップし、赤い色をした髪の少女の顔が表示される。
『待たせたな、ザカコ! オレ達もいるぜ!』
 赤い色をした髪の少女――シリウス・バイナリスタ(しりうす・ばいなりすた)が通信を送ってきたのと同時に、禽竜のレーダーに味方機の光点が五つ追加される。
『これで六対七。戦力比としては悪くないね』
 続いてシリウスの相棒であるサビク・オルタナティヴ(さびく・おるたなてぃぶ)の映像もポップアップする。
 虹色の光翼を広げた機体が禽竜の横に並び、光翼と同じく虹色の光刃を抜き放つ。
 シリウスとサビクのシュヴェルト13だ。

『そういうことだ! いつも通り相手をしてもらうぜ!』
 シリウスとサビクのウィンドウが閉じると、入れ替わりに黒髪の少年と銀髪の少女が映ったウィンドウが表示された。
『こんな奴なんてちゃちゃっとやってやるのです、カズ兄!!』
 二人がウィンドウの中で言い放つと、戦域に一機のイコンが突入してくる。
 緑色の光刃を構え、背中にはまるで後光のようなリング状のパーツが取り付けられているカスタムイコン。
 神条 和麻(しんじょう・かずま)エリス・スカーレット(えりす・すかーれっと)アマテラスだ。
 
 和麻達のウィンドウと入れ替わりに、今度はコア・ハーティオン(こあ・はーてぃおん)龍心機 ドラゴランダー(りゅうじんき・どらごらんだー)の顔が映し出されたウィンドウもポップアップする。
『私達もいるぞ!』
『ガオオオオン!(まさか我等を忘れたか!)』
『仲間を助ける為ならば、幾度でも我らは戦おう』
『ガオオオオン!(良いだろう。この戦い、我も力を貸してやる!)』
 ハーティオンとドラゴンランダーが言葉を交わす様子が無線を通じて聞こえてくる中、戦場へとグレート・ドラゴハーティオンが現れる。
『どうやら今回は鈿女博士に考えがあるようだからな。敵は超パワーの機体だが、なるべく格闘戦と接近戦を挑むつもりだ。ドラゴランダー! 今回は熾烈な戦いとなるぞ! 心して行こう!』
『ガオオオオン!(接近戦か! 面白い、非常に我向きの話だ! 今回は我にやらせろハーティオン!!)』
『ならば行こう! 黄龍合体! グレート・ドラゴハーティオン!』
 強く拳を握りしめ、それを高らかに突きあげるハーティオン。
 突きあげた拳が高らかにかざされると同時、彼の名乗りが響き渡る。
 名乗りを上げた後、ハーティオンは威風堂々たる構えを取った。
 
 二人に続いて、更なる通信が禽竜へと入った。
『僕達も援護するね』
『“フェルゼン”の相手はお任せください』
 その通信と共に飛んできたのは気品あるデザインに、やはり気品ある色調の紫で塗られた機体――ルドュテ
 清泉 北都(いずみ・ほくと)クナイ・アヤシ(くない・あやし)の愛機だ。
 ルデュテはいつもと違ってソウルブレードではなく、ウィッチクラフトライフルを構えている。
 今回は射撃戦で戦うつもりのようだ。
 イコン用マントをはためかせつつ、ルデュテはライフルの狙いをつける。

 禽竜に続くようにして駆けつけた味方機の数々。
 そして、最後に現れたのは“フリューゲル”bisにとっても因縁浅からぬ機体だった。
『どうやら間に合ったようだな』
 新たにポップアップしたウィンドウの中でザカコに語りかけるのは黒髪の青年。
『わたくしも一緒に戦うんですの!』
 そして、セミロングの髪の毛をした、年端もいかない少女だ。
 この機体こそマルコキアス
 本来のパイロットは源 鉄心(みなもと・てっしん)とティー・ティー。
 だが、今回はティーに代わり鉄心がメインパイロットを務める。
 更には、サブパイロットとしてイコナ・ユア・クックブック(いこな・ゆあくっくぶっく)が搭乗しているのだ。
 イコナにとってはこれが初めてのイコン戦闘。
 本人の緊張もさることながら、彼女と同等かそれ以上に鉄心も緊張していた。
 
「みんな……助かります。行きましょう。何としても、イルミンスールを守るんです――」
 駆けつけてくれた仲間たちへとザカコが返信した時だった。
 また新たな通信が禽竜へと入る。
 どうやらこれも一斉送信のようだ。
 ただし、今回は味方機のみであるが。
『こちら迅竜。ダリルだ』
 
 ウィンドウが開き、迅竜のブリッジ風景とそれをバックにして席に座るダリル・ガイザック(だりる・がいざっく)が語り始める。
『先程からの確認されている識別信号の異常や、防衛部隊のアルマインによる不可解な行動――それらはすべて、海京で起きた先日の戦闘で仕掛けられた電子戦攻撃と同様のものだろう』
 殆ど確信に近い物があったが、改めて専門家であるダリルに断言してもらったことでザカコとヘルの中で先程の異常事態が完全に腑に落ちる。
『力量から、敵のサイバーテロの正体は見当もついている。現在、こちらからカウンター攻撃を開始している所だ。ひとまず迅竜イコン部隊――まだ電子戦攻撃を受けていない機体の防護は完了した』
 それを聞き、ザカコはほっと胸を撫で下ろした。
 アルマインだけでなく、禽竜まで制御を奪われてしまうと考えただけでもぞっとする。
『これより既に制御を奪われた機体の奪還作業に移る。可能な限り本来の敵機である“フリューゲル”bisと“フェルゼン”各機を抑えてくれ。その間にこちらでアルマイン部隊の制御は取り戻す』
「了解。行きますよ、ヘル――」
 そう答え、ザカコはペダルを踏み込む。
 イルミンスールの森の片隅を舞台に、また一つ防衛戦の火蓋が切って落とされようとしていた。