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【第五話】森の中の防衛戦

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【第五話】森の中の防衛戦

リアクション

 同日 数時間後 ザンスカール イルミンスール魔法学校付近
 
「イルミンスールは絶対の絶対に守り切る……!」
 アンシャールのコクピットで遠野 歌菜(とおの・かな)は操縦桿を握り締めた。
 コクピットから見える風景は見慣れたザンスカールの森だ。
 だが、そこには見慣れない濃緑色の機体が屹立している。
 その数は四機。
 そして、その四機を率いるように屹立する漆黒の一機。
 いずれも大量の装甲で身を固めた重量級の機体である。
 姿形に一見して違いは見られず、少なくとも見た目の上では色が濃緑か漆黒かの違いしかないようだ。

「歌菜、一体でも多く、一秒でも長く。救援が来るまで、出来る事をやるぞ」
 同じくコクピットに座る月崎 羽純(つきざき・はすみ)が歌菜へと声をかける。
「今、俺達にできることは時間を稼ぐことだ。兎に角、救援が来るまでの時間を稼ぐため、不退転の決意で戦おう」
 羽純の言葉に頷く歌菜。
 コクピットに見える機影に注意を払いつつ、羽純は無線のスイッチを入れた。
 選択されている帯域は友軍全域。
 即ち、歌菜と羽純のアンシャールと一緒に戦っている友軍機すべてに聞こえる状態だ。

「こちらアンシャール、月崎だ。こちらは四機に対して敵は五機――」
 歌菜の歌声を邪魔しないよう、可能な限りの配慮をしながら羽純は友軍機へと無線で語りかけていく。
「――数の上では敵が有利。しかも、敵は各学校を襲撃しに現れた件の機体だろう。即ち、性能面でも俺達の機体を凌駕している可能性が高い」
 クールな口調で語り続ける羽純。
 その声は告げている事態の深刻さにしては、妙に落ち着いているようにも感じられる。
「今ここで俺達がすべきこと、もとい俺達にできることは九校連の迅竜が来てくれるまで持ちこたえることだ。連携を取りながら、一体でも多く、一秒でも長く。救援が来るまで、出来る事をやろう」
 先程、歌菜に告げたのと同じ内容を友軍機にも告げる羽純。
 そして彼はそこで一拍置いた後、今までよりも感情を込めて告げた。
「ただ、やられっぱなしというのも性に合わん……可能ならば撃墜することも諦めるな。一糸報いて、救援に来た仲間への手土産にしたいところだしな」

 羽純が言い終えると、すぐさま通信帯域に少女の声が響く。
『こちらE.L.A.E.N.A.I.アルティア・シールアム(あるてぃあ・しーるあむ)。承知致しましてございます』
 まず通信を送ってきたのは非不未予異無亡病 近遠(ひふみよいむなや・このとお)の所有するカスタムイコンであるE.L.A.E.N.A.I.だ。
 オペレーター用の座席を増設し、四人のパイロットの同時搭乗を可能としていることが特徴の機体である。
 無論、それだけではない。
 全体的な機体スペックは高く、加速度的に技術の進歩が起こっているイコン戦においても、十分に現役として戦えるだけの力がある。
『貴公の言う通り、敵の性能は現行機を凌駕するものであろう。だが、我等とて改造を施した機体を駆ってもいれば、それを扱う技術にもそれなりに熟達している。ならばまったく勝ち目の無い戦いではない』
 アルティアに続いて聞こえてきたのは凛々しい女性を思わせる声だ。
 喋り方や声から察するに、彼女もまたE.L.A.E.N.A.I.のパイロットの一人にして近遠の仲間の一人たるイグナ・スプリント(いぐな・すぷりんと)だろう。
 彼女の担当は機内オペレーター席に座っての周辺警戒だ。
『うん! あたし達と歌菜ちゃん達、それにシャレン先生達もいるんだから、きっと大丈夫だよ!』
 今度は小さな少女の声と思しき声が聞こえてくる。
 その声の主も同じくパイロットの一人にして、E.L.A.E.N.A.I.の火器管制を担当するユーリカ・アスゲージ(ゆーりか・あすげーじ)だ。
 同じ機体に共に搭乗する三人の仲間。
 彼女達が思い思いの返事をし終えた後、メインパイロットである近遠が羽純へと応答する。
『――そういうことです。ボク達も羽純さん達と同意見ですよ。こちらの戦力がどれほどのものか、一つ見せつけてやるとしましょう』
 近遠の声から少しして機体の駆動音が無線を通じて聞こえてくる。
 どうやら、早くもE.L.A.E.N.A.I.が攻撃態勢に入ったようだ。
 E.L.A.E.N.A.I.の機体操縦も近遠の担当だ。
 それに加えて彼は戦術指揮も担当している。
 いわば、E.L.A.E.N.A.I.というイコンの中枢を担う人物。
 それが非不未予異無亡病 近遠なのだ。
 
 続いてまた別の僚機からも通信が入る。
 今度は落ち着いた印象のある大人の女性の声だ。
シャレン・ヴィッツメッサー(しゃれん・う゛ぃっつめっさー)。右に同じく了解ですわ。シャルルマーニュで防衛に参加します』
 シャレンは歌菜や近遠、あるいは一緒に出撃したアルマイン・マギウスのパイロットとは違い、教職員という立場にある。
 彼女も教職員の一人として学校の一大事、それも生徒が出撃したとあっては、自分も出撃すべきことをちゃんと理解していた。
 そして、彼女の意志を無駄にしないべく、パートナーである浜田 鬼麿(はまだ・おにまろ)も一緒に出撃している。
『機体の操縦は麿に任せてくれ! シャレンは攻撃に専念だ!』
 年端もいかない少年の声が通信帯域に響き渡る。
 だが、小さな子供の声でありながら、その声には不思議と随分な頼もしさが感じられた。
 
 ほどなくして通信を一旦終えるシャレン達。
 その後に聞こえてきたのは十代と思しき少年と少女の声だ。
『僕達もお手伝いします!』
『なんとしてもイルミンスールを守りましょう!』
 通信を送ってきたのは一緒に出撃してくれているアルマイン・マギウスのパイロット達だ。
 
 仲間たちの声を受け、歌菜と羽純は頷き合う。
 そして歌菜はそっと目を閉じると、ゆっくりと深呼吸する。

 それだけで彼女の意図を察した羽純はコンソール上に指を走らせた。
 コンソール上を走った羽純の十指はアンシャールに内蔵されたスピーカーを起動させる。
 言葉での合図はもちろん、目配せ一つもない。
 だが、その行動のタイミングはまるで申し合わせていたかのように絶妙だった。

 一方、歌菜はその瞳に強い決意を宿し、操縦桿を握り直す。
 そのまま決意を宿した瞳を閉じる歌菜。
 その後、歌菜は静かに口を開いた。

 スピーカーのスイッチが入ると同時、歌菜の歌声がコクピットに響き出した。
 繊細でありながら大胆。
 疾走感の中に感じられるどっしりとした力強さ。
 そして、少女らしい可憐さの中に確かに存在する勇猛な力強さ。

 そうした要素を兼ね備えた美麗な歌菜の美麗な歌声が戦場へと一気に流れ出す。
 それだけではない。
 羽純は歌菜の歌声に耳を傾けながらコンソールを叩く。
 入力された操作により、アンシャールのハードポイントに搭載されたスモークディスチャージャーが煙を一斉に噴き出した。
 吹き出された煙によりたちまち満たされるザンスカールの森。
 今の風景はまるで霧が立ち込めているようにも見える。
 
 歌菜の歌が鳴り響く中、羽純は無線に向けて告げた。
「行くぞ――まずは緑色の量産機を叩く」
 無線に向けて告げながらペダルを踏み込む羽純。
 ペダルを踏み込んだ直後、アンシャールは爆発的な加速を見せる。
 まるで発射された砲弾のように飛び出したアンシャール。
 その両手には一対の槍――『暁と宵の双槍』が握られている。
 濃緑色の“フェルゼン”の一機へと肉迫したアンシャールは、突撃の勢いを乗せて双槍を叩き込んだ。
 
 イルミンスールの森に響き渡る済んだ甲高い音。
 アンシャールの速度と体重を乗せて叩き込んだ筈の双槍の穂先は、“フェルゼン”の両肩へと見事に炸裂した。
 だが、穂先は装甲を傷つけることなく、跳ね返されていたのだ。
「なんという防御力……なら――」
 驚きのあまり呟く羽純。
 それと同時に彼の手は操縦桿を握り、足は反射的にペダルを踏み込んでいた。
「――E.L.A.E.N.A.I.、シャルルマーニュ、マギウスの三機へ。今、俺達が攻撃した機体へと一斉攻撃を頼む」
 
 羽純の声が無線を通して伝わった直後、アンシャールの背後から幾つもの砲撃が放たれる。
『承知致しましたわ。ソニックブラスターを使用します』
 すかさずシャルルマーニュが動く。
 シャルルマーニュは装備していたソニックブラスターを“フェルゼン”の一機へと向け、音波を照射した。
 
『僕達も!』
 同時にアルマイン・マギウスもマジックカノンによる攻撃を繰り出した。
 
『あたしたちを忘れてもらっては困るのですわ!』
 二機に続くようにしてE.L.A.E.N.A.I.も砲撃を開始する。
 一斉砲撃のしんがりを務めるのはE.L.A.E.N.A.I.のヴリトラ砲だ。
『ヴリトラ砲を使うんですね』
 近遠はユーリカの意図を素早く汲み取ったようだ。
『機体バランスを修正、射角修正、姿勢制御よし――いつでもいけますよ』
 近遠が慣れた手つきでE.L.A.E.N.A.I.の機体を小刻みに動かす。
 それによって近遠はすぐに姿勢を安定させ、ヴリトラ砲の発射に備えた万全の状態を作り出した。
『了解ですわ! ヴリトラ砲――発射します!』
 ユーリカの声が響くと共に、E.L.A.E.N.A.I.に装備されたヴリトラ砲の砲口からエネルギーが迸る。
 迸ったエネルギーはまるで黒いドラゴンのような形となって“フェルゼン”へと肉迫する。
 
 音波による攻撃が左腕に、マジックカノンによる攻撃が胸板に、それぞれ炸裂した“フェルゼン”。
 その直後に追い打ちをかけるようにしてヴリトラ砲の一撃が通り抜けていく。
“フェルゼン”の上半身を丸ごと呑み込むようにして通り過ぎて行ったヴリトラ砲のエネルギー塊。
 そのダメージは相当なものだろう。
 だが、恐るべきことに“フェルゼン”はそれに耐えきったばかりか、自立状態を維持していたのだ。
 しかしながらダメージは大きいようで、両肩と左腕の装甲が破損している。
 
「これだけの攻撃を叩き込んでも部位破壊がやっと。骨の折れる相手だ」
 冷静さは崩さずに呟く羽純。
 羽純が油断なくモニターに映る“フェルゼン”を見据えていると、ほどなくして通信が入る。
『少々、よろしいでしょうか?』
 モニターに映ったのはシャレンの顔だ。
「どうした?」
 問い返す羽純。

 画面右下にポップアップしたウィンドウの中で、シャレンは何かを掴みかけたような顔で語り始める。
『いくらなんでも不可解だとは思いませんか? 物理的な攻撃だけ、あるいは魔法的な攻撃だけに強い装甲ならば存在したとしても納得がいきます。でも、あの敵の装甲は物理と魔法の両方に対して耐性を持っているように見受けられます。そんなものが本当に存在するなんて……』
 そう前置きするシャレン。
 油断なくモニターで敵の動きを確認しながら、羽純は横目でウィンドウの中のシャレンを見やって返事をする。
「そのようだ」
 羽純が同調すると、シャレンは一度頷いた。
 そして、今度は難しく考え込むような表情を見せる。
『ええ。ですが――』
 そこで少し躊躇った後、シャレンはもう一度前置きする。
『家政科の私にとっては専門外。詳しいことはわかりませんが、あくまでイルミンスールの学舎に身を置いた者としての意見です――』
 躊躇いつつ喋るシャレンを見つつ、羽純はコクピットのカメラに向けて頷いてみせる。
「構わない。聞かせてくれ、先生としての所見を」
 ウィンドウの中のシャレンに目配せする羽純。
 すると今度は画面の左下に別のウィンドウがポップアップする。
『その話、是非僕達にも聞かせて頂けますか?』
 新たなウィンドウに映るのは近遠の顔だ。
 
 羽純と近遠に請われたのに後押しされ、シャレンは決意を決めたように口を開く。
『物理的な破壊にも耐え、魔法的な破壊にも耐える……それでは物質的に無理が出てくるように思えるのです』
『無理が……?』
 すかさず問い返す羽純。
 今度はシャレンが頷いてみせる。
『そもそも物理的な現象と魔法的な現象は性質の異なるもの。どちらか一方への耐性を上げようとすれば、もう一方への耐性が犠牲になります』
『なるほど』
 近遠もウィンドウの中で頷き、相槌を打つ。

 シャレンの話しに耳を傾けながら、羽純は操縦桿を動かし、ペダルを踏み込む。
 たった今、一斉砲撃を受けた“フェルゼン”が無事な右腕で殴りかかってきたのだ。
 咄嗟に推進機構を吹かしたアンシャールは短距離の急速ダッシュで“フェルゼン”のパンチを避ける。
 空振りしたパンチはアンシャールの背後にあった岩塊へと直撃。
 岩塊は決して小さくはない。
 だが、“フェルゼン”の拳が触れた瞬間、岩塊はたやすく粉微塵になる。
 その威力に息を呑みつつ、羽純はシャレンの言葉に耳を傾けた。

『物理攻撃への耐性は硬度の高い物質を使用することで可能なのは言わずもがな。一方、魔法攻撃への耐性は魔術的な効果の高い物質――たとえば、古来より魔術や錬金術などにおいて触媒として重用されてきた物質を用いれば可能でしょう。装甲に使う物質が魔術的な効果の強いものならば、魔術に対して強くなるはずです』
「確かにその通りだ」
 操縦桿とペダルを操作しながら、羽純は思わず頷いていた。
『しかし、そうである以上はどちらの物質を使用するかを選ばねばなりません。触媒向きの……魔術的な力の強い金属が物理的に高い硬度を持っているとは限らないのですから』
 そこで近遠がすかさず指摘する。
「そうか。だが、それなら合金にすればいいだろう?」
 近遠の指摘はもっともだ。
 しかし、シャレンは僅かに考え込んだ後に、首を横に振った。
『いえ……科学的な合金ならそれでも良いでしょうけれど、魔術的な耐性も含まれてくると話は別です。合金化によって純度に変化が現れれば、たとえ物質としての強度は上がっても、魔術的な力は下がるでしょうから』

 シャレンがそう語るのに合わせて“フェルゼン”の胸部装甲にウィッチクラフトライフルの銃弾が炸裂する。
 彼女の乗るシャルルマーニュが発砲したのだろう。
 やはり銃弾は装甲によって弾かれ、目立ったダメージは与えられていないようだ。

「言う事はわかる。ただ……敵は既存のものを凌駕する技術を持っているし、常識の埒外に達してるんだ。そういった合金の精製に成功してても不思議じゃない。そんなものを相手に何か対抗策があるのか?」
 羽純が問いかけると、シャレンは一度頷いた。
『ええ。対抗策自体はあります。ただし、そういった合金による装甲への対抗策ではありませんが』
 シャレンからの答えに一瞬困惑する近遠。
『どういう……ことでしょう?』
 一方のシャレンは落ち着いた様子だ。
『少なくとも、あの装甲は『そういった合金』ではないでしょう。逆に言えば、敵はそれ以外の方法で物理と魔法の両方に耐性を得ている可能性があります。ならば、それを逆利用すれば勝機はあります――』
 羽純はシャレンが先程何かを掴みかけていたような様子だったことを思い出す。
 そのまま羽純は黙って耳を傾け、無言でシャレンに先を促した。
『おそらく装甲自体に何らかのエネルギーを流すことによって性質を変転させているのでしょう。厳密に言えば、あの装甲は物理と魔法の両方に対して高い耐性を持つ装甲ではなく、攻撃を受ける際……物理あるいは魔法に強い装甲にその都度『なっている』んです』
 聞かされたシャレンの仮説に驚き、冷静な羽純も思わず黙り込んでしまう。
 ややあって気を取り直した羽純はすぐに問い返した。

「どうしてそう言い切れる?」
 そう聞かれるのは予想できていていたのだろう。
 シャレンはすかさず答えた。
『敵の装甲が破損した部位――ですよ』
「破損した部位……?」
 鸚鵡返しに問い返す羽純。
 一方、ウィンドウの中の近遠は黙って一点を見つめ続けるだけだ。
 そんな二人に向けて、シャレンは語り始める。
 その口調は教師らしい、解り易く説明するような話し方だ。

『ええ。今までの攻撃で私達が破壊できている装甲は三カ所。いずれも物理攻撃を受けてからすぐに魔法攻撃を受けた部位ばかりです。きっと、物理攻撃に強い装甲に『変質』したままの状態で魔法攻撃を受けたせいで防御力を最大まで発揮できなかった――』
 その説明に思わず聞き入る羽純と近遠。
 しかし、すぐに羽純が問いを投げかける。
「待ってくれ。単純にダメージが蓄積した末に破損したんじゃないのか? 実際、破損した部位には攻撃がクリーンヒットしてるんだ」
 羽純に向けてシャレンがウィンドウの中で頷く。
『確かに私も最初はそう思いました。ですが、そうなると胸の装甲が壊れていないことの説明がつかないんです』
 はっきりと言い切るシャレン。
 直後、羽純が何かに気付いたように声を上げる。
「そうか……!」
『どうしました?』
 モニターではウィンドウの中から近遠が見つめてくる。
 羽純もカメラ越しに近遠を見つめ返す。
 そしてゆっくりと、羽純は呟いた。
「クリーンヒットしてるのはマギウスが撃ったマジックカノンも同じだ。けど、胸には傷一つついちゃいない」
 そこまで聞いて近遠も気付いたのか、はっとした表情になる。
「ヴリトラ砲の一撃は正面から炸裂して、あの機体を通り過ぎて行った。なら、胸部装甲も破損してなきゃおかしい。でもそうなってないのは――シャレンの言う通り、胸部装甲が魔法に強い性質に既に変転してた……要は魔法攻撃を受け止める準備ができてた、ってことか」
 確信したように言う羽純。
 彼に続いて近遠も、やはり確信したように呟く。
『なるほど。確かに両肩と左腕は物理攻撃を受けてからすぐに魔法攻撃を受けた……つまり、『魔法攻撃に強い装甲への変転が追い付いていない』状態でヴリトラ砲を被弾したから破損したんですね。もし、両方への耐性を備えた万能合金の装甲なら、両肩と左腕も壊れない。あるいは両肩と左腕は強引に破壊できたのだとしたら、胸部装甲にも何らかのダメージがあって然るべきです』

 近遠が言い終えると同時、羽純とシャレンが頷く。
 そして、二人の言葉を引き継ぐようにしてシャレンは告げた。
『お二人の言う通りです。そして、これを利用すれば我々の攻撃も通るはず――!』
 力強いシャレンの言葉。
 それを合図に、言葉を交わしていた三人は同時に頷いた。

「シャレンの仮説を信じ、物理と魔法による同時攻撃を仕掛ける――行くぞ」
 無線で僚機へと合図する羽純。
 羽純の合図に呼応し、E.L.A.E.N.A.I.とシャルルマーニュ、そしてアルマイン・マギウスの三機がフォーメーションを組む。
 その直後だった。
 
「ぐっ――!?」
 突如としてアンシャールの機体が大きく揺れたのだ。
「きゃぁっ!?」
 驚きと衝撃で歌菜も思わず歌を止め、声を上げる。
「……っ!」
 歌菜と同じように驚きながら羽純は機体を振り返らせる。
 衝撃が襲い来た方向へと機体を向けた羽純。
 彼はメインカメラに映ったものを見て更に驚愕することになる。
「何のつもりだ……っ?!」
 メインカメラの向く方向、即ちアンシャールの見つめる先にいたのは僚機のアルマイン・マギウスだった。
 そして、その機体が装備するマジックカノンの砲口からは魔力の残滓があたかも硝煙のように零れている。
 
 どうやら、味方である筈のアルマイン・マギウスがアンシャールを背中から撃ったようだ。
 他の機体も同じように倒れる寸前で踏ん張っている。
 やはりアンシャールと同じように、マジックカノンによる背中からの不意打ちを至近距離から受けたらしい。
『そんな……僕達は何も……!?』
 だが、羽純に詰問されたアルマイン・マギウスのパイロットが最も困惑しているようだった。
『さっきから機体が操縦を受け付けないんです……今の砲撃も機体が勝手に……っ!? うああああっっ!?』
 絶叫を上げるアルマイン・マギウスのパイロット。
 その絶叫をかき消すように、アルマイン・マギウスの機体が爆発を起こす。
 装備されたマジックカノンが限界を超える出力で連射された暴発し、その爆発に巻き込まれたのだ。
 そして、限界を超える力で発射された魔力エネルギーの砲撃は至近距離から再び僚機である三機を襲う。
 
 たとえ第一世代機の攻撃とはいえ、スペックの限界値を超える出力で発射された砲撃を至近距離で受けてはひとたまりもない。
 第二世代機である三機はそのダメージで吹っ飛ばされ、盛大に転倒する。
 森林の中を転げまわって土と枝葉にまみれたアンシャール。
 そのコクピットから羽純が見たものは、暴発のダメージでその場に倒れるアルマイン・マギウスの姿だった。