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無人島物語

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第八章:海のトラベルミステリー


 時間は物語の始めに戻る。
「この台風の中来てくれてありがとう。大変なことになっているみたいで僕は心配だよ」
 ここはヴァイシャリーの百合園学園。
 校長室の窓から外を眺めながら桜井 静香(さくらい・しずか)は言った。
「船を貸してくれるんでしょう? これから私たちが、遭難救助に向かおうと思ってるんだけど」
 TVのニュースで沈没事故が報じられた直後、ルカルカ・ルー(るかるか・るー)が静香を訪問してきた。ルカルカのこのフットワークの良さが、静香は好きだ。
「私たちは自前で島に向かうから、探査装置のついた巡視艇は他の捜索者さんたちに使わせてあげて。連絡は密にするから、静香はここにいてもらっていいのよ」
「助かるよ、ルカ。こっちではちょっと面倒なことになりそうな予感がするんだ。僕は、その事後処理に当たらなければならない」
「悩みがあるなら、相談して欲しいんだけど。一人で抱えていても仕方がないし、私たちに出来ることがあればなんでも協力するわよ」
 ふと、静香に深い憂いの表情が浮かんだのを見て、ルカルカは訝しむ。
「『ダイパニック号』は、なぜ沈んだのか……?」
 静香はポツリと呟いた。
「あの船は、普通沈むはずはないんだよ。あの海域に、客船を沈めるほどの相当強力なモンスターかテロリストの潜水艦でも潜んでいない限りは」
「……何か知っているの?」
「モンスターがいるなら排除してもらうし、テロリストの潜水艦なら二度とあの海域を航行できないよう組織の壊滅に協力してもらうことにするよ。その場合、夏の臨海学校は生徒たちの安全確保のために、恐らく中止になるかもしれないね」
「まだそうと決まったわけじゃないんでしょ?」
「僕は違うと思っている。そこが、問題なんだよ」
 静香は、それだけ言うともう何も喋りたくないようだった。
「じゃあ、後は任せておいて」
 ルカルカは、静香の元を退出した。
「……」
 それからしばらく、静香は物思いにふけっていた。
「僕は、知人を刑務所に送らなければならなくなるかもしれないよ」
 静香は、部屋に立てかけてあった小さな写真スタンドを見た。以前、とある知人たちと旅行した時の写真。今はもう海の底へ消えた『ダイパニック号』との集合写真だった。
「どうして僕に相談してくれなかったの? 他に方法があったかもしれないのに」
 静香は写真を見つめながら寂しそうな表情で言った。
 そこには、静香たちと並んで一人の少女が写っていた。
『ダイパニック号』のオーナー、リナ・グレイ。カナン出身の資産家の娘で、今回の船上パーティーの主催者。
 救出後は病院に収容されている。
「証拠はないよね。でも僕は……、君が犯人だと思っているよ。これは事故じゃない。事件なんだ」
 静香は再び嵐吹き荒れる窓の外に目をやった。
 調査に当たる人たちは、一体どこまで真相を暴いてくれるだろうか……。


 遭難者が無人島で生活したり騒いだりしている間、残っていた人たちだって動いていたのだ。
 これは、そのお話。