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みんなで楽しく?果実狩り! 2023

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みんなで楽しく?果実狩り! 2023

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【指輪と出会いと催眠術】

「うーふーふー。果物狩りで無邪気にはしゃぐ可憐な私に、陣はもうメロメロ(死語)ー。
 ってなるはずだったのに、なんなのよもう!
 こんな酔っ払いだらけの果物園で乙女なシチュエーションは無理に決まってるじゃなーい。きゃははは!」
「……また『笑うヤツ』か。本当に度し難い連中だな」
 普段ならこの場で一番度し難い奴が、乱痴気騒ぎを見下ろしてそう批判する。
「うむ、若人が日も高いうちから酔いつぶれるとはなんと嘆かわしい。
 よいか、俺の若い頃はいついかなる時であっても礼節を弁え……」
 義仲は義仲で説教しているが、先程からその口が吐くのは基本下ネタだ。ユピリアは鼻を鳴らした。
「アレクあんたもね、ジゼルか豊美ちゃんかはっきりしなさいよねー。ねージゼル」
 ユピリアはジゼルに同意を求めるが、ジゼルから返事は帰って来ない。先程のセレンフィリティ達とのやりとりで、ジゼルはもう脱ぐどころか完全に回っている状態だ。
 しかしユピリアもユピリアで瞼の半分が落ちている。ジゼルから返事があろうが無かろうが関係無いし、アレクの答えがあったとしても実際は耳に入らないのだろう。
「まったくもー」
 と徐に後ろから抱きしめていたジゼルの胸を、ユピリアはぐいと鷲掴んだ。
「ふぁあっ」
 ジゼルの唇から甘い吐息が漏れるのに、もうアレクは無反応だ。属に賢者モードと呼ばれる状態に近いのだろう。お忘れかも知れないがこの19歳、優秀な軍人でもある。性欲のコントロールくらいその気になればそれなりに可能なのだ! 
 ――というよりそんなことがどうでも良くなるくらいに疲れきっているとも言えたが。
「こんないい胸とロリと、しかも男のぺったん胸まで! 一体どれがいいわけ? もしかして二股……三股だったり!?」
 自分の言った事にきゃははと声を上げて笑い出すユピリアの腕をジゼルから離して、アッシュブドウをひたすらに咀嚼している義仲の方へやんわり押し付けてアレクは言った。
「ユピリア、俺からお前に言っておく事は二つだ。
 まず一つ、豊美ちゃんに失礼な発言は慎め。二つ、ジゼルの手を見てみろ」
「手?」
 言われてユピリアは下へ視線を移した。ジゼルの白い薬指に指輪が嵌まっている。そこに重ねられたアレクの指にも同じようなデザインのものがある。
 恋愛脳と言わる事すらあるユピリアなのに、二人が揃いの指輪をしている事に気づかなかったのは、アレクのが常にライナーグローブと角指という斬新なファッションをしていたからか、定食屋で働くジゼルが指輪を外していたからだろうか。兎に角これに気づいたのは今が初めてだった。
「何これ、プレゼントでもしたの? 誕生日でもクリスマスでもないのに。意外に甲斐性あるんじゃないこのこのおっ」
 ユピリアに背中をバンバン叩かれても無表情のまま、アレクはいつも通りの平坦な声で答えた。
「結婚指輪だ」
「……は?」
「俺の国だと右にするんだ」
「……はい?」
「ジゼルは俺の嫁」
「……はあ?」
 まともに返事を返さないユピリアに痺れを切らしたのか振り返って、アレクは細かく噛み砕いた説明をする。
「俺はジゼルにプロポーズし、彼女はそれを受け入れてくれた。
 その後ジゼルの後継人である山葉涼司に承諾を貰い、地球に戻った時に式を挙げた。俺達は永遠を共にすると神に認められた夫婦だ。
 俺は司祭の『他の女に約束はないか』と質問に、『無い』と答えた。これまではそれが全てだ。 
 結婚の冠は『汚辱と死を齎す無秩序な性欲に打ち勝つ徴(しるし)』。つまりこれからも無い」
 浮気は無い。と、アレクが言っているのはそういう意味なのだが、ユピリアはあらゆる衝撃から酔いが醒めて氷のように固まっている。
 アレクは彼女の反応が理解出来ず片眉を上げて、今度は義仲へ向き直った。
「こっちのチビの質問に答えるか。
 ジゼルと何処迄進んだか? 夫婦として当たり前のところまでだ」
 二人の返事は無い。ちょっとからかってやろうという気分が、逆にどん底迄突き落とされたのだから無理も無かった。
「…………アレク、それ……まじなの?」
 ユピリアがパクパクと魚のように口を開閉させていた時だった。彼女の身体が、隣の義仲が、突然後ろへ倒れたのだ。
 アレクが振り向けば赤毛に落ち葉を混じらせた陣がにっこり笑いながらこちらを見ていた。
「……ヒノプシス?」
「正解だ。しかしやっかいな奴等だよな。
 まあ、こうして眠らせておけば問題ないだろ?
 落ち葉かけて寝かせとこうと思ってな」
 そう言う陣の背中の後ろでは、落ち葉の山が幾つも幾つもこんもりとしていた。
 恐らくあの中には既に陣に催眠のスキルをかけられたカガチや葵、縁らが詰まっているのだろう。羽純の姿が消えているのは、多分彼が歌菜を連れて逃げ切ったからだと思うが――。
「火はつけないから、安心しろ」
 ユピリアたちの上に落ち葉をかけながら淡々とそんな事を言っている陣の顔からは、笑顔が消えない。
「うん」
 と一言頷いて、アレクはジゼルを背中に、壮太と縁を抱えて車へ向かって行った。

* * *

「今年も来ることが出来たわね。覚えてる? 去年、ここであなたと出会ったのよ」
 枝になっている果実を見上げて、川村 詩亜(かわむら・しあ)が昔を思い返すように呟く。
「もちろんよ。ここであたしは詩亜に『ミア』って名前をもらった。だから私はこうして『ミア・マロン』として詩亜の傍にいる。
 あ、改まって言うのも恥ずかしいんだけど……ありがとね、詩亜」
 もじもじとしながら、詩亜に向かってお礼を言うミア・マロン(みあ・まろん)。最初にここで会った時は随分とツンケンしていたが、今ではすっかり詩亜に懐いていた。
「今日は果実さんが居るわけじゃないみたいだし、普通の果実狩りが楽しめそうね」
「うん……そうなんだけど、何だかいや〜な予感がするのよ。ちょっと待っててね、聞いてみるから」
 漂う雰囲気に怪訝な顔を浮かべたミアが、近くにあった樹木に触れ、何やら聞き慣れない言葉を何度か交わして、農園に何が起きているのかを知ろうとする。
「……え? あっちに酔っ払う不思議なぶどうがなってる? うん、分かった。ありがとね。
 詩亜、あっちに匂いを嗅いだだけでも酔っ払うぶどうがなってるみたい。危ないから行っちゃダメよ」
 教えてくれた樹木に礼を言って、ミアは詩亜に、向こうの方に人を酔わせる不思議なぶどうがなっているから近付かないようにと釘を刺す。
「……そう、分かったわ。実を言うとちょっと、興味があるのだけれど」
「まあ、気持ちは分かるわ。これが玲亜だったら「行ってみよっ!」ってすっ飛んでったかもしれないわね」
「ふふ、そうね。
 それじゃあ、玲亜ちゃんへのお土産の分も合わせて、果実を採らせてもらいましょう」
「そうしましょ!」
 ……そうして二人は、今年もここで果実狩りを楽しめた事に感謝しながら、実りの秋を堪能したのだった。