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学生たちの休日13+

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学生たちの休日13+

リアクション

    ★    ★    ★

「さてと、どこに行くとしようか。まずは、定番で映画かな。それとも、ショッピングが先?」
 美常 雪乃(みじょう・ゆきの)とバレンタインデートとしゃれ込んだ神翠 清明(しんすい・きよあき)が、空京商店街をざっと見回しました。
「あれっ? まさか……」
「どうしたの?」
 何かを見つけたらしい神翠清明に、美常雪乃が聞きました。
「おーい、貴仁!」
 答えるよりも先に、神翠清明が走りだしていました。
「えっ、まさか、兄さん?」
 遅れじと、美常雪乃も走りだします。
「あれ? なんか、おとうさんを呼ぶ声がしなかった?」
 鬼龍 貴仁(きりゅう・たかひと)と一緒に歩いていた鬼龍 愛(きりゅう・あい)が、犬耳をそばだてました。
「えっ? はぐれた夜月が呼んでるのかい? あいつがそんなこと……。んっ、本当に聞こえる。しかも男!?」
 まさかと言いながら耳を澄ませた鬼龍貴仁が、えっと言う顔になりました。さっきはぐれてしまった常闇 夜月(とこやみ・よづき)ではありません。
「今までどこにいたんだよ。連絡もとれないし、心配したんだぞ!」
 駆け寄ってきた神翠清明が鬼龍貴仁に言いました。
「清明!?」
「おとうさん、この人誰?」
 突然の再会に戸惑う鬼龍貴仁に、鬼龍愛が訊ねました。
「おとうさん? 兄さん、いつの間に結婚したの?」
「雪乃まで!?」
 生き別れだった妹と突然出会って、鬼龍貴仁は目を白黒させるしかありませんでした。偶然とはいえ、サプライズ過ぎます。
「いや、結婚はしてないぞ」
「ええっ! 結婚してもいないのに子供がいるだなんて……。いったい、行方不明になっていた間に何をしでかしたの!」
「しでかしたって……」
 どうしてそうなると、鬼龍貴仁が、まくしたてる美常雪乃に言いました。
 そこへ、はぐれていた常闇夜月がやってきました。
「どうしたのでございますか。何を騒いで……」
「あー、この人が、お母さんなのね。もしかして、義理のお姉さんになるとか……」
「えっ!?」
 いきなり兄弟宣言されて、常闇夜月もきょとんとするしかありません。
「ええい、だから話を聞け!」
 なんとかなだめようとする鬼龍貴仁ですが、どうにも収拾がつきません。あまつさえ、パラミタでのスマホの管理体制は手抜きだの、機種変更がどうだの、地球製の携帯はこちらでは壊れやすいだの、ほとんど言いがかりのような話題になっていきました。もっとも、これも、三人が携帯で連絡をとれなかったのがいけないのですが。
「分かった、とりあえず長話になりそうだから、アガメムノンへこい。今は、そっちで暮らしているから」
 鬼龍貴仁はそう言うと、また生き別れにならないうちにと、妹と親友を自宅へと引っぱっていきました。

    ★    ★    ★

「ショッピングはいかがでしたかな」
「あん、それはもう、満足」
 ホレーショ・ネルソン(ほれーしょ・ねるそん)から買ってもらった品物の入った紙袋をかかえながら、マサラ・アッサム(まさら・あっさむ)が嬉しそうに答えました。
「では、次の場所に参りましょうか」
 しっかりと買った物の傾向でマサラ・アッサムの嗜好をちゃんとチェックしたホレーショ・ネルソンが言いました。
 ホレーショ・ネルソンが、次にマサラ・アッサムを連れてきたのは空京の植物園です。
「ここは、季節の花々が一年中楽しめるように、それぞれの温室が調整されているんですよ」
 そう言うと、ホレーショ・ネルソンはマサラ・アッサムの手を引いて植物園に入っていきました。エントランスホールは、なぜか照明が落ちていて、ちょっと薄暗いです。
「今日は、バレンタインデーですが、バレンタインの起源は、古代ローマまで遡るとされています。当時、ローマでは、二月十四日は女神・ユノの祝日でしてな。ユノは全ての神の女王であり、家庭と結婚の神でもあった――つまり、この日に逢瀬を重ねることは女神に祝福を約束されるということでもあったわけです」
 そう説明して、ホレーショ・ネルソンがパチンと指を鳴らして合図を送りますと、突然照明が目映く点灯しました。裏方の演出に回っているローザマリア・クライツァール(ろーざまりあ・くらいつぁーる)の仕事です。
「わあ」
 明るくなって初めて見えた物に、マサラ・アッサムが歓声をあげました。
 そこには、十二ヶ月になぞられた花の植木鉢が、寄せ植えとして集められた巨大なフラワーアレンジメントがありました。
「これは、ダズンフラワーです。その十二本の花は一本一本に、『感謝・誠実・幸福・信頼・希望・愛情・情熱・真実・尊敬・栄光・努力・永遠』の意味が込められているものです。どうぞ、お近くで」
 ホレーショ・ネルソンに言われて、マサラ・アッサムが花に近づいてみました。よく見ると、花の間に一枚のカードが差し込まれています。手に取ってみますと、何かメッセージが書かれていました。
 表には、「From Your Valentine」、裏には「Juno’s  bless you(女神の加護があらんことを)」と書かれています。
「私に、女神の祝福を授けてはいただけませんかな?」
 そう言うと、ホレーショ・ネルソンがマサラ・アッサムに一礼しました。
「ええっと……」
 さすがにマサラ・アッサムが空気を読んで、ホレーショ・ネルソンに歩み寄っていきました。二人の顔が近づきます。
「ちょっと待ったあ! そこまでよ!」
 突然叫んで乱入してきたのは、お嬢様です。
「ち、ちい姉!? 何しに来たあ!?」
 唖然として、マサラ・アッサムが叫びます。思わず、顔が真っ赤です。
「当然、迎えにですわ。新しいお家ができたのですから、一度は帰ってもらわないと。それと、そちらの方とは、持参金の御相談も……あれー」
 何やら変な話を始めたお嬢様ですが、いきなり誰かにかっさらわれていきました。裏で待機していたローザマリア・クライツァールです。素早く、邪魔者は排除します。
「ああ、お嬢様!」
 あわてて、執事君メイドちゃんが、二人の後を追っていきました。
 なんだか嵐が過ぎ去った後のように、静かになったホールに、ポツンとホレーショ・ネルソンとマサラ・アッサムだけが取り残されました。
「ええっと、もう一度最初からやる?」
「お望みでしたら」
 マサラ・アッサムの言葉に、ホレーショ・ネルソンが楽しそうに苦笑しました。

    ★    ★    ★

「嬉しいなあ、悠乃ちゃんからデートに誘ってくれるだなんて」
 空京遊園地で雪風 悠乃(ゆきかぜ・ゆの)とデートをしながら、七瀬 紅葉(ななせ・くれは)が嬉しそうに言いました。
 しかも、この場所は、去年のクリスマスに七瀬紅葉が雪風悠乃をデートに誘った場所です。今回は、逆のパターンだと言うことですね。
 実は、そのときのデートで、七瀬紅葉は雪風悠乃にプロポーズをしたのでした。けれども、返事はまだ保留で、ちゃんとした答えはまだ聞いていません。
 ――もしかしたら、今日返事をくれるのかなあ。
 いやおうにも七瀬紅葉の期待は高まりますが、雪風悠乃はどこか気もそぞろで、いっこうにそういう雰囲気にはならないのでした。
 とはいえ、デートはデートです。
 二人で楽しく、メリーゴーラウンドやジェットコースターやお化け屋敷などを楽しみます。
 ――いけない、早くこれを手渡さなきゃ……。
 楽しみつつも、時間が過ぎていくにつれて、雪風悠乃の方はだんだんと焦り始めていました。
 七瀬紅葉の予想通り、今日はちゃんとお返事をするつもりでデートに誘ったのです。そこまではよかったのですが、最後の一歩がなかなか踏み出せません。
 どのみち口で言って伝えるなんてことは絶対にできないと思って、返事はプレゼントの特大ハートチョコレートの上に書いてあります。
 けれども、結局時間だけが過ぎていって、そろそろ日も暮れてきました。アトラクションもあらかたは乗り尽くしてしまい、後残っているのは観覧車ぐらいです。しかも、その観覧車こそ、クリスマスに七瀬紅葉からプロポーズされた場所なのでした。これは、最後のチャンスかもしれません。
「あれ、乗ろ」
 そう言って、雪風悠乃は七瀬紅葉を観覧車へと誘いました。
 ゆっくりと上昇していくゴンドラと共に、雪風悠乃の顔も上気していきます。
「あの、これ、バレンタインのプレゼントです。開けて……みてください」
 そう言うって、ついに雪風悠乃が七瀬紅葉にチョコの入ったつつみを渡しました。ポケットでずっと握りしめていたせいか、ちょっと暖まっています。
「わあ、ありがとう」
 喜んで七瀬紅葉がつつみを開けると、中からは暖まってちょっと溶けたチョコレートが出て来ました。チョコの上に書いてある文字も、歪み始めていてちょっと読みにくいです。それを見て、雪風悠乃が半べそになりかけました。
「ええと、私も……愛して……います……。うん、もちろん、僕もだよ!」
 ちゃんとチョコの上に書かれた想いを読みとると、七瀬紅葉が雪風悠乃をだきしめました。